藤本健のDigital Audio Laboratory

第585回:Windowsエクスプローラを音楽制作ツールにした「QuickAudio」を試す

第585回:Windowsエクスプローラを音楽制作ツールにした「QuickAudio」を試す

QuickAudio

 DAWや波形編集ソフトといったオーディオ系のツールそのものではなく、OS自身というかGUI部分をカスタマイズすることで、PCでオーディオを扱いやすくするというユニークな発想のソフトが登場した。新潟のベンチャー企業、Tsugiが開発した「QuickAudio」というWindows用のソフトだ。

 Windowsでファイルを閲覧するエクスプローラ(Explorer)そのものをオーディオツールへと変身させ、DAWや波形編集ソフト、さらにはオーディオミドルウェアとシームレスに統合するというのだ。9,900円のソフトだが、オンラインソフトとなっており、15日間は無料で使うことができ、気に入ったらライセンスキーを購入する、という方式。今回は、そのお試し期間中に使ってみたので、どんなことができるのか、レポートする。

ファイルのアイコン内に波形まで表示。シンプルな波形編集機能も

 TsugiのQuickAudioのサイトからソフトをダウンロードしてみると、27.7MBの小さなサイズのソフト。Windows 8.1のマシンにインストールしてみると、本当にすぐに完了する。が、どんなソフトなのかイマイチ理解せずにインストールしたため、最初、何をどうすればいいのか分からなかった。

 筆者はWindows 7風にするための「Start Menu 8」というツールを入れているので、スタートボタンからTsugiのフォルダを見てみると、「QuickAudio Tray App」というのがあったので、これを起動しても、なんら変化が起こらない。何度か繰り返してしまったが、QuickAudioはそもそも普通のアプリケーションではなく、常駐タイプのアプリケーション。「QuickAudio Tray App」もWindows起動時に自動的に起動、常駐しており、Windows 8.1標準のオレンジ色だとまったく目立たなかったが、タスクトレイに表示されていたのだ。

Tsugiのサイト内にあるQuickAudioのページ
セットアップ画面
QuickAudio Tray Appというソフトが
タスクトレイに常駐していた
アイコンは、同じWAV形式でも見た目がそれぞれ異なっている

 では、どうやって使うのか? これはオーディオファイルが入っているフォルダを開くとすぐにわかる。普通ならWindows Media PlayerとかiTunesのアイコンが表示されるはずのWAVファイルが何か変わった形のアイコンになっているのだ。アイコンをだんだん拡大していくと、同じWAVファイルではあるが、それぞれの音の波形が表示されているのが分かる。ちなみに、QuickAudioが認識するオーディオファイルはWave、AIFF、MP3、OggVorbis、FLACのそれぞれ。AACやWMAといったファイル形式には対応していないようだ。

それぞれの波形をアイコンに表示され、どういった音のファイルかがおおまかに判別できる
マウスオーバーでファイルの情報を表示

 さて、ここで、このオーディオファイル上でマウスオーバーすると、このファイルの情報が表示される。具体的にはファイル名、ファイルタイプ、デュレーション(時間)、チャンネル数、サンプルレート、ビット深度、ビットレートのそれぞれだ。

 ここで、このファイルをそのままダブルクリックすると、もともと関連付けられているプレーヤーが起動する。筆者の場合はWindows Media Playerが起動するわけだが、右クリックすると、コンテクストメニューが表示される。この中に「tsugi QuickAudio」というのがあるので、そこを見ると、QuickAudioのさまざまな機能が表示される。まずは、「QuickPlay」を選択すると、オーディオファイルがすぐに再生される。この際、とくにプレーヤーが起動するわけではなく、バックグラウンドでの再生となる。停止したい場合は、同じくコンテクストメニューから止めるか、タスクトレイを右クリックして表示されるメニューから止める形になる。またQuickAudio側にオーディオドライバの指定などはないため、普通にWindowsのサウンド設定で選択されているデバイスから再生される。

右クリックでコンテクストメニューを表示
tsugi QuickAudioを開くと、各機能を表示
QuickPlayでファイルをすぐに再生
停止したい場合は、コンテクストメニューか、タスクトレイの右クリックで操作

 次に見てみたいのが「Display Mode」だ。このサブメニューを見ると、デフォルトで「Waveform」が選択されているが「Spectrum」を選択すると、アイコンが変わり、スペクトラム表示に切り替わるのだ。もちろん、こちらもいい加減なアイコンが表示されているのではなく、各ファイルごとに分析した結果が表示されているのだ。そのため、アイコンを見るだけで、ベースなど低音中心のファイルなのか、バランスよくいろいろな音が混じっているファイルなのか、などがすぐに分かる。また、波形表示の場合も同様だが、初回表示する場合は、解析に多少の時間がかかり、アイコンが表示されるまでに数秒、長いと1分程度待たされることがある。ちなみに、波形表示の場合もスペクトラム表示の場合も、色や雰囲気は自在に調整できるようになっている。

Display ModeでSpectrumを選択すると、スペクトラム表示に切り替わる

 次は「Process」だ。このサブメニューにはNormalize(ノーマライズ)、Convert Channel(チャンネル変換)、Change Bit Depth(ビット深度変換)、Resample(リサンプル)、Remove silence(無音除去)のそれぞれが用意されている。波形編集ソフトがなくてもこの程度の処理なら、すぐにできる、というわけだ。この中で1つ気になったのがResample。通常、サンプリングレートで使うのは44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHz、176.4kHz、192kHzくらい。場合によっては、22.05kHzとか32kHzなども使うけれど、1Hzごととか0.001Hzごとの調整が可能なのだ。ただ、実際にここまで細かい調整が必要になるケースはほとんどないと思う。特殊な例はあるのかもしれないが、基本的な選択肢のみ用意してくれておいたほうが便利かと思った。

Process
Normalize
Convert Channel
Change Bit Depth
Resample
Remove silence

 そして「QuickEdit」。これは見ての通りシンプルな波形編集ソフトとなっており、範囲を選択して、フェード処理をかけたり、トリミングが行なえるようになっている。また必要に応じてDCオフセット処理を行なったり、ボリュームカーブを描いて音量調整ができる。

波形編集のQuickEdit
範囲を選択してフェード処理

CubaseやSound Forgeなど他のソフトと連携

 さらに、外部ソフトとの連携機能が用意されているのもQuickAudioの大きな特徴だ。この連携方法、いくつかあるのだが、まずは「Spot to」を見ると、Reaper、Pro Tools、Cubase、Nuendoという4つのメニューが用意されているので、そのまま選択したら、エラーが出てしまった。そこでマニュアルを見てみると、まずはプラグインをインストールし、CubaseなどはDAWがインストールされているフォルダを指定する必要があるのこと。その上で、あらかじめDAWを起動しておくと、そのファイルがDAW上に読み込まれるのだ。

「Spot to」のメニューに、Reaper、Pro Tools、Cubase、Nuendoという4つを用意
そのまま選択したらエラーが出た
プラグインをインストール

 Cubase 7.5とReaper 4.6で試してみたが、どちらでも同じように使うことができた。そのオーディオファイルをどのようにDAWに読み込ませるかは、設定できるようになっている。デフォルトでは、現在選択しているオーディオトラックに読み込ませる形になっているが、新たに自動的にトラックを作って読み込むようにすることも可能だ。この辺の設定はPreferenceに用意されているので、ここであらかじめ設定しておく。

Cubase 7.5との連携
Reaper 4.6との連携
オーディオファイルをどのようにDAWに読み込ませるか設定できる
ゲーム開発などのオーディオミドルウェアとの連携も

 DAWだけでなく、ゲーム開発などで用いられるオーディオミドルウェアとの連携機能も用意されている。この辺は筆者も詳しくないのだが、Wwise、FMOD Studio、ADX2のそれぞれに対応しているようだ。

 さらに、波形編集ソフトとの連携も可能。こちらはPreferenceであらかじめ設定しておくことが必要なのだが、こうしておくことで、最大2つまでの波形編集ソフトを登録して、そちらで編集することが可能になる。ここではAudacityとSound Forgeを登録してみたが、問題なく読み込んで利用することができた。

波形編集ソフトとの連携時は、Preferenceであらかじめ設定しておく
Audacityを登録した場合
Sound Forgeを登録した場合

 以上が、QuickAudioの全体像だ。このように、Windowsのエクスプローラ自体に機能が追加されるため、効率のいい作業が可能になる。QuickAudioインストール後に開いたことのないフォルダを開いたときに、アイコンが生成されるまでに多少時間がかかるのが気になるところだが、ファイルの中身がアイコンで表示されているというのは、なかなか便利だと感じた。

藤本健

 リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。  著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto