第466回:発表されたVOCALOID3の歌声ライブラリを紹介

~坂本美雨、喜多村英梨、Liaが声を提供。初音ミク関連も ~


 9月末に発売されることが明らかとなったVOCALOID3。先週の記事では、VOCALOID3の中枢であるVOCALOID3 Editorを中心にその機能や性能についてレポートした。またそのレポートの中では実際の歌声サンプルも掲載し、VOCALOID2とVOCALOID3の音声比較できるようにしたが、記事掲載後にその歌声サンプルを追加しているので、まだ聴いていない方は、ぜひ確認してみていただきたい。今回は、VOCALOID3のライブラリとして、どんな企業からどんな製品が登場するのか、という観点から紹介してみることにしよう。



■ ボーカロイドストアで坂本美雨版など3種類が発売

 6月8日に行なわれたVOCALOID3の発表会だが、実は2部構成で行なわれていた。第1部となったのは、ビジネス街である大手町会場での記者発表会、そして第2部は秋葉原のイベントスペースで行なわれた発表パーティーであった。1部が報道陣向け、2部が一般ユーザー向けという発表会は時々あるが、このVOCALOID3の発表会はどちらも報道陣向けであり、ダブっている人がいたり、違う人だったり……。しかも、発表内容が1部と2部でかなり異なるという、ちょっと異例の発表会となっていた。

発表会の第2部の内容は、ニコニコ生放送で中継されていた

※ニコニコ生放送のキャプチャ画面は、ドワンゴの許可を得て掲載しています

 簡単にいうと1部では、VOCALOIDマーケットの現状分析とともに、新バージョンとなるVOCALOID3 Editorに関する発表、2部はVOCALOID3 Editorを紹介した後、サードパーティーがリリースする歌声ライブラリに関する紹介がメインとなっていたのだ。その2部の内容については、ニコニコ生放送で中継されていたため、ご覧になった方も少なくないだろう。今回は、その2部で発表された歌声ライブラリを中心にまとめてみたい。なお、筆者は1部、2部ともに参加したのだが、2部はかなりの満員状態で、なかなか写真撮影が難しかった。ニコニコ動画を運営しているドワンゴから、放送内容のキャプチャ写真の掲載許可をいただいたので、それらも交えながら見ていくことにしよう。

 先週も紹介したとおり、VOCALOID3では、歌わせるためのデータ入力ツールであるVOCALOID3 Editorと、歌声をサンプリングしたデータベースである歌声ライブラリがそれぞれ別売となる。そのため、複数の歌声のVOCALOIDを購入する場合でも入力ツールであるVOCALOID3 Editorは1つ購入すればいいわけだ。そのVOCALOID3 Editorはヤマハがビープラッツに委託運営している通販サイト、ボーカロイドストアを通じて販売される。流通方法は確定していないとのことではあったが、パッケージ販売と同時にダウンロード販売もされる模様だ。

 そのボーカロイドストアを通じてヤマハ・オリジナルの歌声ライブラリが3種類リリースされることが発表された。まずは現在VOCALOID2バージョンとしても販売されている女性ボイスのVY1、男性ボイスのVY2のVOCALOID3版だ。さらに坂本美雨さんをCVに採用したものもリリースされるという。VY1 for V3およびVY2 for V3は9月末のVOCALOID3 Editorの発売とほぼ同時期にリリースされるとのことだったが、坂本美雨さんの歌声ライブラリの名称や発売時期については明らかにされなかった。


VOCALOID3 Editor女性ボイスのVY1、男性ボイスのVY2のVOCALOID3版が登場


■ 初音ミクのVOCALOID3変換ライセンス無償提供へ。「Megpoid Extend」も

初音ミクなどをVOCALOID3用に変換して使うライセンスを無償提供すると話す、クリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之代表取締役

 次に発表されたのは、VOCALOID2の爆発的ヒットの最大の立役者であるクリプトン・フューチャー・メディアの対応。所用で参加できなかったという代表取締役の伊藤博之氏はビデオメッセージで、VOCALOID3のエンジンについて細かく検証を行なっている最中であり、VOCALOID2を3へ変換する精度についても確認しているところだ、と話す。問題なければ、初音ミクや鏡音リン・レンなどのVOCALOID2からVOCALOID3へ変換して使うライセンスを無償提供するが、時期については今後検討する、とのこと。一方、気になる初音ミクなどのVOCALOID3版についてはリリースの予定はない、としている。こうした検証が終わった後に、VOCALOID3対応製品については検討していくという。

 がくっぽいど、Megpoid、Lily、ガチャッポイドを発売しているインターネットの代表取締役、村上昇氏は、この会場でいくつかの発表を行なった。まずVOCALOID2用の各製品のVOCALOID3への変換は無償で可能にするとした上で、それぞれのVOCALOID3版もリリースする予定とのこと。ただ、作業には時間を要するので、9月末に一気にリリースというわけにはいかないが順次行なっていくとのこと。またVOCALOID3版を作るにあたっては、現在あるレコーディングデータがそのまま使えるものと、新たにレコーディングし直さなくてはならないものもあるようだった。

 さらに新製品としてMegpoid Extendを開発中だ。これはMegpoidに声のバリエーションを加えるもので、初音ミク・アペンドのMegpoid版ともいうべきもののようだ。バリエーションとしてはPOWER、WHISPER、ADULT、SWEETの4種類があり、これをVOCALOID3用にリリースする。これのVOCALOID2版も検討しているようだが、タイミング的に出せるかどうか、マーケットの反応およびヤマハ側の意向も踏まえて現在調整中という。


インターネットの村上昇代表取締役新製品としてMegpoid Extendを開発中


AHS代表取締役の尾形友秀氏

 氷山キヨテル、歌愛ユキ、miki、猫村いろはを発売しているAHSは、代表取締役の尾形友秀氏が登壇し、さまざまな取り組みをしていることを発表した。まず、現行製品のVOCALOID3版のリリースはない、とした上でVOCALOID3へのインポートは問題なくできる、という。またこれらとはまったく別の新タイトルとして2製品を開発している。この2製品は、「よりリアルな歌声の追求」という観点からの製品になるが、その2製品以外にも複数の企画が持ちあがっているようだ。

 さらに、「歌声だけではなく、さまざまな方向性のデータベースを作成」と、妙なアナウンスを行なった。つまり、人間の声以外のVOCALOID3を出すというのだ。後で尾形氏に聞いてみたところ「動物の声や実際に生存していない発声というのも研究しております。宇宙人ボカロみたいな形で出せればと思ってます」とのこと。どんなものが飛び出してくるのか、かなり楽しみだ。

 そして、もうひとつ動き出しているというプロジェクトが、AHSとボカロP(VOCALOIDを用いて楽曲やビデオ制作を行なうプロデューサー)が作るボーカロイド企画「VOCALOMAKETS(ボカロマケッツ)」だ。VOCALOMAKETSとは「VOCALO(ボーカロイド)+MAKE(作る)+TS(なんとなく付けた)」という意味から作ったボカロ制作に関わるチーム名。尾形氏によると「VOCALOMAKETSはBumpyうるし、PYS/ぱやP、にいとP、ちょむP、喜兵衛、かごめP、azumaの7名のメンバーで構成され、すでに2年近くいろいろと研究をしております。実際に制作するのはAHSになりますが、いままでボカロPとして活躍してこられたみなさんが集まってボカロをプロデュースし、製品化していく予定です」とのこと。従来とはひと味違ったVOCALOIDが登場してくるのかもしれない。

 そのほかにも、これまでVOCALOID製品を手がけてきた海外メーカーである、イギリスのZero-G LimitedのDom Keefe氏、スウェーデンのPowerFX LimitedのBil Bryant氏もビデオで登場。両氏とも、VOCALOID3について絶賛するとともにVOCALOID3発表の祝辞を述べ、Zero-Gでは2つのパッケージを、PowerFXでは3つのパッケージを開発中であることをアナウンスした。

イギリスのZero-G LimitedのDom Keefe氏スウェーデンのPowerFX LimitedのBil Bryant氏


■ 喜多村英梨さん、Liaさんの声もVOCALOIDに

 ここまでお伝えしたのは、VOCALOID2を手がけてきたベンダーのVOCALOID3への対応だが、VOCALOID3登場のタイミングで新たに参入してくる企業、団体も数多くある。順に紹介していこう。

ヒロトPこと、共同テレビジョンの出雲裕之プロデューサー

 まずは今年の正月に地上波TV初のボーカロイド番組「VOCALO Revolution」の企画・制作を行なったボカロレボリューション製作委員会。壇上にはヒロトPこと共同テレビジョンのプロデューサー出雲裕之氏が登場した。この番組ではCULというキャラクタが登場していたことをご存知の方もいると思うが、このときはVY1の声が使われていたのだ。しかし、VOCALOID3の登場を機に、CULはVer2.0へと進化。インターネット社の協力を得てVOCALOID3の歌声ライブラリをリリースするというのだ。そして気になるCVには、人気声優の喜多村英梨さんを起用。その喜多村さんも登場し、すでに先月レコーディングも終えたことを語った。

 「まさかVOCALOIDというビッグタイトルに自分が関われるとは思っていなかったので驚きでした。まったく実感がわかないままいきなり『これ、歌ってください』といわれて収録したのです。これまでアニメ、アフレコなど、いろいろな仕事をしているけど、まったく新しい形での収録だったので新鮮で楽しかったです」と喜多村さん。発売時期や価格などは明らかにされなかったが、大きな注目の的となりそうだ。

VOCALOID3の登場で、CULはVer2.0へ喜多村英梨さんが登場


Liaさん

 これまでVOCALOID製品の多くは声優が中の人として歌声ライブラリが構築されてきた。VOCALOID3でもその流れは続きそうだが、声優ではないシンガーも増えてきそうだ。そのひとつとして、登場するのはアニソンなどを中心にポップス、ジャズ、クラシックと幅広いジャンルの楽曲を歌うLiaさんのVOCALOID3ライブラリだ。


1st PLACE。社長の村山久美子氏

 発売元となるのはLiaさんの所属事務所である1st PLACE。社長の村山久美子氏は「まだ製品、詳細を説明できる段階ではありませんが、制作スタッフが一生懸命作っています。ボーカロイドクリエイターに役立つライブラリを作っていきたい」と挨拶。続いて登場したLiaさんは「普段歌うのとはまったく違う収録だったので、面白く楽しい経験をしました。VOCALOIDのLiaバージョンが発売されるのが待ち遠しいです。ぜひ、生身のLiaが歌えないような歌をみなさんにプロデュースしてもらえたらな、と思います」と語った。



■ アニメ、アイドルの分野にも新展開

 続いて登場したのはアニメーション制作会社であるスタジオディーンの専務取締役、野口和紀氏。同社とネット検索エンジンの運営などを手がけるサーファーズパラダイスが共同でi-style projectなるものを立ち上げるという。

 「i-styleのiはアイドルのiと、私のiを掛け合わせたもの。これまでのボーカロイドユーザーにはもちろん、これまでまったく使ったことのないライトユーザーにも使っていただきたいと思っています。またボーカロイドとの新しい形のライフスタイルの提案をしていきたい」と野口氏。「絵師はCARNELIANさんにお願いしました。青と透明感、可憐さがコンセプトになっています」と現在制作中のキャラクタも披露された。

スタジオディーンの野口和紀専務取締役i-style project

 次は「もふくちゃん」の名で知られるモエジャパンの社長、福嶋麻衣子氏の登場。モエジャパンは秋葉原を拠点にライブハウスやDJバーなどを展開するとともに、50人のアイドル、アーティストが所属するレーベル&プロダクション事業、さらには他社コンテンツとのコラボレーションを行なうコンテンツプロデュース事業と多角的な展開を行なっているが、そのコンテンツプロデュース事業の一つとしてVOCALOID3に参入するという。

 ここで打ち出したコンセプトが「2次元のボーカロイド+3次元のアイドル=ボーカロイドル」というもの。まさに「会いに行けるボーカロイド」を作るということで、モエジャパン所属のアーティストがCVとなるボーカロイドを制作し、そのアーティスト自体は、同社のDJバーなどに行くと会える、というわけだ。「キャラクタ名やビジュアルはこれから。ボーカロイドルというコンセプトに乞うご期待ください」(福嶋氏)。

モエジャパンの福嶋麻衣子社長「ボーカロイドル」を発表

 ところで「みんなのボカロ計画」というものをご存知だろうか? これは「VOCALOIDというキャラクターをみんなで育てていく」という目的の元、同人総合イベントであるVOCALOID FESTAを通じて一般公募でキャラクタを募集し、VOCALOID FESTAとヤマハが審査をし、優秀作品を公開するとともにVOCALOID化を実現していくというもの。その第一回が先日行なわれ海外からの応募も含め850以上の作品が集まり、最優秀賞2作品、優秀賞2作品、そして入選5作品が先日のVOCALOID FESTA 02で発表されたのだ。

 その最優秀作品というのが「リング・スズネ」と「ヒビキ・ルイ」。応募された作品を「メルト」(supercell)のイラスト担当で知られる119(ひけし)氏がリファインしたものが公開されたのだが、まず「リング・スズネ」をVOCALOID3にする、というのだ。

 壇上に登場したVOCALOID FESTA代表の鈴木龍道氏は「リング・スズネちゃんのCVはDaisy×DaisyのMiKAさんに担当してもらいました。ぜひみんなで遊べるものを作りたいと思います」とMiKAさんとともに挨拶した。このリング・スズネのリリースだが、「発売ではなく、頒布という形態で予定しております。 流通経路につきましては、検討中ですが、初頒布は、VOCALOID FESTAになる可能性が高いかもしれません」(鈴木氏)。またルイのVOCALOID3化も検討が進んでおり、あくまでも予定ではあるが、来年の春ごろのリリースを想定しているとのことだ。

「みんなのボカロ計画」の内容リング・スズネヒビキ・ルイ
VOCALOID FESTA代表の鈴木龍道氏Daisy×DaisyのMiKAさん

 以上盛りだくさんのVOCALOID3の歌声ライブラリのリリース予定についてまとめてみたが、いかがだっただろうか? VOCALOID2時代と違い、膨大な数のライブラリが出てきそうで、全部のキャラクタを覚えるのは大変になるかもしれない。もちろんユーザーにとって選択肢が増えるというのは歓迎すべきポイント。VOCALOID3 Editorもライブラリも9月末からの登場とのことで、待ち遠しいところだ。


(2011年 6月 20日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]