レビュー

超ド級の銅製か? 約12万円のノーマルか!? ウォークマンが到達したサウンドを聴く

 ソニーが、ウォークマンのハイエンドとして10月末から発売を開始した「NW-WM1A」と「NW-WM1Z」。高音質再生にこだわり抜き、多くの新技術やパーツを投入。実売価格もアルミニウム筐体で内蔵メモリ128GBの「NW-WM1A」が12万円前後、無酸素銅で256GBの「NW-WM1Z」が30万円前後と、これまでのウォークマンの価格イメージを超える“思い切った”モデルだ。そのサウンドを聴いてみる。

中央がNW-WM1Z

デザインやS-Master HXを刷新

 音の前にラインナップを整理しよう。小型で低価格な「A」シリーズの上に、従来は「ZX100」と「ZX2」が存在したが、ZX2は終了。今後はZX100の上に「NW-WM1A」と「NW-WM1Z」がラインナップされる。

 「ZX100」と「ZX2」は縦長の製品だが、新モデルは横幅が広くなった印象だ。ディスプレイは4型でプレーヤーとしては大きめだが、それにも増して筐体上部は左右にせり出しているので、横幅が広くなった印象が強いのだろう。外形寸法は124.2×72.9×19.9mm(縦×横×厚さ)で2機種共通だが、重量はWM1Aが約267g、WM1Zが約455gと、大幅に異なる。これは後述する筐体の素材が大きく関係している。

左からアルミニウム筐体で内蔵メモリ128GBの「NW-WM1A」、無酸素銅で256GBの「NW-WM1Z」
microSDカードスロットも備えている

 ZX2はAndroid OSを採用していたが、WM1AとWM1ZはオリジナルのOSを使っている。ディスプレイは4型、解像度は854×480ドットでタッチパネル仕様だ。

 ウォークマンの特徴と言えば、ソニー独自のフルデジタルアンプ「S-Master HX」を採用している事。今回のモデルもそれは同じだが、「S-Master HX」自体が新設計のものに刷新された。再生対応フォーマットの拡充、駆動力の強化などが行なわれている。

中央の、四角いものが新しいS-Master HXのチップ

 例えば、従来のS-Master HXではDSDのネイティブ再生ができず、PCMに変換再生していた。しかし、新モデルではDSD 11.2MHzまでネイティブ再生が可能になった。ただし、回路の制限で、ネイティブ再生が可能なのはイヤフォン/ヘッドフォンをバランス接続した時のみで、アンバランス接続している場合はPCM変換再生となる点は注意が必要だ。

 DSD(DSF/DSDIFF)以外にも、MP3/WMA/ATRAC/ATRAC AdvancedLossless/WAV/AAC/HE-AAC/FLAC/Apple Lossless/AIFFの再生がネイティブ再生対応。PCMは384kHz/32bitまでサポートしている。DSDネイティブ再生時に制限があるのは残念だが、全体としては必要十分なフォーマット対応と言えるだろう。

 従来のウォークマンは、駆動力が今ひとつという不満があったが、新たなS-Master HXではここも強化された。従来のZX1/ZX2/ZX100は15mW×2ch(16Ω)だが、新モデルではどちらも60mW×2ch(16Ω)と大幅にアップ。能率の低いヘッドフォンでも、外部アンプなどを使わずにドライブできるようになっている。

NW-WM1Z

 非ハイレゾのデータも、ハイレゾ相当の音質に補正して再生する独自の「DSEE HX」も引き続き搭載。新機能として、曲の種類に合わせた補正が可能になっており、スタンダード、女性ボーカル、男性ボーカル、パーカッション、ストリングスの楽曲種類に合わせて処理できるようになった。さらにイコライザも刷新。10バンドタイプになっている。

NW-WM1A

 もう1つユニークな新機能が、「DCフェイズリニアライザー」だ。アナログ方式のパワーアンプと同じ位相特性を、独自の音響処理で再現するというもの。フルデジタルで処理するS-Master HXで、アナログアンプに近い特性が楽しめるというのは面白い。低音感が変化するのが特徴で、効果は6パターンから選択できる。実際に使うと中低域の肉厚感がアップするといった効果が楽しめる。ジャズやロックにマッチするだろう。

 出力端子面での注目は、ステレオミニの反対側に、4.4mmの新しいバランス出力端子を備えている事。JEITAが今年の3月に規格化したもので、サイズは4.4mm。プラグの長さは19.5mm。5極で、アサインは先端からL+/L-/R+/R-/グランドという並びになっている。

上部に備えた出力端子。左がステレオミニ、右が4.4mmの新しいバランス出力端子だ
これが4.4mm 5極のバランス端子

 バランス出力用端子としては2.5mm 4極、XLR、3.5mm×2端子など混沌としているが、その中でも2.5mm 4極が頭一つ抜き出てスタンダードな位置にある。そこにきての4.4mm 5極が、今後ユーザーに受け入れられ、市場でも多くのリケーブルが登場するようになるかは、今回のウォークマン新モデルの売れ行きによるところが大きいだろう。規格としては「高耐久、高品位なプラグを設計しやすく、適度な力で抜き差しができる」のが特徴とのこと。とはいえ、1ユーザーとしては端子の乱立は不便極まりないので、どれか1つに統一して欲しいところだ。

 端子と言えば、底部にはウォークマンでお馴染みの独自端子WM-PORTを搭載している。充電やPCとの接続に加え、ここからデジタル出力も可能であり、新たに11.2MHzまでのDSD-RAW出力と、5.6MHzまでのDoP出力が可能になった。専用ケーブルを介して、USB DAC搭載のポータブルアンプなどとデジタル接続し、アナログ変換とアンプでの増幅をそちらに任せる事もできるわけだ。

底部にはウォークマンでお馴染みの独自端子WM-PORT

 ただ、個人的にはこのWM-PORTは、そろそろ普通のUSB端子にして欲しいと考えている。とっさに充電したい時に、そのへんにあるUSBケーブルが使えず、専用ケーブルが必要なのはやはり不便だ。今後もWM-PORTを続けるのであれば、WM-PORTである利点みたいなものを、もっと増やして欲しいものだ。

 なお、Bluetoothにも対応。ハイレゾ相当の音質で伝送するLDACコーデックにも対応している。プロファイルはA2DP、AVRCP対応。ティアックなどからLDACに対応した製品は登場しはじめており、ソニーしか対応製品が無かった状況から変化している。一方、ライバルのAKシリーズではaptX HDをサポート。スマホではaptX HD対応機が増加しそうなので、今後の主流はaptX HDが濃厚だろうか。もちろん両方に対応してくれるのが一番ではあるが。

NW-WM1AとNW-WM1Zは何が違う?

 NW-WM1AとNW-WM1Zの違いは大きく2点ある。1つは内蔵メモリで、WM1Aが128GB、WM1Zが256GBだ。ただ、両モデルともmicroSDカードスロットは備えており、ストレージの追加は可能だ。

 もう1つは内部に使っているパーツと筐体の素材だ。WM1AとWM1Zの大きな違いは筐体の素材。WM1Aは黒っぽい塗装だが、その下はシルバーで、アルミニウムの切削加工で作られている。

 WM1Zはゴールドだが、その下は銅色というか銅そのもので、純度99.96%以上の無酸素銅からの削りだしだ。柔らかい銅は切削加工が困難で、アルミよりも約1.5倍の加工時間がかかるそうだ。

上段はWM1Aの加工工程、下段はWM1Z。アルミ、銅のカタマリから切削で作られている事がわかる

 当然コストも跳ね上がるが、ハイエンドモデルとして音質を重視して採用。様々な素材を比較した末にたどり着いたという。また、単に無酸素銅をそのまま使うと接触抵抗も高くなるので、純度約99.7%の金メッキを施している。さらに、磁気による音質への影響を防ぐため、メッキの下地には非磁性体の三元合金メッキを使うというこだわりぶりだ。

 外形寸法は124.2×72.9×19.9mm(縦×横×厚さ)で共通だが、重量はWM1Aが約267g、WM1Zが約455gと大きく異なる。実際に手にすると、WM1Aは「普通のハイレゾプレーヤーの中でちょっと重い方かな」という感じだが、WM1Zはズシリと重く「金属のカタマリ」という感じ。ワイシャツの胸ポケットに入りはするが、WM1Zは重すぎてシワが寄るだろう。

各部のパーツも強化

 オーディオで大切なのは電源だが、2機種とも大幅に刷新。バッテリから電源を供給するが、その大元の電源部に、大容量かつ低ESRの電機二重層キャパシタを採用している。瞬間的に大電力を供給できるようになり、急激な電圧降下を防げるので、正確な信号が出力できるという。ヘッドフォン出力アップに対応するため、ZX2の約1.4倍の容量となる500mFと、約1/2のESR(35mΩ)を実現した。

 電源ラインも強化。ZX2では線を太くして抵抗値を下げていたが、WM1A/WM1Zではケーブルを増やして5本で伝送。保護回路基板のスルーホールも2倍にして、抵抗値を1/2にしている。

 WM1Zではさらに、アンプ部電源にOS-CONではなく、新開発の高分子コンデンサ「FT CAP」を採用。開発に3年かけたというパーツで、「ボーカルや楽器の伸びの透明感向上、締りのある力強い低域の実現」に効果があるという。

 さらにWM1Zは、アンプからヘッドフォンジャックの線材に、高級ケーブルのキンバーケーブルを使っている。ソニーでは、イヤフォン/ヘッドフォンのリケーブル用として、別売のキンバーケーブルをラインナップしているので、これを使った場合、内部配線から外部のケーブルまで全てキンバーケーブルで揃えられるわけだ。ケーブルは4芯のBraid編みだ。

WM1Zの端子部パーツ。内部配線もキンバーケーブルになっている

 WM1Aも、ヘッドフォン出力のLCフィルタに大型高音質抵抗を採用。非磁性体銅メッキを使い、高品質なメルフ抵抗を導入するなど、細部にまでこだわっている。信号経路にはキンバーケーブルではないが、アンプからヘッドフォンジャックの線材に無酸素銅ケーブルを使っている。

 クロックを最適化するため、新開発の、100MHz対応低位相ノイズ水晶発振器を、44.1kHz系と、48kHz系の2個搭載。このあたりもこだわりの仕様だ。

 内蔵のリチウムイオンバッテリは、約7時間の充電で満充電。FLACの96kHz/24bit再生時は約30時間、DSDの5.6MHzでは約13時間の再生とスタミナ仕様。実際に使ってみると、確かにバッテリの持ちは良い。職場で充電するためにWM-PORT用ケーブルをもう1本買い増し……なんてことはしなくても大丈夫だろう。

操作性

 UIは刷新されているが、洗練されていて使いやすい。ホーム画面には「全曲」、「アルバム」、「アーティスト」などのアイコンが並び、好きな方法で楽曲が選べる。プレイリストやハイレゾ楽曲のみを表示するモードも搭載している。

メインメニュー

 便利なのはフリック操作を使ったショートカット機能。再生中の画面から上にフリックするとライブラリ画面が、右だとブックマークリスト画面、左では再生リスト画面と、瞬時に各機能にアクセスできる。ブックマークに登録した楽曲は、後でプレイリスト化する事もできる。

再生中の画面から上下左右にフリックすると、各機能にショートカットでアクセスできる

 面白いのは下にフリックすると、音質設定画面にジャンプする事だ。「この価格のウォークマンを買う人は、音質設定も頻繁にいじりたいだろう」というメーカーからのメッセージとも受け取れる。ソースダイレクトモードだけを使うのではなく、前述した音質調整機能を積極的に活用したいという人には便利だ。

音質設定画面にもすぐアクセス

 概ね快適に使えるのだが、1つ気になった事がある。右側面にハードウェアボタンを装備し、音量調整や再生操作ができるのだが、ボタンが全て円形で等間隔なので「このボタンはなんだっけ?」と手探りでわからなくなる事がある。いちおう、ボリュームボタンの周囲は丸く彫り込まれたり、指触りだけでわかるよう“ポッチ”を設けたボタンがあるなど工夫はされているのだが、ボリュームだけはダイヤルにするなど、もう少し直感的にわかる違いも欲しかったところだ。

右側面のハードウェアボタン
左側面にはホールドボタン
楽曲の転送にはMedia Goを使用

 オプションとして、WM1シリーズを操作できる小型リモコン「RMT-NWS20」(実売5,000円前後)もある。前述の通り、重いWM1Zなどは、操作の度に手に持つのが億劫なのでリモコン操作できるのは便利だ。Bluetoothリモコンであり、ウォークマンのBluetoothペアリングから登録する。ボリュームと曲送り/戻し、再生/一時停止と、ボタンはシンプル。背面にケーブルに引っ掛けるための爪を備えるほか、クリップアタッチメントも用意しているので胸ポケットなどに固定する事も可能。便利ではあるが、ウォークマン本体の高級感を考えると、もう少しリモコンの質感も高めるか、価格を抑えて欲しいところだ。

Bluetooth接続の小型リモコン「RMT-NWS20」
Bluetooth機器としてペアリングする

各モデルの音と、その違いについて

 音を聴いてみよう。イヤフォンはJH Audioの「TriFi」、beyerdynamic×Astell&Kernの「AK T8iE MkII」、ヘッドフォンはフォステクス「T40RP mk3n」、ソニーのフラッグシップ「MDR-Z1R」などを使っている。

ソニーのフラッグシップヘッドフォン「MDR-Z1R」

 まずはベーシックモデルの「NW-WM1A」を、アンバランス接続で。音が出た瞬間に「おおっ! 今までのウォークマンと違う」と感じるのはドライブ力。特に中低域の音圧が豊かで迫力がある。単に低域がボワッと膨らむのではなく、芯のある描写力も備えており、「藤田恵美/Best OF My Love」のアコースティックベースも、ブワッと吹き付けるパワーがありながら、弦の描写が細かい。

 特筆すべきは、中高域の透明感。今までのウォークマンでもこの点は素晴らしかったが、駆動力がアップした新モデルでは、パワーが増した低域に、クリアな中高域のバランスがとれており、全体での音の魅力が一気に高まっている。本当に今までのウォークマンが苦手としていたところを克服しつつ、長所も伸ばしている印象だ。シンバルの余韻が広がっていく奥行きの見通しも素晴らしい。

 ここでアンバランス接続のまま、プレーヤーを「NW-WM1Z」にチェンジすると、音場がさらに拡大。特に奥行きの深さがハンパではない。奥行きがアップした事で、音像の立体感もアップ。さらにヴォーカルや楽器の生々しさが増して、リアリティが高まり、口の開閉などでハッとするような瞬間が出て来る。

 音のバランスも違う。WM1Zでは、中低域、特に中域の張り出しが豊かになる。かといって分解能は低下せず、音は細かく、情報量が多いままなので、精密な描写に“ゆったり感”が加わったような印象を受ける。ずっとWM1Zを聴いた後で、WM1Aに戻ると低音と高音が目立ち、中音の張り出しが弱く感じてしまう。

 総合的な音質は、価格差だけはあり、やはり銅製ボディのNW-WM1Zが優れている。

 では、WM1Zと同様に銅製ボディを採用し、ライバルと言える「Astell&Kern AK380 Copper」(直販税込549,980円)と比べたら、サウンドはどう違うのだろうか?

左がWM1Z、右がAK380 Copper

 同じアンバランス接続で比べると、これが非常に面白く、なおかつ悩ましい。背後の奥行きが深く、音像が立体的なのはWM1Zで、AK380 Copperはそこまで立体的には聴こえない。また音像もWM1Zの方がシャープでクッキリとしており、AK380 Copperと比べて立体的に聴こえるためだ。

 では「WM1Zの方が良いのか?」と言われると、これがなんとも言いにくい。確かに空間の広さや、そこにポカッと浮かぶ音像という凄さではWM1Zの方が優れているのだが、AK380 Copperでは立体感がそこまで強調されないので、おだやかというか、こなれているというか、落ち着いた音に聴こえるのだ。なんというか、AK380 Copperを聴いた後でWM1Zに戻ると、なんかちょっと立体感を強調している感というか“頑張って立体的に聴かせている感”が強くて、やや不自然なイメージを個人的には受けてしまう。

 また、これはAK380 Copper特有の傾向なのだが、中低域の響きが多めで、“ゆったり感”が気持ちいいのだが、低域のフォーカスという面ではやや甘くなる。その点、ライバルとして聴き比べるのであれば、無印の「AK380」(直販税込499,980円)の方が良いように思える。

右端がAK380

 実際に聴き比べると、WM1Z VS AK380の方が良い勝負だ。SNや音場の広さはWM1Zの方が優れているが、全体のバランスとしてWM1Zはちょっと低域がパワフル気味。AK380の方がバランスが良く、自然に感じる。立体感もWM1Zの方が強く、ヴォーカルが浮き上がって聴こえる。AK380はそこまでヴォーカルと背後の音の遠近感は強くないが、分離は良好で不自然さはない。モニターライクな音という面では、個人的にはAK380の方が落ち着く。

 WM1ZはSNの良さに極限までこだわりつつ、弱点だったパワフルさを克服しようと頑張ったら、ほんの少しバットを振りすぎたようにも聴こえる。ただ、このパワフルさは、低域が弱めのヘッドフォンと組み合わせると見事にハマりそうでもある。頭内定位が苦手で、ポータブルでもとにかく広い空間を感じながら音楽を楽しみたいという場合はWM1Zの方が気にいるだろう。どちらもハイエンドサウンドである事は間違いなく、クオリティ面では非常に良い勝負である。こうなるとまさに「聴く人の好み」によるだろう。

 というのがアンバランスの感想だが、ここで話は終わらない。バランス接続で、音はさらに“化ける”。「MDR-Z1R」と、付属の4.4mm 5極バランスケーブルを使ってWM1AとWM1Zを聴き直すと、「凄い、広い」と言っていた音場がさらに広がり、凄いを通り越して「まだ広がる事ができるのか」と、ちょっと呆然としてしまう。ちなみにボリューム値は、ハイゲイン設定で85(MAX100)あたりで十分な音量が得られる。

バランス接続の音もチェック

 面白いのが、アンバランス時に指摘した低域のパワーがちょっとだけ過多に感じた部分が、バランス接続ではさらに広がる空間で目立たなくなるというか、そこまで主張が強く感じられず、バランスが良く聴こえる。アンバランスの時もクオリティは十二分に高いのだが「あーこれはバランス接続で聴かなきゃダメだ」と言う感じだ。

 さらにWM1Zは凄い。1つ1つの音がパワフルになり、アンバランスでも凄かった奥行きや立体感がまんべんなくアップする。低域の分解能も向上、「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)のバーバ・ヤーガの小屋」などを聴くと、オーケストラの細かな音の情報量を保ったまま、厚みのある中低域が、広大な空間をバックにうねりのように襲いかかってくるスペクタクル感に圧倒される。WM1Zを買ったのなら、間違いなくバランス接続したほうがいい。

 さらに、「MDR-Z1R」付属のバランスケーブルから、キンバーケーブルが手掛けた4.4mm 5極のバランス「MUC-B20SB1」(26,000円)に交換すると、音はさらに激変する。

キンバーケーブル「MUC-B20SB1」に変更

 WM1Aでは、情報量が増え、細かな音の表情がさらにむき出しになる。ミュージシャンが演奏するステージに、身を乗り出して、頭を突っ込んだような感じだ。中低域の張り出しがより強く感じられ、演奏が熱を帯びたように聴こえる。広大な音場の中にも、ワイルドさ、パワフルさがもっと欲しいという時にはマッチするだろう。

 凄いのがWM1Z+MUC-B20SB1のサウンドだ。WM1Aに接続した時のように中低域の張り出しは強くなるのだが、WM1Z+MUC-B20SB1が描く音場がメチャクチャ広いので、その張り出し具合だけが目立つような事はなく、受け止めて不自然に感じさせない懐の深さがある。空間の広さ、音の精密さ、そして個々の音のパワフルさが見事にマッチしており、なんというか“WM1Z+MUC-B20SB1で使う事を期待して開発された感”がヒシヒシとする。

まさに史上の組み合わせ、WM1Z+MUC-B20SB1

まとめ

 NW-WM1A、NW-WM1Zのどちらも音質の面では非常に高いクオリティを持っている。両者の価格差は12万円前後と、30万円前後で2倍以上の違いがあり、内蔵メモリが128GBと256GBという違いはあるにせよ、かなり値段は異なる。音質面では文句なしでWM1Zがオススメだが、WM1Aも高い次元にあるため、「2倍以上の違いがあるか」と言われると難しい。WM1Zを買って予算が無くなってしまうのであれば、WM1Aとバランス接続ケーブル、10万円くらいのイヤフォンを購入して楽しむというのも大いにアリだと思う。

 いずれにせよ、バランス接続で“化ける”両者なのでバランス接続ケーブル購入は必須と言いたい。バランス接続でないとDSDがネイティブ再生できないのも、バランスケーブル購入を後押しする要素だ。とはいえ、市場には4.4mm 5極のケーブルがあまり無いので、それが出揃ったあたりが“本領発揮”と言えるかもしれない。特にWM1Zとキンバーケーブルのバランス「MUC-B20SB1」(26,000円)を組み合わせた音は凄い。ただ26,000円のケーブルは高い。このケーブルをセットで30万円くらいであれば……という気がしなくもない。

バランス接続しないともったいない2機種だ

 とはいえ、ライバルの「AK380 Copper」(直販税込549,980円/内蔵メモリ256GB)や「AK380」(直販税込499,980円/256GB)と比べると、大幅に安いのは評価に値する。目指している音の方向性がAKとウォークマンでだいぶ違うので甲乙つけがたいが、屋外とは思えないクオリティのサウンドを楽しませてくれるハイエンド製品が、ウォークマンの場合はまだ手が届きやすいのは魅力だ。とはいえ30万円のプレーヤーを買える人は限られるが、1つの到達点がこの価格と考えればまだ納得できる部分はある。

 コストパフォーマンスの面では、NW-WM1Aに注目だ。特にバランス駆動での音は、さらに高価なプレーヤーとも十分渡り合えるポテンシャルを持っている。ウォークマンとしては思い切った価格の2モデルではあるが、ハイエンドモデルの価格競争も促しそうな意欲作であり、2.5mmm 4極がスタンダードになりつつあるバランス接続端子事情にも一石を投じている。ハイレゾプレーヤーの新たな時代の到来を告げる製品と言えそうだ。

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ウォークマン
NW-WM1
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NW-WM1Z

山崎健太郎