レビュー

ディスプレイ革命? 超短焦点ソニー「LSPX-P1」の魅力(1)

10万円で80インチ大画面。テレビの未来はコレ?

 大画面で映画やアニメを楽しみたいという人なら、一度は憧れるのがプロジェクタではないだろうか。「家庭で100インチ超の大画面」というフレーズには夢があるし、そのサイズで好きな俳優、アーティスト、アイドルやアニメのキャラクターの表情をクローズアップで投射するという行為はロマンに満ちている。

 しかし、プロジェクタは映像をレンズで拡大してスクリーンに投射する映像機器だから、製品自体のサイズはコンパクトでも、現実には投射のための距離を確保する必要がある。スクリーンとプロジェクタの間の空間は、映像の通り道(光路)であるため、光路を遮ればスクリーンに影が生じてしまう。だから、そこには物も置けないし、人も通れない。これがけっこうなデッドスペースとなってしまうわけで、週に一度映画を見るくらいならばOKでも、テレビのように日常的に付けっぱなしにしておくような使い方は難しい。それを避けるにはプロジェクタを天井に吊すなどの対策があるが、当然ながらそれなりの手間もコストもかかる。少し調べてプロジェクタを使うを諦めてしまう人も少なくはないはずだ。

 そんなプロジェクタの致命的な問題をほぼ完全に解決したモデルが現れた。ソニーのポータブル超短焦点プロジェクタ「LSPX-P1」(直販価格92,500円)である。

LSPX-P1の投射イメージ

 約28cmの投射距離で80インチの映像を表示できるのだ。ちなみに同じソニーのホームシアタープロジェクタ「VPL-HW60」の場合、80インチの投射距離は2.03m。投射距離は製品のレンズ設計によっても変わってくるが、80インチならば2~3m弱の距離が一般的だ。それに比べると28cmという距離がいかに短いかがわかるだろう。薄型テレビを置いているラックやテレビ台に、そのままLSPX-P1を置けば、壁に80インチの画面が表示できる。

 しかも、LSPX-P1は本体部はバッテリー内蔵のポータブル型なので、どこにでも手軽に持ち運んで使える。誰でも、どんな場所でも使える最大80インチ表示の映像機器が約10万円。80型クラスの液晶テレビの価格を考えると、いかにお買い得かがわかるだろう。事実、現在LSPX-P1は予想を大幅に上回る注文が集まっており、供給不足となっている。ソニーストアで確認したところ、執筆時点では次回の製品出荷は8月下旬となっている。これほどの人気となっているのも「実現可能な80インチ大画面」に多くの人が魅力を感じていることの証だろう。

 筆者も取材で軽く試したところ、自分の家のテレビをLSPX-P1に換えようと思ってしまったほど。残念ながら今は購入できないので、取材機をお借りして、思う存分に自宅で試してみた。だから、ここでは実際に購入を考えている人が気になるポイントを中心にじっくりと紹介していく。

プロジェクタとしての絶対的な性能は低いが、そこが魅力ではない

 まずはLSPX-P1のプロジェクタとしての概要を紹介していこう。投射方式は、SXRD・3原色液晶シャッター投射方式。0.37型のSXRDは単板式で画素数は1,366×768ドット。プロジェクタに興味のある人ならば、普通ならこれだけで購入対象から除外するだろう。一般的なプロジェクタは、10万円クラスのエントリーモデルでもフルHDモデルもあり、液晶モデルならば三板式。そして3D映像にも対応する。ただし投射距離は2~3mだ。つまり、一般的なプロジェクタとのスペック比較はほとんど意味がなく、「LSPX-P1だからできること」が重要なのだ。

LSPX-P1

 投射画面サイズは、22インチ~80インチ。光源はレーザーダイオード。CDなどの光ディスクのピックアップなどにも使われる半導体レーザーだ。LED光源やレーザー光源は次世代プロジェクタの光源として期待されており、高圧水銀ランプなどの光源に比べて寿命が長いことが特長。LSPX-P1の場合は、1日4時間使った場合5年以上の寿命(輝度が半減するまでの期間)が確保される設計となっている。プロジェクタでは当たり前の定期的なランプ交換が不要なので、後々の手間もコスト負担もない。

 画面の輝度は100ルーメン。数値を見るとかなり少ないので、画面の明るさの不足が心配になる。これは実用性に大きく影響するので、じっくりと確認したいところだ。

 画素数は1,366×768だが、映像信号としては1080/60pまで対応している。これは、20型クラスの液晶テレビなどと同じだ。解像度的な差はあるが、実用性は問題ないだろう。4Kコンテンツを別にすれば、地デジなどの放送はもちろん、BDやDVDなどの映像も問題なく表示できる。PCとの接続時は1,920×1,080/60Hzの表示が可能だ。残念ながら、3Dには非対応だ。

SPX-P1のプロジェクタ部とワイヤレスユニット

 サイズは驚くほどコンパクトで、外形寸法81×131×131mm(幅×奥行き×高さ)、重量約930gと、片手で軽々と持ち運べるほど小さい。これと、135×135×35mm(幅×奥行き×高さ)、約200gのワイヤレスユニットがセットになっている。プロジェクタ本体とワイヤレスユニットの接続は不要で、それぞれがWi-Fiで家庭内LANに接続して映像・音声信号をやりとりする仕様だ。だから、LAN内であればプロジェクタを自由に持ち出して好きな場所で映像を投射できる。もちろん、スピーカーも内蔵。25mmユニット×2を内蔵する(音声はモノラル)。

プロジェクタ部の背面の端子部。ACアダプタ用の端子だけがある。中央のくぼみには、専用オプションのスタンドと取り付けるための電源端子がある
電源は同梱のACアダプタで供給。サイズはかなりコンパクト

 LSPX-P1は、ワイヤレスユニットに接続してHDMI出力を持ったAV機器を接続できる。ワイヤレスユニットにはHDMI出力も備えており、出力を薄型テレビと接続しておけば併用も可能。AVアンプなどにつないでサラウンド再生を楽しむこともできる。

ワイヤレスユニットもサイズはコンパクト。ボディのデザインはプロジェクタ部と共通。天面は革製品のようなシボ加工になっている
背面の接続端子。HDMI入出力が各1系統、AVマウス出力が1系統、電源端子がある
ワイヤレスユニット用のACアダプタ。こちらもサイズはコンパクトだ

 また、プロジェクタ部単体だけでも、スマートフォンと接続して静止画表示が可能。Android端末ならば、スクリーンミラーリングでスマホの画面をそのまま表示できるので、動画配信やゲームなどを楽しむこともできる。スマホと組み合わせるだけで、動画、音楽コンテンツを幅広く楽しめるし、個室でスマホ用のパーソナルモニターとして使うならばまったく不満はなさそうだ。

自宅の視聴室のスクリーンで、実際に映像を投射してみる

 いよいよ実際に映像を投射してみよう。まずは視聴室にあるスクリーンに投射してみた。これは、投射サイズを実測して試してみるほか、肝心の画質もじっくりと確認するため。ちなみにスクリーンはオーエスのピュアマットIIIで、サイズは120インチだ。

 ワイヤレスユニットなどの接続を済ませ、タブレット(iPad miniを使用)でペアリングなどの設定を済ませたら、映像の投射だ。ちなみに、LSPX-P1にリモコンは付属しておらず、操作のためにはスマートフォンなどが必要。操作アプリの「ポータブル超短焦点プロジェクタアプリケーション」(iOS、Android用)をインストールして設定を行なう。設定自体は簡単で、ガイドの指示に従ってペアリング設定やWi-Fi設定を行なうだけだ。

ポータブル超短焦点プロジェクタアプリのトップ画面。画面はシンプル。電源オン/オフのアイコンの下にあるのはプロジェクタ部のバッテリー残量だ。下にある3つのアイコンで、ポスター/HDMI/写真の表示を切り替えできる
設定画面では、自動電源ON/スタンバイや、画質/音質設定、ネットワーク設定などができる
自動電源ON/スタンバイの設定。時間を指定しての電源ON/スタンバイのほか、設定に使うスマホが近づいたらON/離れたらスタンバイという設定も可能。使い方に合わせて切り換えよう
時間設定はフリック操作で目当ての時刻を設定するタイプ
ネットワーク設定では、Wi-Fi接続/Wi-Fiダイレクト接続が可能。登録した機器の制限や機器のリストも確認できる

 本体の電源をオンにすると、10秒ほどでSONYのロゴが表示される。さらに10秒ほどでポスター表示になる。光源がランプではなくレーザーなので出画が驚くほど速い。一般的なプロジェクタが出画までに分単位で時間がかかることを考えると画期的。プロジェクタというより、薄型テレビよりもちょっと時間がかかるかな? という程度だ。これは日常的な使い勝手を考えてもありがたい。

 HDMIに切り換えると、ワイヤレスユニットの電源が入り、数秒待つとHDMIに接続した機器の映像に切り換わる。Wi-Fiの電波が混雑している場合や他の機器の電波干渉があったりすると、ワイヤレスユニットとの通信に時間がかかることもあった。これは2階にあるワイヤレスLANルータと、1階の視聴室でワイヤレス接続していた問題もありそう。元々電波が多少弱いので電源オフからの接続で時間がかったようだ。一度接続されてしまえば、接続が途切れるようなことはなかったが、自宅のWi-Fiの電波状態が悪い場所では使いにくくなることもあるので気をつけよう。

 無事に映像が出たところで、投射位置の調整だ。LSPX-P1は加速度(姿勢)センサー、照度センサー、測距センサーが内蔵されており、フォーカス調整は基本的に自動、画面の明るさも自動(それぞれ手動調整も可能)とかなり簡単だ。しかし、プロジェクタの基本でもあるが、スクリーン面ときちんと平行に合わせるという設置位置の調整がなかなか大変だ。超短焦点ということもあり、画面の歪みなどの影響がシビアに出る。図形歪みは薄型テレビにはないものなので普通に違和感を覚えるし、筆者のように神経質な性分だと最初の設置にはかなり苦労する。が、コツを覚えるとすぐに慣れるので安心してほしい。

 コツとしては、まず台形歪み補正の設定を使わないこと。スマホアプリの設定で台形歪みの補正を中間値にしておくと台形歪み補正がゼロになるので、その状態で設置位置を合わせていく。置いた台が水平でないと台形に歪むが、これは気にせずに左右の形状が揃うように合わせていく。これをしないで台形歪み補正を使ってしまうとタテの図形歪みとヨコの図形歪みが混ざってしまってどう調整していいかわからなくなる。調整で迷ったら、台形歪み補正をリセットするのが手っ取り早い。

基本設定の画面。音量、明るさ、フォーカス、台形補正、画面回転の設定が行なえる

 第2のコツは、図形歪みは遠くから離れて確認すること。LSPX-P1はスクリーン(投射面)の直近に置くので、そこで本体を動かしながら調整していると、正し位置かどうかがわかりにくい。そのため、ちょっと(1mm以下)動かしたら数メートル離れて画面の形状を確認するといい。部屋の端から端まで何度か往復するので面倒だが、結果的にこれが一番早い。いろいろな場所でそんなことを繰り返していくと、コツがつかめてきて、1分もかけずに設置位置の調整を済ませられるようになる。

 最後はコツというよりも気構えだが、多少の図形歪みには寛容になること。明らかに違和感を感じなければ、問題なしとしよう。そもそもが置き場所を固定して使うタイプではなく、気軽に持ち運んで好きな場所で好きなサイズで映像を楽しむというタイプのプロジェクタだから、図形歪みにこだわると、肝心の良さが失われてしまう。

37cmで100インチサイズの投影ができた!!

 筆者も自宅で設置するのは初めてだったので、最初はいろいろ手間取ったが、その結果、おおよそ60インチでの表示を達成した。距離を測ってみると22cm。ほとんど壁際という感じだ。本当は最大サイズである80インチを目指していたが、図形歪みを補正に手間取っているうちに、ちょっと小さめになってしまった。

120インチスクリーンに60インチほどの大きさで投射。本体位置がごく近い場所にあることに注目

 壁から22cmの距離というのは、掃除をするときくらいしか近づかない距離なので、プロジェクタ本体がこの位置に置けるならほとんど邪魔にならないはず。プロジェクタ経験者であるほど、この距離には驚くのではないだろうか。

60インチほどのサイズでの壁からの実測値。ほぼ壁際と言える距離で、そのまま置きっぱなしでも生活の邪魔にはならない

 続いて、最大サイズの投影に挑戦してみた。プロジェクタは投射距離を長くするほど投影される画面は大きくなる理屈だが、設計された最大サイズを超えるとフォーカス調整が合わなくなるので、大きいことは大きいがピントのずれた映像になってしまうわけだ。そのフォーカス調整が可能な範囲がスペック上では80インチとなる。

 映像のピントが外れない範囲での最大サイズを目指してみたが、結果的には100インチ弱になった。実際には映像のフォーカスは少々甘く感じるが、そもそも解像度がフルHDよりも少なく映像は甘めなので、それほどの不満はない。実測した距離は37cmほど。薄型テレビの置き場所に費やしているスペースを考えれば、十分以上の省スペースと言えるだろう。

100インチ弱のサイズで投影。サイズ的な満足度も十分だし、ピントのずれも不満のない範囲。これより大きくしようとするとピントのずれが大きくなってくる
100インチ投射時の実測値は約37cm。一般的な薄型テレビを置いたシチュエーションとかなり近いスペースで100インチが実現できるのは素晴らしい

 今度は逆に最小サイズでの投影をしてみた。スペックでは壁際で22インチとのことだが、実際に試すとほぼ20インチ強のサイズになった。写真を見るとわかりやすいが、最小サイズだと画面はかなり明るくなる。照射範囲が狭くなるほど面積あたりの輝度(照度)が上がるのは理屈通りで、設定で明るさを自動にしていると薄暗い視聴室ではまぶしく感じるほどだ。逆に60インチを超えるあたりから画面の明るさが不足しがちに感じる。全暗にできる環境ならばサイズを優先したいが、一般的な室内では画面の明るさを考えると50~60インチが適正なサイズだと思う。

壁際に置いて投影。サイズ的には20インチ強のサイズで、ほぼスペックどおりの結果になった
20インチ強のサイズでの実測値。プロジェクタのサイズを測っているような写真になってしまった。実際にはスクリーンのフレームが少し出っ張っているので、22インチよりもやや大きいサイズだ

 この20インチ強での壁際投射が、果たして現実的にありうるシチュエーションなのかと、調整しながら疑問だったのは事実。だが、プライベートルームでPC用モニターとして使う場合なら、こうして壁際に面と向かうシチュエーションもありうるだろう。そう思って、とりあえずキーボードとマウスを置いているテーブルを使って似たような設置を試してみた。

 プロジェクタおよびキーボードとマウスを置いたテーブルにPCを使う感じで座ってみると、これが案外しっくりくる。壁との距離が近すぎて圧迫感があるかと思ったが、それほどではなかった。視聴距離もちょうどいい感じだ。気になる点としては、PC用モニターとしては画面位置がやや高い気がすること。そして、キーボードを打鍵するたびに画面が揺れるので、プロジェクタを置く台は別にするか、頑丈なテーブルやラックに設置した方がいいことくらいだ。

 目の前のディスプレイが壁に埋め込まれてしまったような感覚はなかなか気持ちがよく、壁が近いという感じもないし、むしろ目の前が広々とした感じになる。画面の明るさも十分以上なので明るい部屋でも不満なく使える。これは思った以上におすすめの使い方だ。

ミニテーブルにキーボードとマウスと一緒に設置。かなり無理矢理な設置だが、こんな使い方も十分に実用的だ

 最後に100インチ弱の最大サイズでの画質の印象を紹介しよう。100インチ弱のサイズは輝度的には多少不足なので、視聴では一般的なプロジェクタと同じく全暗で画質チェックをしている。サイズを小さくするほど画面の輝度が高まり、画質的な印象はより良くなるので、それ以下のサイズで使う人でも参考になるだろう。

 アプリの設定ではプリセットが1~3の3つとカスタム1/2がある。プリセットは明るさの変化が大きく、視聴する部屋の明るさに合わせて選ぶことを想定しているようだ。ここではもっとも明るいプリセット1で見てみた。

 テレビ放送でニュースやドキュメント番組を見てみたが、色合いはくっきりとしており、彩度の高い色も鮮やかだ。しかし、派手過ぎでギラついた印象にはならない。スクリーン投射らしい落ち着いた再現だ。

 BDで映画を見てみると、暗部の再現がやや苦手で暗いシーンが続くとやや見づらいと感じる。暗い環境で見る場合には、明るさの不足よりもコントラスト不足が多少気になるところだ。また、アニメは発色の良さがよく出て、かなり相性がいい。最近のアニメは明るい映像の作品ばかりではないが、それでも暗いシーンは決して多くはないので弱点が目立ちにくいのもいい。映画館とは言えないものの、十分に大きな80インチの大画面を独り占めにできると思ったら、うれしいと感じるアニメファンは多いと思う。

 色再現について詳しく紹介すると、赤、緑、青の三原色が鮮やかに出るだけでなく、黄色や肌色もしっかりと出て、濃厚と言えるほどの豊かさだ。光源がLEDということで、特有のクセっぽさを気にする人もいると思うが、気になるのは全白画面でややギラついた輝きが目立つくらいだ。これも、部屋の照明を消して、画面の明るさを欲張らなければそれほど目立たないので、あまり心配はいらない。

 今度はカスタム1と2を試してみた。初期値のカスタム1は明るさ重視で色温度が高め、そのぶん少し色合いが緑に寄った傾向になる。明るく見やすいが、肌の赤みが足りなくなったのが気になる。カスタム2はやや暗めで色温度が低め。明るさを気にしなければなかなかバランスがいい。そこで、カスタム2を元にして自分なりに微調整を行なってみた。

 まず明るさがかなり絞られているので、最大にしてみたが明るくなるというよりもギラつく感じになってしまう。絶対的な輝度不足のため、ここは諦めて部屋の明るさを落とすしかないようだ。コントラストは十分にメリハリが効いたものなので、調整値より上げても映像がギラつくか、白飛びするだけになる。明るさとコントラストの調整範囲はあまり広くない。明るいシーンはまったく不満はないが、暗部が見えづらいのは諦めるしかないようだ。

 彩度はデフォルト値のままでも十分にバランスが良いが、好みに応じて調整するといいだろう。ホワイトバランスはRGB調整なので取っつきにくいが、むしろ色合い調整のようなイメージで、もう少し赤寄りにしたいなど、好みに合わせていい。

 元がくっきりとしたメリハリ画質なので、それを少し和らげ、色を好みのバランスとしただけだが、随分と好ましい画になった。物足りないのは暗部階調の不足くらいだ。

設定メニューから画質設定を選んだところ。プリセット1~3と、カスタム1/2が選べる。カスタム1/2は歯車アイコンをタッチすると詳細設定ができる
カスタム1の調整メニュー。彩度、ブライトネス、コントラスト、シャープネスが選択できる。ホワイトバランスはRGB独立調整式だ

 また、動画を見ていると、色割れ(カラーブレイキング)がちょっと目に付く。これは1枚のSXRDを使って時分割でRGBの三原色を表示している単板式ならではの現象。黒地の白の文字(要するに映画の字幕)などで気になりやすいが、ふつうの動画ではほとんど感じない。このほかは、動画の動きが時々、ギクシャクとすること。これはHDMIの信号をワイヤレス伝送していることが原因と思われる。先にも触れたが、2階のルーターと1階のワイヤレスユニットで通信しており、多少電波が弱いことが影響したようだ。画質的にも多少ノイズが増えた印象になることもあったので、Wi-Fiの電波環境で画質の影響が出やすいことは覚えておきたい。

 そして、ゲームも試してみた。ここで注意したいのは、ゲーム機だけでなくBDレコーダなど、テレビチューナとなる機器のHDMI出力はまずLSPX-P1のHDMI入力に接続すること。AVアンプやホームシアター機器を使っていると、各再生機器はまずAVアンプに接続し、AVアンプからテレビなどに接続するが、これだと映像と音がずれてしまう。HDMI伝送のワイヤレス化でかなりの遅延が発生するためだ。

 これはテレビ番組を見ていても気がつくレベルで、フレーム単位どころか秒単位で遅延が生じていると思われる。とはいえ、ワイヤレスの利便性は捨てがたいので、再生機器はワイヤレスユニットに接続し、そのHDMI出力をAVアンプなどに接続しよう。この状態では映像も音も一緒に遅延するので、ズレはほとんど感じなくなる。この状態での表示遅延はゲームをしていても支障がないレベルだ。

 ここで問題になるのが、ワイヤレスユニットにはHDMI入力が1系統しかないこと。BDレコーダやゲーム機などを使い分けるのが少々面倒だが、この場合はHDMIセレクターなどを使えば解決できる。

 ゲームの表示は、暗い場面の多いタイトルはゲーム機側で明るさを調整できることもあって、見やすく鮮明な映像を楽しめる。色合いも鮮やかでCGの精密なグラフィックの再現度も十分だ。ただし、1080/p出力をダウンコンバート表示していることもあり、細かい文字が少し潰れてしまう。多少見づらいこともあるが、読めないというほどではない。これは、むしろPC画面の解像度を1080/pとしたときの方が顕著だ。デスクトップが広い1,920×1080表示か、文字が読みやすい1,366×768表示かは好みで使い分けるといいだろう。

 映像全体の解像感は、シビアに見ていけばディテールの再現はやや甘い。ただし、くっきりとした画作りもあり、輪郭やエッジが眠くなるようなことはない。1,366×768の表示素子と考えれば十分以上に優秀だ。もしも、映像がかなり甘いと感じるならば、自動フォーカスで調整しきれていないことを疑うといい。手動でフォーカスを微調整するとかなり改善するはずだ。

 また、超短焦点を実現したための代償として、スクリーンの平面性がシビアに要求される面もある。スクリーンにしわや反りなどがあると、かなり目立ってしまう。これについては後編でもう少し踏み込んで検証するが、モバイルスクリーンなど平面性が不足するものを使うくらいならば白い壁面に投射した方が歪みのない画になる。

 絶対的な輝度の不足と暗部の再現性、スクリーンの平面性についてシビアなことなど、いくつか気になる部分はあるが、トータルで評価すると、10万円クラスのプロジェクタとして見ても、十分に及第点をあげられる画質と言える。このあたりのところが不満ならば、大画面の薄型テレビや一般的なプロジェクタを選ぶといいだろう。

 28cmで80インチという画期的な超短焦点を実現した使い勝手の良さを考えたら、しかも価格的にもエントリークラスと同等の10万円なのだから、過剰な要求は無理というものだ。

今までにない活用。大画面派でなくても要注目!

 こうしておおまかに3つのサイズ+アルファで投射してみたが、調整を行なったのは物理的な設置位置の微調整と、台形補正のみ。明るさは自動だし、フォーカス調整は最大サイズのときに確認のために少し触った程度。サイズが小さく軽いので、設置位置の調整も慣れてしまえばそれほどの手間ではない。

 また、一緒にお借りしたオプションの専用スタンドでの投射も試してみた。このスタンドは支柱部分に電源コードが通っていて、上部の着脱部には専用の接続端子もある。電源はスタンドの下から伸びているコードとACアダプターがそのまま使えるので、見た目もすっきりと充電/給電可能になる。

 唯一気になったのは、調整中に支柱自体が揺れてしまうので向きや角度の調整に手間取ったことくらい。プロジェクタを取り付ける部分は、ボールジョイント式で自由に角度調整ができるようになっており、きちんと水平を合わせられるのは便利。ロック機構があるので転倒や落下の事故の心配も少ない。コンパクトでモダンなデザインなので、ぽんと置くだけでもそれなりにカッコイイが、スタンドに置いた設置の佇まいは実にスマートだ。一般的なテレビと考えると表示位置がやや高めに感じるし(60インチほどの表示では投影画面の上部が2mほどに達する)、高さ調整もできないので使えるシチュエーションは限られるが、後で詳しく紹介するポスター機能など、インテリアアイテムと考えるとなかなかお洒落な使い方もできそうだ。

 LSPX-P1の最大のメリットは、自分の使いたい場所に持ち運んで、その場所にふさわしいサイズで投射できるフレキシブルさだ。購入したテレビのサイズが自在に変化するなんてことは薄型テレビではありえないし、一般的なプロジェクタも投射距離との関係から自ずと投射サイズが決定されるため、後からサイズを変えるのは難しい。それらを考えると、本機は今までにないタイプのディスプレイと言えるかもしれない。供給不足となるのが当然の革新性だ。

 個人的には、薄型テレビを処分し、そのスペースに置いて80インチを実現したいと思う。それだけでなく、20インチサイズのPCモニター用途も十分に実用的、持ち運び自在だからベッドルームで映画を見るのも楽しそう、と、いろいろな場所で使ってみたくなる。テレビをはじめとするディスプレイ機器は今は少々元気がないが、LSPX-P1ならば使ってみたいと感じる人は多いはず。こんな機器がディスプレイ全体を活性化してくれるような気さえする。

 後編では、その幅広い可能性をいろいろな角度から掘り下げてみよう。(後編は21日木曜日掲載予定)

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。