第401回:ASUSのサウンドカード「Xonar Essence STX」

~ 24bit/192kHz対応。出力調整やミキサー機能も利用可 ~


 最近はオーディオインターフェイスもUSBやFireWireが主流で、PCに内蔵するタイプはあまり見かけなくなってきたが、マザーボードメーカーとして有名なASUSがPCI Expressサウンドカード「Xonar Essence STX」を発表した。

 販売代理店であるユニティから借りてテストしてみたところ、興味深い結果が出た。


■ パッケージには「SN比124dBを実現」と記載

ASUS「Xonar Essence STX」

 今回取り上げる「Xonar Essence STX」は、最近はマザーボードメーカー以外にも、Eee PCなどネットブックがヒットしている台湾のASUSが開発した製品。PCI Express対応のサウンドカードで価格は15,000円程度と、サウンドカードとしてはやや高めの値段設定となっている。発表当初は、これまでのオーディオインターフェイスで、老舗メーカー以外が出したものに良い印象がなく、関心すら持っていなかったのが正直なところだ。

 しかし、先月、AV Watchの僚誌であるPC誌「DOS/V Power Report」で特集記事を執筆する際に、Xonar Essence STXを試す機会があった。ASUSのサウンドカードはこれがはじめてというわけではなく、以前も別の機材を使ったことがあったが、そのときはあまりにも低音質過ぎて、掲載を見送ったくらいだったので、まったく期待はしていなかった。

 ただ、パッケージを見てみるとS/Nを表すグラフが掲載されており、124dBを実現しているとある。またTHD+Nは0.0004%を実現したと書かれている。さらにパッケージを開けてみるとその中には、鑑定書のようなものが入っている。装丁と中身のレポートの上下がひっくり返っていたのは、ご愛嬌といったところだが、ここには10ページにわたるテストレポートが記載されており、非常に高性能であると謳っている。

パッケージにはSN比124dBを実現と書かれている鑑定書のようなものが同梱10ページのレポートを記載

 このレポートはASUSの本国サイト内で検索すると、マニュアルやドライバといっしょにPDFの形でダウンロードできるので、興味がある人は入手してみるといいだろう。なお、このレポートで使っているテストは、Audio Precisionのオーディオ機器テスト機材、SYS-2722が用いられていた。

 今回改めて、PDFの英語のマニュアルなどを眺めつつ、このサウンドカードをチェックしてみると、なるほどいろいろとマニアックな構成になっている。


■ 最高24bit/192kHz対応。チップの交換で高音質化も

アナログ音声出力(RCA)端子

 まず基本的なスペックから見ていくと、最高で24bit/192kHzまでの録音・再生ができ、入出力は基本的には2IN/2OUTとなっているが、端子は各種用意されている。端子面の左端に、アナログのステレオ出力でRCA端子を搭載。

 その右にある標準ジャックはヘッドフォン端子で、ヘッドフォンアンプ内蔵となっている。このアンプはヘッドフォンのインピーダンスによって、出力ゲインが3段階で調整できるようになっており、これはソフトウェア側で設定を行なう。

 さらに、その隣にある標準ジャックは3端子のステレオジャックとなっており、マイクおよびラインの入力用だ。そして一番右にあるのがS/PDIFの出力となっているが、コアキシャルとオプティカルのコンボジャック。個人的には初めて見たが、RCA端子の中心部が赤く光っており、どちらでも利用可能になっている。

ヘッドフォンアンプのゲインはソフトで調整可能S/PDIF出力を搭載

 そのほかにもサウンドカード上には、Front panel audio header、Aux Input Header、S/PDIF Out headerのそれぞれが搭載されている。

 サウンドカードの半分がシールドで覆われているわけだが、これをとりはずしてみるとアナログ系のチップなどが現れる。まずDACとして搭載されているのはBurr-BrownのPCM1792A。ヘッドフォンアンプ用にはTIのTPA6120A2というものが搭載されている。

シールドを外すとアナログ系チップなどが見えてくるDACはBurr-BrownのPCM1792AヘッドフォンアンプはTIのTPA6120A2

 また面白いのはOPアンプ。3つのチップが搭載されているのだが、最近のサウンドカードの流行なのか、いずれもソケット上に取り付けられており、チップの交換が可能になっている。なお、製品にあらかじめ取り付けられているOPアンプは、LM4562が1つと、JRC2114Dが2つという構成だ。今回特に交換はしなかったが、別のOPアンプにすることで、音質変化も楽しめそうだ。

 またパッケージにも書かれているが、オーディオコンデンサにはニチコンのFineGoldが搭載されており、これによってオーディオ性能を引き上げているとのことである。

OPアンプはソケットの上から取り付けられ、チップの交換が可能コンデンサはニチコンのFineGold

■ Xonar Audio Centerで調整、ミキシング可能

 今回もWindows 7 Ultimateの64bitを使って試してみたが、付属しているCD-ROMにこれにマッチするドライバがないようなので、メーカーサイトから最新版をダウンロードしてインストールしてみた。すると、最初に出てくるメッセージが電源供給をせよ、というもの。そういえば、以前試したときもそうだった。

 XONAR Essence STXは、単にPCI Expressのスロットに挿しただけでは電力供給されず、安定した電源が必要ということなのか、別途パワーコネクタに電源ケーブルを接続しなくてはならない。

「電源供給をせよ」というメッセージ別途パワーコネクタに電源ケーブルを接続
ドライバのインストールは可能だが、やはり電源ケーブルの接続が必要

 とりあえず、接続しない状態でもドライバをインストールすることはできるが、そのまま再起動するとやはり電源が入っていないとのメッセージが表示され、機能させることはできなかった。

 改めて電源ケーブルを差し込んで起動すると、無事動き出す。コントロールパネルのサウンドを見ると、出力先としてスピーカーとS/PDIF Pass-through Deviceの2つが見える。

 とりあえずスピーカーを選択した上で、Windows Media Playerで再生させると、なかなかいい感じの音で、RCAのステレオ出力から音が出だすとともに、Xonar Audio Centerというソフト上のインジケーターにはFFT解析されたグラフが表示される。この画面の右側で出力レベルの調整が可能。DSP Modeの設定によって、MUSIC、Hi-Fi、GAMEなどのEQモードに設定も可能となっている。

 この画面の下側を広げると、さらに細かな設定ができるようになっている。まずアナログ出力はデフォルトでは2スピーカーとなっているが、これをヘッドフォンに変更することで、ヘッドフォン端子から音が出るようになる。

コントロールパネルのサウンド。スピーカーとS/PDIF Pass-through Deviceの2つスピーカーを選択。Xonar Audio Centerのインジケーターではグラフが表示ヘッドフォンに変更することで、ヘッドフォン端子から出力可能になる

 実際にモニターヘッドフォンを接続して聴いてみると、これがいいサウンドなのだ。いつも使っているSONYのMDR-CD900STを使っての試聴であったが、これだけの音質が出ていれば十分ではないかと感じさせるものだった。

 またサンプリングレートは基本的に自動的に設定できるが、手動でも44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzから選択できるようになっている。さらにユニークなのは、オーディオ入出力的には2IN/2OUTという仕様ではあるものの、ここにはオーディオ・チャンネルという項目があり、ここで2、4、6、8のチャンネルが選択できる。そして、この設定によってPC側からは複数チャンネルを持つデバイスであると認識されるのだ。

手動でサンプリングレートを調整可能オーディオチャンネルで2/4/6/8チャンネルが選択可能

 ただ、だからといって、スピーカーやヘッドフォンから4ch、6ch、8chといった信号を独立して出力できるわけではない。これを利用できるのがS/PDIFとなっているのだ。Dolby Digital LiveやDolby Virtual Speakerというシステムが搭載されており、これによってマルチチャンネル出力を可能にしているのだ、さらに7.1 Virtual Speaker Shifterをオンにすると、各スピーカーの位置をバーチャルに動かすことが可能になる。

Dolby Digital LiveやDolby Virtual Speakerというシステムが搭載されており、これによってマルチチャンネル出力を可能7.1 Virtual Speaker ShifterをONにするとスピーカー位置をバーチャルで動かせる

 一方、ミキサー機能はWindowsのミキサーとは独立する形で、このXonar Audio Centerに搭載されている。プレイバック用、録音用のミキサーがあるが、基本的な仕様が2IN/2OUTであるだけに、録音用はいずれかを選択する形となる。

ミキサー機能はXonar Audio Centerに搭載オーディオチャンネルで2/4/6/8チャンネルが選択可能

 そのほかにも各種音響空間をシミュレートするためのEffect、センターキャンセルなどでボーカルを消したりマイク入力にエコーをかけるのKARAOKE、サブウーファーをうまく動かすためのFlexBass、そしてゲームやSkypeなどを利用する際のマイク入力に各種効果を与えるためのVocalFXなど、さまざまな設定項目が用意されている。

EffectKARAOKE
FlexBassVocalFX

 ところで、こうしたサウンドカードのほとんどはMMEドライバもしくはDirectSoundを使っての録音、再生に限られるが、このXONAR Essence STXはASIOドライバにも対応していた。Cubaseを起動してドライバの設定を見てみると、ASUS Xonar Essence STX ASIOというものがある。デフォルトでは大きなレイテンシーが設定されていたが、ASIOコントロールパネルを開くと、2msec~300msecの範囲でレイテンシーの設定が可能となっている。

 この設定は44.1kHz、48kHz、96kHzのどのサンプリングレートにおいても有効だが、Cubaseの画面を見る限り、この値は入力のレイテンシーであって、出力のレイテンシーはその3倍、つまり最小にしても6msecとなるようだ。

 まあ、これをレコーディング用に使うことはあまり考えられないが、ASIOドライバ経由での再生が可能であれば、Windowsのカーネルミキサーを経由せずに音を出すことができ、より高音質化が図れそうだ。

Cubaseを起動してドライバの設定を確認。ASUS Xonar Essence STX ASIOがある2msec~300msecの範囲でレイテンシーの設定が可能出力のレイテンシーは最小6msec

■ 音質をチェック

 次にいつものようにRMAA Proを用いての音質評価テストを行なってみた。これまではWindows Vistaの32bit環境で動かしていたので、Windows7の64bit環境でうまく動くのか少し心配だったが、なんら問題なく使うことができた。

 そして、24bit/44.1kHz、24bit/48kHz、24bit/96kHz、24bit/192kHzのすべてのモードでテストすることができた。この際の外部ループはRCAのステレオライン出力を標準ジャックのライン入力へループさせる形にしている。

24bit/44.1kHz24bit/48kHz24bit/96kHz24bit/192kHz

 結果を見ると、 ASUSが宣伝するS/Nが124dBという値はともかく、いずれのサンプリングレートでもかなりいい結果となっており、少なくともS/N性能は非常によさそうだ。

 ただ最後に、メイン出力であるアナログRCAの出力を聴いてみると、どうも思ったほどよくない。RMAA Proでのテスト結果をみる限りS/Nなどはいいが、音楽を再生させると中低域が痩せた感じで、ヘッドフォン出力と比較すると明らかに見劣りしてしまう。とはいえ、ヘッドフォン再生用としてみれば、15,000円を出す価値は十分あるように思う。


(2010年 1月 18日)

= 藤本健 =リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by藤本健]