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本田雅一のAVTrends

“劇場の質感”を追求したBD版「崖の上のポニョ」制作秘話

−鈴木プロデューサーらが語る「ジブリのBD」へのこだわり



崖の上のポニョ Blu-ray版

 12月8日、いよいよ待望のBlu-ray Disc(BD)版が発売されるスタジオジブリ最新作「崖の上のポニョ」。すでにDVD版が発売済みとはいえ、劇場で実際の映像を見た読者なら、その精緻な映像はBD版でなければ! と待ち望んでいる方も多いと思う。

 ポニョのDVDは、実はDVDの中でも屈指の高画質を誇るため、絵柄の雰囲気は充分に伝わってくる。しかし、絵本がそのまま動き出したかのような丁寧な手書きによるアートワークの”風合い”が弱まってしまっているのは致し方ないところだろう。

 そこは約5倍の画素で映像を表現できるBD。DVD版の購入をガマンし、12月になるのを待っているファンが、筆者の周りに何人もいる。

 そんなBD版を待っている読者が、決して裏切られることはない。待たされた分、いやそれ以上にBD版の仕上がりは素晴らしいものになっているからだ。


左からジブリ鈴木氏、PHL柏木氏、ジブリ奥井氏、本田氏

 今回のインタビューは、まだ製品版をプレスする直前、スタジオジブリ代表取締役プロデューサの鈴木敏夫氏と、ジブリ作品の撮影監督を長らく務める映像部技術部長の奥井敦氏が、BD版の画質を最終確認するタイミングで行なわれた。その際、お二人と同じ品質確認用映像を見たのだが、日本風のアニメとしてはかつてない良質な仕上がりになっていた。

 BDらしい高精細さを持ちつつ、手書きの背景が持つ柔らかな風合いが再現されているのである。DVDを所有しているファンも、これだけの違いがあればBD版も欲しくなるのではないだろうか。

 細かな画質評価はここでは控えておき、ジブリ・鈴木氏、奥井氏、それにBD版ポニョの映像圧縮を担当したパナソニックハリウッド研究所・柏木吉一郎副所長のインタビューで得られたコメントを紹介しながら、話を進めていきたい。(聞き手:本田雅一、写真提供:HiVi、撮影:相澤利一)


 


■ 業界で驚きの声が上がった早期のBD参入

 「崖の上のポニョ」が早速BD化されると聞いたのは、おそらく今年もまだ寒い頃だったと思う。日本でのブルーレイビジネスを活性化させるためにも、是非ともジブリ作品をBD化したいと、かなり以前からウォルトディズニー・ホームエンターテイメント・ワールドワイド日本代表の塚越氏は話していたが、誰もが“実現したとしても先のことだろう”と思っていた。

 なぜなら、スタジオジブリは新しいパッケージメディアへの対応に、とても慎重と言われていたからだ。DVDへの参入も比較的遅かったが、その背景には作品に対するこだわりと深い愛情がある。

スタジオジブリ代表取締役プロデューサ 鈴木敏夫氏

「宮さん(宮崎駿氏)はね、作品を作って、公開のタイミングで見てもらうことができれば、その後には何も残らなくていいって人なんです。その分、劇場公開の品質に全力投球でこだわる。ナウシカの時なんて、配給用のプリントを完成したマスターから直接作れという。そんなことしたら、せっかくのマスターが傷だらけになるんだけど、宮さんは映画フィルムなら傷が付くのは当たり前。それより作り上げたマスターにもっとも近い映像を配給したいという気持ちが強かった」

「そして公開が終わると過去の作品のことは振り返らずに、次の作品へと取り組み始める。公開が終わった時点で、宮さんの中ではその作品は完全に終わってしまう。すべて終わった後、ナウシカの撮影ネガフィルムを“全部燃やせ”と言われた時は、どうやってそれを止めさせようかと本気で悩みました。そんな宮さんだから、DVDで自分の過去の作品が販売されるということに、全く興味がないんですよ。作品は時代背景とともに作られる面もあるので、今の時代に見てもらうのは新しい作品の方がいいという気持ちなのです」と鈴木氏。

 とはいえ、現代の映像ビジネスにおいて、パッケージ販売はとても重要なビジネスだ。良い作品を作り続ける上でも、可能な限り理想的な状態で流通はさせたい。そこで、映像のパッケージ販売に全く興味がない宮崎氏の代わりに、鈴木氏が作品のデジタル化に関して、宮崎氏の気持ちになって判断を下してきたという。

 鈴木氏は“ものすごく作品の見え方にこだわる”と言われるが、それは宮崎氏の代理として、劇場公開の品質にこだわる宮崎氏の気持ちを代弁するが故の厳しさが一人歩きしていた面もあるのだろう。その結果、“ジブリ作品のBD化はまだまだ先”といった雰囲気が業界内に醸成されていたのではないだろうか。

 しかし、実際に鈴木氏と話してみると、必要以上に慎重になっているのではなく、なるべく良い形(クリエイターたちの意図がよく伝わる手法)で世の中に残すためにタイミングやその時々の技術レベルをきちんと評価していることが伝わってきた。

 鈴木氏は「僕は技術の人間じゃないから」と謙遜するが、映画制作側の方で、ここまでBD化にまつわる問題を深く理解していた人に、これまでインタビューしたことがない。言葉は感覚的なものだが、BDについて話すその言葉の端々に、BDソフトが抱える画質面での問題が表現されていた。

「最初は断ったんです。高解像のデジタル映像を家庭向けのテレビで見ても、映画館のような柔らかな表現はできない。それならDVDで十分です。むしろDVDの方がリラックスできる(鈴木氏)」

 それでも一度、どのようにパッケージ化できるかテストしてみてほしいと食い下がるディズニーホームエンターテイメント日本代表の塚越氏の意を汲み、塚越氏が「凄い」と絶賛したパナソニックハリウッド研究所(PHL)のテストエンコードを見ることにしたのだという。そこでハリウッドから来日してプレゼンしたのは、本誌でもすっかりおなじみのPHL副所長でPHLエンコーダの生みの親である柏木吉一郎氏だった。

「いやね、もう度肝を抜かれました。だって研究所の人だっていうから、神経質な細身の人かと思ったら、風船を膨らませたような和やかで、しかも感性が豊かな人なんだもの。しかもプレゼンも凄くシンプル。確かにBDの方が良いところがある。でも、一方で困ったところもあると指摘したのね。細かいところはハッキリ見えるけど、遠近感に乏しいとか、絵が静止状態に近い時に疲れる印象がある。絵の風合いをちょうど良いところに持って行くと、結局、DVDとあまり変わらない程度の画質になっていて、それならDVDだけでいいじゃないと感じていたんです」

「すると全部、話したことを柏木さんは素直に認めるんですよ。ごまかして、否定して嘘ばっかりを言わない。しかも、すべての疑問に一人で答えてくれる。この人なら信頼できる。作品をお任せできると思いました」


■ 劇場公開時の質感を求めて

 鈴木氏の話は、実際のところ多くのアニメ制作者が悩んでいるポイントだ。フルデジタル制作で、元の2K制作の画素数すべてを活かしたコンテンツ作りをすると、情報が増え過ぎて見るべきポイントが絞りづらくなる。ユーザーの多くが液晶やプラズマのデジタルディスプレイで見ていることを考えると、なおさらに固い絵になる。作品そのものは劇場公開に合わせて作られているため、映写機を通してスクリーンへ投射した時にどのような風合いで見えるかを考えて制作している。

スタジオジブリ映像部技術部長の奥井敦氏

 奥井氏によると、制作は手書きのアートワークをスキャナで取り込み、その後はフルデジタルの行程で編集するそうだが、劇場用マスターを制作する最終段階で、二つのマスターに分けてあるという。デジタル映写機で見る場合と、リリースプリントをアナログの映写機で投影する場合では、見え方が全く違ってしまうからだ。言い換えると、そこまで絵の風合いにこだわっているのである。デジタルテレビとプロジェクタの間にある描写の違いは無視できなかったのだ。

 こうした意見は、特に日本の映画業界ではよく聞かれるものだ。映画監督がフィルム投影時と同じ質感をサイズの小さなモニタで求め、結果、大画面でみた時にはローコントラスト、かつ高域のない丸いエッジの映像に仕上げてしまいがちである。

 鈴木氏と奥井氏が他と異なるのは、“映像を甘くすること”で絵の固さを緩和するという安易な方向に行かないことだ。鈴木氏は「アナログ的でソフトな風合いは絶対的に必要なんだけど、でもコントラストや精細さを求める自分も捨てられないんだよね」と話す。低コントラストで細かな情報が落とされた映像は、いくらソフトでも良い画質ではないと十分に分かっているからだろう。

 “柔らかいけど甘くない映像”という要求は、ちょっと聞いただけでは矛盾した、無茶な要求のように聞こえるかもしれないが、実は全く矛盾していない。なぜなら、二人が指摘する“デジタル映像の固さ”というのは、まさにデジタル映像の限界、ジレンマを表現しているからだ。

 フルHDの解像度を目一杯活かし、あらゆる情報を詰め込もうとすると、デジタルサンプリングで表現できるギリギリの周波数(ナイキスト周波数)近くまでの微細な情報まで活かさなければならない。しかし、実際にはナイキスト周波数ギリギリの領域は、理想的な応答性にはほど遠く、量子化の歪みが多くなる。これが固さを生む原因だ。

 特に静止画に近い動きの少ないパートは動きボケが出ないため、ハッキリと映像の細かなところ、固さを感じさせる歪みっぽさまでが見通せてしまう。では、と応答が十分にリニアな領域まで情報量を抑えていくと、今度はDVDをアップコンバートした絵との差が小さくなってしまう。同じことはアニメ以外にも言えるのだが、完全に絵が止まる部分の多い日本のセルアニメ的表現は、より固い画調に見えやすいという事情もあり、柔らかさと精細さを両立させるのは難しい。

 そんなことを以前からずっと感じていたのだが、鈴木氏と奥井氏が「甘い映像にならないように、固さをほぐしてほしい」という要求を柏木氏にしたと聞いたとき、パァーっと目の前が開けたようだった。これは柏木氏も同じだったようで、それまでの自分の画質に対する考え方を改めるきっかけになったと話している。

 二人が感覚的にBD化に際しての不安を感じていたのは、無理からぬことだった。本当に真剣に絵の“質感”を守ることに向き合っていなければ、甘くせずに柔らかくするなんて、考えも付かなかったはずだ。


■ 「固くないけど、甘くもない」を実現するために特殊フィルタを開発

「私たちのアニメ制作はデジタルで行なっていますが、アナログのCRTモニタで映像を確認しています。そのアナログモニタ上の質感を、そのままフィルム上映でも、デジタルプロジェクタによる上映でも感じてもらうよう、前述したように二つのマスターを作っています。今回、柏木さんにお願いしたのは、アナログモニタで見たそのままの柔らかな質感と豊富な情報量をプラズマや液晶を用いたテレビでも再現することでした」と話すのは奥井氏。

 表示デバイスによる見え味の違いというのは歴然としてあるのだが、どのような形で消費者に届けるのかは、制作側の考え方によって様々だ。たとえば多くのハリウッド作品は、デジタル上映用の作品を“そのまま”提供する。監督の作ったマスターこそが唯一無二と考えるからだ。

 ジブリでは、そこをさらに一歩踏み込んで、家庭内のテレビでデジタル映写機でスクリーンに映した時の質感を作るために微調整できないか? と考えたわけだ。これは実に難題である。

「DVDの場合、マスターをダウンコンバートする際にフィルタで情報を落とし、さらに表示する際に拡大処理が行なわれるため、情報量は少ないけれど固さもない。ところが2KマスターとフルHDは、ほぼピクセル等倍に近いですから、質感はほぼ等価。ディスプレイ方式が異なる分、薄型テレビの方が固い映像になる(奥井氏)」

 実際、柏木氏が最初にマスター(BD版ポニョのマスターには、デジタル上映用マスターが用いられている)の映像を見た時、そのコントラストの高さや緻密さに驚いたという。自ら“ジブリファン”という柏木氏は、ジブリの映像作品はソフトな質感という印象を持っていたこともあり、あまりの情報量の多さに驚いたそうだ。手書きの絵が生み出す圧倒的な情報量が詰め込まれているためだ。

パナソニックハリウッド研究所 柏木吉一郎副所長

 ここで柏木氏は相当に悩んだ。柏木氏がこれまで行なってきたエンコードでは、技術的に可能な限界まで情報を詰め込んできた。「パイレーツ・オブ・カリビアン3」では、全編が砂絵のような激しいグレインノイズを含めて、たっぷりの情報を詰め込んでみせ、「アイロボット」では高いコントラストとシャープは映像の描写、画面を埋め尽くす町中の様子を歪み無く描ききった。いずれもマスターの映像に近づけるという目標がハッキリしていたからだ。

「映像を柔らかく見せる一番手っ取り早い方法は、映像を甘くすることです。高域を落とせば固さはなくなる。その代わりに細かな情報もなくなります。それでは、マスターが持っている凄まじいまでの情報が活かせない。そこで、ダメで元々ということで、かなり特殊なフィルタをポニョのために開発しました(柏木氏)」

 PHL内部では“ポニョフィルタ”と呼ばれるこのフィルタ処理は、高域の情報量を減らす処理は全く行なっていない。しかし、輪郭の見せ方が変わるよう工夫されているそうで「処理内容は極秘中の極秘(柏木氏)」という方法で、甘くせずに柔らかさを引き出した。

 結果は非常に良好で「柔らかさと固さがキッチリ描き分けられて、絵に立体感が出てきた。丸い円柱が板のように見えていたのが、きちんと丸く見える(鈴木氏)」と、意図した通りの映像が液晶テレビやプラズマテレビといった薄型テレビで映し出されるようになった。

 もちろん、プロジェクタで映した時の映像もチェックし、どのデバイス表示をした場合にも、ジブリが本来目指していた絵作りが再現できることを確認したという。

 柏木氏自身は、それがジブリ側の要求だとはいえ「クリエイターが制作したマスターに後処理を行なうこと」への罪悪感は払拭しきれなかったという。それは今でも変わらないという。しかし、この“ポニョフィルタ”が存在しなければ、あるいはこのプロジェクトは前へと進まなかっただろう。マスターをそのまま圧縮した映像を見た時、鈴木氏は「ギャー、これじゃ商品にならないよ」と頭を抱えたそうだ。その鈴木氏と映像製作制作を担当した奥井氏が「この絵こそジブリの絵だ!」と太鼓判を押したのだから、柏木氏の開発したフィルタを通して見た絵こそが、“家庭向けポニョ”の本来あるべき絵なのだろう。

 


■ 日本のアニメ向きにエンコーダをカスタマイズ

 もっとも、“ポニョフィルタ”の完成をもって、「崖の上のポニョ」のエンコード作業がすぐに終わったわけではない。あくまでもスタート地点だった。というのも、映像圧縮を行なう素材として、ポニョは意外にも難しいタイトルだったからだ。

 デジタル上映用マスターに、フィルム上映と同様にコマの微細な揺れが出るようあらかじめ画像全体を揺らす措置(パーコレーション)が施されているというのは、ジブリのデジタル製作アニメでは定番の話だが、他にもたくさんの手書きアニメの風合いを感じさせる特殊な処理がされている。

 それらはひとつひとつすべてが公開されているわけではないが、BD版の映像を見ていると、ベタ塗りに見える部分にも塗りムラのようなものが確認できる。大きな塗りむらだけでなく、細かく筆の先の跡のような(柏木氏いわく亀の甲羅のような)ノイズが見える。これらはすべて、不自然なほどクリーンに見えないよう、あらかじめ映像の中に入れられているもののようだ。

 しかも日本のアニメは圧縮の歪みが見えやすい上、特典映像をすべてHDのまま収録したため、ビットレートは平均23Mbpsと2層50GBのディスクとしてはかなり低めの設定になっている。

「アニメが楽とは思っていなかったけど、あそこまで大変とは。手書きやアナログっぽい風合いを残そうとして、様々なシカケが映像に施されているので、それをデジタル圧縮の中で歪まさずに残すのは本当に大変だった」と柏木氏。

 その柏木氏がひらめいたのが、新エンコーダの特徴を用いた日本のアニメ専用チューニングである。

 実は以前にこの連載の中でも紹介した、「GOEMON」の圧縮に使った新型エンコーダは、もちろんポニョにも使われている。その新エンコーダを用いる事で、日本アニメ専用とも言える高画質エンコードの手法を編み出した。

 詳しくは「GOEMON」のエンコード技術紹介記事を見て頂きたいが、新PHLエンコーダでは通常は“つなぎ”の意味しか持たないBピクチャが、前方参照しか行なえないPピクチャよりもキレイな映像になる。

 日本のアニメは、ほとんどの被写体が2コマにつき1回しか動かない(異なる被写体が交互に動く場合はあるが、ひとつの被写体に限れば2コマに1回)。このため、質感の揃ったピクチャが1コマおきに登場するGOP構造を新たに設計してエンコーダに入れたのだという。実際にどのようなGOP構造になっているかは秘密というが、MPEGに詳しいエンジニアなら、すぐに思いつくはずだ。

 GOP構造を日本のアニメ向きに改造したことで、動きのバタつきがなくなり、映像全体が落ち着いて安定した画質を引き出せるようになった。

 ポニョは映像の中にある情報が凄まじく多い。連続した映像の中では、ほとんど歪みを感じさせず、とても滑らかに安定した画質の映像が流れていく。この安定感こそ、アニメ向きに特別設計したという新GOP構造の成果なのだろう。

 


■ BD化に際しての責任の所在を明らかにする意味で名前を入れた

 さて、こうして出来上がったBD版ポニョ。

 鈴木氏は「プラズマで見た時にも柔らかさ、本来の絵の良さや奥行きが出ていました。さらにプロジェクタで見ると、落ち着きが出てきてフィルム投影の時と同じような雰囲気が出ています。絵があって、それを見て心が躍る。もちろん、内容をどうするかって話もあるけれど、それ以前に映像でどのように表現するかというのがあって、さらにBDではどうやって再現するかという問題に取り組む必要がある。柏木さんに頼んで良かったよ」と満足そうだ。

 ところでBD版ポニョの冒頭(実はDVD版にも入っている)、本編が始まる直前に制作の鈴木氏、映像の奥井氏と並んで「圧縮・柏木吉一郎」と名が入れられている。「この三人がBD版の品質に責任を負う」ことをハッキリ、そして潔く示したかったのだそうだが、同時に柏木氏への感謝と品質に対する自信もあったのだろう。

 そんな鈴木氏に、今後もBD版の製作を続けるかどうか尋ねてみると「もちろん、やりますよ」と積極的な受け応えが返ってきた。「でも、それは柏木さんにお願いしたい。実際に仕事して柏木さんになら仕事を任せられる。だから、柏木さんがジブリのBDをやってくれる限りは、BD版も続けますよ」

 それは頼もしい。ところで、次にBD化するのは新作になるのか、それとも旧作になるのか。もちろん、まだ鈴木氏もハッキリとは決めていないようだが、僕は“もしかして、これじゃないか”という想いを込めて、「私が一番好きなジブリ作品は“ホーホケキョ・となりの山田くん”なんですよ。ポニョのBD化が成功したのであれば、これもきっと面白い結果になるのでは?」と尋ねてみた。

 奥井氏によると、山田くんはジブリ初のデジタル作品で、それまでのアナログと同じ風合い、手書きの良さをデジタルで引き出そうと、高畑勲監督とともに、それこそ試行錯誤で苦労しながら作り上げた作品だったそうだ。もちろん、すでにDVD化されているが、その不思議な雰囲気をもった手書きの絵を元にした映像は、きっとBDで映えるだろう。

 すると「ポニョの仕事を始めてしばらくして、次の作品は山田くんがいいと思うけどどう? と尋ねられたんですよ」と柏木氏。

「昔、ニューヨークのMOMAでジブリ作品すべてを一挙上映するイベントが開催されました。その時、現地のキュレータに“ひとつだけMOMAに永久保存したい”と言われたのが山田くんでした。あの作品での試行錯誤があったから、ポニョも完成することができた。アナログのアニメをデジタル化した、ひとつの究極が山田くんなんです。もっともアナログっぽい表現を、フルデジタルでやったことで乗り越えられた事は実はものすごくたくさんある。この作品の完全BD化ができたなら、あとは普通にやれば他の作品もBD化できると思います(鈴木氏)」

 もちろん、この話だけで次の作品が決まるわけではない。しかし、次の大きな目標、マイルストーンとなる作品は見えてきたようだ。

(2009年 11月 5日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一 写真提供:HiVi、撮影:相澤利一]

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