“音楽が好き”から生まれた新iPod。復帰のジョブズCEO
-新iPod nanoで「ポケットにビデオカメラ」
米Appleは9日午前10時(現地時間)より、ビデオ撮影対応の第5世代iPod nanoをはじめとするiPodシリーズなどの新製品発表会を開催。新しいiPod nano/touch/shuffle/classicや、iTunes 9のアップデートなどについて説明され、日本でもその模様が録画映像でマスコミ向けに上映された。
発表会には、6月まで病気療養のため休職していたスティーブ・ジョブズCEOが来場。「この場に来ることができて本当にうれしい」と笑顔を見せた。
ジョブズ氏は「約5カ月前に肝臓移植を受けた。自動車事故で亡くなった20代半ばの方の肝臓だが、その厚意があり、ここにいられる。全ての人がこういった親切な心をもって臓器移植に協力することを願う」と心境を述べた。
発表された新iPodとソフトウェア | |||||
iPod nano | iPod touch | iPod classic | iPod shuffle | iTunes | iPhone OS |
■ “CDでは無くなった楽しみ”を提案する新iTunes
新製品のプレゼンテーションは、iTunes 9とiPhone関連からスタート。まず、近況として販売曲数が85億曲となったことや、App Storeでのアプリのラインナップが75,000に達したこと、iTunesが180億ダウンロードとなったことなどを明らかにした。
iTunesと同時に発表されたiPhone OS 3.1は、Genius Mixなど新機能の採用や、Bluetooth接続時にWi-Fiが途切れる問題の修正などが行なわれる。強化されたポイントとして、特にiTunes 9との連携で、手持ちのアプリを元にApp Storeでおすすめのアプリをリスト表示するGeniusの新しい機能をアピール。また、着信音の配信を開始し、4大メジャーレーベルから計3万曲ラインナップされることを紹介した。なお、日本での着信音配信は未定となっている。
「iTunes LP」については、写真やライナーノートなど、「LP時代のもので忘れられないものがあるが、CDに移行したときにほとんど無くなった」とするジョブズ氏。iTunes LPでリッチなコンテンツを提供でき、特に「アーティストにツールを提供することで、曲に合わせたオリジナルコンテンツをアーティスト自身が作れることが素晴らしい」とした。Home Sharingでは、別のパソコンにある曲で、今使っているパソコンに無いもののみをソートしてリスト化でき、転送するとそのリストから消えるという細かな工夫も紹介された。
そのほか、iPhone/iPod touchのアプリをiTunesで管理しやすくなったことも特徴。iPhone/iPod touchの画面のページ構成がそのままiTunes上に表示され、アプリの場所の移動や、ページ全体を入れ替えるといった作業がドラッグ&ドロップで簡単に行なえる。また、米国での映画配信もコンテンツを増やした「iTunes Extras」が用意されることも説明した。
geniusなDJがエンドレスミックスを作ってくれるというGenius Mix | 作成されたGenius Mixの例 | パソコンとの楽曲の同期方法も、アーティスト別やジャンル別など細かく指定できるようになった |
■ 速度を向上した「iPod touch」はゲームを中心に訴求
新しいiPodシリーズについては、ワールドワイドプロダクトマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏が説明。
「iPodの累積販売台数は2億2,000万台を超え、まだ伸びている。歴史上最も成功している製品の1つ」と強い自信を見せる。最新の米国シェアではiPodが78.3%。次はSandiskで7.2%、Microsoftが1.1%になったという。また、「売上のうち5割以上が新規のiPodユーザーということもうれしい」と述べた。
新しい32/64GBモデルで処理速度が最大50%向上したというiPod touchは、最も急成長したシリーズとしており、touchの売上は2,000万台、iPhoneは3,000万台。その背景として3つのポイントを挙げている。
1つは、マルチタッチインターフェイスを用いた音楽/ビデオ体験を中心とする「iPodであること」。2つ目は無線LANなどを活かしてリッチな体験ができる「ポケットコンピュータであること」、3つ目は、素晴らしい「ゲームプレーヤーであること」とする。
iPod touch以外は、ゲームにおいて「マルチタッチではない」、「価格が高い」、「App Storeのように買えない」、「(音楽など)iPodの機能を持っていない」とする | 他のゲーム作品の価格 | ゲーム/エンタメ作品のタイトル数比較 |
特にゲームについてはPSPやニンテンドーDSを例に、「これらが出たときにはクールだと思ったが、一旦iPod touchでゲームをすると、他のゲームの価格が高く感じる」とする。その購入方法についても、お店に行ってゲームを買ったとしても、それはあまり面白くない。iPod touchのApp Storeで買う経験はブレイクスルーだ」とした。他のプラットフォームとゲーム/エンターテインメントの作品数を比較したグラフも示し、「PSPが607タイトル、DSが3,680タイトル、そしてiPhone OSが21,178タイトル」とその差をアピールした。
ゲストとして、App Store向けにゲームを販売するディベロッパーが今後の強力なラインナップを紹介。人気アクションの続編「Assasin's Creed 2」や、FPSの「Nova」、レースとリズムアクションの要素を組み合わせた「Riddim Ribbon」などが紹介された。
なお、touchでは8GBモデルの価格が229ドルから199ドル(日本では従来の27,800円から19,800円)に下げられている。これについては「数年前にiPodのビジネスで学んだため」という。「かつて手頃な価格でベストセラーの製品となったiPod miniは、最初249ドルだったが、エンジニアにコストダウンで努力してもらい、199ドルに落としたところ、売上が倍増した。199ドルというのはiPod市場においては魔法のような価格帯」とした。
カラーバリエーションが増え、容量もアップしたiPod shuffleについては、細かなアップデートとして「純正イヤフォン以外でも使いたい」という声にこたえ、サードパーティからshuffle向けのリモコン操作に対応したヘッドフォンが米国で発売されたことを発表。SonyやKlipsch、V-MODAなどからリモコン付きヘッドフォンが、Belkinからは手持ちのヘッドフォンで使えるリモコンアダプタが用意されているという。
■ 新nanoで「ポケットにビデオカメラ」
発表会では恒例となった「One more thing」の新製品として、ビデオカメラ内蔵など大きな機能強化が行なわれたiPod nanoをジョブズ氏が紹介。YouTubeなどを中心とした手軽な方法でビデオを楽しむ市場に、ビデオカメラをiPodに組み込むことで参入すると宣言した。
1億台以上を販売した「世界で最も普及しているオーディオプレーヤー」とするnanoにビデオカメラ機能を備え、本体サイズも従来モデルと同等に維持。「高画質のビデオカメラを常にポケットに入れて持ち歩ける。また、iTunesから1回のクリックでYouTubeにアップロードできる」と連携機能をアピールしている。
そのほかの強化ポイントとして、2.2型に大型化したディスプレイや、ジャズ/ロック、ブルースミックスといったGenius Mixの自動作成、初めてのFMラジオ内蔵、歩数計の追加などの豊富な新機能を紹介した。
最後に、今回発表された新製品ラインナップを振り返り、「素晴らしいチームが新製品を生み出した。その動機となっているのは“音楽が好き”ということ。それを感じるには生演奏が大切」と、イベントを締めくくるライブのゲストを紹介。3,600万枚のアルバムを売り上げ、9度のグラミー賞を授賞したノラ・ジョーンズが、11月に発売するアルバムの曲「Young Blood」などを披露した。
(2009年 9月 10日)
[AV Watch編集部 中林暁]