レビュー

多機能NASがTV録画対応に進化。QNAP「HS-210-D」を試す

スカパー録画やダビング対応。Chromecast出力も

 QNAPのNAS「HS-210-D」は、現行の製品「HS-210」が新たにDTCP-IPに対応した新モデル。発売は4月17日で、店頭予想価格は44,800円前後。2つのHDDスロットを備えて、容量拡張が可能で、DLNAなどにももちろん対応。さらにQNAPのNAS製品の特徴である豊富なアプリに対応しているのが魅力といえる。

 筆者は以前にQNAPの別モデル「HS-251」をレビューしているが、レビューのテーマであったHDMI出力やハイレゾ再生といった新機能以上に、QNAPが持つNASとしての高い性能に魅力を感じ、自宅にも導入しようかと本気で検討していた。

 しかしHS-251はHDDを含まない本体のみでも実売価格が8万円台と高価だった。もちろんその値段に見合うだけの価値は実感したが、別途HDDを購入すると10万近い値段になるため、導入に踏み切れなかった。

HS-210-D

 一方、下位モデルのHS-210は実売で4万円を下回る価格になっており、かなり手頃感がある。この値段なら十分手を出せるか? と購入を検討していたタイミングで、「DTCP-IP対応モデルのHS-210-Dが出るぞ」という話を聞き、前のめり気味にレビューに飛びついた、というのが今回の経緯だ。そのため本レビューは新製品の特徴も踏まえつつ、実際に購入を検討している1ユーザーの立場で製品を見ていきたい。

オンラインストレージに移行して気がついたNASならではの魅力

 最近ではクラウド型のオンラインストレージが普及しており、DropboxやGoogle ドライブといった有名サービスなら1TBの大容量が月額1,000円程度で手に入る。こうした低価格の時代において、NASにはもう不要と思っている人も多いだろう。実際に筆者もDropboxを1TBで契約しているが、大容量のオンラインストレージを使えば使うほど、逆にNASの有用性を感じるという皮肉な結果になっている。

HS-210-Dのパッケージ

 一番の理由はオンラインとローカルネットワークでのアクセスの差だ。筆者はこれまで動画や音楽をNASに保存しておき、スマートフォンやPCから再生していたのだが、そのファイルをすべてオンラインストレージに移行してみたところ、再生のたびにネットワークによる遅延が発生してしまい、快適な視聴環境が望めなくなってしまった。音楽程度であればまだいいが、ファイル容量の大きな動画では早送りなどのトリックプレイもいちいちストレスを感じてしまう。

 オンラインストレージはPCに同期できるのでローカル保存も可能だが、そうすると今度はPC側に大容量のストレージが必要。最近は身の回りのPCもSSDが主流になっており、数十GBならともかく100GBを超えるファイルを保存しておくのは難しい。かといって外付けHDDを用意するならそもそもNASでいいのでは、という話に戻ってしまった。

 オンラインストレージはDLNAに対応していないのも理由の1つだ。筆者宅ではPS3を使って音楽や動画を再生することもたびたびあるのだが、PCならいざしらずPS3のようなゲーム機では、オンラインストレージにアップロードしたファイルは手も足も出なくなってしまう。オンラインストレージの低価格化に一度は心を奪われたものの、いざ移行してみるとやはりNASは便利だ……、と改めて実感しているのが現状だ。

HS-210をベースにDTCP-IPに対応

 余談はこのくらいにして、HS-210-Dの概要を見ていこう。型番の通り、本製品は現行の「HS-210」をベースとして、新たにDTCP-IPに対応した新モデルだ。

HS-210-D

 DTCP-IPを改めて説明しておくと、著作権保護されたコンテンツを扱うための技術(DTCP)をIPネットワーク上で伝送するための規格。要は地上デジタル放送やCS/BSデジタル放送といったテレビ番組を、自宅のネットワーク内で再生するための仕組みだ。

 動画や静止画、音楽などのコンテンツをネットワーク上で伝送するDLNAという規格があるが、こちらは著作権保護されていないコンテンツしか扱えない。要するに日本のデジタル放送番組をDLNAで扱うためにはDTCP-IP対応が必須、というわけだ。DTCP-IPに対応することで、放送中のテレビ番組をネットワーク経由で視聴したり、テレビ番組をネットワーク経由で録画・ダビングすることができるようになる。

 具体的な用途としては、ネットワーク録画に対応したスカパー! チューナーを通じて番組を録画したり、録画済みのテレビ番組をダビングするといった使い方が可能。DTCP-IPは主に日本を中心として使われている規格のため、QNAPのような海外メーカーでDTCP-IPに対応した製品は珍しく、その点でも注目の1台だ。

 HS-210の魅力的な機能も引き続き搭載。HDDは2台内蔵可能で、RAID0/1やホットスワップ機能を搭載。ファイルを保存するというNAS本来の機能はもちろん、外出先からインターネット経由でアクセスする機能、DropboxのようにPCのフォルダとファイルを同期する機能など、オンラインストレージに負けないほど多彩な機能を備えている。

HS-210-D。HDDを2台内蔵できる

 DLNAを利用したストリーミング再生に加えて、AirPlayやChromecastにも対応。バックアップとしてアップルのTime Machineも完全サポート。そのほかにもFTPサーバーやWebサーバー、プリンタサーバー機能といったサーバー機能も充実しており、NASとしてはほぼ全部入りといっていいほど機能が詰まっているのがHS-210-Dだ。

2つのHDDを収容可能。ファンレス仕様で音も静か

 本体はHS-210のマイナーチェンジということもあってHS-210とほとんど変わらない。HDDは本体のフロントパネルを取り外し、中にネジで固定する仕組み。左右にそれぞれ1台ずつ合計2台のHDDを収容できる仕組みだ。

今回はWestern Digital「WD Red」の2TB HDDを2台利用した

 本体背面は電源端子とLANポートのほか、USB 2.0×2、USB 3.0×2、SDカードスロットを搭載。電源ボタンも背面にあり、LANケーブルと電源アダプタを接続してから電源ボタンを押し、本体前面のLEDが緑色に点灯するとアクセス可能になる。

前面
背面。Ethernetのほか、USB 3.0/2.0、さらにSDカードスロットも装備する

 本体サイズと重量は302×220mm×41.3mm(幅×奥行×高さ)、重量は1.56kg。ファンレス仕様のため静音も特徴の1つで、本体に耳を近づけてもほとんど音を感じない。設置場所が寝室に近いなど音が気になるユーザーもこの静かさなら安心だろう。

付属のACアダプタは小さめのものだ

 セットアップについては以前にレビューした「HS-251」と共通なため、詳細はそちらを見て欲しいが、基本的には専用サイトで製品同梱のコードを入力し、アクティベーションを行なうだけ。インストールなどはネット経由で行なうためCD/DVDなども必要なく、スマートフォンからも手軽に設定できる。

 セットアップ後、ブラウザ経由でアクセスする場合は、ネットワーク上のQNAP製品を自動で検出する「QFinder」が便利。WindowsやMacから直接アクセスしたい場合は、ブラウザから「コントロール・パネル」を起動して「ネットワーク サービス」を選択、Windowsの場合はMicrosoftネットワーク、Macの場合はAFPをオンに設定。さらにQfinderから「ネットワークドライブ」を選ぶと、以降はHS-210-Dへ直接アクセスできるようになる。

設定はブラウザから簡単に行なえる
ネットワーク上のQNAPシリーズを自動で検出する「Qfinder」。Windows版のほかMac版も用意されている

追加アプリ「Twonky MediaDTCP」でDTCP-IPが利用可能に

 今回の目玉であるDTCP-IPだが、HS-210-DのDTCP-IP機能で利用できるのは大きく2つ。1つはテレビ番組の録画機能、もう1つはDTCP-IP対応レコーダで録画した番組のダビング機能だ。

 なお、HS-210-DのDTCP-IP機能は、今回のレビュー時点では初期状態で搭載されておらず、追加パッケージ「Twonky MediaDTCP」をインストールすることで利用可能になる。また、HS-210-Dは標準でDLNA機能を搭載しているが、DTCP-IP機能を利用するためには競合を防ぐためこれらの機能をオフにするという手順が必要だ。

 そのため設定の際はまず「コントロール・パネル」「アプリケーション」から「DLNAメディアサーバー」を選択、「DLNAメディアサーバーを有効にする」「TwonkyMedia DLNAサーバーを有効にする」のチェックを外しておく。

コントロール・パネルから「アプリケーション」「DLNAメディアサーバー」を選択
DLNAサーバーやTwonkyMediaのチェックを外しておく

 続いてApp centerを起動し、右上の「手動でインストール」をクリックして表示されるポップアップからリンクを選択、アプリケーションリストから「Twonky MediaDTCP」をダウンロードする。あとは先ほどの「手動でインストール」からダウンロードしたファイルを参照し、「インストール」を選択すればDTCP-IPの設定は完了だ。

アプリケーションの右上から「手動でインストール」を選択、ポップアップに表示された「ここ」をクリック
アプリケーションリストから「Twonky MediaDTCP」をダウンロード、先ほどの画面に戻りファイルを指定してインストール
TwonkyMedia DTCPがアプリケーションに追加される

スカパー! 録画やREGZA録画番組をダビングして大容量HDDを有効活用

スカパー!光チューナの「TZ-HR450P」

 まずはDTCP-IPによる録画機能を試してみよう。筆者宅にはDTCP-IPの録画機能を持ったスカパー! 光チューナ「TZ-HR450P」があるのでこちらを使って試してみた。

 テックウィンドによれば、動作確認済の機種は、スカパーチューナのTZ-HR400Pのほか、ソニーやシャープ、パナソニック、東芝などのBDレコーダ/TVの一部機種に対応しているとのこと。

 TZ-HR450Pのリモコンにあるメニューボタンの「設定する」「ネットワーク関連設定」から「お部屋ジャンプリンク設定」を選択。さらに「お部屋ジャンプリンク機器一覧」からHS-210-Dを登録する。

 なお、TZ-HR450Pは最大6台まで機器を登録できるが、この機器一覧では以前にネットワーク上に存在した機器も含めて上から自動的に機器登録されてしまうため、1つ1つメニュー登録を「しない」にするかリストから削除するという手間が必要だ。

リモコンのメニューボタンから「設定する」「ネットワーク関連設定」を選択
「お部屋ジャンプリンク設定」を選択
HS-210-Dをメニュー登録する。TZ-HR450Pはネットワーク上に過去存在した機器も自動で登録されてしまうため不要な登録は手動で解除が必要
録画の際に詳細設定から録画機器としてHS-210-Dを指定

 リスト登録すると録画機器として設定可能になるため、あとは番組表から録画する際に「詳細設定」を選び、録画機器をHS-210-Dに変更する。一度設定を変更するとその後は設定が継続されるため、以降は常にHS-210-Dに録画することが可能だ。

 録画した番組はTZ-HR450Pの「お部屋ジャンプリンク」から再生可能。また、DTCP-IP対応ということもあり、PlayStation 3やDiXiM for Androidを搭載したAndroidスマートフォンからも視聴できた。

録画の際に詳細設定から録画機器としてHS-210-Dを指定
HS-210-Dに録画した番組
録画した番組をPS3から再生できる

 続いては録画番組のダビングだ。こちらは自宅で利用している液晶テレビ「REGZA 42Z7000」を利用した。この機種は録画した番組をDTCP-IPに対応したNASやレコーダへダビングできる機能を搭載しており、REGZAで録画した番組をHS-210-Dへダビングでバックアップすることが可能だ。

 ダビング方法はREGZAで録画した番組の一覧を表示し、「ダビング」を選択してダビング先に「QNAP」を選択するだけ。録画番組のコピー回数を1消費し、REGZAで録画した番組をHS-210-Dにダビングできた。

録画リストから「ダビング」を選択
ダビング先にHS-210-Dを指定
コピー回数の消費を確認してダビングを実行

 再生する際は録画一覧から「機器選択」で「QNAP」を指定するだけ。また、録画と同様にDTCP-IPに対応したPS3やスマートフォンから再生することもできる。

「機器選択」からHS-210-Dを指定して録画した番組を再生できる

 もともと高機能で魅力的だったQNAPシリーズだが、DTCP-IP対応により録画やダビングに対応したのはテレビ好きユーザーには嬉しい機能向上だ。スカパー!であれば多チャンネルならではの映画や音楽といった番組を大容量HDDへ録画できるし、ダビング機能を活用して「録画したはいいがなかなか見る機会がなく、かといって削除するのも惜しい」という番組をレコーダから待避しておくこともできる。

 DTCP-IPというと日本国内で主に使われている機能だけに、海外製のNASで搭載されてることはあまりないが、QNAPのような自由度の高いNASで、録画機能を利用できるというのは、他のNASとも比べて大きな差別化要因と言えるだろう。

リモートアクセスやChromecast対応など多彩な機能も魅力

 DTCP-IP以外にもHS-210-DはHS-210譲りの魅力的な機能を多数備えている。あまりに機能が多彩なためここで全部は紹介しきれないのだが、QNAP製品ならではの特徴的な機能をいくつか紹介しよう。

 自宅に設置したNASは、外出先で必要なファイルにアクセスできないという弱点を解決するのが「myQNAPcloud」。専用のアカウントを取得し、自宅のHS-210-Dと紐付けることで、インターネット接続環境さえあれば外出先からでも自宅のデータにアクセスできる。

 「Qsync」は、Dropboxのようなファイル同期機能。自宅のWindows/Macに専用ソフトをインストールし、特定のフォルダを指定すると、そのフォルダに保存したファイルを自動的にHS-210-Dへ保存してくれる。前述のmyQNAPcloudと組み合わせることで、ほぼオンラインストレージと同等の使い方が可能だ。

外出先からアクセスできる「myQNAPcloud」
Windows/MacのフォルダとHS-210-Dを同期できる[Qsync」。myQNAPcloudと組み合わせてDropbox感覚で利用できる
スマートフォンからアクセスできる「Qfile」

 スマートフォンにも対応し、専用アプリ「Qfile」からインターネット経由でHS-210-Dにアクセス可能。さらに音楽のストリーミング再生に特化したスマホ向けアプリ「Qmusic」も用意されている。

 AirPlayやChromecastに対応した「QAirplay Chromecast」をインストールすれば、HS-210-Dに保存したファイルをApple TVやChromecast経由でテレビに映し出すことが可能。別途Apple TVやChromecastが必要ではあるものの、上位機種であるHS-251のHDMI機能のように動画をテレビへ映し出せるのは嬉しい。

 設定も非常に凝っており、ブラウザ経由の管理画面ながらPCのようにグラフィカルなインターフェイスで操作が可能。さらにアプリで機能を拡張することもでき、Google ドライブとの連携機能、音楽や動画、静止画の再生機能などを追加することも可能。スマートフォン感覚でNASをパワーアップさせることができるのもQNAPならではだ。

保存したファイルをApple TVやChromecastに表示できる「QAirplay Chromecast」

NASとオンラインストレージ、レコーダとしての魅力を1台で実現

 オンラインストレージを積極的に使っている筆者だが、今回HS-210-Dを試用して改めてNASの魅力を痛感した。筆者宅はパソコンやスマートフォン、タブレットが何台も存在し、どの端末からも同じように作業できるようクラウド中心のファイル管理を行なっているのだが、外出先ならいざしらず、宅内ではNASにアクセスできるほうが圧倒的に効率がいい。

 大量の写真や大容量ファイルを保存するときも、オンラインストレージは同期が完了するまで端末の電源を切れないが、NASなら保存した時点で終了の上に転送速度も速い。やはり筆者宅の場合NASは必要不可欠な存在だったと思い知らされた。

 HS-210-Dの場合、QNAPシリーズならではの多機能さも魅力で、外出先からのファイルアクセスやPCとのファイル同期機能なども備えており、オンラインストレージ的な使い方も十分可能。さらに今回のDTCP-IP対応により、ファイルが肥大化しがちなテレビ番組の録画ファイルもHS-210-Dで録画/バックアップすることで大容量ストレージの使い道が広がった。

 テレビ番組をあまり録画しない人にとってはさほど興味がない機能かもしれないが、筆者のようにドラマやアニメなどを毎シーズン録画し続けるようなタイプにとって、どんどん貯まっていく録画番組は悩みの種。HS-210-Dはこうした録画番組を蓄積するために活用できるだけでなく、自宅のファイル管理や外出先からのファイルアクセスなど多彩な使い方が可能になっており、まさに一粒で二度も三度もおいしい高機能NASといえる。

(協力:テックウインド)

甲斐祐樹