大河原克行のデジタル家電 -最前線-

「'16年度は成長に舵を切る」パナソニック津賀社長。TV事業は“ソニーを手本”に黒字化へ

 パナソニックの津賀一宏社長は、米ラスベガスで開催中の「CES 2016」でインタビューに応じ、「今年のCESは、技術面では物足りなさがあったのは各社に共通したもの。だが、顧客価値を中心としたイベントであった」と総括。一方で、パナソニックのテレビ事業の2015年度の黒字化については、「今年は見込める」と述べる一方、「ソニー型ともいえる手の打ち方をテレビ事業でやっていく必要がある」などとした。津賀社長に、今後の事業方針やCES 2016を訪れた感想などについて聞いた。

パナソニックブースで展示されている65型有機ELテレビ「TX-65CZ950」

技術面で若干の物足りなさのあるCES

−−今年の「CES 2016」を視察した印象はどうでしたか。

パナソニックの津賀一宏社長

津賀社長(以下敬称略):驚いたのはこれまで以上に自動車メーカーの出展が充実している点。フォード、クライスラー、トヨタにも立ち寄ったが、自動車メーカーのブースでは、いままでに見たことがないような展示も増えている。パナソニックはテレビを主体とした展示から、BtoBをはじめとした幅広い展示に切り替えており、自動車メーカーの展示が増加することは、この場で商談する機会が得られることにもつながる。我々にとっては歓迎したい部分だ。

 一方で、電機メーカー各社のブースも訪問したが、サムスンはIoTを中心に置き、多くの品揃えを行なう一方、LG電子は有機ELテレビに力を注ぎ、ソニーは顧客に喜びを感じてもらえる製品を揃えるといったように、各社各様に特徴を出しており、横並びではなくなっている。各社の方向性を知ることができる展示内容だったといえる。

 だが、すごいイノベーションがあるのではないか、あるいはすごいテクノロジーがそこにあるのではないかという期待を持ってブースを訪れると、なかなかそうではない。パナソニックの場合も、顧客価値はなにかということを中心に置いた展示を中心にしており、目新しい技術を展示することを主にした場ではない。技術面では、若干の物足りなさがあるのは各社に共通したものではないだろうか。

−−それは、ハードウェアの進化はもう望めないということなのでしょうか。

津賀:もともとハードウェアの進化は速くはなかった。だが、デジタル時代になり、進化が非常に速くなった。しかも、顧客の要求を追い越すほど進化した。たとえば、放送されていないのに、4Kや8Kの技術を実現するディスプレイやテレビが登場してきた。もちろん、この技術進化は大切であり、4Kテレビでは、その技術を生かすことで、かつてのプラズマテレビで実現してきたような画質を実現できるようになってきた。これはハードウェアの進化によるものである。

「Ultra HD Premium」認定プログラムに準拠した4Kテレビ「DX900」

 また、昨年秋のCEATECで一番高い評価を受けたのが、洗濯物を折り畳むことができるセブンドリーマーズとの提携。これもハードウェアの進化であり、こうした進化はまだまだ続く。

 そして、ハードウェアにおけるデジタルの進化は、ネットにつながることで、ソフトウェアやサービスの進化へとつながっていく。その点では、これからも、ハードウェアの進化は続いていくことになる。テレビやスマホ、PCは大きな市場であるが、これまではこうした大きな市場のなかで技術を進化させることが中心だった。今後は、そうではない領域での進化が中心になる。

 ただ、かつてのようにパナソニックが不得手とするコンテンツサービスの領域に入ることは考えていない。かつてはハードウェアのビジネスにおいて、コンテンツサービスが必要だと考えていたが、いまはそうしたことは考えていない。それよりも、飛行機の機体につけた気象センサーで気象情報を観測しながら、情報を地上に送り、気象関係のサービスを提供するベンチャー企業を買収した例もあるように、強みが発揮できる部分での買収を進めていきたい。

−−CESの主催元がCEA(全米家電協会)から、CTA(全米民生技術協会)へと名称を変更し、イベントの呼称もコンシューマ・エレクトロニクス・ショーから「CES」と呼ぶようになりました。2013年に、津賀社長がCESの基調講演でBtoB事業へのシフトを鮮明に打ち出して以降、こうした動きが加速してきた気がします。

津賀:あのときの基調講演は、やむにやまれぬ状況での方向転換であった(笑)。我々が持っているものと、将来どんなお役立ちができるのかということを考えた場合に、信じてやった方向がBtoB。振り返ってみると、大きく外してはいなかったといえる。

 その後、自動車産業は、想像以上に状況が激しく変化していることを実感している。北米市場においては、BtoC比率は10%を切っており、これは今後も減少する可能性がある。ハスマン('15年12月に買収発表した、米・業務用冷凍/冷蔵ショーケースメーカー)やアビオニクス(航空機内AVシステム等)の成長、テスラの成長など伸ばす余地が大きい。一方で、北米のコンシューマ事業はどこにフォーカスするのかを鮮明にしないと存在感が薄れていくと考えている。

−−CES 2016では、競合各社が高級家電の展示に力を注いでいましたが、パナソニックは、北米市場において、高級家電を展開する計画はありませんか。

津賀:まったくないわけではない。ただ、これは売り方も大きく作用するので、流通チャネルとの連携が重要になる。量販店は、高級品だけを置いてほしいといっても置いてくれない。ダイレクトチャネルを持てば高級家電の展開がしやすいが、それには時間がかかる。また、理美容家電については、ビューティサロンルートや、デジカメではフォトルートと呼ばれる専門店であれば、高級品だけを扱ってもらえる可能性もある。専門店とダイレクトチャネルの開拓ができれば高級家電の展開が可能であると考えている。だが、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電は北米市場ではやる気はない。そこにはまったく関心を持っていない。

海外の歴史のある会社に、日本が持つ技術を組み合わせる

−−1兆円の戦略投資については、今後、どんな取り組みが見込まれますか。

津賀:たとえば、家電と戦略地域という組み合わせでは、一般的にはM&Aをするとか、工場を立てることで生産性はあげるといった投資もあるだろうが、そうしたことは考えていない。むしろ、日本でやっていた様々な企画や開発、設計の組織能力を、いかに海外に移転していくのかということが一番の投資である。日本のリソースを使わずにやるということになるため、人的投資も重要である。

 戦略地域におけるブランドプロモーションを強化することや、東南アジアにおける住宅事業の強化などに取り組む。この分野では、テスラと工場を立てるとか、ハスマンを買収するといった切り口の投資とは中身が違う。だが、事業軸や地域軸をみれば、まだまだ戦略投資をする余地がある。

−−2015年は、パナソニックにとってどんな1年でしたか。

津賀:2015年を振り返ると、1年前倒しで中期経営計画を達成し、経営体質がかなり改善したといえる。本格的な成長戦略に向けて投資ができる形になり、売り上げを伸ばすことで、利益を伸ばせる体制へとシフトした。

 年末には、米ハスマンの買収を発表し、新たな分野にも出て行くことができるようになった。ハスマンは、パナソニックよりも歴史のある会社であり、米国におけるブランドの強みや顧客接点の強みがある。これは、事業軸のBtoBソリューションと、地域軸の米国を対象にした取り組みであるが、こうした積極的な投資の姿をみて、パナソニックの意気込みを感じてもらえるのではないか。

 これがうまくいけばひとつのパターンを構築できると考えている。特定の技術を買うのではなく、歴史のある会社に、日本が持つ技術を組み合わせることで、こんなことができたというものを作り上げたい。うまくいきそうであれば、こうしたものを増やしたい。パナソニックには、ハスマンを加えると、38の事業部があり、今後も事業部基軸の経営を貫いていくことに変わりはない。

 だが、事業軸の主たる機能がどこにあるのかというと、多くのものが日本にある。しかし、日本は成熟市場であり、成長が望めない。その一方で、海外での成長性が取り切れていない部分がある。ハスマンは、アビオニクス事業に続いて、主体を海外に持つ事業。今後、こうした事業を増やしていくことで、事業部基軸でありながら、日本と海外のバランスを取ることができる。

 現在、国内売上高比率は44%。これは円高に振れると変わってくる。さらに、日本も住宅関連事業で成長余地がある。ただ、日本の従業員の比率は減り、海外の従業員の構成比が高まることは確か。将来の売上高比率は国内3割、海外7割といったことも考えられるだろう。しかし、この比率を議論するよりも、海外に本社機能を持つ事業部をいくつ作ることができるのか、といった方が意味のある尺度だといえる。

 ただ、その一方で、やってみると、なかなかうまくいかないところもある。とくに、苦戦しているのは過去からやってきたビジネス。このマーケットが縮小しており、思ったほどの成長の姿が見えてこない部分もある。

ソニーを手本にTV事業の黒字化へ

−−2015年度におけるテレビ事業の黒字化の手応えはどうですか。

津賀:誰も赤字を目指して事業をしているわけではないが、結果として、どこかが価格競争を引き起こし、それに追従しきれないと、在庫が残り、拡売費が発生し、赤字になるという構造が生まれる。

 今年度は、黒字を確保できる見込みであるが、どこかが価格競争を本気で仕掛けてくれば、すぐに吹っ飛ぶような水準である。その点、ソニーはうまくやっている。我々以上に、ひとつひとつの商品が持つ「商品力」を磨いており、機種展開を抑えながら、それぞれが持つ魅力で勝負している。

 それに対してパナソニックは、ラインアップを揃えること、地域バリエーションを揃えるところに力を入れているため、なかには攻められやすい機種が存在する。そこを攻められると赤字が出る。ソニーは攻められにくい。ここは見習いたい。パナソニックも“ソニー型”ともいえる手の打ち方をテレビ事業でやっていく必要がある。ソニーはひと足先に黒字化しているので、それを手本にしたい。

 だが、ソニーとパナソニックは、海外におけるブランドイメージが異なるので、同じような戦略が取れるかどうかわからない。米国や中国といったコストオリエンテッドな市場は絞り込んで、プレミアム感が出る市場でソニーと同じ戦略が取れれば、黒字化が確実にものになると考えている。

各社のブースを見学した津賀社長。逆に各社の社長もパナソニックブースを見学に来る。写真は、津賀社長がソニーの平井一夫社長兼CEOを案内しているところ

−−アビオニクス事業は、パナソニックにおいて、どんな役割を担っていますか。

津賀:事業部基軸の経営のなかで、事業部を代表し、象徴し、他の事業部を引っ張る存在がアビオニクス事業。収益性の高さに加えて、全世界200社以上の航空会社をサポートし、顧客に深く突き刺さっていることが特徴である。さらに、これらの航空会社は、インフライトエンターテイメントだけでなく、機内通信や、それを活用した新たなサービスにもどんどん挑戦している。

 機内通信については、赤字の段階であるが、積極的に挑戦し、将来の姿を作ろうとしている。その点でも象徴的な事業である。そして、事業の本社機能が米国であり、顧客対象がグローバルであるという点でも手本にすべき事業であると理解している。他の事業部の人たちも、アビオニクス事業部を訪問し、どこが自分たちと違うのかということを学んでいる。

−−自動車関連事業に対する基本的な姿勢について教えてください。

津賀:自動車メーカーが求めるものはなにかということに真摯に耳を傾けるのが、パナソニックの基本姿勢。そのなかで、我々が貢献できるところはどこか、ということを追求している。リアルタイムで制御するということが求められる自動車メーカーからの要求は厳しいものがあるのは確かだ。

 注目されている自動運転については、自動車メーカーがその事業をどう描くのか、またそれぞれの国における規制をどう変えていくのかということを捉えることが重要である。そのなかで、パナソニックは、どんな貢献ができるのか。地道にやっていくのがパナソニックのスタンスである。

「リンカーンMKZハイブリッド」にパナソニックの「SYNCR3インフォテインメントシステム」を搭載するなど、自動車関連事業も積極的に展開

 2018年に自動車関連事業で2兆1,000億円の売上高を目指しているが、その中心は自動運転ではなく、インフォテイメント、車載用バッテリなどになる。自動運転は限られた領域でサポートすることになる。部品レベルではいろいろあるだろうが、自動運転が業績に影響するのはまだ先になる。

 eコックピットに代表されるインフォテイメントは、ナンバーワンシェアを持っており、2018年度以降に向けて受注した案件を加えると、さらにシェアはあがる方向にある。ただ、開発の規模が大きくなったり、ITとつなげたサービスが重視されるなかで、我々が独自にやるだけでは不十分である。業界の標準的なプラットフォームを作らないと、業界にとってもよくない。価格競争が起こりやすい環境になる。これを起こさないような環境を自動車メーカーとともに作っていく。中身を変えることで、コンペティションの問題を妥当な形で解決したい。

−−スマートホームへの取り組みは今後どうなりますか。

津賀:自動車の場合は、新車に乗り換えると、それによってシステムを最新のものに入れ替えることができるが、家の場合はそうはいかない。その点で、スマートホームは難しいと考えている。のちのちにスマートホームと自動車をつなげることの方が、むしろ簡単だ。

 後付けで、ネットワークを家のなかに埋め込むためにはどうするのかといったことを考えなくてはならない。その切り口のひとつがホームセキュリティである。欧州では保険会社と連携して、この分野に踏み込むといった取り組みも開始している。

−−デンバー市においては、スマートシティの取り組みを開始しましたが。

津賀:米国に拠点を持つPESCO(パナソニックエンタープライズソリューシヲン)の本社をデンバー市に移転するなかで、市と意気投合して、ああいう話になった。それ以降、様々な引き合いがあり、スマートシティに対する要望が大きいことを感じている。だが、スマートシティは当社の組織能力を考えて、迷惑をかけない形で地道にやっていくつもりだ。この成果は、横展開をしていくこともできると考えており、これが狙うべき姿である。スマートシティの切り口を、エナジー関係で進めるのか、それとも、セキュリティ関係を軸に置くのがいいのかといったように、なにでやるのかを明確にすることができるという点でも、デンバーでの取り組みはメリットがある。

デンバー市の空港近辺における大規模都市開発に参加。CESのプレスカンファレンスには、デンバー市のマイケル・ハンコック市長も登壇した

2016年度は成長に舵を切る1年に

−−パナソニックにとって、2016年はどんな年になりますか。

津賀:2016年度は、成長に舵を切る1年になる。事業が縮む分、成長に向けた投資をしないと、トータルでの成長ができない。一刻も早く、実質的な成長を遂げる必要がある。実質的な成長とは、為替に影響されない成長。新たな事業業方針は、3月に発表する予定である。

−−2016年の年頭所感のなかでは、為替影響を除いた「実質増販」の実現を目指すことを掲げる一方で、社員に対して、「今年はなにを変えるのか」ということを一人一人が明確に掲げ、新しいパナソニックの実現に挑戦する年にしたいとしていました。津賀社長自身が掲げる変化とはなんですか。

津賀:社長就任以来、気持ちのなかにあるのは、この大きな会社をどうマネジメントしていくかということ。そのベースにあるのは、いかにお客様へのお役立ちができるかという点。その尺度をしっかりと持つことは一貫してきたつもりだ。

 赤字事業を止めること、事業部制を復活させ、事業の単位を明確にさせること、地域軸という視点を入れることで、日本の事業視点では買収対象にならないような企業を買収し、成長の可能性やシナジーの可能性を求めるなど、手探り状態でやってきたが、まだ不十分である。組織能力をどう変えていくのか。日本の社員も変わらなくてはならないし、海外で大きな組織能力を持つことも必要。まだ、5×3のマトリクスがなにを意味するのか、いまどんな経営ができているのか、なにが欠けているのかという点も検証していく必要がある。仮説段階のものもあり、究めていくことで、リアルな姿を導き出さなくてはならないとも考えている。

 事業軸では、パナソニックと住宅との接点はなにかということも、まだ十分な解が出ていない。経営であるため、数字を掲げる必要もあるが、ひとつひとつの課題や仮説に対して、腑に落ちた手触り感を作ること。これによって、結果として、大きな会社が先に向けて進めていくことが、私のテーマである。

−−中期経営計画を1年前倒しで達成したパナソニックにとって、次期中期経営計画の基本的な考え方はどうなりますか。

津賀:2018年には売上高10兆円、それまでに1兆円の戦略投資を行うことを掲げているが、中期経営計画の考え方は、その成長戦略をより具体化することになる。構造改革やリストラがさらに必要であるのかどうかも明確にしていくといった内容になる。突拍子もないものが出てくるものではない。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など