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本田雅一のAVTrends

ハリウッド映画スタジオに見る保護と開放のバランス

−加速するUltraViolet。日本ではどうなる?




 もうすでに三週間も前の話になるが、E3(Electronic Entertainment Expo)が開催されているタイミングで開催地のロサンゼルスに滞在していた。

 取材が主目的ではなく、日本のベンチャー企業に米国コンテンツ企業を紹介するというジャーナリストとは別の仕事。とはいえ、せっかくの滞在なのでプレス入場証を申請しておいて少しばかり会場を回り、昔、E3を取材していた頃の知人と旧交を温めるなどしてみた。

 ゲーム業界にも世代交代の波がやってきているが、かといってエンターテインメントの基本的な部分が変化しているわけではない。そんなことを感じつつ、実はハリウッド映画スタジオへの取材も行なっていた。

 今回はそれらLA取材の成果をオムニバス的にお伝えしよう。



■ 保護と開放のバランス取りに積極的なハリウッド映画スタジオ

 1月には今ひとつ盛り上がりに欠けると報告した、利用者の所有権を管理することで物理メディアを通さずに映像コンテンツを共有できるUltraVioletという規格/技術。しかしその後、かなり動きが活発になってきている。

 その背景にあるのが映像パッケージソフト売上げの減少である。すでにDVDの売上げは2007年にピークアウトし、それ以降は急激に縮小している。この穴を埋める存在としてブルーレイが期待されたが、売上げは伸びているもののDVDの売上げ減少をカバーできてはいない。

 なんだ、また商売の話かよ、と思うかもしれないが、DVD以降の映画予算が拡大していった背景には、興行収入を得た後にも現金を回収する手段が生まれたことで、クリエイターたちの良い意味での我がまま、あれもこれも挑戦してみたい、という精神を刺激して、新たな映像表現、技術が生まれてきた背景もある。

 映像表現の派手さに頼りすぎるという批判もあるが、いずれにしろ映画産業のビジネス環境が変化すれば、作品そのものにも変化が生まれる。何が良い、悪いではなく、お金が循環する仕組みが健全に機能することは、良い映画を楽しみにしている側にとっても気になるところではないだろうか。

 さて、売上げが下がってきているのだから、きっと映画をあまり見なくなったんだよね? と思うかも知れないが、実はそうではないという。映画やテレビドラマは見ているものの、より低廉な映画をネット配信で見たり、あるいは古くてもいいから固定額で見放題のサービスに入ったり、自動レンタル機(米国ではRedboxという自動レンタル装置が流行中だ)を使ってレンタルで済ませてしまったりと、よりお手軽な方向へと向かっているということ。

 UltraVioletへと積極的に取り組むところが増えてきたのは、今は仲間割れをしている場合じゃない、と判断したからと考えるのが妥当だろう。UltraVioletにあまり積極的ではないと思われていた20世紀フォックスも含め、UltraVioletへの取り組み方、温度感が大きく変わってきている。

 なにしろ1年ちょっと前にフォックスに(非公式に)UltraVioletについて打診したら、表向きには取り組むと言いつつも「俺はやりたくないんだよね。あれはまだまだ混乱しそう」と、かなり引いた位置にいたぐらいだ。しかし、今ではディズニーを除くメジャースタジオは、かなりUltraVioletへと傾いてきている。

 ディズニーは独自にDisney Studio All Accessというサービスを開始し、UltraVioletとは一線を引いた形で展開しているが、UltraVioletを策定しているDECEの関係者によると「多大な貢献をしてくれた企業もいるが、ディズニーが加入したときのために幹部の席はひとつ空けている」と話している。

 もちろん、ディズニーがこれに応じているわけではないが、ディズニーはここしばらくの興行成績があまり良くないこともあって、積極的に業界内で取り込もうとしているようだ。ディズニーがUltraVioletに加入すれば、映像コンテンツ配信、著作権管理の、事実上の業界標準になるだろう。

 もっとも、ディズニーは1月のインタビューで紹介したように、独自の世界を築き上げている。ネットワークでの配信となると、単に映像配信だけでなくその他のサービスとも連動してくる(特にディズニーは同じキャラクターを使っての幅広い商品展開が特徴だ)ので、まだまだ話はまとまらないのではないか? と思っている。


■ Sony? or Columbia?

 ソニーが1989年にコロンビアピクチャーエンターテインメントを買収。その後、1991年には社名変更されてソニーピクチャーズエンタテインメント(SPE)となったが、筆者がハリウッドを取材し始めた2003年ぐらいは、社名変更から10年以上を経ているにもかかわらず、自分たちの会社のことを“コロンビア”と言う人もすくなくなかった。

 これはソニーミュージックエンタテインメントなども言えるが、ソニー本体とは独立した企業であることを意識している人は(少なくとも米国においては)多いように思う。

SCEもUltraVioletに参加している

 さて、他のハリウッドメジャーを差し置いて(実際には他にも取材には行ったのだけど)、そんなSPEを訪問したのは、「Sony Entertainment Network(SEN)とUltraVioletって競合しているんじゃないですか?」という、素朴な疑問をぶつけるためだ。

 対応してくれたのはワールドワイドの事業戦略を担当するExecutive Vice PresidentのJim Underwood氏と、グローバルデジタル戦略担当Senior Vice PresidentのRechard Berger氏。

 背景としてあるのは、SPEとSonyの関係。ハワード・ストリンガー氏は元SPE社長で、当然ながらSPEとの人脈も太かった。Sonyがクラウドを活用したコンテンツ配信のインフラ構築に投資をしている中で、SPEがUltraViolet(元のアイディアはSPE内部から出たもの)を推進してきた。

 しかし、新しいSonyグループのボスはSENを基幹業務に据えようとしている。ちなみに新社長の平井一夫氏は、ご存知のようにソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)出身で、自身がその社長を務めている時にSENの前身となる映像サービスをSCEで始めていた。この二つがコンフリクトしない、なんてことはないだろうと、周りはみんな思っている。

 しかし、Underwood氏は「そんなことはないよ」と軽くいなした。

「摩擦はない。もちろん、危惧されているようなことは僕らも感じているから、とても慎重にやっている。ソニーの他部門については話せない。公に話せるのは、SPEはUltraVioletの発起人でもあるし、またソニー全体でUltraVioletのビジョンを分かち合っているということ(Underwood氏)」

 Berger氏はサービス開発を担ってきた立場から「SENはレンタルモデルの置き換え。どんな製品からでも、簡単に単一IDで様々なエンターテインメントコンテンツにアクセスできる。これに対し、UltraVioletはオーナーシップを大切にするパッケージ販売が基礎だから競合はしない。ネットでの販売業者はVudoだったり、Flixsterだったり、色々なところがリテーラーとして参加するだろうけど、ライツロッカー(購入履歴を単一IDで保管・管理する機能)はリテーラーとは関係なく、UltraVioletの参加している企業が出資するところが一カ所で管理する。だからこそ、これはオーナーシップなんだよ」

 今でもSPEはColumbia? なんていうことを少し感じた瞬間だが、少なくともSPE自身はSony全体の戦略にも対応しつつ、映画業界の中でもきちんと立ち回るのだという独立性は感じた。

 しかし話はさらにUltraVioletの深い部分に入っていく。興味深い話が聞けたので、そのときの様子をお伝えしよう。


■ ディスクを入れれば必ず再生される。これと同じ簡単さが目標

 さて、オーナーシップという考え方をどう実装していくのか。だんだん、UltraVioletに関する説明にも話の熱が入ってくる。要は彼らがやりたいのは「買ったんだから、俺のものだ。買ったものなんだから、いつでも見せろ」という、顧客の根本的な欲求に対応しようというだけ、ということだ。

 たとえば「うちの娘は今、欧州に行ってるし、息子は東海岸で働いている。UltraVioletは家族を最大6人まで登録し、12台のUltraViolet対応デバイスに転送できるルールに6/12(シックス・トゥエルブ)ルールを採用しているから、リテーラーでブルーレイを買ってきて登録すれば、欧州でも東海岸でも家族が同じ映画を楽しめる。買ったんだから、家族みんなで楽しめるべきだよね、という考え方に対応できる(Underwood氏)」なんていう例を挙げていた。

 しかし、現在はブルーレイを購入した人向けの”サービス”だったとしても、この先は電子的に販売(ESTという)を目指すんだよね?と水を向けると、Underwood氏は「もうすでに3タイトルをESTでリリースしましたよ。購入情報はUltraVioletのライツロッカーで管理する仕組みになってます」と話した。

「UltraVioletにコンテンツを登録する手段は三つ。ひとつはブルーレイやDVDを購入してコードを入力。この場合、オマケのデジタルコピーと同じ扱いで画質はそこそこ。二つ目はUltraViolet対応機器やサービスからアクセスして、電子的に購入するEST。これはVudoなどでやっている。あとはウォルマートで実施しているdisc to digital、すなわちディスクを持っていくと利用登録されてネットでの配信を受けられるようになる(Berger氏)」

 なるほど。1月に取材した時に比べると、かなり整理されてきているようだ。せっかくなので、CFF(Common File Format)の必要性についても再確認してみることにした。CFFとはUltraVioletで使われる共通フォーマットで、広くライセンスすることで各種対応製品が配信サービスごとに異なるフォーマットの違いを意識せず、UltraVioletによるライブ配信、ダウンロード再生の両方をサポートできるようになる。

 しかし、一方で様々なフォーマットがすでに各サービスで使われており、またCFF対応の再生装置やディスプレイはどこにも存在しない。これから新たな共通ファイルフォーマットを提案って、実現性あるんだろうか? というのが基本的な疑問だ。UltraVioletの理念は、ライツロッカーによってクラウド上に購入履歴が置かれ、いつでも参照できるというだけで十分に達成できるのでは?

「クラウド上でオーナーシップ管理というのは、ひとつキー要素ではあるけれど、それだけがUltraVioletの価値ではない。クラウドからストリームで映像を楽しむだけならば、確かにリテーラーや配信サービスが配布する専用ソフトでも構わないだろうし、すでにある動画配信サービスがUltraVioletに対応すればいい。しかし、僕らがやろうとしているのは、ダウンロードしてネットワークのない環境でも、マルチデバイスで再生できること。ユーザーが何も考えずUltraViolet対応のデバイスに映画をダウンロードすれば、そのまま映像を楽しめる環境をつくりたい。だからCFFが必要なんだ(Underwood氏)」

 現時点ではCFFは始まっていないが、将来、「ロゴマークのある機器にディスクを入れれば必ず再生される」のと同じように、UltraViolet対応機器ならネットからダウンロードしたデータを転送するだけで簡単に楽しめる環境を作りたい、ということだ。


■ 日本ではどうなるのかな?

 さて、今回はすごく時間もあったので、Underwood氏とBerger氏には他にも色々な話を伺ったのだが、何かの機会にまた引用することにして、日本についての話もしたい。Underwood氏は2006年をピークにDVD/ブルーレイのセールスが下がっていることを認めつつ、所有することのリウォード(特典)をきちんと作りたいと話していた。

「封入物や豪華装丁などで所有欲を満たす方法も以前はやっていたが、物理的な特典を強化したり、あるいは物理メディアが売れなくなってきているから電子配信に逃げるのではなく、ちゃんと顧客価値を出したいということなんだよ。ここ数年は売上げも下げ止まって、同じぐらいの数がコンスタントに売れるようになってきている」とUnderwood氏。

 この話は封入物などコレクターアイテムに頼りがちな日本のコンテンツ事業者から、「いやいやそれは違う」と言われるだろう。ハリウッドと日本では、対象にしている市場規模も異なるし、コンテンツの売り方も違う。日本のコンテンツは、ひとつのタイトル/キャラクターを大切に長い間売る、というものが主流だ。UltraVioletよりも、ディズニーの考え方の方がフィットする。

 実はUltraVioletにはテレビネットワーク各社も加盟しており、期間限定でテレビシリーズの見逃し視聴サービスをUltraViolet上で展開する予定だそうだ。見逃した人向けに、その週に放送された回だけを見れるように、あとは有料で見てもらう、といったスタイルになるだろうとのこと。

 日本でも見逃し視聴+アルファということで、もっとTVがサービスインしているのだが、価格設定を見ると「見逃したみたいだけど、次も見てもらうために、無料で今回は見せちゃうよ」的なサービス精神はあまり感じない。

 光ディスクでコンテンツが流通している時代には、単純に「板にコンテンツを封入する」というところが共通なだけで、商売のやり方は国によって、コンテンツのタイプによって、バラバラの売り方をしてきた。

 安く大量にバラ撒いて視聴者を増やし、大量にコンテンツ消費することを根付かせる、というやり方をするところもあれば、豪華装丁でコレクター向けのおまけを大量に封入した製品を得意とするところ、過去の名作を美しく蘇らせることを専門にした小規模レーベルなど、ディスク規格だけが唯一のつながりで、ビジネススタイルまでは統一されなかった。

 ところが、どうやら電子配信の時代、ライツロッカーで購入履歴を管理して“所有すること”について、どんな価値を提供できるのか? といった視点でビジネスを組み立てる時は、システムそのものに”売り方”の要素を盛り込まないとうまくいかないようだ。

 一方で、売り方は千差万別、国ごとの商習慣の違い、コンテンツタイプの違いなどなどあって、“どれがいいの?”と言われても、それはケースバイケースだよね、となってしまう。

 日本でのUltraVioletは、日本IBMがホスティングサービス業者に名乗りを挙げて、立ち上げようという動きもあったのだが、ある権利保有者の団体が“6/12ルール”に反対。実現に向けての動きは頓挫している。個人的には「6/12ルールぐらい、いいじゃないか! せっかくお金を出して買ってくれてるのに」と思うが、問題は実はそこではなく、米国と日本の商習慣、コンテンツビジネスのスタイルの違いなどが、もっとも大きなハードルになりそうだなと感じている。

 さらに日本に帰国してみると、私的違法ダウンロードの厳罰化論に混ざって、著作権保護技術を回避してのリッピングについても罰則を設けようという話がある。たとえば、著作権保護技術が施されたDVDをリッピングすることは、それ自身が罰則を伴う犯罪となる。著作権回避を行なうツールを開発しても、もちろんダメだ。

 厳罰化に関して僕は現時点では時期尚早と考えているが、著作権保護を回避することに関して、何らかの罰則はいずれ必要だろうとも感じている。しかし、同時に消費者、特にきちんとコンテンツに投資をしている人たちに対する還元も同時に行なわねばならない。

 UltraVioletの議論で6/12ルールに文句を付けるのではなく、正規の手段で気持ちよくコピーして楽しめる環境を作る意思があれば、もう少し違った方向での議論に進むのではないだろうか。UltraVioletを採用しろというのではない。日本のコンテンツオーナー企業が集まって、ライツロッカーサービスを始めるというのでも構わない。しかし、何かを規制するのであれば、正しい使い方をしている消費者に対する配慮も、同時に施さねばならないと思う。

(2012年 6月 22日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

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[Reported by 本田雅一]