本田雅一のAVTrends

AudysseyとドルビーのiPhone音質調整アプリが目指すもの

イヤフォンのクセを除くamp。音響技術を活用

amp - Audyssey Media Player
T×DOLBY Music Player

 時をほぼ同じくして、二つのオーディオ技術ブランドからiOS対応音楽プレーヤーが登場した。ひとつはお馴染みのDOLBY Laboratories、もうひとつはAudyssey Laboratoriesの開発である。

 いずれも各社が持つ音響技術を駆使して、iPhone上での音質を自在に調整するアプリケーションで有償だが、その品質を考えればそれぞれに魅力的な製品だ。しかし、一方でこの2本は全く異なるコンセプトを持っている。

 簡単に言えばドルビーの作ったドルビーモバイルプレーヤーは音場効果を中心にしたもので、Audysseyのものは“音質を整える”ことを目的としている。前者がAVセンターの音場効果プログラムなら、後者は音場補正機能に近い。

イヤフォン固有のクセを取り除く音楽プレーヤー

 Audyssey LaboratoriesはUSC(南カリフォルニア大学)のChris Kyriakakis教授が開発した音響技術を基礎に立ち上げた技術ベンチャーで、現在もUSCの研究プロジェクトとして開発が進められている。日本ではデノン、マランツ、オンキヨーなどがAVセンターに採用している音響補正技術、Audyssey DSXが広く知られている。

 サラウンド音声を分析し、より多くのスピーカーに再割り当てすることで音場再現能力を高め、スイートスポットのエリアを拡げる効果が得られるAudyssey DSXは、実は他のDSP処理とは異なる思想で作られており、以前にデモを受けた際にもその効果に感銘を受けた。しかし、学術的に理論を突き詰めて作られている彼らの技術は、ややセンシティブな面もあり、正しく音場測定をしなければその効果を完璧に得られない(きちんと測定すれば、その効果は同種の技術の中でもかなり良いのだが)。

 しかし、ヘッドフォンならば、誰が使っても同じように効果を確認可能だ。ということで、Audysseyが自社技術訴求という意味合いも含め、99セント(日本では85円)で販売を開始したのが「amp - Audyssey Media Player」(以下amp)である。

 先日、12月5日に正式版がリリースされたが、実は数カ月前、ロサンゼルスに出かけた際にUSCのAudysseyに立ち寄ったときβ版テストが行なわれ、今回紹介するampの存在を知った。現在はiOSのみに提供(今回の反応を見ながらだが、Android向けの開発も検討しているとのこと)している音楽プレーヤで、iPhone、iPodの音楽ライブラリを、各種ヘッドフォン向けにカスタマイズされた音響補正プロファイルを通して楽しめるというものだ。

 世の中にあるヘッドフォン、イヤフォンが理想的な音響特性を持っていればいいのだが、そうはいかない。ハウジングには何らかの音響特性があるし、それを抑え込んでバランスをうまく合わせ込んだとしても、コストなりに限界はある。

 そこで、Audysseyが持つ音響補正技術を応用し、各イヤフォンごとに特性を補正して再生するのがampというわけだ。

 そんなに都合よく補正なんて、本当にできるの? と思うかもしれないが、Audysseyが使っている技術は、民生用のAVセンターに導入されているだけではない。ハイエンドの機器インストーラ向けにプロの道具として導入されているほか、DTM機器メーカーのIK Multimediaが技術ライセンスを行ない、自社製品に組み込んでいる。

ヘッドフォンごとのプロファイルをネットから無償ダウンロード

アプリの設定画面から音質・音響を調整

 Audysseyが持つ技術の中でも、とりわけ評価されているのが、音響測定技術と、測定結果を元にターゲットとする音質へと補正する、MultEQおよびXT32という補正フィルタ技術だ。

 音は部屋(イヤフォン、ヘッドフォンの場合、ハウジングや耳とドライバの間にある空間の形状など)によって音響特性は様々な影響を受ける。もちろん、あまり音質検討されていないチープなイヤフォンならなおさらのことだ。

 単純に周波数特性がフラットにならないだけでなく、周波数ごとに異なる反射特性や吸収特性によって音場はねじ曲がる。どんなにキレイに音を録音し、それを正確に再生したところで、耳に届くまでの間には音が変化してしまう。

 これを補正するために、グラフィックイコライザやパラメトリックイコライザを使うのだが、なかなか補正する帯域ごとの位相を合わせ込むことはできない。MultEQというシステムは、周波数特性を逆補正するためのフィルタ関数を生成するのだそうだ。XT32は、そのMultEQアルゴリズムを強化する技術で、演算量を大幅に増やさず32ビット精度で、特に低域補正を正確に行なうようチューニングしているという。

 元は専用マイクと部屋内での複数箇所の測定を経て、壁などからの反射の影響を取り除く関数が生成されるが、ヘッドフォン/イヤフォンの場合は部屋がない。そこで、Audysseyはダミーヘッド(人間の頭に近い物理特性を持つ実物大模型。外耳から内耳にかけての穴もあり、その奥に測定マイクがある)を用いて、ヘッドフォン/イヤフォンの補正関数を導く手法を開発した。

 実際に対象製品があれば、ほんの1時間ほどあれば測定、プロファイル作成、そして実際に聴いてみての確認までが済んでしまうという。プロファイルのダウンロードは無料で、ユーザーからの要望や入手できる製品の状況に応じて追加されていく。

 ただし、初期に用意されているプロファイルは、北米で売れているヘッドフォン/イヤフォンのトップ200とiPhoneに付属する2種類のイヤフォン(EarPodsと旧イヤフォン)。この中には日本で人気の製品もあるにはあるが、売れ筋の傾向が異なるため、以外に対応機種が見つからないのが難点だ。

 しかし、Audysseyではユーザーからの要望に応じて、随時、プロファイルを追加していくとのこと。見たところ、日本では比較的人気のあるShureに対応製品がなく、Ultimate Ears、AKGの対応機種も限られていた。日本での積極的なプロモーションを行なっていないため、無理もないのだが、是非とも対応して……と要望を出した上で、各メーカーの担当者をAudysseyの担当者に紹介できた。測定用機材が入手でき次第対応したいとのことなので、そのうち対応機種も増えていくだろう。

ヘッドフォンの個性は活かしたまま音が整う

Appleのイヤフォンプロファイルが使用可能

 さて、対応機種を探してみたのだが、トップセールス200からのチョイスということで、実は日本で人気のちょっと高級系のイヤフォンが少ない。手元にあるイヤフォンで試すことができたのは、iPhone、iPodに付属していた旧イヤフォンとiPhone 5に付属のEarPods、それにBeats SoundのiBeats、AKG K240 Studioだけだった。

 アップルの二つは、かなり薄めの効果。もう少し低域がしっかりするかと想像したが、やや腰高のバランスは変わらない。特にEarPodsは音域バランスが大きくは変化しない。旧アップル・イヤフォンは裸のままでは同じく腰高だが、パッドを装着するとバランスがよくなる。

 とはいえ、たとえばEarPodsが持つクセ(中低域あたりにある谷や、中高域にあるササクレだったピーク感)は補正され、滑らかで歪み感の少ない音になる。付属イヤフォンがここまで鳴るなら、これはこれで良いだろう、という印象だ。

 しかし、ドライバユニットの再生能力が高ければ、もっと大きな効果が得られるようで、K240 StudioとiBeatsでの効果は凄まじい(iBeatsは単独製品でも販売されているが、ユニットそのものはauのHTC Jに付属していたものと同じなので、所有している方もいるかもしれない)。

 K240 Studioはモニタ用だけあって、そもそもがあまりクセはないのだが、低域の力感がなく、高域にもやや耳につく音を感じるが、ampで補正するとすっかりなくなってしまう。もっとも効果が大きいのはiBeatsで、そのままでは低域過多で高域の伸びやかさがなく、詰まったような音なのだが、ampで補正を加えると低域再生能力の余裕は感じさせつつも、伸びやかさ、天井の高さ、爽やかさを感じる音になってくれた。

 いずれの場合も、各製品の持ち味を殺すとは感じない。アップル付属の二つは、再生ユニットの限界からか補正幅が大きくなかったが、それでも効果は判別できるだろう。ampには「TILT」という機能があり、周波数帯全域を傾けたようにバランスを変える(位相はキープされる)ことができるので、好みに応じて……たとえばEarPodsならば、低域寄りにチルトさせれば、バランス良く聴けるはずだ。

 なにより、たったの85円。サポートされているイヤフォンは http://www.amp.audyssey.com/pick で確認できる。日本とは異なるモデル名のものもあるようなので注意してほしい。また、DRM付きの楽曲は再生できるものの音響補正は行なえない。とはいえ、そんなちょっとした難点など気にならない良い出来。日本での売れ筋イヤフォンにもどんどん対応してほしいものだ。

DolbyがTSUTAYAと共同で提供する音楽再生アプリ

 DolbyがTSUTAYAと共同開発したとされる音楽再生アプリが「T×DOLBY Music Player」だ。価格は250円で、一日15分だけ再生できるLITE版も体験用に用意されている。なぜTSUTAYA? と不思議に思うだろうが(筆者も同じ)、どうやら従来から共同プロモーションで音楽の楽しみを拡げるための取り組みを行なってきた、その一環という位置付けのようだ。

 ampと同じようにiPhone、iPodの音楽ライブラリをそのまま再生できるが、頭文字による頭出しが曲やアーティストリストの中でないため、あまりたくさんの曲を入れていると使いにくいかもしれない。

T×DOLBY Music Player
こちらは2ch音声から5.1ch音場を生成し、仮想サラウンドシステムに通している
リスニングモードの設定やグラフィックイコライザを備える

 効果の方は、Audysseyのampが、なかなか渋い効き具合でオーディオ的な“正しさ”を求めているのに対して、T×DOLBY Music Playerはかなりアトラクティブ、娯楽性を重視した効果だ。というのも、そもそもT×DOLBY Music Playerは2チャンネル音声から5.1チャンネル音場を作り出し、それを仮想サラウンドシステムに通しているため。

 以前なら専用DSPで処理していたような機能だが、それを簡素化して実装している模様。モバイル機器向けに低域増強機能やグラフィックイコライザ機能が搭載されており、これらの組み合わせで好みの音質で音楽を楽しめる。

 純粋に音の良さを求めるなら、Audyssey ampの方が良いが、音の広がりやより大きな音の変化を楽しみたいという方には、T×DOLBY Music Playerが楽しめるかもしれない。まずは無料体験可能なLITEをダウンロードしてはいかがだろう。

本田 雅一

PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。  AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。  仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。  個人メディアサービス「MAGon」では「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を毎月第2・4週木曜日に配信中。