本田雅一のAVTrends |
CESで注目の新技術。東芝の“磁気共鳴給電”とは
ソニー、サムスン、LGの55型TV画質も再チェック
International CES 2012の展示が、現地時間の1月10日から始まった。
各社プレス発表で既に新製品を披露しているが、プレス発表での印象と、実際に製品を見た印象や、現地で担当者に話を聞いた後の印象は変化することがあるものだ。また、中にはプレス発表からは漏れていたものの、興味深い技術が並ぶこともある。
今回、筆者が注目したのは東芝の磁気共鳴を応用したワイヤレス給電のデモンストレーションだ。それ以外の話も含め、オムニバス的にまとめてみたい。
■“防水タブレット”のデモに見えるが、その裏にある“磁気共鳴給電”が面白い
東芝ブース内の展示。一見防水Androidタブレットだけの紹介に見えるが…… |
東芝ブースには、水の中で動作する10インチのAndroidタブレットが展示されている。日本では防水型のタブレットやスマートフォンに人気があるものの、海外では防水対策された製品はあまり多くない。会場を見回すと似たような展示はあるので「あぁ、またアレかな?」と見逃しがちだが、実はよく話を聞いてみると、同時に電力供給を無線で行なっているのだとか。
確かに水槽の中に入れられたタブレットには電源ケーブルが接続されておらず、背面にあるアンテナから、間の水を通って送電するワイヤレス給電システムを使い、安定した電力が供給されていた。デモシステムでは、3~4cm角ぐらいのアンテナが使われているとのことだが、水を通じて2cmほど離れたタブレットに対し、約5Wを供給しているという(送信側アンテナの出力は10W。距離が近付けば効率は上がる)。
水槽内のタブレットには電源ケーブルが接続されておらず、外にあるワイヤレス給電システムを使って給電されている |
昨今、ワイヤレス給電のシステムはいくつか提案されているが、それらは電磁誘導を用いたものだ。周辺の機器への影響も考慮する必要があるなど、メーカー側の使い方には制限、あるいは一定の配慮が必要になる。
しかし、ここで使われているのは“磁気共鳴”を用いたものだ。現地の説明担当者によると「音叉が特定周波数で共鳴し、別の音叉が鳴り始めるのと同じように、特定周波数で共鳴する磁気回路を構成することで、非接触でエネルギーを伝えることができる仕組みです」とのこと。かなり話し込んだのだが、以下のような特徴があるという。
- 特定周波数に対する共振でエネルギーを伝搬するため、送信機周辺の装置に対して誤動作などの影響を与えることがない
- 共振周波数がたまたま一致する磁気回路があったとしても、磁気回路からエネルギーを取り出そうとしない限り、エネルギーの損失や周囲の影響はない
とのこと。現在、CEA(コンシューマ・エレクトロニクス・アソシエーション。CESの主催団体でもある)の中で業界標準を作る動きがあり、6MHz程度の周波数帯で規格化が検討されているという。
上記の例では、送信側出力が10Wで5W給電なので50%の効率となるが、伝送距離が短ければ効率は上がる。また、送信側と受信側、双方のアンテナの大きさを変えることで、出力と受信のワット数も、かなり自由に設定することができるそうだ。
現在考えられている用途として、帰宅して鞄を特定の場所に置くと、その中にある機器が全て充電される、といった使い方だが、さらにその先を見据えた用途も検討されている。
Bluetoothを併用して部屋の中に機器が持ち込まれた時点で、どのような特性の機器なのかを認識し、機器の状態(充電状態や共振周波数)を認識。充電の状態や必要な電力を把握した上で、時分割で各機器に対して順番に給電。充電が不要な機器は飛ばしながら、複数機器の充電を賢く行なうといったことも可能にしたいという。
エネルギーが伝送できるということは、信号も伝送可能だろう。この点は「その通りですが、信号を発信できるようになると無線局となってしまうので、日本での規制にかかってしまいます。現時点で、磁気共鳴による通信は、潜水艦など水を通した通信が必要な場合への応用に留まると思います」とのことだった。
■各社の55型新ディスプレイ技術/展示の様子
ソニーの「Crystal LED Display」が素晴らしい画質であることはお伝えした。この製品に関して、米ソニー・エレクトロニクス社長のフィル・モリニュー氏は「あくまでも技術展示であり、今年中に商品化を考えているわけではない」と強調していたが、一方でディーラーからの反応は過去に例がないほど大きく、高画質ディスプレイへのニーズの強さを再認識したという。
単純に鮮やか、高コントラスト、高輝度といったスペックだけでなく、滑らかで繋がりの良い明暗と色の階調、自然な色再現など、ディスプレイとしての質の高さは、実物を見れば誰もが納得するはずだ。
ソニーの「Crystal LED Display」 | 液晶テレビとの画質比較 |
さて、これに対して同じ55型のサムスン、LG電子のOLED(有機ELディスプレイ)を展示会場で再確認してきた。
サムスンの55型OLEDはカーテンの向こうに置かれ、並ばなければ見ることはできない。発表会で見た時と同じように、パネルそのものの発色もデモ映像も、鮮やかさとコントラストの高さを強調するもので、テレビとして優れた画質という印象ではない。ただ、あくまでも“ショーモデル”とのことなので、まだまだ評価すべきレベルではないのだろう。
LG電子の55型OLED |
一方、LG電子は明るい会場でも、ひときわ目立つ輝度で6台の55インチOLEDをオープンスペースに置いている。半分にはパッシブ3D表示に対応するための偏光フィルムを張り、もう半分は2D専用パネルとのこと。
ただ、画質をチェックすべき2D展示は、使われている映像をよく見るとフルHDでの制作ではないようで、細かなテクスチャがなく、ジャギーも目立つものだった。あるいは何かの設定ミスや映像制作上のトラブルかもしれないが、これでは誰も実力を判断できないと思う。階調の少なさに関しても、ディスプレイ側の問題なのか、映像側の問題なのかはわからない。
少なくとも、LG電子の55型OLEDの画質に関して、初日の展示から何らかの判断を下すことはできない。
■米DECEのUltra Violetの現況
会場近くで行なわれたDigital Entertainment Groupのパーティで、ハリウッド映画スタジオ関係者と話ができたので、ディズニーを除く主要スタジオが集まって推進しているUltra Violetという映像配信システムの最新動向について尋ねてみた。
Ultra Violetは、コンテンツに投資をした消費者に対して、どんなデジタル機器からでもクラウドを通じて購入コンテンツを楽しめるようにするための仕組みだ。Ultra Violetに関しては、今週から来週にかけて、詳細な取材を予定しているが、現状に関して簡単に尋ねてみた。
米ワーナーホームビデオ幹部によると、Ultra Violetの会員登録者は昨年末に100万人近くにまで増えてきているという。デジタル配信で映画を販売するのではなく、パッケージソフトの価値を高める使い方をワーナーはしているという。
パッケージで販売しているBlu-rayソフトを購入したユーザーに12桁のユニーク番号を配布。Ultra VioletのサイトでユーザーIDを取得してコードを入力すると、対応機器への配信を許可する。ワーナーは昨年末にハリーポッターシリーズの最終作を、ブルーレイディスクで約600万枚販売したそうだが、そのうちの約80万人がUltra Violetに登録したそうだ。
現在はストリーミングのみの配信だが、今年半ばぐらいまでには、ダウンロード配信にも対応。対応機器に対してユーザーIDと組み合わせ、オフラインの環境でも再生できる機能を追加していくという。
なお、ディズニーはUltra Violetとは別に、Disney All Accessという仕組みを立ち上げている。両者の違いや、なぜデイズニーが異なる方法を採用しようとしているかについては、別途取材を進めることにしたい。