第471回:小室哲哉も登場。「YAMAHA & Steinberg EXPO」
~新プラグイン/iPhoneアプリ続々。VOCALOID 3展示も ~
入口のポスター |
7月30日、東京・表参道にある青山スパイラルで、「YAMAHA & Steinberg EXPO 2011」というイベントが行なわれた。「キーボーディスト、クリエーター。すべてのミュージシャンへ贈るスペシャルイベント。」と題されて行なわれたこのイベントには1,000人近い人が集まり大盛況となっていたが、各ブースには新製品や参考出品なども登場していたので、これらについて紹介してみよう。
■小室哲哉氏が15年ぶりにヤマハのイベントに出演
今回の「YAMAHA & Steinberg EXPO 2011」は一昨年5月にSteinberg設立25周年記念として行なわれた「The Steinberg Day 2009」に続くイベント。SteinbergのDAWであるCubase 6、新音源のHALion 4とともにYAMAHAのシンセサイザ、MOXシリーズなどを前面に出した展示会で、600人が入るというホールでさまざまなライブイベントも行なわれた。一番の目玉となったのは小室哲哉氏による「TK Special Talk&Live」。
ヤマハのEOSシリーズではメインキャラクターを務めていた小室氏だが、ヤマハのイベントに出演するのは1996年以来15年ぶりとのこと。ここでは、小室氏が最初に触れたシンセサイザといった話からTM Networkデビュー当時のDX7との付き合い、さらにはEOSの開発秘話なども披露。トークイベントの前後にはライブ演奏も行なわれた。
小室氏のトークのほかにも、DE DE MOUSEや松村勝氏によるライブが行なわれ、そこでヤマハ/Steinberg製品であるCubaseやiPadなどが用いられていた。
ライブイベントの目玉「TK Special Talk&Live」 | 15年ぶりにヤマハのイベントに出演した小室氏 |
その一方、ブース会場側では、ヤマハ、Steinbergの各製品が展示されたほか、VST Plugin ZONEとして、プラグインのベンダー7社が集まり、新製品も展示されていたので、目立ったものについて紹介していこう。
■7年ぶりの新バージョン、Steinbergのソフトシンセ「HALion 4」
SteinbergのHALion 4 |
まず最初に紹介したいのがSteinbergの新ソフトシンセ、HALion 4。HALionといえばソフトサンプラーの代名詞的な存在であるが、この新バージョンは実に7年ぶりというもの。HALionSONICが出たときに、これがHALion 3の後継かと思っていたが、そうではなかったらしい。7月1日に発売されていたため、すでに筆者の手元でも使っていたのだが、これまでのVSTインストゥルメントの常識を覆すような音源となっているのだ。
DVD 2枚組みのシステムをインストールすると、膨大なサンプリングデータにより約11GBのHDDを消費するが、それだけに音色は豊富でかなり強力なサウンドを奏でることができる。とくにピアノやギターなどアコースティック系は圧巻だが、もちろん生楽器系に限らず、どんな音でも出せるマルチ音源だ。
またHALionだからサンプラーであるとばかり思っていたが、実は今回のHALion 4はバーチャルアナログシンセ機能も搭載しているのだ。さらに不思議だったのは、画面レイアウトが自由自在となっていること。普通VSTプラグインは、画面がほぼ固定となっていて、いかにもという格好をしているのだが、この多彩すぎるHALion 4では数多くあるエディタ画面やビューワー画面を自在にレイアウトできるのだ。非常にシンプルな画面で表示できたり、ラックやMIDI、ミキサーなどの画面を自在に配置できる。
さらに驚くのは、まさかのマルチウィンドウとなっていること。そう、プラグイン1つを起動しているのに、そのプラグインが複数ウィンドウで開かれてしまうのだ。やはりVSTの企画元であるSteinbergだからこそなせるワザなのだろうか。もちろん、プラグインとしてでなくスタンドアロンとしても動作するので、いろいろな使い方ができそうだ。
HALion 4はバーチャルアナログシンセ機能も搭載 | シンプルな画面で表示 | プラグインがマルチウィンドウで開ける |
■ iPhoneアプリ「Sonote Player」、CoreMIDI対応「Piano Diary」など
表参道の会場と渋谷のスタジオを回線接続して実演中 |
同じヤマハではあるが、MOXシリーズやSteinberg製品を販売する部隊とはちょっと雰囲気が異なる研究技術系の組織、Y2 PROJECTもブースを出してさまざまな製品、技術を展示していたのも非常に面白かった。
まず目立っていたのが以前にも紹介したインターネット越しにセッションが行えるNETDUETTOの実演。表参道の会場と、渋谷のスタジオを回線接続し、ギターのセッションが行なわれたのだ。ここで使われていたのは先日新たにリリースされたMac版のNETDUETTO β。画面や使い勝手などはWindows版とまったく同じでWindows版との接続ももちろん可能となっている。
iPhoneアプリ「Sonote Player」は年内のリリースに向けて準備中 |
また、これまでいくつかのイベントで展示されていたiPhoneアプリ、「Sonote Player」も参考出品された。これは「sonote technology」=「グッとくる音を直感的に扱うための技術」をiPhone上で実現したもの。
「sonote」というのは音の断片を意味するヤマハの造語で、0.1秒とか0.2秒といった短い音。曲やフレーズを読み込ませると、スネアの一発や、「アっ」という声など、曲の中で「これ!」と思う音の数々をソフトが自動的切り出すのだ。そうした音の断片をデータベース化した上で、似た音を分類した上で、近い音に差し替え可能にするというのがsonote technologyなのだ。
Sonote Playerは、それを実現するためのアプリであり、年内のリリースに向けて準備中とのこと。価格や具体的なリリース時期はまだ決まっていないとのことだが、実際触ってみるととても楽しいテクノロジーなので、ぜひ登場を期待したいところだ。なお、SOUNDCLOUD上にSonote Playerを使って演奏したデモ曲がいくつかアップされているので、聴いてみると面白いだろう。
使い込むほどに可能性の広まるiPhoneアプリ「Piano Diary」 |
同じくiPhoneアプリで、このイベント前日の29日に正式リリースされたのが「Piano Diary」。これは無料アプリとしてリリースされたMIDIアプリなのだが、なかなかユニークなもの。一言でいえばCoreMIDIを利用してMIDIキーボードで演奏した内容を記録したり、再生したりできるシンプルなMIDIシーケンサ。しかし、単なるシーケンサというわけではなく、それをクラウドと組み合わせた実験的なアプリとなっている。
まず、使用する際、TwitterかFacebookのアカウントの登録を促されるが、これはソーシャル機能を持たせるというより、クラウド接続する上での認証の手段。その後、Camera Connection KitやiMX-1などを介してMIDIキーボードへ接続し、録音ボタンをオンにすると、キーボードでの演奏内容が記録される。記録できるのはノートデータはもちろん、プログラムチェンジ、コントロールチェンジ、ピッチチェンジなど(エクスクルーシブには非対応)。そして、このデータを保存すると、クラウドに保存されるようになっていて、いくらでも記録していくことができるのだ。
このデータはCoreMIDI経由でMIDI機器で再生できるだけでなく、iPhoneで鳴らすことも可能。またDiaryというだけあって、演奏した結果がカレンダー上に日記のように記録されていき、それを後日、プレイバックすることが可能になっている。実はPiano DiaryにはXG Lite相当のソフトシンセが入っているため、これを利用することができる。
見かけ上は14音色が使えるようになっているのだが、初期段階ではピアノ、エレピ、オルガン、オルゴールの4音色だけが使え、残り10音色にはロックがかかっている。これはいっぱい演奏=練習するとロックが外れていくようになっているほか、この演奏をYouTubeにアップする数が増えてくると外れていくとのこと。もっとも、内蔵されているのは14音色だけでなくXG Liteのフル音色があり、プログラムチェンジを使うことで、全音色鳴らすことができるそうだ。
なお、YouTubeへのアップロード機能においては、演奏したMIDIデータをソフトシンセでレンダリングしてオーディオ変換するのだが、これはクラウド上で行なうため、iPhone側のパワーは食わない。また映像化するために、手元に写真をアップロードできるようになっているのもユニークなところだ。
編集機能などはないが、使いようによっては、結構いろいろなことができそうなアプリだが、なぜ無料で公開しているのか、ちょっと不思議に感じるところ。この点について質問してみたところ、「クラウドの活用法を考える上の実験的な意味もあって無料公開しました。一方でピアノのレッスンといった事業との組み合わせも模索していきたいと思っています」とのこと。先日のテノリオン(TENORI-ON)のアプリなど、次々のiPhone/iPad用のアプリをリリースしているヤマハだが、さまざまな部署で取り組んでいるだけに、幅の広さを感じさせられた。
演奏した結果がカレンダー上に記録されていき、後日プレイバックすることが可能 | 初期段階では4音色だが、沢山演奏(練習)したりYouTubeにアップすることでロックが外れていく |
■VOCALOID 3も初めて体験
ところで、このY2 PROJECTのブースを見ていてちょっと驚いたのは「VOCALOID 3」をさりげなく展示していたこと。先日記事にも書いたとおり、VOCALOID 3は9月末リリース予定のもので、まだ一般にはほとんど公開されていない。
筆者も発表会の会場で見たり、VOCALOIDの生みの親である剣持秀紀氏がニコニコ生放送などでデモをしているのを見かけた程度で、実際に触ったことはなかった。が、そのVOCALOID 3が無造作に(?)置かれていて、誰でも自由に触れるようになっていたのだ。そんなチャンスはなかなかないので、筆者はのめり込んで使ってみたのだが、VOCALOIDに興味のある人が会場に少なかったのか、それともあまりにも目立たない形で置かれていたので気づかなかったのか、ほとんど反応はなかったようなのだ。
確かにVOCALOID 3が展示される旨のアナウンスは一切なかったし、会場にはVOCALOID 3の表示はまったくなかったのだが、画面を見れば分かったはずなのに……。実際に触ってみるとかなりUIが変わったことを実感したのとともに、コントロールチェンジやベロシティ、ピッチなどのパラメータを変化させた際の効き具合が非常に強くなっていたのが印象的だった。
またJobスクリプトというプラグインが使えるのが面白かった。社内で作ったと思われるプラグインがいくつか10種類ほどサンプルで入っていたが、ノートを全部選択して、「スタッカート」を実行すると、すべてのノートがスタッカートになったり、「ケロケロ」を選択すると、音程がケロケロボイスになるなど……。デフォルトでこれらのプラグインが用意されるのか、ボーカロイドストアなどからダウンロードする形になるのかは明らかにしてもらえなかったが、この辺はとても楽しみなところだ。
「VOCALOID 3」の画面 | Jobスクリプトというプラグインが使え、10種類ほどがサンプルとして入っていた |
■サードパーティーが参加するVST Plugin ZONEも
さて、今回のイベントにはVST Plugin ZONEにサードパーティーも7社ほど参加している。具体的にはイーフロンティア、クリプトン・フューチャー・メディア、ディリゲント、ハイ・リゾリューション、フックアップ、宮地商会、メディア・インテグレーションの各社。先日の「Macで音楽祭り2011」で出品されていたものも多かったが、そうでないものをいくつかピックアップしてみよう。
まずイーフロンティアが出していたのは発売したばかりのAntaresのマイクモデリングプラグイン、「Mic Mod EFX」だ。これはあるマイクでレコーディングした音を別のマイクでレコーディングした音のように変換するというプラグインで、ボーカルはもちろん、ギターやピアノなどさまざまな楽器にも適用できるユニークなもの。
たとえばShureのSM58で録音したボーカルをNeumannのU87で録った音のように変換可能というわけだ。変換元、変換先のマイクをメニューから選択するのだが、有名どころのマイクは一通りそろっており、トータルで133のモデルがある。またProximityというパラメータをいじると、マイクからどのくらい離れて録ったかを設定できるようになっており、オンマイクからオフマイク、アンビエントマイクまで自由に選べるわけだ。さらには真空管アンプシミュレーターまで搭載されているため、かなり幅広い音作りができる。パッケージ版は15,800円、ダウンロード版は12,800円となっている。
Antaresによる「Mic Mod EFX」 | 133のマイクが入っている |
Wavesのオープンリールシミュレータ・プラグイン「MPX Master Tape」 |
同様に音を変換するプラグインとしては、メディア・インテグレーションが展示していたWavesのプラグイン、「MPX Master Tape」が面白かった。これはオープンリールのシミュレータでDAWの各トラックやマスタートラックをテープで録音したような音にするためのもの。Ampex 350のトランスポート部と、Ampex 351の回路を組み合わたというこのプラグインではテープによる音の歪やノイズなどを再現するのはもちろんのこと、テープスピードを変えることでピッチやテンポをいじることも可能。
プラグインが動作中は画面のオープンリールがアニメーションで回るところも面白い。またこれにも入力側、出力側それぞれに真空管アンプシミュレータが搭載されており、テープを止めた状態でも真空管を通る音を再現できるようになっている。これは定価で12,600円となっている。
クリプトン・フューチャー・メディアがデモしていたのはスウェーデンのソフトシンセメーカー、SONIC CHARGEの「SYNPLANT」という風変わりな育てるシンセ。遺伝子工学的なアプローチによって種からサウンドを育て、個性を持つ多彩な本格派シンセサイザー・サウンドを栽培するというのだが、ちょっと触らせてもらった。これはまず起動すると1粒の種が蒔かれ、そこから、植物のように茎・葉が伸び12種類のまったく異なるサウンドを出す音源へと育つ。どんな音ができるかは、あくまでもランダムによる偶然であるため、ユーザーが設定するわけではない。その中で気に入った傾向の音があれば、それを選択すると、その遺伝子を持つ音がまた12種類できるのだ。
さらに、その中から気に入った音を選んで、そこから12種類を成長させて……といったことを繰り返すことによって、自分の作りたい音へと進化させていくというのだ。一応、パラメータをいじることも可能となっているが、これも一般のシンセのようにゼロから音を作るのではなく、まさにDNAのような遺伝子情報の一部をパラメータとしていじって変化させる風変わりなエディタだ。完成したサウンドは保存することで、いつでも呼び出して演奏できるというわけだ。ダウンロード販売となっており、価格は8,085円だ。
スウェーデンのソフトシンセメーカー、SONIC CHARGEの「SYNPLANT」 | 1粒の種から植物のように茎・葉が伸び、12種類の異なった音源へと育つ | DNA情報のようなデータの一部をパラメータとして、様々に変化させられる |
Slate Digitalのマスタリング用プラグイン「FG-X」 |
もうひとつ、宮地商会が展示して注目が集まっていたのがSlate Digitalの「FG-X」というマスタリング用プラグイン。COMP、LEVEL、TRANSIENT SECTIONなどのユニットで構成されているのだが、その自慢は音圧レベルを自在に調整できるLEVEL。聴感上の音量レベルを上げ下げすることで、簡単に操作できるようになっている。オープン価格だが実売が25,000円前後となっている。
以上、YAMAHA & Steinberg EXPO 2011で見つけた製品やサービスについて紹介してみたがいかがだっただろうか?
Y2 PROJECTの発表した技術など、まだ発展途上の気になるものもいろいろあるので、また動きがあれば紹介していきたい。