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第650回

山下清悟監督・プロデュース陣に聞く『超かぐや姫!』ヒットの秘密

『超かぐや姫!』
(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

Netflixの『超かぐや姫!』がヒットを飛ばしている。

1月22日の配信開始以来、日本のNetflix週間TOP10では10週連続トップ10入り(映画部門。4月2日現在)を果たし、さらに、2月20日から続く劇場公開では上映拡大が続く。3月30日には、興行収入が15億円を突破。観客動員数も76万人まで伸ばしている。

3月16日から3月29日までの国内のNetflix週間TOP10(映画部門)では、10週連続のトップ10入りを果たしている

Netflixは多数の独占作品を輩出しているものの、日本のアニメ作品、しかも原作のない完全オリジナルのものでここまでヒットした例はない。「配信から映画館へ」という意味でも異例の拡大が続き、新しい潮流として注目されてもいる。

では、この作品はいかにして生まれたのだろうか?

山下清悟監督と、企画・宣伝・配給を担当した株式会社ツインエンジン・代表取締役の山本幸治氏、そして、日本のNetflixでアニメ作品を統括する、コンテンツ部門ディレクターの山野裕史氏に、この作品が生まれた経緯とヒットまでの流れを聞いた。

『超かぐや姫!』山下清悟監督
株式会社ツインエンジン・代表取締役の山本幸治氏(左)、Netflix・コンテンツ部門 ディレクターの山野裕史氏(右)

劇場+配信ではなく「配信に振り切る」判断からスタート

『超かぐや姫!』の概要を説明するのは、ちょっと野暮なことかもしれない。

多忙な生活にすり減らされている女子高生・酒寄彩葉が、七色に輝くゲーミング電柱から生まれた「かぐや」に振り回されて配信の世界に身を投じていき……という話なのだが、それ以上に、ハイテンション・ハイクオリティなライブシーンにドライブされる、「これもまた竹取物語」と言わざるを得ない作品だ。

(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ
(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

発端は約5年前に遡る。この頃からNetflixとスタジオコロリドは、複数の長編アニメーションを制作する前提での契約を進めていた。

2022年には、『雨を告げる漂流団地』を含む合計3作品の新作長編アニメーション映画を共同制作し、それらの作品を全世界独占配信することを発表している。

今回の『超かぐや姫!』も、この契約に連なる作品だ。

ただ、企画の最初から配信独占と決まっているわけではない、という。スタジオコロリドとしては、「配信と同時に劇場公開する」というビジネスモデルで進めていたのだ。実際、『好きでも嫌いなあまのじゃく』までは配信と劇場公開が同時に行なわれていた。

この流れについて、ツインエンジン・山本氏は次のように話す。

山本氏(以下敬称略):Netflix独占、というと、大きな額がNetflixから入ってくる、というイメージが大きいかもしれません。

そうすると、その契約からのお金をなるべく残して、利益を出そうとすることが多いと思うんですよ。僕たちも、正直1度だけのお付き合いだったら、そういう判断をしたかもしれません。

しかし、複数の作品を手がける形でしたから、この予算は、自分たちのポジションを上げていく、スタジオのポジションを上げていくために使いました。毎回全力で、赤字にならないギリギリまで全部、宣伝費にも投下していたんです。作品が当たっていなかったら、もうトントンでは済まなかったぐらいです。

前2作(『雨を告げる漂流団地』『好きでも嫌いなあまのじゃく』)においては、配信と同時に劇場公開をしました。

ただ、劇場公開と配信を両方追うのは大変だったんです。内部の宣伝の体制として、劇場公開と配信が対立していたわけではないんですが、1つ(劇場公開)ですら大変なのに、2つ追うのは、ヒットを狙うにあたってベストではないな……と考えました。

そこで今回は、もう配信に振り切ろうと考えました。

作る側としては「映画を作っている」という意識があり、劇場上映に対する思い入れがあります。「配信ファーストであり劇場公開はあとから」とスタッフに伝えた際、「今までやれていたのに、今回は劇場公開してくれないんですか?」と戸惑いの声が上がりました。

プロデューサーとして「主戦場は配信だ」と現場に言い聞かせたものの、本音では「作り手の満足として劇場で見たい」という気持ちがあったのも事実です。

しかし、今回はヒットのためにも、まずは宣伝も含め、配信に集中しました。

すなわち、現在劇場公開が話題になっている『超かぐや姫!』は、戦略的にあえて「まずは配信限定」に振り切った作品だったのだ。

作品を作るスタッフにとって、「劇場公開」は特別な意味を持つ。現実的な話として「配信限定」よりもモチベーションをもたらしやすい。だが、今回はあえて配信に注力するという判断が下され、プロモーションなどもまずは配信にフォーカスして行なわれた、ということになる。

実際、『超かぐや姫!』の劇場公開発表は配信の三週間後であり、後から決まったことだ。

山下監督の徹底した「配信ファースト」戦略

監督サイドに対しても、「『超かぐや姫!』は、配信限定になる」という話は、制作の途中で伝えられたという。山下監督は、そうした中で「配信限定でどう盛り上がりを作るのか」ということを初期から強く意識していたと話す。

山下:劇場より配信の方がたくさんの方に見ていただけるのは事実だと思います。しかし、見てもらったとしても「ブームになっている感」のようなものが生じるきっかけとしては弱いんじゃないかな、ということは、考えていました。

ですから、本編とは違う軸で、ある程度キャラの認知度を上げる・作品としての期待度を上げることをやっていかないと難しいとは考えていたんです。

その結果として、作品の特報(2025年11月)が出た段階からミュージッククリップやキャラクターの露出などを増やし、ファンの盛り上がりを作る戦略が採られた。初期の盛り上がりは、間違いなくそういう「戦略的取り組み」が効いている。

【Official MV】ワールドイズマイン CPK! Remix (かぐや&月見ヤチヨ ver.) – ryo (supercell) / from 超かぐや姫!

山下監督は絵作りにおいても、「配信前提」で考えていた。

山下:最初から「1度目に見てわからなかったことを2度目に発見する」ことは意識していましたね。でもそれは、20年・30年とメディアに触れた経験から来るものでもあります。視聴者が全てをスッキリと解決できない、余白のようなものを残すことがムーブメントを生み出す要因だと分析していて、あえてそういう部分を作っています。一時停止しないとわからないようなコマを作ってもいますし。

シナリオ初期には配信と決まっていたわけではないんですが、その後「限定」と決まりました。映画をつくろう、という意識はあまりありませんでした。「シネマスコープにするかどうか」という議論もありましたが、「映画じゃないんで」ということで、即、16:9に決定です。

レイアウトについても、スマホで配信を見ることが多いだろうと意識しました。この作品はキャラクターがアップで映ることが多いので、上下を切るシネスコよりも、16:9の方が合います。

ですから、劇場で見て「配信作品が劇場にかかっているな」と思われたなら、それで正解です。

(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

そして、作品を作る上でも「配信でのオリジナル作品」として認知を高める上で、どのような題材を選ぶべきか、という点で、山下監督には明確な狙いがあった。

山下:僕はやっぱり、アニメオリジナルである以上、動きやアクション要素みたいなもので構成しないと、アニメにする意味がない、と考えました。

映像として、どのカットを切り出されても負けない、という戦い方を選びました。それは、映像全体での抑揚で勝負するだけの演出力は自分にはまだない、という考えからの判断でもあります。

その代わり、SNSなどでどのカットが切り取られてもいいよう、絵を何度も修正し、わずかな動きでもリッチに見えるよう、徹底的にこだわりました。

作品を作っていると、中盤になって力を抜いた「息抜きのカット」が出やすくなるじゃないですか。でも、そういうカットが視聴者にとってはノイズになって、没入感が削がれるのがイヤだな……と思ったので。

ですから、全パート全力です。

それを実現するにはバックエンドの予算的なものも必要だったんですけれど、結果として、「僕が人間的な生活を捨てる」勢いで取り組んだことが一番効きましたね。いやあ、1年くらい前は本当にキツかったんですよ(笑)

(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

テーマとして「仮想空間」「配信」的なネット文脈を選んだことも、オリジナル作品を作る上で重要な判断だった。

山下:アイデアはいくつも出てきたんですけど、少年漫画的な作品だと、世界を構築して見せるのに、すごく尺がかかる。90分の中で半分ぐらいを、世界観や組織の説明とかそういうのに割かないといけなくなる可能性が高くなります。

そうなると、作品の中で、自分がやりたかったキャラの関係性や人間ドラマの部分が薄くなってしまうだろうな……という風に思っていて。

だったら、例えば『サマーウォーズ』のような作品にして、ゲームや仮想空間内のアクションのような形で取り入れればどうだろう、と考えました。

これなら前例もあるし、ある程度説明の尺をカットできる。配信者を軸に据えたらゲームもやれるし、アイドルみたいな形でキャラを推していくこともできるよね、という発想です。

だから作品としては「仮想空間で行こう」という発想が先にあったんです。

よく聞かれるんですが、VRChatのことは、企画当時は知らなかったんですよね。むしろ、普遍的なネット文化として「ニコニコ動画」であったりとか、ちょっと治安は悪いですけど昔の「2ちゃんねる」とか。世代は変わっても方向性は変わっていない気がして。その中で1つのメディアに肩入れすることなく作ったせいで、結果的に「色々なものに似た」という相乗効果が出たんだろうな……と、思っています。

『超かぐや姫!』は竹取物語がモチーフになっている。このことは作品制作の発端からあったものではない。

山下:企画中に、「かぐや姫」を提案してきた弊社社員がいたんです。そこから企画が立ったっていうことなんですけども、「竹取物語×仮想空間」という発想がパッと出たわけじゃなくて、別れなどを多くの人が予感できるドラマの構造として、かぐや姫がわかりやすかったんだろうと思ってます。

これは理屈的な狙いがあったわけじゃなくて「ギャルのかぐや姫っていいよね」っていうフィーリングベースの発想ではじまって。

ただ、「竹取物語×仮想空間」っていう組み合わせだと、色々なプロモーションもしやすい。歌もあるしバトルもあるしeスポーツも絡められるかも……みたいな構造から、プロモーションできる幅の広さをみんなが感じていたと思います。

(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

これはいける、と思ったのは、エンディングテーマが「ray」に決まった時です。

プロモーションがどうしても絡みますし、文脈から外れた曲が起用されることもあるんですけれども、そこを絶対にずらしたくなかったことはあって。

そこにちゃんと「ray」というプロモーションとしても生きる、文脈としても生きる曲が決まり、2つが重ね合わされた時に、最後のピースがピッタリはまった。だから「もうブレずに終わるんだ」と、安心したのを覚えていますね。

公開後に配信された「ray」を使った公式MV。【Official MV】ray 超かぐや姫!Version / かぐや (cv.夏吉ゆうこ)、月見ヤチヨ (cv.早見沙織)

『超かぐや姫!』という企画は簡単に生まれたわけではない。「企画が通らなかった時期が1年ぐらいあった」と山下監督は明かす。

ではそこで、企画が通るために何が欠けていたのだろうか?

山下:元々の企画に欠けていたのは「宣伝・広報マーケティングとの連携のしづらさ」です。要は、この作品は何をメインとして伝えていくのか。そこでの広がりのイメージを、みんながあまり持てていなかったんだと思うんです。

しかし最終的に企画として通った『超かぐや姫!』が優れていたのは、多くの人が流れをプロモーションなども含めた流れを理解できたという点です。

ここからはそのまま、結構トントン拍子で進んでいきました。

企画は「面白ければ通る」という話ではない。山下監督もその点を強調する。

山下:漫画家さんも同じだと思うのですが、「これだったら行けるぞ」というところになるまでには、やっぱり相当の時間をかけるものだと思います。

アニメのオリジナルの企画が通らないというのはどういうことかというと……、「話が面白いか面白くないか」とかじゃなくて、「売りやすいかどうか」っていうとこはまずふるいにかけないといけないところではあるんです。

その点については、ツインエンジンがある種編集者的な役割をやってくれて、非常にうまく機能しました。

「最初から変わらず」作り続けられたことが成功につながる

「竹取物語×仮想空間」という組み合わせができて、その中で企画が揉まれ、制作が進んでいく。

面白いのは、「竹取物語×仮想空」、配信とアイドル性、といった企画の枠組みができてから、その先にはほとんど「ブレがなかった」ということだ。

Netflix・山野氏は、今回の取材に際して過去の企画書を見直したという。

山野:2022年くらいに最初の企画書をいただいているんですけど、その時から内容は変わっていないんですよね。タイトルが「かぐや」だったことくらいで。初期から監督の方針が定まっていて。どんな作品を作りたいのか、狙いなどをプレゼンテーションしていただいた記憶があります。そこまで明確に狙いを説明される監督はあまりいらっしゃいません。

そこでツインエンジン・山本氏は、プロデュースサイドとして重要な点を指摘する。それは「オリジナルアニメを作ることは難しく、企画がストレートに続くのも稀である」という点だ。

山本:Netflixさんが支えてくれるので、我々もこうしてオリジナル作品を作れているのですが、オリジナル作品を作れる、安定したスキームはなかなか継続できなくて。ノウハウもチームごとに分散してしまうし、作品を作っていても「オリジナル作品に挑戦すること」自体がゴールになっていることが、正直多いんですよね。

オリジナル作品を作る経緯は複雑になりがちです。結果として、だんだん企画の内容が曲がってくことが多いんですよ。色んな「よかれ」と思ったことが足されて、監督の狙ったことがそのまま作品になるわけではありません。

しかし今回、オリジナル作品をやろう、という方針があった上で、山下監督が、クリエーターとして単にやりたいことだけではなく「マーケットを見た狙い」を持ってらっしゃいました。

その結果として、全部やり尽くせたっていうのがすごく大きいんじゃないかな、と思います。

作品を制作する過程で、当初の大きな狙いが最初から最後まで変わらず一貫してやり通せる、ということはなかなかない。アニメ業界の外からは見えづらいと思いますが、オリジナル作品というのは「たいていはそういう風には作れない」ものなんですよ。

山下監督に、「企画が曲がるようなこととか、Netflixからお願いされて中身が変わるようなことはありましたか?」と聞くと、すぐに答えは返ってきた。

山下:皆無です。

本当に作家を尊重していただいているな、という感じはしたので、マジでありがたかったですね。

Netflix・山野氏もその点については認める。

山野:予算面については、一定額をお渡ししているので制作サイドとしてバットが振りやすい、ということはあろうかと思います。

その上で、もちろん、脚本の段階や都度都度で見させていただいていますし、その際にこちらの意見もお伝えしています。でも、最後の判断は監督のものです。

今回もできた後で「(作品の尺が)144分は長くないですか?」と言いました(笑)。実際、劇場作品だったら144分は長いです。しかし、Netflix作品だからこそチャレンジできる部分でもありますし、最終的にはお任せしました。

こうした企画が成立したのは、山下監督の元に多くのクリエイターが集っていることに加え、山下監督自身がある種プロデューサー気質であり、やりたいことを分析した上で明確に定めるタイプの監督である、という事情もあるだろう。この点について監督本人に聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

山下:自分がアニメーターとしてやっていた頃から、完全に同じモードなんです。

自分は最初、作画をしたくてアニメ業界に入りました。

ただ仕事しているうちに気づくのは、「原画以降の各段階で意図がずれていく」こと。そういう経験がすごく多かった。ただ、これは作業者の能力が低いわけではなく、適切なディレクションがされてないケースが大半でした。

これを避けるためにはどうしたらいいかというと、他のセクションのことを知って「正しい指示出しをしなければならない」という気持ちが、本当に業界入ってすぐの頃からずっとあったわけです。

だから自分が何をしてきたかっていうと、「撮影をやってみる」「色を決めてみる」というふうに、自分のやるエリアを拡大していくっていうことを基本的に、自分の理念としてやってきたんです。

アニメの中で自分ができることが全体に広がった段階で、自分の感覚として、じゃあ次に「オリジナル作品を作る」となった時には、「これをどうすれば売れるのか」「どこまで手を広げたら実現できるだろうか」という話になる。

そうなると必然的に、プロデューサー的目線、あるいは経営的な目線を持たなければ、自分の思ったものには届かないな……と考えたんです。

人に任せるのはもちろん素晴らしいことなんですが、少なくとも指示出しはしなくてはならない。この考え方は、もう自分の不文律として存在しているので「指示出しができるぐらいには知らねばならない」。

ツインエンジンに対しても、宣伝含めてどうやられているんですか、ということを徹底的に聞く、自分も同じ目線に立って企画を考えられるようになりたい、と思ってやってきました。

プロデューサーにことさら興味があるというよりは、「作品を届けるために自然にそうなってきた」という認識です。

配信>映画の流れは「再現できない」

冒頭でも述べたように、ツインエンジン・山本氏は『超かぐや姫!』において、配信と劇場公開を同時に行なう、という選択肢を採らなかった。結果として、宣伝などもまずは配信作品として集中し、配信から注目を集めることに成功している。

だが、こんなエピソードも話す。

山本:試写を見たときに「これはヒットする」と確信したのですが、同時に、「これは劇場でもいけるのでは」と話したのは覚えています。

とはいえ、冒頭から述べているように、作品は劇場公開が前提だったわけではない。配信での人気に引きずられる形で拡大していった……というのが実情だ。

ただし、関係者全員が「今回の劇場での成功は再現できるものではない」とも話す。

山本:残酷な話として、「作品力」は世に出るまでわからないものです。

クリエイターも僕らも、「もっと伸びるはずなのに」と思いながらも、劇場での公開が打ち切られ、配信も週間TOP10などから外れていくことはあります。究極、作品がどう受けとられるか次第です。

作品力を最初の1投目で評価してもらわないといけない。もちろん、何年かして再評価される作品もあるんですけれど、それこそ狙ってできるものではない。

映画で言う「ロングラン狙い」はあります。でも、結果的にロングランになればハッピーですけれど、「最初からロングラン狙い」というのは勝負していないようなものだ、と僕は思っているんです。

やっぱり最初から、楽しみにしてくれている皆さんがわっと喜んでくれて、それが広がっていくことを考えています。

そういう流れから言えば、今回のモデルは「再現性はない」とは思います。

Netflix・山野氏は今回のヒットで「安堵を覚えている」と話すが、それでも、劇場までの流れは定まっているわけではない。

山野:率直にお伝えすると、やっぱり、漫画原作作品の方が分かりやすくヒットしているし、グローバルランキングにも上がっています。

アニメのオリジナル作品は個々の作品として素晴らしいクオリティであっても、実写の「地面師たち」のような社会現象に至る作品はこれまでなかったと認識しています。そして「やっぱり独占配信だとなかなか広がらない」という声を毎日のように聞いていました。

今回、Netflixのオリジナルとして配信を起点にヒットし、ソーシャル上でもお客さんの会話が湧き起こり、劇場に繋がっている部分に関しては、「待ち望んでいたものがようやく来た」という感覚が正直なところではあります。

「良いストーリーに出会いたい」というお客さんたちがいるところで、アニメという文脈の中でどう打ち出すべきかは、本当に試行錯誤の流れでした。まだ方法論が確定したわけではないですが。

山下監督もヒットを喜びつつ、どこか冷静に捉えている。

山下:ここまで劇場でも見ていただける、というのは本当に嬉しいですね。

公開翌日くらいに劇場に行ったんですが、もう入場規制がかかっていて「こんなことはないですよ」と劇場の方にも言っていただけて。

配信の数字はあるんですが、その先に人がいることの喜びは、やっぱりすごくあります。興行・映画という文化がなくならないのはこういうことなんだろうな、ということを実感した記憶があります。

原作があるものは知名度があるから、劇場がファーストウィンドウになる意味があります。オリジナル作品を劇場で最初に流すというのは、ちょっと難しいとは、今でも思っています。

ただ、どんな作品でも、ネトフリ独占で配信した後に劇場公開になだれ込めるか……というと違うでしょう。1回見た作品をもう1回映画館で見よう、という流れになるかどうか。『超かぐや姫!』にはその要素があったから今の流れになっている、というのはあります。

今でこそ、『超かぐや姫!』で成功したから、「オリジナル作品を配信してからの劇場公開」という流れがまるで次の新しいルートだ、と言われていますけど、配信前には全然そんなことは言われてなかったですし。

自分が次にオリジナル作品をやる時には、またどういう動線でプロモーションしていくかを、また0から考えないといけないと思っています。

『超かぐや姫!』に関してはこれが正解だったと思いますが、再現性があるかと言われると、「それまた別かな」と思いますね。すごく難しい。

個人的には、もうちょっと『超かぐや姫!』が海外に発見されてほしいな、とは思います。

アニメは「絵」なんですよね。

ほとんどの興行が実は「絵」によって決まる、ルックのデザインのチョイスで広がり方が決定すると思っています。

グローバルを意識すると、『超かぐや姫!』のルックはアジア圏は絶対にいけると思っていました。絵は文化圏を形成しますから。逆にアメリカ、ヨーロッパは難しいかな、とプロデューサー目線では感じています。

『超かぐや姫!』のような、日本発のオリジナルのアニメ作品がNetflixを通して新たに海外でも見つかり、広く受け入れられていくといいなと思っています。これがスタートだ、という気持ちですね。

Netflix映画『超かぐや姫!』 Netflixにて独占配信中
(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ
西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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