JVCケンウッド、BD/HDD/チューナを統合した「RYOMA」

-Home AVCを来春発売。ラジオ難聴取を克服する「M-LinX」


9月30日発表


RYOMA(開発試作品)

 JVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社は、デジタルネットワーク時代の新しいライフスタイルを提案するという新製品群の第1弾として、映像/音楽を一台で楽しめるHome AVC(Audio, Visual and Communication)「RYOMA(リョーマ)」を開発した。商品化は2010年春の予定。

 RYOMAというブランド名の由来は坂本龍馬。「これまでにないコンセプト、機能を持つ製品のネーミングとして“カタ破り”な偉人の象徴である坂本竜馬から命名した。この商品を機にAVライフスタイルが変わり、メディアの夜が明けることをイメージしている」という。

  Blu-ray DiscレコーダとHDD、デジタルハイビジョンチューナ、FM/AMチューナ、デジタルアンプを集約した一体型のAVシステム。BD/DVDビデオや録画したデジタル放送番組、音楽CD、リッピングした音楽コンテンツなどを1台で楽しめる。今回は開発発表のため仕様の詳細や価格は明らかにされていないが、「価格の希望としては今のHDDレコーダにプラスぐらいと思っている(前田悟 新事業開発センター長)」とした。


RYOMAとM-LinX Tuner Boxを発表

RYOMA

奥行きは30cm以下に抑えている
Blu-rayビデオも再生可能

 チューナは地上/BS/110度CSデジタルダブルチューナで、HDDに録画した映像をBDにダビングすることなどが可能という。なお、DLNAなどのネットワークサーバー/クライアント機能の搭載は未定としている。筺体デザインについては製品化時にも大きな変更は無い見込みで、BDレコーダやデジタルアンプを内蔵しながらも、薄型テレビとのデザインマッチを狙い奥行きの短いデザインを採用している。

 音質面ではビクターとケンウッドのデジタルアンプ技術を投入し、ノイズを徹底的に抑制。高精度な信号増幅を実現したという。ユーザーインターフェイスも、直観的に映像/音楽コンテンツを選べる独自のデザインを採用した。


UIもオーディオ/ビジュアルから直観的に切り替えられる新デザインを採用RYOMAのコンセプトRYOMAロゴ
RYOMAのリモコン。[A]ボタンでオーディオ系のUI呼び出し、[V]でビジュアル系UIを呼び出す

 AM/FMチューナを備え、ラジオ受信/録音もできる。加えて、放送サービス地域特定技術により、FM/AMラジオの音声を電波障害による難聴取地域でもインターネットを通じてクリアに伝送するという新技術「M-LinX」を搭載した。

 ラジオ放送の聴取範囲は、放送免許で定められた地域に限定されている。これをそのままネットワークで配信すると、区域外の送信となってしまう問題があったが、M-LinXではこれを解決するための地域特定技術を開発し、搭載している。具体的な手法については明らかにしていないが「単に郵便番号などを指定しているだけではない(前田 新事業開発センター長)」という。

 ネットワークを使ってクリアな音声配信ができるだけでなく、音声以外の画像や天気予報やアーティスト新譜情報など付加データも併せて伝送可能で、「ラジオのリスニングスタイルを変える」という。この付加データを使った広告展開の実証実験なども計画している。なお、M-LinXの実現のために各ラジオ局との協力が必要となるが、来春のサービス開始に向けて話し合いを進めていくという。

M-LinXのコンセプトM-LinXのシステムイメージM-LinXではラジオ音声以外のDJの映像や広告なども配信できる
RYOMAでテレビを見ながらFMラジオ聴取M-LinXでよりリッチなラジオ聴取を可能に

 M-LinX対応の小型AM/FMチューナ「M-LinX Tuner Box」も2010年春に発売予定。115×77×25mm(幅×奥行き×高さ)と小型のAM/FMチューナに、M-LinXの送受信機能を搭載。出力端子はHDMIやコンポジット映像出力を装備する。また、基板やソフトウェアなどのOEM提供も予定しており、M-LinX対応機器の拡大を目指す方針。


M-LinX Tuner Box

M-LinX Tuner Boxの商品概要

 


■ “弱者連合”が、新しいライフスタイルを創る

前田悟 執行役員常務 新事業開発センター長

 発表会では、JVC・ケンウッド・ホールディングス 執行役員常務 新事業開発センター長の前田悟氏が「RYOMA」のコンセプトを説明した。

 前田氏は、「なぜこの製品ができたのか、開発背景を説明したい」と切り出し、「今のAV機器はAV危機ともいえる。テレビも黒字にならない。価格競争やコモディティ化、工場の空洞化で、大手も右にならえという状況。さらにお客さまも“待っていれば安くなる”と知っている」と現状を分析。「消費者に欠乏感を与える、新しいライフスタイルを提案する製品や、売り切りビジネスからの脱却が必要」とRYOMAに込めた思いを語った。

 RYOMAの目的としては「メディアの垣根を取り払う」とし、「なぜテレビ、Blu-rayレコーダにラジオが入っていないのか? 思うにテレビ事業部、ビデオ事業部、オーディオ事業部とメーカーの組織が分かれているから。でもユーザー目線では、テレビでも、ラジオ、オーディオを聞きたい。その垣根を取り払うものがHome AVC」とRYOMAのコンセプトを紹介し、HDDへの録画やBlu-rayの再生、ネットワークコンテンツの再生、高品位デジタルアンプの内蔵などの特徴を解説した。

 “垣根を無くす”というコンセプトのもとに開発した新ユーザーインターフェイスも披露し、テレビのリモコンのオーディオボタンから全てのオーディオコンテンツを、ビデオボタンでビデオ関連コンテンツにアクセスできる例などを紹介した。

 さらにこだわりとして「ラジオ」の機能をアピール。「“ホームオーディオライフの復活”という大きなミッションをここに与えている」とする。「昨年、サザンオールスターズのライブを全FM局が協力して放送したが、家の中にラジオが無いから車の中で聞いて、首都高を回っていたという話を聞いた。いまのコンポという形はないだろうが、家で聞きたいというニーズはあるし、本当に音楽を聞くということは家の中でしっかり聞くということだと思う」とし、ラジオへのこだわりを語った。

 M-LinXについては、ラジオ放送を通信を使って変えるという目標を提示。ビル陰など都会でもラジオを聞けない地域が増えているが、「ネットの力を使って聞けるようにしたい」と言及し、「通信と放送の融合というと、“テレビを見ながら女優/俳優の着ている服をネットで買う”という話になるが、私は“大河ドラマ”と“恋のから騒ぎ”しかみないので、大河ドラマの服はいらない(笑)。それより、いままでやりたかったけどできなかったことをやることが一番大事」とM-LinXの意義を説明した。

M-LinXを使った広告展開も計画発表会の司会はエフエム東京の古賀涼子アナウンサーが担当した
エフエム東京 黒坂修常務取締役

 エフエム東京の黒坂修常務取締役は、「今では携帯電話でもFMが聞けるようにライフスタイルとともに、ラジオ聴取も変わってきた。ただ、家の中からラジオというものが無くなりつつあるという指摘はその通りです。聴取率が高いのは車とオフィス。これはこれでありがたいのですが、やはり家庭でも聞いてほしい。電波だろうが通信だろうが内容が良ければいいので、ラジオの根本的な悩みを解決していただけるものだと感じている。参画することを前向きに検討していきたい」と語った。

 RYOMAは、JVCケンウッドの経営統合とともに設立され、両社の技術融合と新市場創出を目指した「新事業開発センター」の第1弾製品となるが、前田悟新事業開発センター長は「パッションのあるエンジニアが大きな目標、感動を共有することで製品化に至った。どんどん新しい製品を出し続ける会社になっていきたい」と意気込みを語った。

 なお、M-LinXに協力するラジオ局などについては「今までも何社かに声をかけているが、極秘にプロジェクトを進めてきたので、今日を機会にもっと広げていきたい」という。

 「特徴的な製品を中堅メーカー(JVCケンウッド)が作っても、大手が同様の製品を手掛ければ多くのAV製品と同様に価格競争にしかならないのでは? 」との問いには、「私も2年前まで今言われた大手に居た(前田氏の前職はソニーで、ロケーションフリーなどを手掛けた)。私は弱者連合に入ったと思っています。ただ、大きな地球儀は回すのに凄く力がいる。やっと回ったと思って、手を離すといきなり止まってしまう。小さいところであれば、一度回ればずっと回せるのではないか。そういう思いで(JVCケンウッドに)入った。また、大手といってももっと大きなEMS(Electronics Manufacturing Services)もある。コモディティの分野では規模が重要だが、今日発表した製品は来春までには絶対に他社にはできないし、パテントも持っている。先に行けばいいだけ。逆にいえば、日本のメーカーは常に新しい製品を創っていかなければいけないし、そのための機動力が必要」と回答した。


(2009年 9月 30日)

[AV Watch編集部 臼田勤哉]