小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1210回

まだまだ完成度が上がる!? ソニー「WF-1000XM6」。前モデルとも聴き比べ
2026年2月18日 08:00
ワイヤレスノイキャンのスタンダード
完全ワイヤレスイヤフォンはもはやイヤフォンとしてはもっとも普及したスタイルとなった。周りを見回しても、ワイヤードのイヤフォンを使っている人はよほど何かにこだわりのある少数派となっている。
そんな中でも、ノイズキャンセリングの強さで人気を二分するのが、Apple「AirPods Pro」シリーズと、ソニー「WF-1000XM」シリーズである。AirPods Proシリーズがほとんどデザインを変えずに3世代まで来ているが、1000XMシリーズは毎回デザインを変えて今回で6世代目となった。「WF-1000XM6」は2月27日発売で、直販価格は44,550円となっている。
前作からおよそ2年半ぶりの新作ということになるが、ノイズキャンセリングの強化に加え、音質もマスタリングエンジニアとの共創により、磨きをかけたという。
今回は発売を前に1000XM6の実機をお借りすることができた。前作1000XM5と比較しながら、その変化点を聞いていこう。
本体を小型化、装着感もアップ
1000XM6はブラックとプラチナシルバーの2色展開となっている。今回はブラックをお借りしている。
まず本体デザインだが、全体はマットな仕上げで、ノイキャン用のマイクもあまり強調しない作りとなっている。形状は装着して外から見える部分はシンプルなシンメトリックに見えるが、耳奥側に少しくぼみのあるデザインとなっている。
これはケースから取り出すときの指がかりとなる部分で、前作は光沢のある滑りやすい仕上げだったために、ケースから取り出しにくいという指摘への対策だろう。
ケースは前作の丸っこい形状に対し、今回は円柱形を意識した、エッジが立ったシンプルな形状になった。
ボディ全体は、見た目のサイズ感はそれほど前作と変わらないが、実際には本体幅が約11%スリム化されている。重量は微増して片側6.5gとなったが、耳穴への収まりがよく、装着感や安定性は前モデルよりも向上している。形状もエッジになるような部分を無くしたことで、風切り音の低減にも寄与する。
またイヤフォン内部を経由した耳への通気量を増やす通気構造を新しく設計した。自分自身の咀嚼音など、体内ノイズの減少に効果があるという。
ドライバは8.4mm径で前作と変わっていないが、今回はエッジ部分に特許出願中のノッチ形状を配している。これは振動板が大きく動いた際の「暴れ」を抑制するものだ。
このあたり、低域のためにエッジにくぼみを付けるという方法論は2014年の「SRS-X9」にも見られるが、当時はまだ設計者の勘と経験に基づいていたものだった。しかし昨今はシミュレータの発達により、理論的な計算により最適な形状を導き出すことが可能になり、こうした積み重ねが昨今の「小型ドライバでも十分な低音」というトレンドを支えている。
ノイズキャンセリングは、新開発のプロセッサ「QN3e」を採用。前モデルに搭載の「QN2e」から処理速度が3倍に向上し、約25%のノイズ削減を実現した。
片側につきフィードフォワードマイクを2つ、フィードバックマイクを2つ搭載し、より正確なノイズの集音が可能になった。さらにリアルタイムで外部ノイズや個人の装着状態を分析して最適なNCを提供する「アダプティブNCオプティマイザー」も、新たに搭載された。
対応コーデックはSBC、AAC、LDAC、LC3で、aptX系には対応しない。伝送帯域は20Hz〜20kHzだが、LDAC 96kHz 990kbps伝送時には20Hz~40kHzとなる。
より積極的になった音質
では実際にWF-1000XM6を聴いてみよう。今回はこの2月に配信開始されたばかりのピーター・ガブリエルの新曲、「Put the Bucket Down」を聴いていく。24bit/96kHzのハイレゾ配信である。
各小節の先頭ごとに挿入される「ズン」という低音が左右に飛び散り、独特のサウンドを作るが、積極的に頭の中に入ってくるサウンドで、非常にスピード感のある低音表現となっている。ただ振動板がかなり大きく動けるのが裏目に出たのか、曲の中間部ではちょっとこの低音が若干歪みっぽく聞こえる部分もある。
同じ楽曲をXM5で聴くと、低音はやや抑制的であるところから、歪み感はない。高域に至るまでクールで、客観的なサウンドと言える。一方この高域が「刺さる」と感じる人も多かったようで、そこが賛否分かれたところだが、XM6はそのあたりの刺さり感は抑制されている。
とはいえ、細かい音質に関してはイコライジングでかなりいじれるので、音質の傾向をあまり深掘りしても仕方がないとも言える。WF-1000XM6の特徴は、むしろ音の立ち上がりの良さといったところに注目すべきだろう。
リスニングモードとしては、「BGM」が面白い。カフェなどから流れてくるようなサウンドをシミュレーションした音質で、音が遠くから聞こえてくる感じがリアルだ。ノイズキャンセリングはそのまま効いているので、外の音を遮音しつつBGMだけ聞こえてくるような、無人のカフェで仕事しているような気分になれる。
音楽再生に関しては、自動再生機能が充実している。「ウェア・トゥ・プレイ」はイヤフォンを装着すると、指定されたアプリの特定のプレイリストが自動的に再生される機能だ。Amazon MusicならMy BGMというプレイリストが自動的に再生される。
また左のダブルタップとトリプルタップには、クイックアクセスとして割り当てた音楽再生アプリから、再生を開始できる機能がある。
質の上がったノイキャンと音声通話
ノイズキャンセリングに関しても、新開発の「QN3e」とフィードフォワードマイクの追加により、前作よりもさらに質の高いノイズキャンセリングを実現した。
ソニーのノイキャンの特徴として、何もかもをキャンセルするのではなく、人の声は通すといった工夫がなされていた。XM5まではそういう動きである。
一方XM6のキャンセリングは、人の声だけ通すというような穴を開ける感じではなく、それも含めて全体の音量を下げるという動きになっている。管内のアナウンスのようなものは、音楽を再生しているときには聞こえないが、再生を停止すると何を言っているのかうっすらわかるという感じだ。街中や公共交通機関内での安全性を考えれば、こうした工夫は妥当である。
左側のワンタップで、ノイズキャンセリングと外音取り込みが切り替わるようになっている。またスピーク・トゥ・チャット機能により、自分がしゃべりだすと自動的に音楽再生レベルが下がり、外音取り込みモードになる。レジでは「お願いします」と一言かければ普通に会話できる。モードが終了するまでの時間も選択できる。
外音の状況に応じて動作モードを変える、アダプティブサウンドコントロールも搭載されている。これは装着しながらの行動に応じて、ノイキャンを使うか外音取り込みにするかが自動的に変わる仕組みだ。例えば歩いているときはノイキャン、走ると安全のために外音取り込みといった設定が可能だ。
リアルタイムで外部ノイズや個人の装着状態を分析して最適なNCを提供する「アダプティブNCオプティマイザー」は特に設定などはなく、いつでも効いているようである。
音声通話も試してみた。XM5の方は、音声がこもりがちで明瞭度が低い上に、しゃべりと同時にガサガサしたノイズが入ってくる。2年半前の時点でも、音声通話に関しては周回遅れな感じがあった。
一方XM6では、通話音質が明瞭になり、ノイズ感は随分減少している。Bluetoothなので若干遅延があるのは仕方がないところだが、このレベルなら一般的な通話やビデオ会議でも問題なく使えるだろう。
もう一つXM6独自の機能として、通気構造を新しく設計した点が挙げられる。これにより、咀嚼音などの体内音が低減される効果があるという。そこで装着した状態で、ポテチを食べてみた。
XM5では、バリバリという咀嚼音とともに、顎の筋肉に力が入る時に「ググググ」という低音が入り込む。一般的にカナル型イヤフォンをした状態では、概ねこうした体内音を聞いた経験はあるかと思われる。
一方XM6では、ポテチを噛み砕く音がなくなるわけではなく、それはXM5と同じである。ただ、筋肉に力が入る「ググググ」という音は聞こえない。これまでこうした音が聞こえてくるのは仕方がないことだと思っていたが、実は密閉されすぎていることに問題があったというわけで、独自の通気機構はなかなか効果がある。
一方で通気口があるゆえに外のノイズが入りやすいという弱点もあるわけだが、そこが従来モデルよりも向上しているのは、新チップとマイク増強による効果アップが効いているものと思われる。
総論
カナル型ノイキャンのデファクトとして順調に進化を積み重ねてきた「WF-1000XM」シリーズだが、デザインにしろ機能にしろ、まだまだ進化点が多い。
デザイン面ではシリーズ史上最もシンプルな形に落ち着いて、丸みを帯びた形状になった。エッジがないため、風切り音の低減が顕著だ。一方でケースはエッジが立った円柱形で、うまくコントラストを出している。
これまでドライバは6mm系を多用してきたが、前作で8.4mm径に大型化した。ただ実装や設計がうまくなり、横幅を抑えることに成功した。
ノイズキャンセリングは、とにかく全部を聞かせないようにするのではなく、最小限何が聞こえないとダメかというところにこだわり続けている。ノイキャンは移動中に多用されることもあり、安全性への配慮は欠かせないところだ。
一方で、位置情報を把握して動作モードを変えるといった機能も実装しているところから、家や職場など安全性が確保されている状態では耳栓レベルでキャンセルというモードもあって良かったかもしれない。
音質的には多くの人が評価しているように、より前に出る身体性を感じさせるサウンドにチューニングされた。マスタリングエンジニアとサウンドを作り上げた成果だろう。ただ分析的でクールなサウンドのXM5の方が好みという人もいるものと思われる。
体感的に最も改善されたのは、装着性だ。重量バランスもよく、耳穴によりフィットするので、長時間利用でも負担になりにくい。
とはいえ、ここ2~3年でベンチャー系メーカーのレベルが上がり、いいイヤフォンがいくらでも選べるようになった。こんなに充実した時代もなかなかないと思うので、是非このタイミングで自分にちょうどいいイヤフォンに出会う楽しみを、ゆっくり味わってほしい。

















