第467回:オリンパスのフルHD動画対応PCMレコーダを試す

~音質重視の動画撮影が可能、実売3万円の「LS-20M」 ~


LS-20M

 6月17日、オリンパスよりフルHD動画も撮れるリニアPCMレコーダー、LS-20Mが発売された。映像なしの音だけのレコーディングも可能で、最高24bit/96kHzまで対応している。機能的に見ると先日紹介したLS-7より圧倒的に上ではあるが、実売価格は30,000円前後と5,000円程度しか差はない。どの程度の性能を持っているのか試してみた。



■ LS-7同等のPCMレコーダ機能に動画撮影も追加

 動画が撮れるリニアPCMレコーダというと、ZOOMのQ3を思い浮かべる人も多いだろう。現在はフルHDに対応したQ3HDというものも出ているようで、こちらは定価が29,400円と非常に安価に設定されている。筆者はQ3しか触ったことがないが、音のレコーディングだけでみると、Q3は入力レベル設定がLowとHighの2段階切替か、自動レベル調整しか選べないという点で、ちょっと興味の対象外となっていた。

 その点ではQ3HDも同様なため触っていなかったのだが、今回紹介するオリンパスのLS-20Mはマニュアルで入力音量設定ができるというのはもちろんのこと、レコーディングの機能的に見て他の専用のリニアPCMレコーダに引けをとらない仕様となっているのだ。実際フォーマット的には非圧縮のWAVが4種類と、MP3が2種類で、下表の通り。

録音フォーマット音質
WAV24bit/96kHz
24bit/88.2kHz
16bit/48kHz
16bit/44.1kHz
MP3320kbps
256kbps
PCMの録音モードMP3の録音モード


録音レベルはマニュアル/オートから選べる

 録音の入力レベルはマニュアルとオートの双方を選択できるが、マニュアルとした場合、録音レベルを0~30の31段階で設定できる。さらにマイク感度を高と低のいずれかに設定できるようになっている。また、リミッターも標準搭載されており、ON/OFFでの設定が可能なため、いざというときの保険として活用できる。またローカットフィルタも用意されており、こちらは100Hz、300Hzから選択できるようになっている。

マイク感度の設定リミッターON/OFFも可能ローカットフィルタの設定

 またリニアPCMレコーダにとって音質を決める最大のポイント、内蔵マイクには大口径のものが使われているとのこと。細かなスペックは公開されていないので分からないが、見た目では直径7mm程度のコンデンサマイクが外側に向けて左右90度の角度で配置されている。マイクのハウジングは内側からコンデンサマイク、ショックアブソーバー、メッシュグリル、マイクケースの順に装着されている。

コンデンサマイクが外側に向けて左右90度の角度で配置
マイクの外観と内部構造

 こうしたスペックを見る限り、先日紹介したオリンパスのLS-7と比較して、リニアPCMレコーダとしての基本機能はほとんど変わらない。とはいえ、LS-20Mはビデオの録画機能が搭載されているだけに、見た目にもいろいろ違うし、サイズ的にも大きくなっている。外形寸法は135×63×18.1mm(縦×横×厚さ)、重量は電池込みで154g。LS-7が手元にないため直接比較できないが、いくつかの機材と並べてみたので確認してほしい。

他のレコーダなどと比較。左からRoland R-05、YAMAHA POCKETRAK C24、OLYMPUS LS-20M、TASCAM DR-05、iPhone 3GS


■ 構えはPCMレコーダのスタイル。2つのディスプレイを搭載

 LS-7と比べた際の大きな違いは、まずステレオのマイクの間にカメラレンズが配置されていること。撮像素子は1/4型5MピクセルのCMOSセンサーで、有効画素数は293万画素(16:9)、219万画素(4:3)。これで1080pフルハイビジョンの撮影ができるわけだが、このことからもわかるとおり、撮影する対象に、LS-20Mの先端(天面)を向けるのだ。

 確かに音の方向に向けて録るリニアPCMレコーダとしては自然ではあるが、映像を映し出す液晶モニターと90度の関係にあることに最初ちょっと違和感を覚える。つまり普通は胸や腹の位置に構えて使うわけだ。ちなみに高い位置で撮影する場合は、頭上に構えて使う体勢(液晶画面が下向き)になり、録画結果が天地逆さまになってしまう。それに対応させるため、モード設定で「反転録画」というものも用意されている。

ステレオのマイクの間にカメラレンズが配置胸や腹の位置に構えて使うモード設定に「反転録画」も用意


メインディスプレイの下部にサブディスプレイを備える

 もうひとつ形状的な違いとして挙げられるのは、2.0インチのカラー液晶と録音状態などを確認するためのサブディスプレイの2種類の液晶ディスプレイが搭載されていること。これが意外と便利で、ビデオを撮影する場合、大きいディスプレイで映像をモニタリングできる一方、録音レベルメーターや経過時間は小さいディスプレイで確認できる。また音だけをレコーディングする場合には、大きいディスプレイは消え、小さいディスプレイだけで操作する形になるのだ。

 メニューでの各種設定は大きいディスプレイと、十字キーを用いて行なうため、操作性はなかなかいい。また動画モードの場合のメニュー項目と音声モードの場合のメニュー項目は異なるものになり、それぞれ独立しているというのも分かりやすいところだ。ちなみに、動画モード/音声モードの切り替えは、右サイドにあるモード切替スイッチで行なう。


音声のみの場合はサブディスプレイだけの表示になる十字キーなどの操作ボタン部動画/音声記録の切り替えは側面のスイッチで行なう

 そのほかの基本スペックを見ていくと、まず記録メディアはSD/SDHCカードで、カラー液晶ディスプレイの右側のスロットに入れるようになっている。その反対側には2つのミニジャックが搭載されている。1つは外部マイク端子で、もうひとつがヘッドフォン端子。外部マイクはプラグインパワーにも対応している。

SDカードスロット部マイク端子とヘッドフォン端子は側面に外部マイクはプラグインパワーに対応

 一方リアパネルを見るとスピーカーが内蔵されていることが分かる。これはモノラルスピーカーであり、ヘッドフォンが挿さっていない場合、動作するようになっている。またその下には、三脚用の穴、そしてバッテリのフタがある。バッテリは専用のリチウムイオン充電池で、スペック上の電池持続時間は以下のようになっている。これを見ると音声だけでレコーディングの場合、24bit/96kHzでも16bit/44.1kHzでも3時間45分となっており、他のリニアPCMレコーダと比較するとかなり短めなようだ。

背面にスピーカーを内蔵バッテリ収納部

音声モード音質内蔵ステレオマイク録音時内蔵スピーカー再生時イヤフォン再生時
リニアPCM24bit/96kHz3時間45分4時間15分4時間25分
24bit/88.2kHz
16bit/48kHz
16bit/44.1kHz
MP344.1kHz
320kbps
4時間4時間30分4時間35分
44.1kHz
256kbps


底面にUSBとHDMIを装備

 そのほかの接続端子としては、底面にUSB端子とHDMI端子が用意されている。USB端子は充電用に利用するほか、PC接続とした場合には、ストレージとPCカメラとしての利用法が用意されている。HDMI端子のほうは、オプションのケーブルを使うことで、動画を外部ディスプレイへ表示できるようになっているのだ。



■ 音声のステレオ感/立体感は良好。遊べる動画エフェクトも

 さっそく、このLS-20Mを音声モードでリニアPCMレコーダとして使ってみることにした。いつものようにヘッドフォンをつけて、鳥の鳴き声を録ってみようと思ったのだが、ここでちょっと問題が発生。わずかに風が吹いていたのだが、マイクが吹かれやすい構造のようで、かなり風切り音を拾ってしまうのだ。間にカメラがあるという構造上、ウィンドスクリーンもないので、仕方なく入力レベルを下げるとともに、ほぼ無風な時を狙って録ってみた。結果的には、かなり小さなレベルで鳴き声を捉えた格好で、後で波形編集ソフトでノーマライズをかけるとS/Nが落ち、音もやや荒くなってしまっている。野外での録音にはあまり向いていない、ということかもしれない。ただステレオ感、立体感というものはとてもハッキリしており、90度に設置されたマイクがうまく働いていることが感じられる。

 一方、室内ではそうした問題もなく、しっかりしたレベル設定で録音することができる。こちらも、いつもと同じ環境でモニタースピーカーからのCDの音を24bit/96kHzでレコーディングしてみた。ほかの機材との比較をしやすくするために、24bit/48kHzに変換した結果を波形分析してみたものがこれだ。LS-7の2マイクのときのグラフと比較して、極端な違いはないが、強いて言うと、左から右、つまり低域から高域にかけて、より単調に減衰しているように見える。で、音を聴いてみると、とてもキレのあるサウンドだが、ややクセがあるようにも感じた。ほかの機材で録音した音と比較して、高域が強調された感じであり、とくに「サシスセソ」の「S」の発音がキツ目に出ているように思えるのだが、いかがだろうか? もちろん、この辺は好みの問題もあるので、ぜひいろいろと聴き比べていただきたい。

24bit/96kHzでレコーディング後、24bit/48kHzに変換した結果の波形LS-7の2マイク利用時LS-7の3マイク利用時

 

録音サンプル:野外生録
bird.wav(14.4MB)
録音サンプル:楽曲(Jupiter)
music1644.wav(6.95MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは24bit/96kHzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 では、動画モードのほうは、どんなものだろうか? 筆者はビデオカメラに関しては素人なので、素人レベルとして見た使い勝手と感想ということでご容赦願いたい。こちらは小寺さんの「Electric Zooma! 」でも取り上げるとのことだから、詳しくはそちらを見ていただくとして、まずはその概要から。

 まず画質の設定を行なうのだが、メニューを見ると「1920×1080 30fps」、「1280×720 30fps」、「640×480 30fps」の3つから選択できるようになっている。それぞれの画質において、使う音質も選択するのだが、「1920×1080」と「1280×720」の場合はリニアPCMレコーダとして使う場合と同様に、24bit/96kHz、24bit/88.2kHz、16bit/48kHz、16bit/44.1kHzの4つから選ぶ形になる。一方「640×480」の場合はMP3の320kbpsか256kbpsに限定される。そして録画したデータはMOV(MPEG-4 AVC/H.264)形式で保存される。当然、このファイルの中にオーディオデータも含まれる形だ。

【動画サンプル】

sm21.mov(49.5MB)
踏切を通る電車を撮影
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ここでは「1920×1080」で16bit/44.1kHzに設定した上で、近所の踏み切りに行って電車を撮ってみた。デジタルズームで4倍まで拡大できるなど、使い勝手は良好。ただ、ここでも問題になったのが風。動画を見ても分かるとおり、大した風が吹いているわけではないが、これを大きく拾ってしまう。目の前を走る電車の音よりも風切り音が大きくなってしまうため、入力レベルをかなり下げている。

 日中の明るい時間に撮っているということもあるのだろう。画質的には筆者には十分すぎるもののように感じられた。三脚を立てず手持ちで撮影しているため、手振れが結構目だってしまった。それなりに固定して持っているつもりであり、手振れ補正もオンにしてあるのだが、これが素人の撮影能力、といったところなのだろうか……。


 

マジックムービーの設定画面

 一方、その素人にとって面白かったのが、映像にエフェクトがかけられるという点。マジックムービーという機能をオンにすると、撮影結果にさまざまなエフェクトがかかる。2階調画像で、ロックなムードを演出するRock、見慣れた風景がポップアートな世界に変わるPop、レトロな雰囲気にするPinhole、すべての輪郭を線画で描写するSketchの4種類があり、Rockでは背景の色をデフォルトのマゼンタ系のほかに、シアン系、グリーン系の3種類から選択できるようになっている。Popに関しては、イマイチその効果がよく分からなかったが……。


 

【動画サンプル】

sm25.mov(8.65MB)

sm26.mov(11.3MB)
RockPop


sm27.mov(7.63MB)

sm28.mov(24.3MB)
PinholeSketch
編集部注:フルHDで撮影後、Corel VideoStudio Pro X4でリサイズしています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 以上、動画撮影機能付リニアPCMレコーダ、LS-20Mについて見てきたが、いかがだっただろうか? 高画質な動画撮影機能も搭載されて3万円を切るというのはやはり驚きだ。10万円程度のビデオカメラと比較しても、かなり高音質な録音性能を持っているわけだから、音重視の撮影機材として見れば、非常にコストパフォーマンスが高い製品といえる。もっとも音質だけを厳密に比較すると、専用のリニアPCMレコーダと比較して若干の引けをとるように思えたが、それでもこの価格なら十分に納得いくレベルではないだろうか。


(2011年 6月 27日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]