本田雅一のAVTrends

新ウォークマン「NW-ZX300」はポータブルオーディオの決定打か?

IFA2017でソニーオーディオ一新。注目製品は……

 ここ数年、ソニーはCESでテレビを中心とした映像機器を中心に製品全般を、IFAではオーディオ製品を中心にプロジェクターなど趣味性の高い製品を披露してきた。たとえば昨年はハイエンドのヘッドフォン、ヘッドフォンアンプ、デジタルオーディオプレーヤー(ウォークマン)を発表。その前の年も、コンパクトかつ高音質なオーディオシステムを投入した。今年もその流れは変わらず、ポータブル製品を中心にオーディオ新製品が数多く発表された。

 いずれも国内発表はまだだが、通例によれば近日中に国内価格や発売日が発表されるだろう。欧州モデルに比べ、国内モデルではカラーバリエーションが追加されることもある。

 IFAではノイズキャンセリングヘッドフォン「MDR-1000X」の機能を強化した上で、異なるフォームファクターの3モデル(ヘッドフォン、ネックバンド式イヤホン、左右独立型イヤホン)へと展開した他、ディフューザーで360度に音を放射するGoogleアシスタント対応スピーカー「LF-S50G」などが発表されている。

WI-1000X
LF-S50G

 ネックバンド式のWI-1000Xは、そのノイズキャンセリング機能の強力さと賢さを考えれば、電車通勤者の多い日本で定番製品の一つになっていくだろう。LF-S50Gも無指向性ならではのスピーカーとの位置関係に依存しない明瞭で聴き取りやすい音質という点で、極めてユニークな製品ではあるのだが、中でも「コレは絶対に話題になる」と確信した製品がある。ウォークマン「NW-ZX300」だ。

最上位機の品位を小型ボディで継承したウォークマン「NW-ZX300」

 NW-ZX300の市場推定価格は付加価値税込みで700ユーロ(約9万円)で、日本ではもう少し安くなりそうだ。内蔵メモリは64GB(microSDカードスロット有)というスペック。

NW-ZX300

 NW-WM1A/WM1Zと同じ新世代のS-Master HXアンプを搭載し、3.5mmのアンバランスミニ端子に加え、4.4mmバランス出力端子も備える。出力こそWM1A/WM1Zの60mW/250mW(アンバランス/バランス)に対し、50mW/200mWとなるものの、画面サイズを除くスペックの多くは同じ。

4.4mmバランス出力を装備

 ZX300では新たなオーディオコーデックとしてAPEとMQAにも対応し、BluetoothオーディオコーデックもaptX HDに対応する予定だ。

 NW-ZX100の後継機種に位置付けられているが、WM-Port経由のアナログ出力やデジタルノイズキャンセリング機能は搭載されておらず、WM1シリーズの小型軽量モデルと説明した方が早いだろう。

 ユーザーインターフェイスもボタン操作が基本だったZX100に対し、側面の再生制御系や電源系ボタンを除けば、すべてタッチパネルでの操作となっている。そのタッチパネル用カバーガラスには、マット仕上げのガラス面が採用されており、指紋がほとんど目立たない。スマートフォンの場合、僅かな画質低下を懸念して採用できないマット仕上げのカバーガラスだが、デジタルオーディオプレーヤーへの採用はむしろ歓迎だ。

 しかし、ZX300に注目した理由は、こうしたスペックの部分ではない。別室での試聴をお願いし、持ち込んでいたmicroSDカードの音源を聴いてみると、音質設計の面で格段の進歩があると感じたからだ。

 音像は明瞭ながらも、良く言えばスッキリした、悪く言えば細やかな空気感の表現が苦手だったZX1の音作りの方向を引き継いでいたZX100とは異なり、WM1Zが目指したS/N感をひたすらに追求することで、演出を加えることなく豊穣で濃密な音場空間を描く方向へと大きく舵が切られている。

 誤解を恐れずに言うならば、WM1Zの低価格版といった印象を感じていたWM1Aよりも、音作り、質感といった面ではZX300の方が個人的には好ましいと感じた。

 さすがに絶対的な物量はWM1シリーズの方が多く、とりわけ低域のしっかり感は敵わない面もある。その一方で価格の差が小さくないのはもちろん、サイズ面では大幅にコンパクト(120.4×57.7×14.9mm)に仕上がり、重さもアルミ削り出しボディながら159gと、WM1A/WM1Zよりも大幅に軽い(WM1Aは約267g、WM1Zは455g)。価格ランクはZX300のほうが下になるが、音質的にはAstel&KernのKANNがライバルとなるだろう。

 非常に魅力的な製品だが、Android採用停止以降のウォークマンシリーズと同様、音楽ストリーミングサービスに対応していない点が残念だ。ソニーによるとハイファイ系を含め、音楽ストリーミングサービスへの対応は検討しているようだが、明確はスケジュールは決まっていないという。日本の場合、TIDALのようなロスレス音楽ストリーミングサービスが立ち上がっていないが、それでも音楽コンテンツの流れは物理メディアやダウンロードからストリーミングへと急速に移り変わろうとしているだけに少々気になるところだ。

 一方で手元のオーディオファイルを再生する機器としては、他に比べる製品がないほどコストパフォーマンスに優れている。素直な音作りのため主張は少ないが、ポータブルオーディオはイヤフォン側に個性のある製品が多いため、再生機器は主張が少ない方が良いのではないだろうか。個人的には昨年のWM1Aの音作りに疑問を感じていたのだが、今回のZX300に関しては、その方向転換に拍手を送りたい。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  メルマガ「続・モバイル通信リターンズ」も配信中。