レビュー

大型ユニットで進化した最上位Sound Blasterヘッドフォン

BT/USB/アナログ接続+NCのマルチなフラッグシップ「EVO ZxR」

Sound Blaster EVO ZxR

 クリエイティブメディアから10月中旬に発売されたヘッドフォン「Sound Blaster EVO ZxR」は、同社のヘッドフォン「Sound Blaster EVO」シリーズ最上位モデルだ。

 PC用オーディオ機器「Sound Blaster」のブランドを冠していることからもわかるように、音質にこだわるのはもちろんのこと、USBヘッドフォン/ヘッドセットとしても動作するほか、独自のオーディオプロセッサ「SB-Axx1」を使った各種エフェクト機能、さらにBluetoothまで搭載しているマルチメディアヘッドフォンだ。

 先行して発売されたSound Blaster EVO Zxも同様にマルチメディア性能の高いヘッドフォンだが、ZxRでは、ドライバーユニットを50mmに大型化(Zxは40mm)したほか、アクティブノイズキャンセリング(NC)機能を搭載。さらに高音質、多機能化を図っている。EVO ZxRは、販売店限定での販売となっており、直販価格は29,800円。

精悍なデザインはSound Blaster EVOのイメージを継承

Sound Blaster EVO ZxR

 黒とメタリックレッドの2トーンカラーからなる基本的なデザインは、Sound Blaster EVOシリーズ共通のもので、精悍なイメージを残す。

 40mmドライバ搭載のSound Blaster EVO Zx(以下Zx)では、コンパクトに折り畳み可能な機構を備えていたが、ZxRでは省略され、ハウジング部を回転させて付属の専用ケースに収納するようになった。折りたたみ機構は便利だが、その分強度的には弱くなるので頻繁に持ち歩く場合にはこちらのほうが良いかもしれない。大型ユニットの採用により、ハウジングも若干大きくなり、重量も約340gと若干重くなった(Zxは287g)。

ハウジング部を折り畳んで収納できる

 コントロール系は右のハウジングに全て配置されており、ミニUSBやアナログの有線ケーブルなどもこちらに接続する。「Sound Blaster」のロゴがあしらわれたハウジングの側面は「マルチファンクション」ボタンになっており、使用状況によって音楽の再生/停止や通話の開始/停止などの操作が可能になる。

 また、このマルチファンクションボタンは通常時は赤、バッテリ充電時は赤色の点滅、Bluetoothのペアリング時は青に点灯して、ヘッドフォンの状態を知らせてくれる。

 このほか、「次トラック/早送り」ボタン、「前トラック/早戻し」ボタン、「電源およびSBXオン/オフ」ボタンに加え、本モデル独自の機能である「アクティブノイズキャンセル」ボタンと「トークスルー」ボタンを備えている。「電源およびSBXオン/オフ」ボタンは長押しすることで電源のオン/オフを切り換えるが、普通に押すとSBX効果のオン/オフボタンとして機能する。

右のハウジングに操作系を集約。SBX/電源ボタン
SBXと電源
ANC(アクティブノイズキャンセリング)とTT(トークスルー)
装着例

 装着感はかなりしっかりとホールドされる印象。イヤーパッドは深めで耳がすっぽり覆われる。材質もほどよい柔らかさで頭の形になじみやすい。ゴワゴワした感触が無く好印象だ。

 バッテリ駆動時間は約8時間。充電用のUSB電源アダプタも付属し、充電時間は約5時間となっている。

イヤーパッドは程よい柔らかさ
パッケージ
同梱品
モデル名Sound Blaster
EVO ZxR
Sound Blaster
EVO Zx
直販価格29,800円22,800円
Bluetooth
NFC
USB
NC-
トークスルー-
ユニット50mm径40mm径
インピーダンス32Ω29Ω

Bluetooth、USBなど豊富な接続

 マルチメディアヘッドフォン/ヘッドセットとして、豊富な接続方法が選択できるのが特徴。主にスマートフォン/タブレット、パソコンとの「Bluetooth」接続、パソコンとの「USB」接続、そして「有線ケーブル」接続だ。

 PCとのUSBによる接続の場合、PCからは7.1ch接続のスピーカーとして認識され、バーチャルサラウンド機能を利用できる。PCでは専用のドライバソフトウェア「Sound Blaster EVOコントロールパネル」をインストールすることで各種設定変更が可能だ。

 2つ目はBluetoothを使った接続だ。Bluetoothに対応したスマートフォンやタブレットPC、ノートPCなどにワイヤレスで接続することができる。NFCに対応し、対応するスマートフォンではワンタッチで接続が可能だ。そうでない場合でも一般的なBluetoothヘッドセットと同じ要領で接続できる。

 Bluetoothでスマートフォンへ接続する場合はiOSおよびAndroid専用アプリ「Sound Blaster Central」を使用して各種設定を変更する。上記のPC用ドライバソフトウェアとほぼ同じ設定が可能なため、PCレスでの使用も全く問題が無い。

 PCでもBluetoothによる接続は可能だが、この場合「Sound Blaster EVOコントロールパネル」が利用できなくなる。そのためPCで設定を変更したい場合はUSBで接続する必要がある。また、7.1chスピーカーとして動作するのはUSB接続の時だけで、Bluetoothでは機能しないため、この場合はUSB接続での利用がお勧めだ。

 3つ目は4極アナログケーブルを使った接続だ。この場合、ヘッドフォンの電源がオフの場合でも通常のヘッドフォンとして利用できる。また、「Zx」ではアナログ接続の場合に機能制限が多かったが、本機では本体の電源が入っていればアナログ接続時でもSBX機能などのオーディオ強化機能が利用できるのも特徴だ。

 なお、4極アナログケーブルをヘッドフォンに接続した時点でBluetooth機能は強制的にオフになる。再度Bluetoothを利用する場合はケーブルを取り外した上でヘッドフォンの電源をオフにし、もう一度オンにすることで再接続が可能になる。ケーブルを抜いただけではBluetoothデバイスとして認識してくれないが、クリエイティブによると航空機内などで、意図せずBluetooth接続が有効になってしまわないよう配慮したための仕様とのことだ。

 また、付属の「ヘッドホン/マイク分岐ケーブル」を使い、PCのサウンドカードなどに接続が可能だ。これによりPCの音声入出力端子へ接続し、本製品をボイスチャットなどで利用できるようになる。マイクは一般的なボイスチャット用ヘッドセットなどに装備されている口元まで伸びているような大げさな外見のマイクではなく、右側のハウジングに内蔵されているアレイマイクを使用するため、見た目もスマートだ。また、このケーブルは長さが約60cmあり、長さが約1.2mの4極アナログケーブルへ延長ケーブルとして接続する。これだけの長さがあれば大抵のPCの背面にも十分届くのではないだろうか。その他、旅客機のエンターテイメントシステムに接続可能な「航空機アダプター」も付属する。

スマートフォンのみでもフル機能を使えるアプリ

Sound Blaster EVOコントロールパネル

 本格的な利用には、PCでは専用のドライバソフトウェア「Sound Blaster EVOコントロールパネル」、iOS/Androidアプリ「Sound Blaster Central」が必要。いずれも操作方法や設定内容はほぼ同じなのでここではPC用をベースに解説する。

 PCではこのドライバソフトウェアをクリエイティブメディアのサポートサイトからダウンロードしてインストールする。インストール前にあらかじめUSBケーブルでPCにヘッドフォンを接続しておかないとインストールが正常に終了しないので注意が必要だ。

「ミュージック」「ムービー」「ゲーム」の3つの「SBXプロファイル」

 「Sound Blaster EVOコントロールパネル」を起動すると「SBXプロファイル」「CrystalVoice」「ヘッドフォン」「ミキサー」の4項目がトップに表示される。ここで「SBXプロファイル」をクリックすると「ミュージック」「ムービー」「ゲーム」の3種類のプロファイルを選択可能になる。本製品にはクリエイティブメディアのマルチコアオーディオプロセッサー「SB-Axx1」が搭載されており、ここではその設定をカスタマイズできる。

 「SB-Axx1」は、いわばデスクトップPC用サウンドカード「Sound Blaster」シリーズのDSPをモバイル用にしたもので、ヘッドフォン単体でデスクトップPC並のオーディオ処理を実現するものだ。

アプリ「Sound Blaster Central」(写真はiOS版)。設定項目は一部を除きほぼ「Sound Blaster EVOコントロールパネル」と同じだ

 「SBXプロファイル」は、右側のハウジングにある「電源およびSBXオン/オフ」ボタンで利用が可能な機能で、ここで設定したプロファイルをヘッドフォンから利用できるようになるが、プロファイルの変更は必ずここから行なう必要がある。とりあえず手軽に使ってみたいならこの3種類の中から利用するソースに合わせてプロファイルを選択するだけでいい。

 さらに細かい調整をしたいならプロファイルを選んで右上の「編集」ボタンをクリックすると「SBX Pro Studio」が起動する。ここではバーチャルサラウンドの効果やMP3等の圧縮音源の音質補正、低音域補正などさまざまな効果を自分好みに調整できる。イコライザーを使った調整も可能だ。なお、標準のプロファイルでは全体的にやや低音を強調した設定であるため、そこが気になる場合は個別に調整すれば好みの音質にできる。筆者も極端な低音重視設定は好みではないので低音をやや抑えるように調整した。

「SBX Pro Studio」を使えば好みの音にカスタマイズできる
イコライザーによる調整も可能

 「CrystalVoice」は主にボイスチャットなどを快適に利用するための機能で、ボイスチェンジャー機能や自分の周りや相手の背景ノイズを低減して音声を聞き取りやすくする機能などを備えている。

 そのほか、「ヘッドフォン設定」ではPCへのUSB接続時にバーチャル7.1chサラウンドの動作確認ができ、「ミキサー設定」ではマイクやヘッドフォンなど個々の出力を調整できる。

ボイスチャットを快適に利用できる「CrystalVoice」
「ヘッドフォン設定」ではバーチャル7.1chサラウンドの動作確認ができる
各種音声の出力を個別に調整可能な「ミキサー設定」

大型ユニットにより迫力を向上した音の魅力

 Sound Blaster EVO ZxRでは50mmのドライバユニットを搭載し、下位モデル「Zx」の40mmに比べて10mm大きくなった。まずはせっかくのBluetoothヘッドフォンであるので、iPhone 5と接続した。なお、ZxRはBluetooth 2.1+EDRに準拠し、プロファイルとしてA2DP、AVRCP、HFP、HSPに、コーデックはSBC、aptX、AACに対応している。

 内蔵アンプの性能を試すため、始めにSBXをオフの状態で音楽を再生した。全体的に落ち着いた印象だが、高音から低音までしっかりと出ており、無線接続であることを感じさせない好印象だ。ポップス系の曲ではボーカルはあくまでクリアでそれに重低音が迫力をたたき出す。クラシック系ではヴァイオリンの軽やかな音からホルンやトランペットの伸びやかな音、コントラバスの重低音まで豊かに再現してくれるのがわかる。

 大型化したドライバユニットによる再生レンジの広さは確かに体感できた。筆者は普段使っている53mmユニットを搭載したオープンエアタイプのヘッドフォン(ほぼ同じ価格帯)のものと比べると、ZxRは密閉型なので音の広がり感はやや及ばない印象はあるが、一方で、先にも述べた通り低音のインパクトが強く、ベースの強いダンス系の音楽などはドンドンと容赦なく耳に響いてくる。また、前述のユーティリティで好みに合わせて調整できる、という点もZxRの特徴といえる。

 動画再生のテストとしてiPhone 5からバンダイチャンネルの動画も再生してみたが、特に音声が遅延するようなこともなかった。本製品をスマートフォンで利用する場合、バッテリ切れなどのやむを得ない時以外、有線で接続する必要性はあまりないように感じた。

 SBXオフで映画の視聴のためにUSBケーブルでデスクトップPCにも接続してみたが、こちらも良好。銃撃時の炸裂音や弾丸が金属物で跳弾する際の「キンキン」という高音もクリアだ。また、低音が良く出るだけあってジェット音や爆発音の迫力も十分。セリフも効果音に埋もれることなく聞き取りやすく、映画への没入感、臨場感は上々だ。

 次はZxRの大きな売りの一つである「SBX」をオンにしていろいろと試してみた。まずは音楽を「ミュージック」プロファイルで聴いてみた。すると、これまでSBX無しで聴いていた曲が、急にそれぞれの音域が際立って聞こえるようになり、密閉型ゆえのこもった感じがかなり軽減されるのがわかった。高音低音ともバランスはよく、聴いていて心地よい。特に高音の抜けがさらに良くなり、ポップスなどでの女性ボーカルの際立ち方は印象的だった。クラシック系の曲を再生してもSBXオフでは楽器が平面的に配置されている印象なのが、SBX音ではそれぞれの楽器があるべき位置で音を出しているようなイメージが湧いてくる。音に立体感が出る感じだ。SBXをオンにした瞬間「スッ」と音が整列するような感じが面白い。ただ、静かなピアノソロの曲などを再生するとSBXのエフェクトのせいかバックグラウンドに若干低音のノイズが増え、やや圧迫感があった。再生する曲によってSBXは使い分けたほうが良さそうだ。

 次にUSBでデスクトップPCへ接続してBDから映画を再生してみた。SBXのプロファイルは「ムービー」に設定した。映画の視聴ではやはりバーチャルサラウンドの効果が効いてくる。音が前後左右に行き交うシーンでは、さすがに本物の7.1chのように真後ろから音が聞こえてきたりはしないが、慣れてくると何となく後ろの方から聞こえてくる感じがしてくるし、これによって映画への没入感も増してくる。特にムービープロファイルでは音声部分を強調する機能である「Dialog Plus」の機能が有効になっており、このお陰でBGMに声がかき消されることもなくさらに聴きやすくなっている印象だ。

 最後にヘッドフォンの素の状態を聞くため、4極アナログケーブルでスマートフォンに接続し、電源をオフにして試聴してみた。これはなんのエフェクトも掛けられていない状態だが本製品の素性の良さが感じられる音だ。

ZxRのみに搭載された「アクティブノイズキャンセリング」と「トークスルー」機能

 シリーズ最上位モデルである本製品に搭載されている機能として「アクティブノイズキャンセリング」(ANC)機能と「トークスルー」機能が挙げられる。どちらも右側のハウジングからオン/オフが可能だ。ANCはヘッドフォンの電源が入っている状態ならいつでも利用が可能で、走行中の電車の「ゴー」というロードノイズや風切り音などを気にならないレベルに消してくれる。「ガタンゴトン」というレールを叩くような音などはあまり消えないが、終始鳴り続ける「ゴー」という音が消えるだけで急に静かになったような気がしてくるのが面白い。

 エアコンやPCなども同様の傾向で、どちらも低音域がほぼカットされて気にならなくなる。特に要求性能の高いPCゲームをプレイしているとCPUやGPUの冷却ファンが全力で回り始めて不快な音を立てる場合があるが、これがほぼ聞こえなくなる、というより正確には「気にならなくなる」といったところか。音楽を再生してもANC有りと無しで音質に大きな変化は感じられなかった点もポイントが高い。

 「トークスルー」機能はヘッドフォンを掛けたままでも外部の音を聞きやすくする機能だ。これはANCが有効になっている場合のみ機能する。本製品の密閉感はとても高く、ANCが無くてもかなり外部の音を遮ってくれる。そのため、誰かと話をしたいときにはそのままでは聞き取りにくいが、この機能をオンにすると右側ハウジングに搭載されているアレイマイクから外部の音を拾ってくれるので掛けたままでもヘッドフォンの外の音が聞こえるというわけだ。面白いのが、マイクで拾っているだけあってヘッドフォンを掛けていない場合よりも人の声などが明瞭に聞こえるところだ。もちろんノイズもしっかり拾うのでANCとのギャップも楽しい。

 ただ、一点だけ気になったのは、トークスルー使用時には音楽を一時停止してくれないことだ。現状だとトークスルーを使っている間もバックグラウンドで音楽はそのまま再生され続けてしまうので、トークスルーをオフにしたときにその間の音楽が飛んでしまうことになる。特にスマートフォンで音楽を聴いている場合には自動で一時停止してくれると嬉しいのだが。

最上位モデルらしい、音と機能の充実

 結論から言うと、ZxRは「Sound Blaster EVO」シリーズの最上位モデルという名に恥じない完成度の高い製品だ。PCやスマートフォンと組み合わせることであらゆるソースに柔軟に対応できる欲張りなヘッドフォンである。価格は直販サイトで29,800円と、PC周辺機器やゲーミングヘッドフォンと考えると少々値は張るものの、Bluetoothやノイズキャンセリングに対応し、音楽や映画、そしてゲームもこれ一つで楽しめると考えればリーズナブルといえる。

 下位モデルとなる「Zx」の価格は22,800円でその価格差は7,000円。ドライバユニットの大型化による迫力の向上と、NCなどの機能に少しでも興味があれば「ZxR」をお勧めしたい。

(協力:クリエイティブメディア)

清宮信志