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finalが初のショールーム。イヤフォン自作の会場にも活用。アンプ/スピーカー作りも

 オーディオブランドのfinalは、初のショールームを11月7日にオープンする。場所は神奈川県川崎市幸区北加瀬3-12-7で、東急東横線の元住吉駅から徒歩約20分。製品の試聴ができるほか、イヤフォン組み立て教室、専門家を招いたオーディオ勉強会といったイベントの開催場所として活用予定。ユーザーの耳に合わせたイヤーパッド、イヤーピースを作るカスタムサービスなども検討されている。

finalのショールーム

 オープン当初は月2回の不定期営業で、11月の営業日は11月7日と11月18日。来場時間をWebサイトから予約する。営業時間は11時~17時。10月31日にはfinalメルマガ購読者限定のプレオープンも実施。12月以降の営業日は、finalのWebサイトやメルマガ等で連絡するという。

シンプルながら、古い家具などが優しい雰囲気も演出しているショールーム

そもそもfinalとは

 finalというと、金属製筐体のイヤフォン/ヘッドフォンなどを連想する人が多いだろう。しかし、同社はイヤフォン/ヘッドフォン専業メーカーではない。元々は、1974年に故・高井金盛氏が創業したFinalに遡る。当初高井氏はオーディオ機器の販売を行なっていたが、音への強いこだわりで知られ、ソニーの盛田昭夫氏、井深大氏らとも交流があったという。

 当時、ソニーの森芳久氏が、音質研究用に1カラットのダイヤから削り出したカンチレバーを採用したカートリッジを試作。当然コストが高過ぎて、ソニーでは製品化できないと判断されたが、音の良さに目をつけ、売る自信があった高井氏が、Finalの製品として当時50万円で販売し、実際に売れたという伝説的なエピソードもある。

1カラットのダイヤから削り出したカンチレバーを採用したカートリッジ

 その後、高井氏はオーディオエンジニアの高士氏と出会い、「final」というブランド名で本格的にアンプやスピーカー、ターンテーブルの開発を開始。音の入口であるカートリッジからアンプ、出口のスピーカーまで、トータルで開発・提供するスタイルのメーカーとして活動。2007年頃まで、そのスタイルでビジネスを行なってきた。

 その性質上、システムは1,000万円を超えるものも珍しくなく、量販店に製品が並ぶのではなく、直接オーディオファンの顧客に販売、そのユーザーが満足するまで調整し、その顧客の口コミで顧客が増えていく……という形。それゆえ、長年ビジネスを展開しながらも、一部の人しか知らないオーディオメーカーだった。

ユーザー宅のシステムの写真など。オールホーンシステムで各ユニットを個別のアンプでドライブするなど、大掛かりなシステムが多い

 その後、2007年に高井氏は、ハイエンドオーディオブランドからのOEMを手掛けている、第一通信工業の山口社長と共に、S'NEXTという会社を設立。Apple製品のコネクタなどを手掛ける、日本モレックスの子会社として設立されたもので、スピーカーやヘッドフォン、イヤフォンのOEM/ODMビジネスを開始。顧客であるメーカーの要望に合わせ、ドライバから自社で開発できる点などが評価され、成長。

 2009年にはOEM/ODMに加え、自社ブランド・final audio designとしてイヤフォンの開発を開始。金属筐体の高価なモデルなどで話題を集め、その後、様々なモデルを投入していったのは御存知の通りだ。

S'NEXTの細尾満社長

 そして2015年、S'NEXTは、日本モレックスからS'NEXT現経営陣のMBOで独立。本社を品川から川崎市に拡張移転すると共に、これまで愛知や海外の工場に分散していたものも、品質と開発力を高めるために川崎へと集め、オフィスと高級品の生産・ドライバユニットの開発拠点を一体化。イヤフォン・ヘッドフォンに留まらない幅広い製品を手がけていくという想いも含め、今年6月にブランド名をfinal audio designからfinalに戻し、新たなスタートを切った。

 今回オープンしたショールームは、そのオフィス&開発拠点に併設されたものとなる。

イヤフォン/ヘッドフォン趣味をより長く楽しんでもらうために

 ショールームの大きな特徴は、イヤフォン/ヘッドフォンの試聴ができるだけでなく、イベント会場としての活用も予定されている事。同社は以前から、量販店と協力し、イヤフォンの自作イベントを開催しているが、参加者に非常に好評で、「より複雑なモデルが作りたい」、「イヤフォンの構造に興味が出たのでより詳しく知りたい」といった要望が多く寄せられているという。

 しかし、販売店でのイベントでは時間が限られていたり、静かな環境で説明したり試聴してもらう事が難しい、店舗によってはハンダゴテを使えないといった制約もある。そこで“よりディープな”自作イベント開催の場所としても、ショールームを利用する予定。

自作イベントで作れるイヤフォンの一例。ハンダ付けなど、難易度が高いキットほど、参加者の満足度が高く、「もっと難しいものが作りたい」という声も多いのだという

 それぞれのユーザーが組み立てたイヤフォンのお披露目会や、その特性を開発用機材を使って測定し、音の違いを視覚でも楽しんでもらうといった構想もあるという。

 また、開発拠点に併設されている強みを活かし、開発スタッフやエンジニアとユーザーのコミュニケーションの場としても活用。工場見学なども予定している。

 さらに、finalで顧客のニーズに合わせてオーディオ機器を開発・調整していた時のように、同社のヘッドフォンやイヤフォンを、ユーザーのニーズに合わせてカスタマイズするサービスも検討中。イヤフォンのイヤーピース、ヘッドフォンのイヤーパッド、ケーブルの長さといった部分でのカスタムオーダーを受けたり、量産化は難しいアイデアを反映させた“ショールーム限定モデル”などの展開も考えられるという。

 S'NEXTの細尾満社長は、イヤフォン自作イベントにおいて、「筐体の中に入れるフィルタの素材や、ハウジングの穴によって音が変化したり、イヤーピースの形状や耳孔への挿入の仕方でも音が変わる事を体験すると、皆さんから“とても楽しい”、“オーディオって面白い”と言っていただけます」。

 「こうした事がわかるようになると、例えば他社の製品を見た時に、どのような思想や狙いでハウジングに穴が空いているのかわかるようになったり、自分の持っているイヤフォンにはどんなイヤーピースがマッチするのか的確に判断できるようになるなど、趣味としてオーディオをより深く楽しむ事ができるようになります」。

 そう語る細尾氏も、「約30年以上前、10歳の頃からオーディオに興味があり、アンプの自作からスタートした」という。「雑誌などから情報を得るだけでなく、もっとオーディオを楽しみ、製品の中に興味を持っていただくキッカケにしたい」という想いがある。

 同時に、イヤフォンやヘッドフォンを「真空管アンプやクラシックカメラ、万年筆のような存在にしていきたい」という願いもある。「普通の家電製品ではなく、愛着を持って手入れ・修理をしながら長年使い続けてもらえる製品、腕時計のように“その人自身を表す道具になる製品”、つまりアンティーク品のようになって欲しいと考えています」。

 そうした想いを反映し、ショールームの家具には、日本の手仕事が活かされた明治や大正時代のものが使われている。

ショールームの家具には、日本の手仕事が活かされた明治や大正時代のものが使われている

 ショールーム内には、finalの過去のアンプ(電源部に真空管を使ったマニアックなタイプ)と、新たな試作スピーカーを組み合わせたシステムも設置。新たなfinalブランドにおいて、今後、イヤフォン/ヘッドフォンだけに留まらず、「DACやアンプ、スピーカーをトータルで提案する、finalならではのユニークな製品も開発していきたい」(細尾氏)という。

アンプとスピーカーも展示。今後、新たなfinalブランドでDACやアンプ、スピーカーの開発も予定されている

 なお、ショールームには10月末から発売する、finalのハイエンドヘッドフォン「SONOROUS X」(オープン/実売税込629,000円前後)と、その下位モデル「SONOROUS VIII」(同388,000円前後)も展示。音を聴く事ができた。

 「SONOROUS X」のハウジングは、フロントプレートと一体で無垢のアルミから削り出し。その他の主要部品も剛性の高いアルミとステンレス切削品で構成。ユニットには高精度な50mm径のチタン振動板を搭載している。

 金属を多用したヘッドフォンなので、金属質な響きがあるかと予想するが、音を出すとハウジング固有の響きや色付けはほとんど感じられず、非常にクリアで自然な音で驚かされる。共振点の異なる金属を重ねることで、振動の悪影響を排除しているためだという。音場は広大で、音像の定位も極めて明瞭。モニターライクなカッチリとしたサウンドながら、どこか気品も感じられるハイエンドサウンドだ。

 10月24日と25日に開催された、「秋のヘッドフォン祭 2015」で参考展示されたヘッドフォンも聴く事ができた。3万円台半ばで販売する予定のモデルで、ダイナミック型とBAユニットを両方搭載したSONOROUS IVやSONOROUS VIと似た外観だが、ダイナミック型ユニットのみを搭載したタイプとなる。「SONOROUS X」の色付けの少ないサウンドは、このモデルにも踏襲されており、完成度は高い。

ハイエンドヘッドフォン「SONOROUS X」
「SONOROUS VIII」
「秋のヘッドフォン祭 2015」で参考展示されたヘッドフォン
細尾氏が見せてくれた、イヤフォン用イコライザの試作機。金属をプリントできる3Dプリンタで作られたもので、網の目のような隙間が大量に作られているのが特徴。音が通る穴を制御する事で、イコライザとして機能するというアイデアだという」

行き方

 東急東横線・元住吉駅から徒歩の場合は、所要時間約20分。JR南武線の平間からは徒歩15分、JR横須賀線の新川崎からも約20分でアクセスできる。

 バスの場合は、元住吉駅東口より東南に下った綱島街道沿いのバス停「元住吉」から、市バス63/64/66番系統、もしくは臨港バス60/61番系統「三菱ふそう前」下車、徒歩3分。

元住吉駅から徒歩でアクセスする場合は、東口を出て
商店街を新川崎方向へ進む
綱島街道を横断して更に進むと小さな川が現れる
川沿いの道を尻手黒川道路に向けて直進
尻手黒川道路沿いにあるレッドバロンが見えたら、その前の道を左折
この建物の2階にショールームがある

(山崎健太郎)