第464回:英Focusrite初のUSB 2.0オーディオを試す

~自由度の高いソフトが魅力の「Scarlett 8i6」 ~


Scarlett 8i6

 オーディオインターフェイスメーカーやマイクプリアンプなどのメーカーとして歴史あるイギリスのメーカーFocusrite。国内では愛知県にあるオールアクセスが代理店をしているが、先日、Focusriteとしては初のUSB 2.0対応オーディオインターフェイス、Scarlett 18i6およびScarlett 8i6が発売された。

 今回、下位モデルであるScarlett 8i6を借りることができた。個人的には初めてのFocusrite製品。さっそくレビューしてみよう。



■ 手ごろな価格の「Saffireシリーズ」USB 2.0版

 これまでFocusriteではSaffireシリーズというFireWire接続のオーディオインターフェイスが人気モデルとして販売されていた。サンプリングレートは最高で96kHzではあるが、実売価格が2万円台のものからあるなど、低価格であることも人気の理由となっていた。そのFocusriteが新たに登場させた、USB 2.0対応のオーディオインターフェイスが、Scarlettシリーズ。まさにSaffireシリーズのUSB 2.0対応版という感じのもので、いずれもオープン価格だが、上位モデルのScarlett 18i6は18in/6outで35,000円程度、Scarlett 8i6は8in/6outで28,000円程度とやはり手ごろな価格。

 形や入出力を見てもSaffire PRO 24のUSB版がScarlett 18i6で、Saffire PRO 14のUSB版がScarlett 8i6となっているようだ。サンプリングレートもSaffireと同様に44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzとなっていて192kHzには対応していないが、価格的に見てもかなり気になる製品である。

Scarlett 18i6Saffire PRO 14

 ちなみにカタログスペックなどにも8in/6outとはなっているが、入力端子を見ると、フロントにコンボジャックが2つ、リアにTRSジャックが2つとコアキシャルのS/PDIF入力が1つで、出力端子はTRSジャックが4つとS/DIF出力が1つとなっているので実質的には6in/6outと見たほうがよさそうだ。残りの2ch分の入力はループバックとなっていて、PCから出力された信号が取り込めるようになっているのだ。

前面背面

 大きさは1Uのハーフラックサイズ。参考までに実際に8in/8outとなっているRolandのOctaCaptureと並べてみると横幅は短いけれど、奥行きが長い。さっそくWindows 7の64bit版にドライバを入れて接続してみた。入出力数が多いだけに、やはりバスパワーで動く設計ではなく、ACアダプタでの接続は必須。電源スイッチはないため、ACアダプタに接続するとすぐにPowerランプが点灯し、USBを接続したところで、USBランプが点灯する。

RolandのOctaCapture(下)と比較

 フロントパネルでの操作項目はそれほどない。一番左の2つはコンボジャックなので、XLRのマイクまたはTRSフォンを接続する。その入力をプリアンプで増幅するレベル調整がその右にある2つのノブだ。それぞれのノブの右にO/Lという赤いLEDとSigという緑のLEDがあるが、それぞれオーバーロード、信号入力を意味するものとなっている。また、その下にあるボタンは+48のファンタム電源のオン/オフ。オンにすると、ボタン下の48VのLEDが点灯する。そのLEDの左右にはInstというLEDがあり、これはギター入力=Hi-Z対応を意味するもので、フロントの2つの入力がギター入力になっていることを意味するが、これは後述のMixControl画面でスイッチ切り替えするようになっている。さらに、その右にあるMONITORというノブは、リアにある1ch/2chのメイン出力のレベル調整、一番右にあるノブはヘッドフォン用のレベル調整となっている。

Scarlett MixControl

 一方リアは、一番左にあるのが、コアキシャルのS/PDIFの入出力、その右がACアダプタ入力、MIDI入出力、そしてUSBだ。また右側に6つあるのうちの左4つがTRSフォン出力、一番右の2つがTRS入力となっている。まあ、ここまではごく普通の6in/6outのオーディオインターフェイスといったところ。

 しかし、このScarlett 8i6の使い勝手を決めるのはASIOコントロールパネルともなっているScarlett MixControlというソフトだ。これを起動すると、ずいぶんたくさんのチャンネルが並んだミキサーが表示される。この画面で、Scarlett 8i6を思う存分使いこなしていくわけだが、まず基本となるのは右側の下半分に赤く表示されているあたり。ここでサンプリングレートを設定したり、内部クロックで動作させるか、S/PDIF経由の外部クロックで動作させるかなどの設定を行なう。またその下にあるSettingsボタンをクリックすると、バッファサイズをmsec単位で設定できるようになっている。ただし、これまで行なってきた実験からもわかるとおり、ここでの表示を鵜呑みにはできない。入出力をループさせた上でのレイテンシーを実測すると、ここの数字とは結構違う値が出てくるからだ。


サンプリングレートの設定クロックの選択バッファサイズの設定

 


44.1kHz/128Sample

 今回もCentranceのASIO Latency Test Utilityを使って測定してみた。まずは44.1kHzでのバッファサイズ128Sampleの場合だ。これを見ると表記上は2.90msecとなっているが、実際には11.86msecという結果に。またバッファサイズを一番小さくした上で44.1kHz、48kHz、96kHzで測定したところ、やはり表記と比較するとやや大きめの値となったが、単体の性能として捉えればまずまずの結果といえるだろう。


バッファサイズ最小値での測定。左から44.1kHz、48kHz、96kHz


■ 機能が充実したコントローラ「Scarlett MixControl」

画面一番下のスイッチ

 次にチェックしたいのが、画面の一番下に並ぶ4つのスイッチ。これが前述のギター入力に切り替えるスイッチであり、1chおよび2chはデフォルトのLineからInstに切り替えることで、フロントパネルのLEDも点灯し、ギターが本来の音で入力できるようになる。また3chおよび4chではHi GainかLo Gainかの切り替えになっている。リアの入力レベルが小さいときはこれをHi Gainにすることで大きくできる。なお、1/2chの場合はフロントのノブで入力レベル調整できるが、3/4chはそれがないため、Hi Gain/Lo Gainというスイッチが用意されているのだ。

 そして、注目したいのが、これら4つのスイッチとミキサーの間にあるルーティングセクション。パっと見た目ではピンと来ないUIではあるが、ここがScarlett 8i6の操作においてもっとも重要なところといってもいいかもしれない。まずは、一番上の行を見てみよう。ここは「Monitor Output 1」、「Monitor Output 2」への出力を設定するところになっている。デフォルトではそれぞれ「Mix 1(L)」、「 Mix 1(R)」となっているのがわかるはずだ。これは「Mix 1」の内容をMonitor Outつまりメイン出力である1ch、2chへ送り出すという設定になっていることを意味する。この「Mix 1」とはミキサーの1番の設定ということだが、ここで画面上のほうを見るとMix 1、Mix 3、Mix 4、Mix 5、Mix 6というタブがあるのに気づく。最初に表示されているのがMix 1なわけで、タブを切り替えれば独立したほかのミキサー設定になるのだ。デフォルトではこのうちMix 1のみがステレオミキサー、3~6はモノラルミキサーとなっている。もちろん、組み合わせの変更も可能だ。

 各出力へのルーティングは、プルダウンメニューから切り替えられる。あらかじめ設定しておいたミキサー設定に必要に応じて切り替え使えるのは便利だ。メイン出力であるMonitor Outputのほかにも、3ch/4chを意味するLine Output 3とLine Output 4、またS/PDIF出力へルーティングするためのSPDIF Output 1およびSPDIF Output 2のそれぞれがあり、独立して設定できるようになっている。また、ヘッドフォン出力はLine Output 3、Line Output 4と兼用だ。


Mix 1~6のタブを切り替えて設定できる各出力へのルーティングはプルダウンメニューから切り替え

 


ミキサーを介さずに直接入力を出力へルーティングすることも可能

 しかし、ここで「おや? 」と感じる人もいるだろう。そう、一般的なオーディオインターフェイスであれば、それぞれのチャンネルへの出力はDAW側で送られたものがそのまま出てくる。ところが、ここではScarlett MixControlのミキサーで設定している。そのため、DAW側で出力したものが、そのまま各出力端子から出てくるわけではないのだ。その一方で、設定によっては、Scarlett 8i6へ入力した信号がそのまま出力される。実際、デフォルトの設定ではそのようになっており、ダイレクトモニタリングができるようになっている。この場合は、PCを介さずに直接出力へルーティングされるからゼロレイテンシーということになる。もちろん、ミキサーを介さずに直接入力を出力へルーティングすることもできるようになっている。

 では、一般のオーディオインターフェイスのように、DAWからの出力のみを直接出すことはできないのか。もちろん、それも可能だ。先ほどのプルダウンメニューにおいて、DAWを選択すればいいのである。ためしにCubaseからScarlett 8i6の出力ポートを見てみると、Mon 1、Mon 2、Line 3、Line 4、S/PDIF L、S/PDIF R、DAW 7……DAW 12と12ポート見える。Scarlett MixControlでの表記や意味合いと微妙に異なっているのが気になるが、Mon 1がScarlett MixControlでいうDAW 1であり、直接Monitor Output 1つまりメイン出力の1chに出るわけではないので注意が必要だ。ここでもうひとつ気づくのは、Scarlett 8i6の出力ポートは6つなのに、Cubaseからは12ポート見えているという点。そうDAW 7~12というのがあるのだが、これは仮想的なポート。ここへ出力した信号はScarlett MixControlへと送られるので、これを先ほどのルーティングで直接各出力ポートへ割り振ってもいいし、ミキサー上で扱ってもいいわけだ。


DAWからの出力のみを直接出すことも入出力ポートDAW 7~12は仮想的なポートとなっている

 なおルーティングにおいて、ひとつ触れていなかったの右下にあったLoop Back 1とLoop Back 2だ。ここへルーティングした結果は、先ほどのCubaseの入力ポートにもあったDAWのLoop 1、Loop 2へとループバックされる。これが入力が8ポートとなっているゆえんでもある。Scarlett 8i6のミキサー機能でミックスした信号をDAWでレコーディングしたい、といった場合にうまく活用できるはずである。

 以上の関係をScarlett 8i6のマニュアルでは、ブロックダイアグラムのような形で表しているが、複雑に設定できるだけにこれを見ても直感的には分からないかもしれない。ここでふと思ったのは、PCなしでScarlett 8i6をミキサーとして使うことができるかという点。Scarlett MixControlで設定した内容を覚えておいてくれればできるはずだが、USBケーブルを引き抜いたとたんに信号は途絶えてしまった。つまり、これはあくまでもオーディオインターフェイスであり、スタンドアロンで動作するデバイスではないようだ。

Loop Back 1とLoop Back 2の設定マニュアルに記載されたルーティング

 と、Scarlett MixControlについて長々と解説してしまったが、このように非常に自由度が高くルーティングやミキシングができるのがScarlett 8i6の最大の特徴といえるだろう。そしてやはり気になるのが音質。ヘッドフォンでモニターしている限り、とくに気になるノイズもないし、クリアなサウンドで聴こえてくるが、ここでいつものようにRMAA PROを使ってテストを行なってみた。今回はMonitor Output 1/2をLine Input 3/4へループさせ、入力をHi Gainに設定してのテストだ(Lo Gainではレベルが低かったため)。

 その結果は以下のとおり。THD+Noise、つまりS/N部分が若干低めと出ているが、44.1kHz、48kHz、96kHzのいずれも概ね良好な成績となっている。もちろん、これを見る限り、極めて高音質な製品とまではいえないが、価格帯から見れば十分な内容といえるのではないだろうか。

 

44kHz48kHz96kHz

 


■ 自由度の高さと低価格が魅力

 さらに、Scarlett 8i6にはオマケのバンドルソフトが充実している、という見逃せない点もある。まずは、Focusriteオリジナルのエフェクト群、Focusrite Scarlett plug-in suiteの存在だ。具体的には、Compressor、EQ、Gate、Reverbのそれぞれがあり、レトロな雰囲気のVUメーターがいい感じを演出してくれる。音を細かく検証はしていないが、Compressorなどは使い勝手もよくマキシマイザ的な利用には最適な印象だ。MacおよびWindowsのVSTとRTASでの利用が可能だ。

CompressorEQ
GateReverb

 また、NovationのBass Stationという2オシレーターのバーチャル・アナログシンセもバンドルされており、これも単純な構造だけに使い勝手はよく、なかなか図太い音を出してくれるので、楽しく活用できる。こちらはVSTのみの対応だ。

 そしてDAWとしてはご存知Ableton live lite 8がバンドルされている。live lite 8についてここで細かくは解説しないが、live 8へ割安でアップグレードできる権利も同梱されている。そのほか、Loopmasters Sample Library、MTD - mikethedrummerというトータル1.5GBにおよぶサンプリング素材も用意されているので、かなり使いではありそうだ。

Novation Bass StationAbleton live lite 8

 以上、Focusrite 8i6についてみてきたがいかがだっただろうか? 実売28,000円という価格でこれだけ機能もそろっているという点では、なかなかコストパフォーマンスの高い製品といえるのではないだろうか。ただし、Scarlett MixControlは初心者には、なかなか難しいようにも思う。ミキシングやルーティングに関する基本的な考えがしっかりわかっていないと、「音が出ない」というトラブルを起こしそうでもある。自由度の高さと分かりやすさはトレードオフの関係にあるので、その点には十分注意したほうがよさそうだ。


(2011年 6月 6日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]