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BD発売直前、「サマーウォーズ」の特別上映レポート

−「細田守全部入り」。氷川竜介らがトークショー


上映後にはトークショーも行なわれた

2月27日開催

 

新宿バルト9

 3月3日にバップからBlu-ray Disc(VPXT-71081/10,290円)とDVD(VPBT-13390/5,040円)が発売される、細田守監督作品「サマーウォーズ」。

 その発売を記念し、BD/DVD用に作成されたHDリマスター版のマスターを使った1回限りの劇場上映が東京・新宿のバルト9にて、2月27日に実施された。

 これまではフィルム上映がメインだった作品だが、今回の特別上映ではデジタルデータからそのままバルト9のスクリーン「5」(8,820×4,770cm)に投写。ソースとして劇場版ではなく、BD/DVD用に作られたHDリマスター版をHDCAM-SRテープを使用しており、BD/DVD発売前に、そのクオリティイメージが体験できる貴重なイベントとなった。

 さらに、上映後にはアニメ評論家の氷川竜介さんと、サマーウォーズの制作を担当した、日本テレビプロデューサーの高橋望さんが出席し、非常にマニアックなトークショーも開催された。



■ クリアな高画質

BD版ジャケット
(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS
 2006年夏に単館公開からスタートし、口コミでロングランヒットとなり、国内外の映画賞を多数受賞したアニメ版「時をかける少女」。手掛けた細田守監督の最新作が「サマーウォーズ」であり、キャラクターデザイン・貞本義行、脚本・奥寺佐渡子など「時かけ」のスタッフが再結集している。ストーリーや特報映像などは既報の通り。

 まずは上映されたHDリマスター版の画質だか、デジタル上映と言うこともあり、発色が非常にクリア。「時かけ」と同様に、夏の空の青さや、雲の描写が美しい。「時かけ」よりもコントラストが若干高めのようで、映像に奥行感が出た印象を受ける。同時に、メインの舞台となる巨大な陣内(じんのうち)家の、木の柱の質感や、月夜の庭の表現など、背景美術の重厚さも良く伝わってくる。

 仮想都市“OZ”の細かなオブジェクトや、中盤から後半にかけて登場する無数のアバターなど、微細な描写が多い作品だが、フルHD解像度ではそれらのディテールが1つ1つ確認できる。特別上映はフルHD解像度のソースを劇場の大スクリーンに投写したわけだが、それでも情報量の多さに圧倒された。

 OZ以外でも、食事のシーンなどでの、大家族一人一人の細やかな動きなど、劇場用アニメならではの緻密な映像は必見であり、Blu-rayでの視聴が必須という印象だ。BD版は10,290円と高価だが、特典ディスクや花札セット、背景画集など特典満載。ネットの通販サイトでは3月1日現在、7,500円程度で販売されている所もあるようだ。


(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

■ こだわりのHDリマスター版。特典のBD-Jにも注目

 ここからはトークショーの内容をレポートしていきたい。

 制作段階から同作品を見てきた氷川さんは、今回改めてHDリマスター版で視聴した感想として「もともとデジタルで制作しているものですが、さらにリファインされています。音も映像も凄くて、最前列で鑑賞していたのですが、2Dでも、3Dに見えるくらい立体感があった。音も繊細で、夜から明け方にかけて鳥の声が良く聞き取れて、今後の展開を予感させる演出が明確に伝わり、とても良かった」と語る。


アニメ評論家の氷川竜介さん
 高橋プロデューサーも「制作時に何度も観ましたが、その時はミスは無いかとアラ探しをしていたので、今回作品として改めて観て、内容ももちろんですが、画質も素晴らしかった」と満足気な様子だ。

 なお、HDリマスターにあたっては、細部のブラッシュアップや、BD/DVD収録用に色味調整が行なわれたほか、ビスタサイズで作られた本編を、16:9で収録する際、黒帯を出さないようにリフレーミングも1カット1カット丁寧に実施されたという。その際、細田監督のこだわりとして、劇場公開版では観客がスクリーンの上方をできるだけ観ないで済むように、オブジェクトを画面下方向に配置していたが、テレビは正面から観る事が多いため、BD/DVDでは上方向に(中心に向けて)寄せるなどの、細かい調整も行なわれたという。

 特典ディスクについても、スクリーンに実際の映像を投写しつつ、説明がなされた。特典ディスクにはオーディオコメンタリや絵コンテ、インタビュー映像、豆知識など、多くのコンテンツが収録されているが、それをわかりやすく楽しむために、BD-Jを使った「サマーウォーズ・ナビ」機能が搭載されているのが特徴という。

 画面の中央に、小さく本編が表示され、デフォルトで細田監督らが参加したオーディオコメンタリが流れる。さらに、本編の右横に絵コンテや、そのシーンに関するインタビュー映像、下部には豆知識などが表示されるというもの。本編映像と共にコメンタリを聞きつつ、気になる絵コンテやインタビュー動画が出てきたら、その部分を選択すれば、コンテンツが単独で表示されるという流れ。洋画「ウォッチメン」のBDを参考に作られたという。なお、ナビを使わずに各特典単独のメニューも用意されている。


日本テレビプロデューサーの高橋望さん
 高橋さんは「昔はアニメを観る前に専門誌があり、いろんな人達が書いた文章を読んでから作品を観に行ったものですが、今は映像が簡単に観られるので、出会いの感動が減っていると思っています。そこで、今後のアニメコンテンツのあり方として、料理そのものだけでなく、楽しみ方も同時に出すという事をやってみたいと思い、今回の特典ディスクが生まれた」と説明。さらに「意識的に残していかないとこうした素材は残っていかないので、間違っているものも含めて、積み重ねた全てをアーカイブとして残す意味もある」という。

 特典の中には、氷川さんが手掛けた内容や演出に関する解説文章も含まれており、“読み物”としても楽しめる。「作品から一歩引いて、評論批評的な視点でできないか? という依頼があり、BSアニメ夜話でやっているような、作品をどう観たら面白いのかを書きました。BDの解像度があると細かい文字も読めるので、結構書けるなと思いました。この作品は4回目見れば、4回目なりの発見があり、8回目には8回目の発見がある。4回と8回の間に自分が過ごした人生の反映が、その発見に含まれる所が面白いですね」(氷川さん)。



■ 「細田監督の集大成的作品」

 作品がヒットした理由を、氷川さんは「この作品を“細田守全部入り”という言葉で表現していたのですが、細田監督のこれまでのキャリアで良かったところ、挫折した部分、プライベートな生活の変化なども含めた、集大成の作品ですよね。だからこそ、どんな年齢の人が観ても、何かしら自分に近いところが写っている。そこが多くの人に受け入れられた理由だと思う」と分析。「集大成ということは冷蔵庫の中は空っぽだと思うので(笑)、心配しつつ、次は何を観せてくれるんだろうという期待もあります」と語る。

 高橋さんは、「集大成ではなくて、“ニュー細田守”が出ている」と分析。「僕のイメージで細田さんは、テクニカルな演出家で、シャープなセンスを持ち、アイデアが豊富で、面白いものを作る人。今回はそれに加えて深みが出ているなと感じました。そこには結婚したとか生活の変化があり、彼の中に、人生や社会に対する目線がハッキリ出てきたのだと思います。面白いエンターテイメントだけでは愛されないし、残らないですからね」と語った。

バルト9のスクリーン5
 Q&Aでは、劇場で18回鑑賞したという女性や、40回観たという男性など、熱心なファンが集まっている事もあり、「監督が舞台挨拶や雑誌などで、佳主馬(かずま)を押していたのですが、現場ではどのぐらいの熱意でしたか?」など、マニアックな質問が続出。

 会場に伊藤助監督らのスタッフが多数参加していたため、「青山さん(作画監督の青山浩行氏)にキャラを描いてもらっている時から、“ここをこう描くと色っぽくなるんですよ、青山さん”とか言っていたのを聴いた事がありますとだけ言っておきます(笑)」(伊藤助監督)など、スタッフが急遽質問に応える一幕もあった。

 細田監督が海外でのイベントに参加中で不在と言うこともあり、「佳主馬のアフレコの時にも結構萌えていた」、「佳主馬は実は女の子という裏設定があるんじゃないかと言う人もいるのだけれど、監督は“そうじゃないのがいいんだ、男の子なんだけど、女の子が声を当てていて、本当に男の子”というのが良いんだと力説していた」などの発言が続々。公式ブログの中の人も「(佳主馬の)ファンには段階があって、最初は“ヒロインになるんだろう”と思っていたのになぜ女じゃないんだと思い、だいぶ症状が進むと“男で良かったなぁ”と思うようになる」と解説。場内は爆笑に包まれた。

 また、スタッフから見た細田監督という質問では、「スタッフに求める要求が高いので、キツイ現場にはなりがちですが、基本的に良い人で、だからこそスタッフもついて来てるんだと思います」、「面白いものを作っていこうという姿勢に皆が惹かれている。皆が監督をリスペクトしつつ、監督からもスタッフにリスペクトを受けているんだと思っています」など、監督の人柄や作品に対する姿勢を伺わせるコメントが続いた。

(C)2009 SUMMERWARS FILM PARTNERS

 なお、「サマーウォーズ」だけでなく、「ヱヴァンゲリオン」や「ハルヒ」など、最近は劇場用アニメの好調が目立っている。こうした流れについて氷川さんは、「僕達が10代だった頃もそうなんだけど、アニメには観るだけで済まなくなる“何か”がある。誰かに話したくなるとか、一緒に観る事そのものに意味がある。原始時代に焚き火を囲んで長老の話を聴くような、物語の共通原体験的なものが、実写映画よりアニメの方が引きずり出されやすいのだと思う」と分析。

 さらに、「これまではネットでアニメを語り、いじったりするのが主流だったけど、映画館に足を運ぶ人が増え、聖地巡礼やライヴなどが流行るのは、皆部屋から外に出たくなったのではないかと思う。人肌や、人と同じ空気を吸いながらアニメを楽しむことの1つの現われなんじゃないかと思う。これは“大勢でご飯を食べる事が大事”というサマーウォーズのメッセージとも重なる。そういう意味で、細田さんのアンテナは凄いと思う」と、別の視点からも作品を評価。

 「アニメの良い所は、作っている人の気持ちが焼きついて、観ている人も、映画を通じて自分の気持ち良さや、良い所を発見できる。実写と比べて抽象化されているので、響き合う事ができる事なんです。サマーウォーズという作品は、いろんな事件がありつつも、ある種の幸福感が焼き付けられている。そして、映画だけでは気がすまなくなるような素材(BD/DVD)もあり、凄くありがたく、幸せな、いい作品に出会えてよかったなと思います」と締めくくった。


(2010年 3月 1日)

[ AV Watch編集部 山崎健太郎]