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アニメ大量放送時代に対応するIMAGICAのポスプロ拠点「荻窪アニメーションハウス」を見て来た
(2013/12/5 10:30)
毎期、膨大な数の新番組がスタートするテレビアニメ。例えば今年10月期の新番組としてAV Watchでピックアップし、一覧表にした新番組だけでも41番組ある。これらの作品はアニメスタジオで作られた後、編集や修正、色味の調整、VFXの追加など、いわゆるポストプロダクション作業を経て完成。放送局に納品、放送される。番組数が増えれば、当然ポスプロの依頼も増加する。
こうした需要に応えるべく、大手ポスプロのIMAGICAは、東京・杉並区の荻窪に、アニメ番組制作に対応する専用拠点「IMAGICA荻窪アニメーションハウス」を設立。12月上旬の営業開始直前に、マスコミ向けにその内部を公開した。
そこからは、作品数が増加し、発表形態も多様化していくアニメ製作現場特有のニーズや、多くのアニメスタジオに近い“荻窪”という立地そのものへのこだわりも見えてきた。
荻窪を立地に選んだ理由
IMAGICAはもともとフィルムの現像所としてスタートしている事もあり、テレビアニメがフィルムで作られていた時代には多くの作品が持ち込まれ、テレシネを経てテープ媒体として放送局に納品されていたという。
しかし、フィルムからデジタルへと切り替わる2000年前後になると「テレビアニメシリーズとは少し関係性が薄くなってしまった時期がありました。最終的なアウトプットがフィルムである劇場アニメに関しては多くの作品でご一緒させていただきましたが……。そこで、組織的にもアニメ専門の部署としてアニメプロダクションユニットが立ち上がり、今回のIMAGICA荻窪アニメーションハウス設立に繋がりました」(IMAGICAアニメプロダクションユニットの長澤和典ユニットマネージャー)という。
IMAGICAと言えば、業界的には五反田の東京映像センターが有名だが、他にも品川、赤坂、銀座、麻布十番など、都心の中心部に多くの拠点がある。こうした拠点が、山の手線内に集中しているのに対し、アニメ番組制作に特化した新拠点が、都心からわずかに西にずれた荻窪に作られたのは理由がある。それは、荻窪がある杉並区や、隣接する練馬区などに、アニメのスタジオが多く集まっているためだ。
「アニメの制作会社さんは東京に多くありますが、中でも杉並や練馬の付近で、感覚としては7割、8割があるという状況です。ここ数年、作品の本数が増加し、監督やプロデューサー、メインスタッフの方達が、移動にとられる時間も惜しいという状態になっています」(長澤氏)。
巨額の費用が必要な映画などのプロジェクトの場合、負担やリスクを分散するために、複数の企業が参加する、いわゆる製作委員会方式が一般的になっている。五反田という立地は、製作委員会に名を連ねる出版社や広告代理店、放送局などに近く、映画制作には便利な立地だ。しかし、杉並などにあるアニメスタジオから頻繁に通うには、やや距離がある。その時間も惜しいというアニメ業界のニーズに合わせて選ばれたのが荻窪というわけだ。
「ネットワークの時代ではありますが、アニメ制作さんの環境も含めて、完全にデータ転送というわけにはまだまだいきません。作品を(HDDなどに書き出して)手でポスプロへ運ぶという事が毎日行なわれておりますので、距離的に近いに越したことはありません。荻窪であれば、三鷹など、さらに西の方にあるアニメスタジオさんからも近いですし、逆に都心の出版社さんやパッケージメーカーさんからも来ていただきやすい場所ですので」(長澤氏)。
こうした背景には、アニメの作品数の多さがある。例えば1つの作品を1年を通して放送するよりも、1クール作品を4つ放送する方が作業は遥かに大変だ(同じスタジオが4作品全てを手掛けるわけではないが)。昨今は1クールの作品が多く、1クールを放送して、視聴者の反響を見ながら、あまり間を置かずに2クール目を作るという形式も多い。
また、各話が5分程度の短い作品であったり、ネット配信や劇場上映を先に行なってからテレビアニメにしたり、テレビ放送と連動して海外に向けてもネット配信を行なうなど、形式も多様化している。テレビシリーズの最終回で、映画化が発表されるパターンも増えており、そういった場合には、4Kも含めた映画制作にも対応できるIMAGICAの強みを発揮できる。
日本のアニメを海外でマネタイズする試みも本格化するなど、アニメ業界の流れを、IMAGICAの組織力を用いてバックアップしようというのが同社アニメプロダクションユニットの狙いであり、その具体的な動きの1つが荻窪アニメーションハウスの設立というわけだ。
編集室の機材を揃え、急な依頼に対応
それゆえ、荻窪アニメーションハウスに求められるのは、急な依頼にも対応できる即応性や柔軟性だ。
フロアにはオンライン編集用に「701」と「702」、オフライン用(オンライン編集室としても使用可能)の「705」という3つの部屋が用意されている。機材として、「701」にはAvid DS、702にはAvid Media ComposerとFinal Cut Pro(2014年2月にAvid DS導入予定)を用意。701は5.1ch音声にも対応。705にも、Avid DS/Media Composer、Final Cut Proが導入され、各編集室に同様の機材を備えているのが特徴だ。
これは、編集室のスケジュール調整を柔軟にするため。例えば、「すぐにあの機材を使って修正がしたい」といって要望があった場合、その機材がある部屋が1つしか無ければ、そこが空くまで待たなければならない。しかし、揃えてあれば柔軟な対応が可能になる。
「Avid DSは、編集機だけでなく、合成にも使える機材ですので、最終的な少しの調整などにも対応でき、アニメ制作に使いやすいシステムです。Final Cut Proも含め、アニメ制作会社さんでもよく使われておりますので、お持ち込みいただいたデータを、そのままの形で読み込み、作業する事ができます。また、705は小さめの部屋ですが、IMAGICAから人を出さずに、スペースと機材だけを提供して作業をしていただくという事も想定しています」(長澤氏)。
全編集室は共有サーバーに接続されており、映像/音声素材を10Gbpsのネットワーク経由で受け渡しができる。これにより、オフライン編集室で作成したProRes422やDNxHDなどの素材を実時間より短時間で、オンライン編集室へ転送することも可能。ミーティングルームにもテレビが設置され、どの編集室からの映像も表示・チェックができる作りになっているという。
さらに、品川、赤坂、銀座、麻布十番の各営業拠点と専用高速回線で接続。「荻窪の編集室は3部屋ですが、例えば同時刻に4作品の作業が重なり、“昨日納品したものの、急遽修正が必要になった”という場合には、ネットワークを通じて五反田にデータを転送し、そこで作業を見ていただく事が可能です。高速回線ですので、荻窪から都心の拠点に移動する時間で転送が終了する事も可能だと思います。こうした連携を活用する事で、“スケジュールが難しい”とお断りするというケースは稀になるはずです」(長澤氏)。
あくまで単純計算になるが、平日の月曜日から金曜日まで、3編集室がフルで作業をした場合、おおよそ15作品以上の作業ができる計算になる。なお、荻窪アニメーションハウスにMA(アフレコや効果音の収録・追加)の設備は無く、音は完成データが荻窪まで送られてくる形になる。音と編集した映像を組み合わせ、テレビアニメが完成するという流れだ。
また、IMAGICAでは五反田にネット配信専門のチームを配置しているそうで、日本でのテレビ放送から時間をおかず、海外向けにもネット配信などを行なう作品の場合、専用回線で荻窪から五反田へと送信し、効率的な作業が期待できる。時間的な余裕が生まれる事で、「より日本語のセリフのニュアンスを反映した字幕をつける事も可能になると思います。我々がこうしたインフラを整え、技術的なサポートをする事で、アニメスタッフの方達に、より制作に集中していただく。その結果として、我々も価値あるポジションにつけるのではないかと考えています」(長澤氏)。
編集室の機材を揃え、急な依頼に対応
なお、荻窪アニメーションハウスはテレビアニメだけでなく、そのBlu-ray/DVD化などパッケージ作品のマスター制作や、劇場映画の作業にも対応は可能だという。ただし、4Kには現在のところ対応していない。
「アニメ制作会社さんも、4Kを気にされているところが多いですね。ただ、実際に4Kのテレビアニメ制作となるとハードルは高いと思います。絵を描くところから、ポスター絵を描くような感覚で作らなくてはならないですし、細かな描き込みも必要になると思います。4K/60pという方式も、現在のアニメの24pが60pになり、描く枚数が増えたり、24pを60pに単純に変換することもできなかったりと、色々と難しい問題もあります」(長澤氏)。
10月期のアニメとして、サンジゲンが手がけている「蒼き鋼のアルペジオ -ARS NOVA-」という作品は、一見セルアニメのように見えるが、全編3DCGで作られており、キャラクターの可愛らしさなど“2Dアニメの良さ”を取り入れた3DCG映像が話題を集めている。“ネイティブ4Kアニメ”は、処理速度とレンダリングの問題さえクリアすれば、3DCGアニメとの相性が良いかもしれない。長澤氏も「短尺のものでテストケースが出てくるのでは」と予測した。
荻窪アニメーション“スタジオ”ではなく“ハウス”
長澤氏によれば、荻窪アニメーションハウスでは、仕上げのポスプロ作業の前の段階の、映像のタイミングなどをチェックする“ラッシュチェック”の段階から、設備を活用してもらう事も想定されているという。
「荻窪駅前でスタッフの皆さんも集まりやすいと思います。オフライン編集の依頼も増えており、4月の新番でも、弊社から編集スタッフを1人出している作品もあります。従来のポスプロよりも、より制作の“川上の部分”から関われないかと考えています。もちろん、我々が作品を作るというわけではありませんが。他の拠点は名前の最後に“スタジオ”とついていますが、荻窪に関してはあえて荻窪アニメーション“ハウス”と名付けました。アットホームで親近感を感じていただける拠点として活用していただき、アニメ業界を盛り上げるお手伝いをさせていただきたいと考えています」。