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ゼンハイザー超弩級ヘッドフォン「HE-1」紹介イベント。高橋克典も絶賛

 ゼンハイザーは28日、2016年中発売予定の真空管採用コンデンサ型ヘッドフォンシステム「HE-1」を日本で紹介するイベントを開催した。詳細な発売日や価格は未定。ドイツでの価格は約5万ユーロ('16年4月28日のレートで約620万円)とアナウンスされている。

HE-1

 ハウジングにパワーアンプを内蔵したコンデンサ型のヘッドフォンと、真空管を使ったプリ部やDACなどを搭載したベースユットで構成。同社が1991年に発売したハイエンドヘッドフォン「Orpheus」の後継モデルと位置づけられている。なお、「Orpheus」は全世界300台限定で発売され、日本にも数台入ってきたという。当時の販売価格は300万円程度。

 HE-1のヘッドフォン部分はコンデンサ型だが、平面の振動板にはセラミックを採用。そこにプラチナを蒸着したものを使っている。非常に歪みが少ないのが特徴で、全高調波歪率は一般的なモニターヘッドフォンが0.3%程度、一般的なコンデンサ型が0.1%、ゼンハイザーのHD800が0.02%であるところ、HE-1は0.01%を実現した。

セラミックの振動板にプラチナを蒸着したものが、この内部に入っている
ユニット部分

 さらに、再生周波数帯域は8Hz~100kHzを実現。「ゾウとコウモリが合わさって、はじめて全て聴き取れるほどワイドレンジな再生が可能」とする。

ヘッドフォンのハウジングに駆動用のパワーアンプを搭載している

 ヘッドフォンアンプ部の特徴は、真空管を使ったベースユニットにプリ部やDACなどを搭載。パワーアンプはヘッドフォンの左右ハウジングに、左右個別に搭載。ユニットの直近にアンプを配置する事で、ドライブ時のパワーロスを低減できるという。パワーアンプはクラスAタイプで熱を持つため、ハウジングには放熱用のスリットを装備する。

 ベースユニットにはチェコスロバキアJJ社の真空管を搭載。内部にDACなども搭載しており、背面には入力端子として、アナログRCA×1、アナログXLR×1、同軸デジタル×1、光デジタル×1、USB×1を搭載。出力はアナログRCA×1、アナログXLR×1を搭載する。なお、仕様やデザインはプロトタイプのもので、実際は変更になる可能性もある。

ハウジングに放熱用のスリットが入っている
プリ部に真空管を使っている
背面の入出力端子部

 真空管を採用したシステムは、真空管を温めるための時間が必要だが、HE-1ではボリュームボタンを押しこむと、収納されていた真空管がせり上がり、ヘッドフォンを収納している部分の蓋がゆっくりと開いていく。優美なスタート動作だが、これには真空管を温める時間を確保するという意味も含まれている。

ゼンハイザーHE-1の起動する様子 -AV Watch

 発表会に合わせ、ドイツのゼンハイザー本社から、製品開発担当のマニュエル・リック氏が来日。概要を説明した。

 リック氏は、HE1とOrpheusの大きな違いとして、「Orpheusはアンプ、ヘッドフォン、トランスデューサーという3つのコンポーネントに分かれていたが、HE1はそれらをまとめて統合しているのが特徴。アンプをハウジング内に搭載する事で、伝送時などのロスを低減し、よりハイクオリティな再生が可能になっている」と説明した。

製品開発担当のマニュエル・リック氏

 ゼンハイザージャパン久保省三社長は、ゼンハイザーの理念として「なかなか実現はできないものだが、それでも“パーフェクトサウンド”を目指して進んでいく事」と説明。「そのビジョンに沿って、現時点での出来る限り、最高の技術を用いて、約10年かけて開発したモデル」と「HE-1」を紹介した。

ゼンハイザージャパン久保省三社長

 ゼンハイザージャパンのマーケティングマネージャー、新井庸志氏は、今年同社が実施していく取り組みについて説明。ゼンハイザーの製品をユーザーに体験してもらう「ファンミーティング」を従来から実施していたが、今年からは「ゼンハイザー・エキシビション」として、マイクやヘッドフォン、イヤフォン、スピーカーなど、ゼンハイザー製品を一堂で試せるイベントに拡充。東京、大阪、名古屋、福岡、札幌、広島、仙台で実施していくという。

 さらに、アーティストやオーディオメーカーとのコラボだけでなく、異業種とのコラボも積極的に実施。ファッションブランドnano・universeとのコラボも予定しているという。

マーケティングマネージャー、新井庸志氏

 さらにスペシャルゲストとして、俳優の高橋克典さんが登壇。自宅にオーディオルームがあり、専用電柱まで立ててしまったというほどオーディオ好きだという高橋さんは、ゼンハイザーのヘッドフォンのファンでもあるという。

スペシャルゲストの高橋克典さん

 オーディオ趣味を始めたキッカケは、「周囲のスタッフにオーディオ好きの人がいたから」だという。始まりはゼンハイザーのヘッドフォンで、「聴かせてもらった時に、“こんな音聴いたことない”と衝撃を受けて、すぐに自分で買いに行きました」とのこと。その後も“いい音”の追求を続け、自宅にピュアオーディオのリスニングルームを作り、ヘッドフォンも愛用。聴く楽曲に合わせてケーブルを交換するほどのこだわりようだ。

 ジャズなどの過去の名演奏を、臨場感豊かに再生し、ミュージシャンの細かな感情表現が聴き取れた時に、「鳥肌が立つほど感動する」と語る高橋さん。HE-1を聴いた印象としては、「素晴らしい。ゼンハイザーは音場の表現がずば抜けたものがあるが、HE-1は、ピュアオーディオの“やり尽くした音”がヘッドフォンの、このシステムだけで出ている。それが凄い」と絶賛。起動時に真空管がせり上がってくるギミックなども「少年心をくすぐられる」と気に入った様子だった。

音を聴いてみる

 限られた時間だが、HE-1のサウンドを試聴する事ができたので、印象をお伝えしたい。

 ゼンハイザーのハイエンドヘッドフォンと言えば、「HD 800」の高解像度サウンドを連想する人が多いだろう。HE-1はコンデンサ型だが、HD 800の軽やかで、細かな描写傾向の延長線にあるサウンドだ。

 だが、単に分解能が高いだけではない。驚くのはパワフルさだ。アンプが振動板のすぐ近くに配置されている事もあると思うが、細かな音の1つ1つが、弱々しいものではなく、パワフルで、音圧があり、低域に関しては野太さすら感じさせる。HD 800を高級ヘッドフォンアンプで強力にドライブすると、軽やかな中高域だけでなく、微細かつパワフルな低音が溢れ出て驚かされるが、あの音の世界を、HE-1はいとも簡単に実現しつつ、軽く飛び越えているという印象だ。

 高域はクリアで付帯音が無いが、無味乾燥なキャラクターではなく、独特のしなやかさがある。これは真空管を使ったプリ部の効果もありそうだ。

 まだ、日本での発売日や価格は未定で、ヘッドフォンとしては非常に高価なシステムになると思われるが、ゼンハイザーサウンドの現時点の到達点が味わえる製品であり、一聴の価値があるだろう。

(山崎健太郎)