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「たった5話でこの重厚感かよ……」超名作海外ドラマ「チェルノブイリ」

筆者が購入した「チェルノブイリ」のBD

インドア派の人間にとってGW(ゴールデンウィーク)とは、外に遊びに行く期間ではなく、盆暮れ正月以外で引きこもりを満喫できる幸せなシーズンである。そして、観たい映像作品をイッキ見するチャンスの時期だ。2024年のGWは何を観ようか、とコンテンツを物色している方も多いだろう。

筆者がGWという名の引きこもり期間に観ることをオススメしたいのは、少し古いが2019年にケーブルテレビで放送された海外ドラマ「チェルノブイリ」である。

米ワーナー・ブラザース傘下のHBO(Home Box Office)が制作した作品で、U-NEXTで独占見放題配信されている。NetflixやAmazon Videoだと見放題コンテンツに入っておらず課金が必須になるが、あえて言い切ろう。お金を払ってでも観る価値のあるドラマである、と。

「HBO最高傑作」の声も聞かれる名作

HBOといえば、「セックス・アンド・ザ・シティ」や「バンド・オブ・ブラザース」、近年では「ゲーム・オブ・スローンズ」など多数の大ヒット作を抱えるケーブルテレビ局。映画のようなハイクオリティなドラマを世に送り続けていることで知られる。

そんな傑作だらけのHBO作品の中で、放送当時に「最高傑作」の声も多かったのがこの「チェルノブイリ」だ。1986年に旧ソ連(現在のウクライナにあたる地域)で起きた「チェルノブイリ原発事故」を、実話に基づいてリアルに描くドラマである。

本作は第71回エミー賞で10部門を受賞し、放送&配信開始直後には米データベースサイト「IMDb」でテレビ番組史上最高評価の9.6点(2019年当時)を獲得していた。なお、2024年5月時点でも同指標で9.3点をキープしている。

筆者も本作を視聴して大感銘を受け、後日BDも購入したし、2019年末は誰かと会うたびに「今年は『チェルノブイリ』と『全裸監督』の年だった!」と熱く語って(はウザがられて)きた。その感動は5年経った今も変わらず、こうしてGW中に視聴するオススメ作品として取り上げている次第だ。

タイパ時代にぴったりな無駄なき全5話

ただ、時代は「タイパ」である。海外ドラマと聞くと、「何シーズンあるんだよ?」「面白くなるまでが長いと飽きるよ?」と思う人もいるだろう。

安心してほしい。「チェルノブイリ」は、全5話しかない。だから軽い気持ちで見始められるし、1話目からマジで惹きがヤバい。逆に「5話で本当に終われてるの? 中途半端な打ち切り漫画みたいになってない?」と心配されるかもしれないが、そこも信頼と実績のHBOである。

結論から言うと、しっかり終われているし、全話見終わると達成感めいたものすら生まれる。何なら、「たった5話でこの重厚感かよ……」と誰もが圧倒されて、深くうなだれること請け合いである。タイパ時代にぴったりの尺で、高い満足感を与えてくれるドラマなのだ。

度肝を抜かれた1話目“あのシーン”

ここまで読んで、「へー、ちょっと見てみようかな?」と興味を持たれた方に向けて、ネタバレにならないよう、公式サイトから1話目のあらすじだけ抜粋しよう。

「チェルノブイリ」EPISODE 1 あらすじ

1986年4月26日未明、旧ソビエト連邦のチェルノブイリ原子力発電所で爆発が起こる。現場監督の副技師長ディアトロフは、部下に原子炉の炉心へ行き確認するよう指示する。一方、出動命令を受けた消防士ワシリーが現場に向かう中、近隣住民は遠くで起きている火事を見物していた。そんな中、発電所幹部が核シェルターに集まり、事故は適切に処理され、甚大な被害はないという見解で一致し……。

非常に落ち着いた説明文だが、よく読んでみると、「副技師長ディアトロフは、部下に原子炉の炉心へ行き確認するよう指示する」の一文で、「え、それヤバくない?」と感じるだろう。そう、登場人物たちが勤務するチェルノブイリ原子力発電所に「ヤバい職場」の空気がしっかり出ているのは、本作の見どころのひとつだと思う。

爆発事故の発生後、制御室で延々と警報が鳴り響く中、副技師長から「原子炉を見に行け」とパワハラめいた指示を受けて逆らえない職員たちの姿が描かれた時、サラリーマン生活の長かった筆者の背筋には冷たい汗が流れた。とてもじゃないが「ツラい」の一言では表せない。

そして、「1話目からこんなシーンやるの?」と本作のマジ度を実感したのが、その後。原子炉の爆発によって剥き出しになった炉心が映るシーンである。ひとりの職員が、上司に強要されて仕方なく屋上から炉心を見下ろしに行くのだが、そこには遮るものが何もなく、ごうごうと燃え盛る炉心が真っ正面から画面いっぱいに映されるのだ。

筆者はあまりの恐怖に、気づけば息を止めながらそれを観ていた。“姿の見えない放射能を描くこと”に成功したこのシーンで、「このドラマはガチだ」と震え上がり、勢いで最終話まで一気に見切ってしまった。

1話目はそんな風にして、原発の作業員、周辺住民、消火活動に参加した消防士など、誰もが起こった事故の深刻さにちゃんと気づかないまま終わる。この描き方がまた秀逸で、後世を生きる我々からすると本当に恐ろしいのだ。

2話目の冒頭でやっと、本作の主人公である科学者・レガソフ(実在の人物)が本格的に登場し、科学(化学)的な見地からの解説も行われ、「なぜこの事故が起こったのか?」を解明する物語として一気に進んでいく。この、2話目からストーリーが動き出す構成も非常に良い。

なお、本作のように実話を元にした作品は、基本的に最初からネタバレしている前提である。別にドラマを最後まで見なくても、ネットで検索すればいくらでも事の顛末を知ることができる。しかし、それでも視聴者は、「チェルノブイリ」というこのドラマ作品をちゃんと終わらせたくて、一度見始めたら止まらない。

本作が凄いのは、原発事故が発生した科学的理由の解明や、原発そのものの是非を語るにとどまっていないところだ。事故を引き起こす基盤となった「国家」や「時代」という、誰にも制御できない大きなうねりと、ヒューマンエラーに直結する非常に個人的な精神面・心の機微まで、しっかりと描いている。

だから、現代の我々から見て明らかな間違いを犯しているシーンでも、「同じ立場になったら自分でもそうしてしまうかもしれない」と考えるし、科学者としての矜持を持つ主人公の姿に「自分だったら彼のように動けるだろうか?」と悩む。

単に「古い共産主義国で起きた原発事故の話」ではなく、現代の資本主義の人間社会にも多かれ少なかれ共通するものを描いた、極上のヒューマンドラマなのである。

また、ただの「歴史・実話もの」というだけではなく、「科学者と共産党副議長の名バディ(超熱い)」「謎解き化学ミステリー」「法廷ドラマ」と、さまざまなドラマジャンルの要素が取り入れられているのも見どころだ。ドラマ好き・映画好きがハマれるポイントがいくつもある。

というわけで、ドラマ「チェルノブイリ」。繰り返しになるが、本作はたったの5話で凄い見応えなので、全話観終わってから深くうなだれる期間も考慮すると、GW前半の視聴がオススメ。春から初夏へと移る爽やかな季節の中、この重厚感を噛み締めてほしい。

U-NEXT
杉浦みな子

オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀……と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハーです。