レビュー
マクセルのカセットプレーヤー「MXCP-P100」で、人生で一番聴いた曲を再生したら泣けた
2025年7月31日 08:00
人生で一番聴いた曲を挙げるなら、皆さんはどの曲になるだろうか?
筆者の場合は、おそらく銀杏BOYZの「BABY BABY」だ。だから、この曲が収録されたアルバム『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』のカセットテープを、最近衝動買いしてしまった。
仕事でカセットプレーヤーを借りることはあるが、自分では持っていない。なので、これはあくまで“コレクション”のつもりだった。それに、カセットテープにはちょっとした苦い思い出もある。聴けないなら聴けないで構わない……そんな気持ちもどこかにあった。
しかし、あのマクセルからカセットプレーヤーが登場したと知った瞬間、話は変わった。筆者にとって、カセットテープといえばマクセル。いてもたってもいられず、編集部にお願いして実機を借り受けることにしたのだった。
幼少期の悲しい出会いと、学生時代の録音習慣
現在アラフォーの筆者が、音楽を聴くために初めて買ってもらったのがカセットテープだった。
場所は忘れもしない、近所のホームセンター「コメリ」。回転棚に並んだカセットテープをねだったのだが、いざ帰って再生すると、流れてきたのは知らない“歌うまおじさん”の声だった。買ってもらった手前、「これが欲しかったんだよ」という顔をしながら、内心は激しく動揺していた。もう、ギリギリ泣いていないだけ。幼少期の心に刻み込まれた、微笑ましくも苦い思い出である。
少し時が経ち、学生時代になると、カセットテープとCD、MDが混在するようになった。そのため、音楽を買うのはCD、レンタルCDでオリジナルアルバムを作るのはMD。そしてカセットテープは、自分で弾いたギターを録音するために使っていた。
ブランクテープをパック買いし、演奏が上手くいった回だけを残して、それ以外は上書きする。この習慣は中学から始まり大学に入っても続けていたので、数年分のテープが何本、何十本と積み重なっていった。そのカセットテープこそが、マクセル製だったのだ(ちなみにカセットプレーヤーは、定かではないがサンヨーだった気がする)。
しかし、そんな思い入れのあるテープたちも、保管していた実家が天災被害にあって全滅。それ以来、カセットテープとは縁遠い生活を送ってきた。
だからこそ、「マクセルからカセット」という言葉が目に入った瞬間に、なんとも言えず懐かしい感情が湧き上がった。続く文字が“テープ”ではなく“プレーヤー”なことにまた驚かされたが、いずれにせよマクセルなら歓迎の気持ちしかない。
マクセル印の最新カセットプレーヤーはシンプル
この度発売された「MXCP-P100」は、ワイヤレス接続対応のポータブルカセットプレーヤーだ。販売元の電響社は、2023年4月から、マクセルブランドのコンシューマー製品の日本国内における販売総代理店になる業務提携を締結。電響社内にマクセル事業本部を立ち上げ、マクセルの営業や商品企画などの事業本部に移管。マクセルブランド製品の企画製造を行なっている。本機は正式なマクセルブランドの新製品といえる。
機能はシンプルで、3.5mm端子での有線接続、もしくはBluetooth(Ver5.4)接続での再生のみ。録音機能は搭載されていない。かつてのように録音ボタンと再生ボタンを同時に押すことはもうないのかと思うと少し寂しいが、録音はスマホで事足りるし、ブランクテープ自体も希少になった今、時代の流れだと感じる。
デザインはとてもカセットプレーヤーっぽい佇まいだ。ブラックとホワイトの2色展開で、カラーリングもどこかレトロさが感じられる。
本体上部には、再生/早送り/巻き戻し/停止の4種類の操作ボタンが並ぶ(曲送り/曲戻しではない)。ガチャガチャとした操作感がメカニカルでとても良い。
側面には、ボリュームダイヤル、有線接続用の3.5mm端子、そしてBluetooth接続ボタンを装備。このボリュームダイヤルが無段階で、現在の音量が視覚的にわかりにくいのも“らしく”感じる。
電源はUSB-C経由での充電式なのもイマ風だ。再生時間は最大9時間で、充電しながらの音楽再生も行なえる。乾電池式ではないというだけで、使い勝手が良いように思えてしまう。
音質面では、真鍮フライホイールを採⽤することで回転ムラを抑える仕様がトピック。逆に言えばそれ以外に、FiiOの「CP13」のように音質にこだわったポイントは謳われていない。
直販価格は13,000円。FIIOの現行品「CP13 Transparent」が22,000円前後、AUREXのBluetooth対応機「AX-W10C」が現在6,000円台なので、ちょうど中間的な価格設定になっている。高いとは言わないが、もう少し落とせたら、カセットテープを“エモい”と感じる若年層も手に取りやすいのではないだろうか。
試聴して感じた“あの頃の音”
それでは、Bluetooth接続でサウンドを確認してみよう。
試聴用に揃えていたテープで基本的な音調をチェックする。中低域がボワンと盛り上がったエネルギーバランスで、若干こもったような柔らかなサウンドは、まさに記憶にある“カセットテープの音”という印象を受けた。
ハイレゾファイルなどと比べるとナローながら、そのレンジ内で厚みや濃厚さが心地よく、躍動的に感じられる。しかも、スピーカーの性能の向上もあってか、クリアさもある。「カセットテープってこんなもんだよね」という妥協で終わらず、「あ、良い音じゃん」と思わせてくれる。
また、別のポータブルカセットプレーヤーをテストした際には、「キュルキュル」という回転音のようなノイズがあったが、本機ではそれがなく、作りが丁寧なことにも好感が持てる。
有線接続でも試してみたところ、上述した傾向はそのままに、より鮮明に聴き取ることができた。接続したイヤフォンの特性も関係しているだろうが、プレーヤーとしての性能、そしてカセットテープのポテンシャルというものを感じられた。
小型でポータブル性が高く、早送り/巻き戻し時の動作音も小さいので、電車内などでも問題なく使えると思う。だが、ボタンを押したときの「ガチャッ」という音はかなり大きく、周囲にも聴こえてしまうだろう。
いまは好きな曲だけピンポイントで再生することが当たり前だが、あまり頻繁に操作しないで最初から最後までじっくり味合う。カセットテープらしい聴き方で楽しみたいところである。
蘇ったあの頃の気持ち、カセットテープも良いじゃん
いよいよ『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』を流すと、なんだかグッときて、泣きそうになった。いったい何度聴いたかもわからないし、最近もサブスク配信で普通に聴いている。それなのに、約20年前の気持ちが蘇ってきた。大学時代、モラトリアムの真っ只中にあった自分。なぜだろう、当時「BABY BABY」をカセットテープで聴いたことは一度もないのに。
どうもこの音には、強烈にノスタルジーを刺激される。それがカセット世代に特有のものかはわからない。けれど、久石譲の「Summer」を聴いたら、“経験したことのない田舎の情景“が浮かび上がるように、カセットテープにもそんな不思議な力があるのかもしれない。
取材を終えた頃には、カセットテープに対してポジティブな感情しかなかった。こうなると、欲しいテープがいくつかある。ほとんどがもう中古でしか出会えないものばかりだが、気長に探していこうと思う。