本田雅一のAVTrends
BD/SACD/DLNAプレーヤー「OPPO BDP-105」を導入した理由
SACDの音の良さと柔軟な接続性が魅力
(2012/12/7 12:04)
正直に告白しよう。当初、OPPOという聴き慣れないブランドの新興メーカーが、AVシステム用LSIベンダーの助けを借りているとはいえ、あまりに複雑なBlu-rayプレーヤーにおいて、安定した高品位のプレーヤーを作ることができるとは思っていなかった。
シリコンバレーで起業されたOPPOは、その後、精力的に開発を続け、今ではブルーレイの枠だけに留まらない、幅広いメディアを再生するマルチフォーマットの万能型プレーヤーを販売するメーカーとして名を知られるようになっている。
ひとつ前の世代となるベーシックモデルのBDP-93は、動作速度が早く安定した動作のBDプレーヤーと評価されただけでなく、DLNAオーディオ/ビデオプレーヤーにもなる上、価格も手ごろということで人気モデルに。さらに他社へのOEM供給も積極的に行なったため、BDP-93のアナログ出力回路や筐体、電源などを高品位なものにすることでAV機器としてのパフォーマンスを引き上げたモデルが多数登場した。
日本でもNuForceチューンのOPPOが販売されているし、ケンブリッジオーディオのようなライトチューン的モデルもある。さらには重量級の筐体と電源、独自のDACとライン出力回路を搭載するプライマーのBD32など、幅広く多様な派生製品が生まれた。
そんな中でAV機器ベンダーとしての自信を深めたのか、OPPOはBDP-95という高品位版プレーヤーを発売する。電源強化、シャシー強化、アナログ回路強化、それにハイエンドクラスのDACで評価の高い32bit DAC「ESS SABRE32」を採用。こちらは他社ブランドへの供給が行なわれていないが、ある輸入代理店は「手を入れるところがないからと聞いている」と正直な声を漏らした。
さて、今回取り上げるのは、その後継機となるBDP-105(214,800円)だ。BDP-95のマイナーチェンジかと思っていたが、結論から言うと、実はかなり強力なアップデートになっている。
表向きは単なる機能強化版だが……
もともと、OPPOのプレーヤーには多数の機能が搭載されている。DLNAに対応したビデオ・オーディオ兼用プレーヤーであり、様々な映像配信サービス(Netflix、Vudo、Cinema Nowなど。ただし日本ではいずれも利用できない。唯一、YouTubeはフルHDまでのフル機能で楽しめる)、音楽配信サービス(Pandra、Rhapsodyに対応するが、こちらも日本からは利用できない)、USBメモリからビデオ、オーディオ再生など、思いつく機能はたいてい搭載されている。
また光ディスクへの対応もほぼ完璧。CD/SACD/DVD-Video/DVD-Audio/Blu-ray/Blu-ray 3D/AVCHDなどに対応するだけでなく、コダックPicture CDからの写真再生やHDCDを20bitデコードして再生する機能などが搭載される。DVD-Videoは3-2プルダウン記録されているものを毎秒24フレームで出力する機能まである。
是非ともすべての機能を紹介したいところだが、それだけでも誌面を埋め尽くしてしまうので、メーカーのWebサイトを参照してほしい。
BDP-95からBDP-105への機能強化という点に的を絞ると、搭載する映像プロセッサのMarvell製QDEOの高速版を搭載し、フルHDを4K2Kにアップコンバートして出力する機能に対応。HDMI出力を2系統装備し、外部から入力されたHDMI信号をいったんBDP-105側で受け取り、オーディオとビデオをそれぞれ分離してBDP-105の出力とする機能もある。192kHz/24bitに対応する非同期転送モード対応のUSB DAC機能や、光デジタル入力/同軸デジタル入力、アナログバランス出力の装備もトピックだろう。
この機能を使えば、どんな機器の映像出力でもQDEOの映像処理や、映像と音声を分離してデュアルHDMIで出力するといった機能を活用できる。HDMI入力は背面と前面に1個ずつあり、前面HDMI入力は携帯機器向けにコントロール機能や充電機能のあるMHLに対応している。また、高インピーダンスなヘッドフォンにも対応するヘッドフォンアンプも新たに搭載している。
一方でメディアデータを蓄積したHDDを接続できるe-SATAインターフェイスやアナログビデオ出力は省略された。もっともUSB端子(DACとして使うためのB端子ではなくUSBメモリなどをつなぐA端子)が3系統(うち1系統は前面)用意されている。さらには2.4GHz帯の無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)アダプタも付属し、無線LAN接続もサポートする徹底ぶりだ。
このように機能面での強化が目立つが、それはカタログやスペック表を眺めていれば誰もが想像できるだろう。本機はあらゆる光ディスクを再生し、多様なインターネットのビデオ/オーディオ配信に対応し、家庭内でのDLNA共有にも対応。HDMI入力まで備えて他機器の映像まで内蔵回路で処理できるという、従来の“プレーヤー”という概念を越えたジャンルの製品だ。
しかし、こうした機能は下位モデルのBDP-103でも実は変わらない。型番で言えば、たった“2”しか変わらない上位機種の本機が上位機である理由は、とりもなおさず音の良さにある。BDP-95の頃から、思わず唸ってしまうアナログ音声出力の品位は実現していたが、今回はHDMIからの音声出力まで改善されていた。
BDプレーヤーの域を超えるアナログ2ch出力
とりわけBDP-105を語る上で重要になってくるのが、SABRE32の搭載である。ESSの最上位DAコンバータであるSABRE32は、32bit処理の信号処理部とDACを内蔵する8チャンネル仕様のチップだ。
BDP-105はこのチップを2個使い、片チャンネル分で8チャンネル分のDACを占有。4系統のパラレル駆動(各チャンネルの特性が平均化されてS/N比が改善する)した上、別途4系統パラレル駆動で得た信号とバランス駆動する。
背面に2チャンネルアナログ音声出力が、7.1チャンネルのアナログ音声出力とは別に備わっており、2チャンネル分だけがアンバランスのピン端子とバランス対応のキヤノン端子だ。
バランス、アンバランスともに良好だが、特にバランス出力の質がいい。低域のコシの据わりがよく、アタック音が素早く力強い。いずれの端子でも、情報量の多さやS/N感の良さに驚かされた。
たとえば筆者はDLNA対応のネットワークオーディオプレーヤーとして、LINNのAkurate DS(初代/ダイナミック電源)を愛用している。音場全体を支配する空気感やふんわりとした風合い、佇まいはAkurate DSの方がいい。その心地よさを求めるなら、BDP-105はとても太刀打ちできない。
しかし、音像のシャープさやクリアネス、中低域の押し出し感などはBDP-105の良さが活きてくる。音数がグッと増えてきて、各音源の音像がしっかりと見通せる。情報量という面では、独自のデジタルフィルタでアップサンプルされた24bit 4fsのデジタルデータを、内蔵DSPをバイパスする設定にしたウォルフソンのDACに流し込むAkurate DSよりも多いと感じるほどだ。
もっとも、CD(Akurateはディスクプレーヤーではないので、CDリッピングデータ)の音を聴きたいなら、BDP-105を使う必要はない。優れているのはSACDとDVD-Audioの音だ。すでに新譜の発売されていないDVD-Audioはともかく、ここ数年、クラシックファンを中心にSACD市場が復活しつつある日本市場では、SACD再生音が良いというのは嬉しい。
2チャンネル出力に限って言えば、その音質は専用のSACDプレーヤーに迫るもので、DVD-Audioを含む音楽ソースの再生時に威力を発揮してくれる。CD再生時と同じく、音場はアッサリとしているが、音場全体にちりばめられる音数はさらに増えていく。音場がアッサリしている分、音像はやはりシャープに感じられる。かなり特徴的な音だが、しかし解析的に音を聴いている方ならば、その見通しの良い音を素晴らしいと感じると思う。
なお、4パラ・ディファレンシャルで使うSABRE32の出力はバランスとアンバランスで、やや傾向が異なる。音場再現の傾向は同じだが、バランス出力にすることで低域の安定度が大きく上がり、中域を含む音全体のバランスがピラミッド型に安定してくる。
本機はDLNAメディアレンダラーの機能も持っているため、ネットワーク経由でのFLAC、WAV再生も試みたが、やや硬めの音となるようだ。専用機との対決は難しいが、他にDLNA対応の高品位オーディオプレーヤーを持っていないなら、充分に楽しめる音になっている。
さて、4パラでS/Nを改善できる2chアナログばかりの話になったが、アナログのマルチチャンネル出力が低品位というわけではない。それぞれは専用出力(2ch側はミックスダウンとL/Rストレートを選択可能)があるので、別々に接続して使い分けることも可能だ。しかし、6本(ないし8本)のアナログケーブルで、AVセンターのマルチ入力に接続するのは、なかなか大変。ケーブル代だけでもバカにならない。
イージーにセットアップしたいのならHDMI接続の方が、サラウンド時の音場補正を考えてもより良いのではと思う。もちろん、そこはユーザーの選択次第なのだが。
4Kアップコンバートは、“今後”に期待
さて、BDP-105の売りの一つに「4K2Kアップコンバート」がある。Marvellの映像処理技術、Qdeoを実装した最新LSIを搭載。リモコン左下に配置された「Resolution」ボタンを押すことで4K2Kから480Pまで、幅広い解像度の出力を選択(あるいは映像ソースの解像度を変換しないソースダイレクト、ソースに合わせて最適な解像度に切り替えるオートも可能)可能だ。
ただし4K2Kと表示されるものの、17:9の4K2K解像度(4,096×2,160ドット)をサポートしているわけではなく、クアドラブル・フルHD(縦横フルHDの2倍の3,840×2,160ドット/QFHD)である。この点、リアル4K2Kをサポートしている製品がソニーのVPL-VW1000ESしか存在しないので問題ない。注意して欲しいのは、QFHD時はフレームレートや色深度などに制限が加わること。
現在のHDMIでは、QFHD時のフレームレートは24、もしくは30フレームのみ。カラーフォーマットを4:4:4にする場合は色深度8bit、4:2:2なら12bitまでを伝送できる。また、60iの映像ソースを4K2Kモードで出力する場合、30Pに変換出力されるのでため、動きがギクシャクする(もちろん、24フレームの映画ならば問題ない)が、これはHDMIの仕様上の制限だ。
さて、実際の映像をワーナーホームビデオの最新作「ダークナイト・ライジング」で確認してみた。フォーマットの大きなIMAXカメラが使われた本作は、前作「ダークナイト」よりもさらに高画質に仕上がっている。
期待を込めて4K画質を確認したが、現時点では低遅延のリニアフィルタで解像度を上げているだけのようだ。もう少しシャッキリした絵が出ないものかと、Qdeoの画質設定を呼び出してみたが、相当する設定はシャープネスのみだった。そこで、これを+1にしてみるものの、中高域から高域にかけて幅広い帯域が大幅に強調された。
+1によるシャープネスが強いため驚いたが、そこから先はゆっくりと変化するようだ。とはいえ、効きがやや強いだけでなく、持ち上げる帯域が4K2Kという解像度を考えると低い部分。4K(4,096×2,160/3,840×2,160ドット)をHDMIケーブル1本で接続できるディスプレイは、民生用としては現在のところソニーのテレビとプロジェクタが1機種ずつしかない。調整するパラメータによっては、色が化けてしまうなどの不具合も、やはり4K2Kの時のみ発生しているので、前述のように4K2Kディスプレイの数が少ないことによるテスト不足ではないだろうか。
ところで、手元にあるパナソニックのDMR-BZT9300と比べると、ディテールの深さなどの面でかなり差はあるのだが、実はBZT9300のHDMI出力をいったんBDP-105の背面HDMI端子に入力し、BDP-105内蔵アップコンバータで4K出力すると、直接本機でブルーレイ再生した時よりも、精細感のある映像となりコントラストも上がって見えた。クロマ処理の強いパナソニックで差が出るということは、デコーダ分の色信号処理さえしっかりやれば、BDP-105の拡大フィルタも、そう悪いものではないのかもしれない。
ただし、それでも少しばかり差は出てくる。なぜなら本機のHDMI入力はフルHD/36bit/4:2:2までしか入力できないから。BZT9300、あるいはソニーのBDZ-EX3000でも構わないが、これらの色復元処理は4:4:4まで復元する。ところがせっかく復元しても、BDP-105を通した段階で色情報が減ってしまう。
とはいえ。Qdeoの4K領域でのチューニングがもう少し進み、シャープネスの不具合が直れば、より優れたデコーダを持つBDプレーヤー/レコーダの出力を本機に入れ、音声と映像を分離した上で映像は4K2Kにする、なんて楽しみ方もできる。
今のところ、上記で触れた色復元処理は、日本のレコーダが圧倒的に先に進んでいる。プレーヤーにも以前はパナソニックが採用していたが、現在はプレーヤー価格の低下にともない、新製品に搭載されることがなくなってきている。さらには海外製プレーヤーが採用するBDプレーヤー向けのソリューションLSIで、良質かつ複雑な色情報の補完機能を持つものはない。
なんてことを考えると、日本で売られているハイエンドのBDレコーダを所有している方なら、BDP-105に入力してBDP-105に4Kアップコンバートさせる、というのも悪くはないかな? とも思う。
なぜならBDP-105には前述したように、BDプレーヤー以外の機能も多数あるから。あらゆる映像、オーディオメディアを再生する装置として魅力と感じるなら、そう悪くない選択肢だと思う。
本機を我が家に迎えようと考えた理由
さて、まだまだ書き足りないところもあるのだが、込み入った話になりすぎてきたので整理しよう。
まず2chのアナログ出力、特にSACDの音楽プレーヤーとしても評価する価値がある。先日、ピアニスト・金子三勇士氏のSACD制作現場に立ち会い、録音中の音質や演奏の現場を体感したが、そのときの記憶、そして出来上がったディスク(オクタビア・レコードから発売の「MIYUJI 2012」)の複数SACDプレーヤーでの聴き比べを通じて、本機の解像力の高さには独特の魅力がある。
約20万円という本機の価格を考えれば、80万円クラスのプレーヤーと比較するのは、もともとがナンセンス。BDも再生できる2チャンネル音楽プレーヤーとして捉えるのも悪くない。その上で、マルチチャンネルの音楽ソフトをかけたいなら、その際はHDMI接続でもいいのではないだろうか。
繰り返しになるが、本機はBDプレーヤーというだけではない。ネットサービスの多くが日本からは利用できないのが残念だが、たとえばYouTube対応は近年のYouTubeが整備している“チャンネル”機能を上手に使うユーザーインターフェイスで、しかもHD再生にも対応している。1080pでアップロードされている動画もあるが、それらを本機はきちんとHDでデコードしてくれるのである。
とはいえ、それだけが理由ではない。
最終的に本機を使ってみようと考えた理由は、接続を工夫すれば、色々な悩みが消えていくかもしれないと考えたからだ。たとえば、アナログ2ch出力をCD端子に接続しておき、HDMI出力は別の入力ファンクションに割り当てる、といった設定にしておくのはどうだろう。本機の音楽再生機能は、リモコンでCD専用プレーヤーと同様の振る舞いをしてくれるので、映像が見えなくてもまったく問題なく使える。
物理的には1台だけど、AVセンターには2台のプレーヤーが存在しているかのように使う。これなら価格対比でも悪くないと思う。
追記。DSDアップデートも予定
【更新】DSD対応情報などを追記(12月7日16:00)
ハイレゾ音源配信の世界では、昨今、DSD音源の配信に注目が集まりつつある。SACDの元になっているデータを、ファイルで再生するとう考え方だが、現状、本機は対応していない。しかし、OPPOの本社より「DSDのネットワーク再生はファームウェアアップデートで対応する」との見解が伝わってきた。
また4Kアップコンバートの画質、画像フィルタの設定についても、今後、チューニングを詰めるとのこと。色信号処理まで踏み込めるのか、あるいはスケーリングフィルタの調整で行なうのかは不明だが、画質に関してはそれらのアップデートが施された後に再検討したい。
ちなみに筆者は本機とDMR-BZT9300(プレーヤーとしてのみ利用)を使い分けるつもりだ。アナログ2ch系のディスクは本機、HDMIでの映像と音は後者。既存のクロマ処理が優れた機種を持っているなら、本機のHDMI入力を経由させる接続もいいだろう。ネットワークオーディオ含め、多様な使い方ができるのも本機の良さだ。
ところで使い込んでいくと、本機のインシュレータが弱いという印象を強く持つようになってきた。標準のものからインシュレータを変更すると、明らかにS/N感がよく音場の見通しがさらに良くなってくる。実際に使う場合は、足回りを少し工夫してやると、より満足のいく結果を楽しめるだろう。