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本田雅一のAVTrends

HDMI 1.4の登場が与えるAV機器ユーザーへの影響

−双方向通信で広がる可能性



 HDMI 1.4がHDMI協議会から発表された。順調に行けば2010年後半には、各種の対応機器が登場することになるだろう。

 とはいえ、すでにHDMI対応機器を持っているユーザーの中には、果たして喜ぶべきことなのかどうか、悩ましいという人も少なくないと思う。ではHDMI 1.4は、ユーザーに対してどのような影響を与えるのだろうか? 果たしてバイヤーはHDMI 1.4をどこまで重視すべきなのか。

 先行して取材していた内容をもとに、HDMI 1.4の登場が与えるAV機器ユーザーへの影響について考えてみることにしたい。

 


■ “機能の追加”が主となるHDMI 1.4へのアップデート

 今回のアップデートの特徴は、HDMIの本来の目的である画質や音質に関する変化がほとんどないことだ。これまでは伝送をサポートする音声フォーマットが増加したり、あるいは色深度やx.v.Colorへの対応といった、AV用デジタルインターフェイスとして画質、音に影響を与える変更が加えられていた。しかし、HDMI 1.4で追加されたのは主に双方向通信に関するものだ。

Ver.1.4では4K/2Kに対応

 画質に関連する機能拡張としては、4K2K対応、従来の4倍の解像度に対応したのが主なトピックとなる。

 しかし、4K2K対応といっても最大30Hzまで、色深度も8ビットまでと制限されている。フルHDの4倍、すなわち3,840×2,180ピクセルで24Hz、25Hz、30Hzに加え、4,096×2,160ピクセル30Hzの表示が可能になるが、フルHDを超える解像度の映像が流通する予定はない。むしろ静止画表示に対応するためと考える方がいいだろう。

 色深度が8ビット、フレームレートが毎秒30枚に制限されているのは、HDMIのリンク速度そのものは従来と変化していないためだ。HDMI 1.3では帯域が拡張され、それによってより高い色深度が利用可能になったが、今回はHDMI 1.3と同じまま。それ故、互換性も高くAV機器への画質・音質といった側面からの影響は、ほとんどないといっても過言ではない。

 このほかsYCC601、AdobeRGBといった色再現域を意味するフラグも追加されているが、これは写真をHDMIディスプレイで表示する際に、それら色再現域に準拠したデータであることを明示するものだ。主にカメラとテレビを直接HDMIで接続する場合に用いられる。

 一方、機能の追加は積極的に行なわれている。

 


■ テレビをハブにネットワーク通信を可能に

 機能追加でもっとも大きなものはHDMI Ethernet Channel(HECと呼ばれている)の追加だ。HDMIは3つの通信チャネルと2つのクロック信号がシリアル通信チャネルの4チャネルを、それぞれツイストペアで接続してシリアル通信を行なっている。このうちクロック用のツイストペアに、上り通信用の帯域を割り当てることで、HDMIケーブルを経由したEthernet互換の通信が行なえるようなる。通信速度は100Mbpsとなっている。

 現在のデジタル家電は、テレビ、レコーダ、音楽プレーヤーなど各機器が独自にインターネットや家庭内LANインターフェイスを持ち、個々にEthernetハブや無線LANなどで接続されている。そこで、今後さらにネットワーク対応機器が増加することも考え合わせ、HDMIケーブルを使ってネットワーク通信を行なえるようにしたわけだ。

 この場合、典型的にはテレビがEthernetハブと同様の役割を果たす。つまりテレビをネットワークに接続しておけば、他のデバイスはテレビとHDMIで接続するだけでネットワークに参加可能になる。あるいは、もう少し複雑なシステム構成の場合は、AVセンター(AVアンプ)のような、AVシステムをコントロールする役割を持つ製品が、Ethernetとの仲介役になる。

 家庭内のAV機器が一度にHEC対応に変わっていくわけではないが、たとえばテレビならば5〜10年ぐらいのサイクルで買い換えられている。当面はレコーダやプレーヤーなどにもEthernetポートが取り付けられ、直接、Ethernetケーブルをつないでネットワークに参加させながら、HEC対応が進んだ段階でHDMIによるネットワークに一本化されていくことになるだろう。

従来はHDMI+Ethernet接続が必要 HEC対応により、上流の機器さえネットワーク接続していれば、それに連なる機器もネットワーク対応になる
HDMI HECの双方向通信を使って各機器の連動動作が可能に

 またHECの普及が進んでくると、機器同士の連携機能がさらに発展する可能性がある。たとえばパナソニックはビエラリンク(LAN)で、DLNAベースの映像配信機能をVIERAとDIGAの組み合わせで実現している。同様の機能はソニーなども提供しており、今後はさらに広がっていくはずだ。

 加えてテレビとテレビに接続する機器との間の通信帯域が保証されているため、レコーダのチューナが足りない場合にテレビが搭載しているチューナを用いて同時録画したり、その時点で視聴しているテレビ番組をHDMI経由でレコーダに送り込んで記録する、テレビ番組で録画予約を行なうとレコーダに反映されるといったことが可能になる。もちろん、IPTVへの発展を考えれば、IPTVの映像ストリームを双方向でやりとりする通信チャネルとしても使うことができるだろう。

 一部は現在のHDMI CECコマンドでも可能だが、双方向になることで、より詳細に、より簡単な操作で連携を取ることが可能になる。

 


■ 双方向通信には新ケーブルが必要に

ARCの概要

 HECのほか、Audio Return Channel(ARC)も、同様にクロック用通信ラインを用いて実装したもの。ARCはSPDIF相当(ドルビーデジタルやDTS、AAC、リニアPCM 2チャンネルなど)の音声を、受信側(多くの場合はテレビ)から送信側(AVアンプなど)に送る機能だ。テレビの音声をAVアンプに送ることが可能になる。

 1点だけ注意したいのは、HECやARCの動作は従来のHDMIケーブルでは動作が保証されていない点だ。これらの機能で使っている信号線は、従来はクロック伝送にしか使っておらず、高速通信のためのテストは行なわれていない。具体的には規格で要求されているノイズシールドの仕様が異なる。短いケーブルならば、ノイズの影響が少ない場合に従来ケーブルでHECやARCが動作する可能性は考えられるが、その保証はない。

 ケーブル仕様が変わるというと、今使っているケーブルはもう使えなくなるのか? と思いがちだが、HDMI 1.4であってもHECやARCを使わないのであれば、従来のケーブルが利用できる。新ケーブルに施されているのは、あくまでも上り側(従来の送信側)に高速でデータを送るためのものなので、上りへの通信を行なわないのであれば影響はないからだ。

 HDMI 1.4対応機器を購入したからといって、焦ってHDMI 1.4対応の新ケーブルに入れ替える必要はない。HDMIケーブルには1本数万円の高級ケーブルも存在するが、そうした製品のオーナーは安心してほしい。

 


■ 来年登場が見込まれる3Dゲーム、3D映画の表示にも対応

3Dもサポート

 HDMI 1.4では3D対応も追加されている。これは様々なタイプの3D映像を伝達するための枠組みを決めたものだ。

 3D映像の伝送方式には様々なタイプがある。左右に分割してステレオ映像を1枚の画像に収めたり、あるいは走査線1本ごとに左右の目用の映像を交互に入れたり、あるいは市松模様に左右用の映像を交互に並べるなどの手法がある。さらにフレームレートを2倍にして、左右用の画像を交互に出力するといったやり方。それに片側の映像に加え、各ピクセルごとの深度(被写体までの距離)データを送り、ディスプレイ側で3D化する技術も考えられている。

 どの方式が主流になるかは今後の技術トレンドや放送、あるいはBlu-ray Discなどの規格策定も絡んでくるが、HDMI 1.4ではそれらすべての3Dフォーマットに対応している。HDMIは単なる映像データを送信するチャネルでしかないので、現在考えられているどの方式で3D映像が送られる場合でも、その3D映像がどのような方式で記録されているのかがわかるよう、仕様として定義してある。

 HDMI 1.3以下では、3D映像は楽しめないことになるが、3D映像の再生や表示には専用の機器が必要になるため、実際に互換性の問題が起きることはない。むしろ、将来の互換性問題を引き起こさないために、今のうちから3Dに関連した約束事を決めたわけだ。

 なお3D対応の映画コンテンツは、3D映画の北米での流行を受けて来年には供給が始まると言われている。

 


■ HDMI 1.3をベースに最新の技術トレンドに対応したHDMI 1.4

 冒頭でテーマとして掲げた「HDMI 1.4の登場が与えるAV機器ユーザーへの影響」についてだが、既存ユーザーの投資、そして来年にHDMI 1.4対応機器が登場するまでのユーザーの投資が守られるか? という視点で言うと、影響は非常に軽微なものだと個人的には感じた。HDMI 1.4は今後登場するアプリケーションに対し、よりスマートに対応するためのアップデートで、物理的な通信速度向上といった根本部分には手を入れていないためだ。

 一方、HDMI 1.4の機能面での利点は、徐々に、ユーザーがあまり意識しないペースでゆっくりと花開いていくと思う。100Mbpsの双方向通信チャネルは通常のEthernetポートでも同じパフォーマンスがあるが、HEC対応機器同士を接続すれば、必ずネットワークでつながる保証がある分、より積極的に機能が開発可能になる。この機能が普及すれば、その影響はとても大きなものになるだろう。

 Ethernetポートを搭載した家電機器はたくさんあるが、実際にネットワークに接続されている機器の割合は少ない。ある調査では20%以下という。これもネットワーク機能を重視した機種のユーザーに対するアンケート結果なので、実際にはそのさらに半分程度の機器しか接続されていないと考えられる。しかし、HEC対応機器が増えればテレビ(あるいはAVセンター)さえネットワークに接続すれば、あとはHDMIを経由して様々な機器がネットワーク化される。

 ネットワークに参加する家電機器が増えれば、アプリケーションの幅や使いやすさなども進歩していくことだるう。

 HDMI 1.4にはほかにもプレーヤー機器側からディスプレイの映像モードを変更する機能も追加された。たとえば写真を再生する場合は、写真を見るのに適切な画質となったり、映画やテレビ番組といった映像のタイプによるモード切替、ゲーム機向けに遅延が少ないモードに自動的に切り替わるなどの機能も実現できる。

 既存のHDMI機器ユーザーの投資は守られる一方、これからの使い方の幅を広げるという意味で、HDMI 1.4は将来、重要なアップデートと言われるようになるはずだ。

2009528日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]

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