本田雅一のAVTrends

パナソニックの新ブルーレイDIGA/プレーヤーを試す

10万円プレーヤーは濃密画質、レコーダは動作速度向上




 パナソニックから発売されたBlu-ray 3Dソフト対応のBDレコーダ「DMR-BWT3000」および、同じく3Dに対応したBDプレーヤー「DMP-BDT900」を自宅の視聴環境で評価する機会を得た。とはいえ、レコーダの評価は難しい。長く使い込まなければわかりづらい面もあるからだ。

DMR-BWT3000DMP-BDT900

 機能の追加などを知りたければ、今時は各社の製品ホームページを見ればわかることが多い。ごく希に難解で本質的な部分がまったく見えない製品紹介ページもあって閉口するが、基本的な機能の羅列が欲しければメーカーの製品紹介ページほど便利なものはない。

 だが、実際に製品を使ったフィーリングや品位の高さは、使ってみるまではわからない。新しい機能の追加がフィーリングや画質・音質を高めるか? というと、大抵はその通りになるのだが、過去にはそうならないものもあった。

 というわけで、今回は“ゴールデンウィークの宿題”として、この2製品を使ってみたインプレッションをお届けしたい。もっとも、この短期では、製品の不具合や機能実装の良し悪しまですべてを見通せるわけではない。あくまでインプレッションである事を承知おいてほしい。

 

【ブルーレイDIGA】
品番HDD容量特徴HDMI出力店頭予想価格
DMR-BWT30002TBBlu-ray 3D
2番組AVC録画
10倍長時間録画
スカパー! HD録画
230万円前後
DMR-BWT20001TB20万円前後
DMR-BWT1000750GB116万円前後
【Blu-rayプレーヤー】
品番HDMI出力店頭予想価格
DMP-BDT9000213万円前後

 


■ 操作のストレスから解放されたBWT3000

 BWT3000の役割は、パナソニック製BDレコーダの最上位機種として、3D対応BDレコーダにプレミアム品質の画と音を提供することだ。昨年のDMR-BW970でもうたわれた「プレミアム」の銘がその証なのだが、そうしたAV的品位の話の前に、操作フィーリングについて書いておく。

 というのも、BWT3000の最大の長所は、実は操作性とスカパー! HD録画連動にあると思うからだ。ただし、後者に関しては我が家では導入していないのでここで評価はしない。特に操作フィーリングに関しては、現状のBDレコーダでダントツになったと思う。

 フィーリングが良くなった理由は3つ。

DMR-BWT3000のリモコン

 まずリモコンがRF対応になったこと。2.4GHz帯を用いたデジタル通信でリモコン操作できるので、リモコンを本体に向ける事なく、どんな位置からでも本体を操作できるようになった。反応もとても良く、赤外線リモコンを使いたくなくなるほど。

 なお製品出荷状態ではリモコン、本体ともに赤外線モードに設定されているので、本体のリモコンモードを無線に変更した上で、リモコンを無線モードに変更(数字の7と決定を同時に5秒以上押下)する必要がある。また、このことからも解るとおり、赤外線での操作も可能であるため、ユニバーサルリモコンやAVマウスなどで他機器との連動をさせたい場合には従来通り赤外線を利用可能だ。

 次にリモコンそのもののボタン配置が改善された。テンキーが蓋の中から外に出され、いちいち開け閉めしなくとも、チャンネルをダイレクト選局できる。テンキー蓋の中には他にも重要なボタンがいくつかあったので、これは大歓迎だ。副作用としてボタン数が多くなる弊害はあるものの、機能ごとにボタンの色や形状が分けられているので操作に迷うような事はない。

 そして三つめ。動作が全体に高速化され、画面の描画も速くなった。採用しているユニフィエプロセッサの速度が向上していることもあるが、3D再生に対応するためには搭載メモリを増やさねばならない。このことが操作性向上に大きく貢献しているのだと思う。

 たとえば番組表の表示などがその典型的な例だ。BWT3000で番組表を表示させ、左右または上下にカーソルキーでスクロールさせると、スムースに次のページが次々と表示されていく。従来はページが切り替わる際、描画する様子が画面上で見えていた。新型は内部バッファ上に番組表を描いて持っておく余裕があるのだろう。

 このほか、様々な部分で「一瞬の間」が削減されている。高性能プロセッサを搭載したブルーレイDIGAシリーズは、軽快にユーザーインターフェイスが動作するイメージを持っている人もいるかもしれない。全体を通してのパフォーマンスはその通りだが、個々の操作に対するレスポンスという意味では、必ずしも最高とは言えなかった。

 これまでもっとも高速に動いていたのは、シャープの最新BDレコーダだと感じていたが、BWT3000は見事に抜き去った印象。なお、他の3D対応BDレコーダもメモリ増加やプロセッサの高速化に関しては同じのため、パフォーマンスも同等ではないかと推察される。なお、新型のRF対応リモコンに関してはBWT3000のみの対応だ。BDT900も赤外線リモコンのまま。ただしこちらは30秒送り、10秒戻りのボタンが追加されている。 


■ 大きいセパレート出力の効果

DMR-BWT3000の背面。2系統のHDMI出力(MAINとSUB)を備えている点が特徴

 AVアンプを所有して本格的なサラウンドサウンドを楽しんでいる読者は、3D対応になることで手持ちのAVアンプが使えなくなるのでは? と考えている方もいるかもしれない。BWT3000、BWT2000、BDT900の3モデルには、HDMI出力が2つ搭載されているから、大丈夫だ。

 片方を3D対応ディスプレイ、片方をAVアンプに接続すれば、AVセンターが3D対応か否かにかかわらず、3D映像を楽しむ事ができる。将来、3D対応のテレビやプロジェクタが欲しいと思っているならば、パナソニックが言うところの“ツインHDMI”対応機を買っておけば安心だ。

 しかし、おそらく現状では3D対応テレビと一緒に使う人よりも、既存の2D対応テレビと組み合わせて使う方の方が多いのではないだろうか。そうした人たちにとっても、特に音質に対して気遣う人にとっては、ツインHDMIが効果的だ。

 HDMIの設定画面ではHDMI出力(SUB)に映像信号を含めるか否かを設定できる。ここで音声信号のみにすると映像は真っ黒のままだ。さらにHDMI出力(MAIN)の信号状態にかかわらず、HDMI出力(SUB)の接続モードは1080/60i、8ビット出力に固定される。こうすることで、HDMI経由で出力される音質が高められるのだ。


 

HDMI出力(SUB)の出力設定。ノーマル/音声専用を選択できる
 なぜか? というと、それはHDMIレシーバの動作や構造に深く関わっているのだが、少々複雑な話なのでここでは割愛したい。結果から言えば、HDMIの信号から音声信号を作り出すレシーバLSIの電源やグランドレベルが安定し、取り出すデジタル音声信号の質が高まるからだ。

 欲を言えばHDMI出力(SUB)の音声専用時接続モードで1080/24pも使いたかった。60iの場合とは音質に違いがあり、24pの方が柔らかで音場豊かな音になる。商品開発の担当者も同様の事は感じていたようだが、接続相手が24pに対応しない可能性もあると考えて60iに固定したようだ。

 こうした音声と映像のセパレート出力機能は、従来はBDプレーヤーの中でも50万円前後のハイエンドクラスでしか利用できなかったものが、昨年末にソニーのBDZ-EX200によってレコーダにも初めて導入された。それが3D対応の名目の元に購入しやすい10万円程度のBDプレーヤーにまで降りてきたのだから、これは歓迎すべきだろう。音の質感に関しては後述するが、その品位レベルが大幅に上がっていることはスグにわかる。 


■ “濃密”の一語に尽きる画質

 さて、今回試用したBWT3000、BDT900の2機種には、プレミアムシリーズだけの高品質部品やインシュレータなどに加え、新リアルクロマプロセッサplusが搭載されている。また「デイテール・クラリティ・プロセッサ for BD」も加わった。これは同社製フルHDプロジェクタ(日本市場向けは既に生産完了。海外向けのみ現存)に搭載されている画質調整機能だ。

 それぞれが何をやっているかは、製品紹介のページや過去の記事を参照してほしい。重要なのは何をやっているかではなく、結果的にどうなるか、だからだ。

 デフォルト時の画質は、何にも増して“濃い”という印象。必要以上に色が濃く出るという意味ではなく、色の情報がたっぷりとあるため、とてもコクのある発色に見える。同様の傾向はBW970にもあったが、さらに明確に違いが出るようになった。特に1080/60i収録の紀行もののBDソフトで違いが明確。BSデジタル放送でもその差は判別できるだろう。

 今回はまた、レコーダにおいてMPEG-4 AVC/H.264で圧縮した際のS/N感が良い。従来のDIGAは、情報もタップリ出すが放送素材などの悪い面(パタパタと見える画面のフラッシングや映像の情報が多い部分に付帯するノイズなど)が強調される面もあった。これは元のソースにある情報を可能な限り残そうという思想の元にチューニングされたものだったが、今回はよりバランスよりのセッティングになっている。AVC圧縮時のノイズが気になっていたなら、新モデルを試す価値はある。

 さて、プレーヤーであるBDT900とレコーダであるBWT3000では画質が違うのか? という疑問をお持ちの方もいるかもしれない。これは難題だ。というのも、全く同じではないと感じるからだ。同じソフトを両方でかけ、同じコマのシーンをサーチして見比べると、両者は同じに見える。しかし、その映像を動かしてみると、微妙に違って見える。

 とはいえ、基本的には同じと考えていいと思う。アナログ映像出力にはもっと大きな違いがあるかもしれないが、今回は評価していない。

 ところで画質面で昨年末からもっとも変化したのは、実はHD放送の再生画質でも、BDパッケージソフトの画質でもない。もっとも大きな違いはDVDの再生画質だ。

 これは明らかに従来と違う。もっと裁ち落としたようにキレ味の良い画質となり、質の高いDVDソフトを持って来ると、それがDVDソフトであることを忘れさせるようだ。細かなディテールもよく見通すことができる。“情報量”という面では、明らかに増えたように見える。

 おそらく多くの人がDVDソフトの画質が上がったと感じる事だろう。ただし勘違いしてはいけないのは、どんなに頑張っても情報量が元より増えることはないということ。DVDに含まれている情報は変わらないが、より鮮明に見えるようになったと考えればいい。 


■ プレーヤーの使い所

 ところで画質の違いはさほど大きくはないBDT900とBWT3000だが、音質はどうだろうか? BWT3000にはシアターモードがあるため、レコーダであることの不利はほとんどないと考えられる。

 しかし、実はこの部分には違いがある。まず両者は異なるチューニングが与えられているようだ。BWT3000は、どちらかと言えばおとなしくソフトな耳あたり。情報はたっぷり引き出すのだが、それをことさらに主張する事がないタイプだ。これに対してBDT900は、コンテンツからあらん限りの音の情報を引き出そうとする。

 筆者は後者の方が良く感じたが、人によっては、あるいはシステムによっては前者の方が好きという人もいるかもしれない。なお、差異ではなく、絶対的な品位という面ではBDT900の方が上だろう。

 BDT900には内蔵のアナログDACをオフにする機能があり、これを使うとさらに音が良くなる。S/N感が上がり情報もさらに増える。性能面では本当に文句なしで高級BDプレーヤーと渡り合える実力がある。画質面では、好みにもよるが、超えている部分も多い。私自身はこのレビューをきっかけに、メインのプレーヤーをBDT900に切り替えるつもりだ。

 ただし、“音の佇まい”に関しては、もう少し整理して欲しい。レコーダと共通の筐体を持つ、このクラスのプレーヤーには難しいと承知で書くが、これだけ精細なサラウンド音場を描きながら、さらに奥行き感のある整理され落ち着いた音場が出始めれば、オーディオ専業ブランドも脅かす存在になれるだろう。

 と、これは贅沢な話で10万円ちょっとのプレーヤーとして、BDT900が現時点ではダントツの存在であることは間違いない。言い方は悪いかもしれないが、こんなに小さく、高級感の少ないプレーヤーから、こんな映像や音が出てくるとは、AV機器に詳しい人ほど不思議に思えて仕方がないのではないか。

 さて、筆者がメインのBDプレーヤーにBDT900を使いたいと思った理由はもうひとつある。ビエラリンク(LAN)の存在だ。ビエラリンク(LAN)に対応したレコーダを使っているならば、LAN接続でレコーダ内HDDの映像をBDプレーヤで再生できる。DMP-BD60、BD65でも使えた機能だ。

 しかし再生開始のタイミングや録画リストの表示タイミングが格段に速くなっており、リモコン操作の応答も素早くなった。従来はあまり使う気がしなかったが、コレならば使いたいと思う。

 私の場合は、同じリスニングルームにレコーダとプレーヤーを置く。なぜそんなことをするのかというと、LAN経由でレコーダ内の録画番組を再生させると、なぜか圧倒的にAACの音が良くなるからだ。これは試してみればスグにわかる。BD60、BD65でも同様なので、オーナーなら是非とも試して欲しい。音楽ものの録画には顕著な差が出る。

 レコーダを選ぶか、プレーヤーが欲しいのか。人それぞれに購入のタイミングというものがあると思うが、もしレコーダの機能に大きな不満がないのであれば、ビエラリンク(LAN)を用いて再生環境をグレードアップするという考え方もあると思う

(2010年 5月 6日)


本田雅一
 (ほんだ まさかず) 
 PCハードウェアのトレンドから企業向けネットワーク製品、アプリケーションソフトウェア、Web関連サービスなど、テクノロジ関連の取材記事・コラムを執筆するほか、デジタルカメラ関連のコラムやインタビュー、経済誌への市場分析記事などを担当している。
 AV関係では次世代光ディスク関連の動向や映像圧縮技術、製品評論をインターネット、専門誌で展開。日本で発売されているテレビ、プロジェクタ、AVアンプ、レコーダなどの主要製品は、そのほとんどを試聴している。
 仕事がら映像機器やソフトを解析的に見る事が多いが、本人曰く「根っからのオーディオ機器好き」。ディスプレイは映像エンターテイメントは投写型、情報系は直視型と使い分け、SACDやDVD-Audioを愛しつつも、ポピュラー系は携帯型デジタルオーディオで楽しむなど、その場に応じて幅広くAVコンテンツを楽しんでいる。

[Reported by 本田雅一]