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【試聴室探訪】日本で一番JBLの“ライブ感”がある場所。ハーマン試聴室に隠された「リアルな響き」の秘密とは
2026年7月14日 08:00
オーディオブランド各社が擁する「音の空間=試聴室」を取材する「オーディオブランド試聴室探訪記」。初回の「KEF Music Gallery Tokyo」(南青山)に続き、第2回となる今回は、秋葉原にあるハーマンインターナショナルを取り上げたい。
【試聴室探訪】青山にそびえる“Uni-Q”の聖地、KEF Music Gallery Tokyo行ってみた
JBLやMark Levinsonといった名門ブランドを擁する同社のオフィス内に、2024年から本格運用を開始した「リファレンス オーディオルーム」がある。前回のKEFとは異なり、普段は一般に公開されていないクローズドな空間だ。
メディアや評論家向けの発表会だけでなく、時にはインフルエンサーや一般ユーザーも招かれるというこの部屋は、単に製品の音をチェックするだけの試聴室ではない。そこには、現代のオーディオ事情を見据えた明確なコンセプトが隠されていた。
コロナ禍を経て始動した、新生リファレンス オーディオルーム
ハーマンインターナショナルのオフィスは、東京・秋葉原の駅前にある住友不動産秋葉原駅前ビル14階にある。今回の主役である試聴室は、そのオフィス内に設けられており、広さは約55平米(約28畳)、天井高は約3m。ピュアオーディオからDolby Atmosの立体音響まで対応できる空間となっている。
普段から、同社が取り扱う新製品の社内試聴会が行なわれているほか、メディア関係者や販売店向けに製品の体験発表会を行なう場所としても活用されている。各メディアの記事で、そのスタイリッシュな内観写真を目にしたことがある人も多いだろう。
なお、同社がこの秋葉原オフィスへ移転したのは2021年。折しもコロナ禍の真っ只中であり、この試聴室は出社制限なども重なって設営プロジェクトが一時中断を余儀なくされるという紆余曲折を経て、2023年に完成、2024年から本格運用がスタートした。
当時、この新しい試聴室を立ち上げるにあたり、ハーマンインターナショナルには明確な意図があったという。同社の濱田直樹氏に、その設計思想と運用の舞台裏をじっくり伺った。
濱田:オフィス移転前の試聴室は、分析軸で音の良し悪しを聴き分けられる「デッド(吸音寄り)」な環境にしていました。しかし、新しい試聴室では「ユーザーさまが実際に家で聴く環境に近い、ライブ感のある響き」も意識してチューニングしています
何よりJBLサウンドの最大の特徴は“ライブ感”です。その魅力を100%感じられるように、遮音だけでなく、部屋の反射をコントロールする設計も含めて新しく作り上げました。
単に“良い音”をストイックに確認するだけではなく、ユーザーが過ごすリアルなリビングや部屋の響き方を想定し、そこに寄り添う。これが新生試聴室のコアとなる思想というわけだ。
しかし、「理想のライブ環境」を作るための道のりは一筋縄ではいかなかった。実はハーマングループが各国で試聴室を建設する際には、防音や残響の度合いに対して極めて緻密な「グローバル基準の数値」が定められているのだという。
濱田:完全にデッドになってもダメ、響きすぎてもダメ、という絶妙なコントロールが求められるのです。このグローバル基準値をクリアした上で、狙いに合わせた音環境にチューニングしていくイメージですね。
実は、その基準値が書かれた仕様書を持って国内の専門業者に相談に行ったら、2社に断られてしまいました(笑)。そもそもの基準が厳しいことと、オフィスビルという環境でその条件を実現することの困難さが立ちはだかったのです。
そこには、オフィスビル特有の構造的な制約もあった。上下の階には当然、他のテナントが入っている。大音量でスピーカーを鳴らすため、徹底した遮音と振動対策が必須となるが、一方でビル自体の「床の重量制限(耐荷重)」の仕様により、本来なら使いたい重い建材をすべて使うわけにはいかない環境なのだ。
最終的に施工を請け負った業者との間で検討を重ねて採用されたのは、いわゆる「ボックス・イン・ボックス(箱の中の箱)」構造。オフィスの中で、この試聴室だけが5層3重〜7層4重壁とビル躯体から約20cm浮かせたフローティング床、2重の吊り天井によって周囲への振動を絶縁する独立した部屋となっており、防音・遮音性能を高めている。
また、「剛性の高い部分を見極めて機材を配置する」など、部屋の構造を熟知したスタッフによる現場での運用の工夫も行なわれている。これらの対応によって、オフィスビルの制限をクリアしながら、エネルギーに満ちた出音を担保しているのだ。
変幻自在の55平米。最新サウンドバーから巨大モニターまで支える「ドットの秘密」
そうして作り上げられた試聴室の内部には、同社が展開するJBL、Mark Levinson、ARCAMの各種機材が立ち並んでいる。
筆者が訪れた際は、リファレンスシステムとしてMark LevinsonのSACDプレーヤー「No5101」、アナログプレーヤー「No5105」、モノラルプリアンプ「No523」、モノラルパワーアンプ「ML-50」がセッティングされ、JBLスタジオモニター・シリーズ“ブルーバッフル”の最新フラグシップ「JBL 4369」が大きな存在感を放っていた。さらにその後ろには、昨年惜しまれつつも生産終了が発表された「JBL Project EVEREST DD67000」も鎮座している。
また、サブシステムとしてARCAMのプリメインアンプ「SA30」や、部屋の中心に置かれた60インチテレビの前にはJBLのハイエンドサウンドバー「BAR 1300MK2」も設置されていた。
そう、特に同社が販売を手がけるJBLブランドは、世界的なオーディオメーカーの中でもBluetoothスピーカーからホームシアタースピーカー、超大型のスタジオモニターまでラインナップが幅広く、製品サイクルもかなり早い方だ。そのため、この試聴室はあらゆる製品に対応できる「フレキシブルさ」が求められる。
濱田:例えば「BAR 1300MK2」などイネーブルドスピーカーを搭載するサウンドバーは、天井や壁に音を反射させて立体音響を作ります。つまり、ある程度の反射がないと製品本来のポテンシャルを発揮できません。一方で、オーソドックスなステレオ再生、ピュアオーディオのセッティングでは過度な音の反射は嫌われます。
そこで鳴らす機材に合わせて壁の調音パネルをその都度移動させ、音の反射と響き方を調整できるようにしています。ホームシアターとピュアオーディオ、それぞれに適した音環境に合わせられるようにしているんです。
先述の通り、この試聴室はボックス・イン・ボックス構造となっていることで、内側部分の壁・床の仕様は自由にコントロールできるようになっている。
壁面には、スタジオなどの室内調整材として定評のあるQRDの無志向性拡散パネルと、ハーマン独自制作の吸音パネルが組み合わされており、これによって定在波を抑え、全帯域に渡る高い解像度と鮮明な定位感を実現。ウッドレールによる吊り込み式で、響きの増減や機材レイアウトに合わせた設置、移動などのアレンジが簡単に行えるのがポイントだ。
加えて、柱状音響調整材「ANKH」を要所に配置し、音像定位と明瞭度を向上させているほか、床面には「ANKH-VI」を設置し、スピーカーからの床面反射も効果的に拡散させる仕組みとしている。冒頭で語られた狙い通り、吸音だけでなく拡散も計算した環境作りがなされているのがわかる。
また、そんなプロの現場には、ときにユニークなノウハウも生まれている。スピーカーの足元に敷かれている、スタイリッシュなドット柄のパイルカットカーペットである。
濱田:このカーペットは、床への振動伝達と床面反射を和らげる効果がありますが、同時にスピーカースパイク先端の引っ掛かりを抑えて、床の傷つきを防ぐ目的もあります。
あと実は、もうひとつ実用性があって、ドット柄がセッティングの目印にしやすくて便利なのです。
普段から機材の入れ替えが激しいので、スピーカーセッティングを変更するときにスタッフ間で「右は前から何番目のドットに合わせて」という風に、機材の位置調整の目安にしているんですよ。なので、日常的にスピーカーの位置を変えて楽しむようなオーディオマニアの方には、ドット柄のカーペットはオススメです(笑)。
試聴室の狙いを詳しくご紹介いただいたところで実際に音を体験してみると、まさに百聞は一見にしかずだった。
まずはJBLの高級スタジオモニターの最新フラッグシップ「JBL 4369」で、オーソドックスなステレオ再生から体験したが、パワフルな立体感とサウンドステージの奥行き感に圧倒され、まさに音楽の中に飲み込まれた。歌モノはメインボーカルがしっかり中央に定位し、声が生々しい。伝統のホーン搭載スピーカーであり、モニターとして色付けのない音を狙うそれは、迫力と正確性を両立しているのが魅力だ。
続いて同じJBLから、今度はBluetoothスピーカー「Charge 6」を試聴。先ほどのスタジオモニターから、コンパクトなモノラルのポータブルモデルに一気に飛んだわけだが、低音が厚くモノラルでもパワフル感が通底しているあたりがさすが。
さらに2台接続してステレオペアにしてみると、しっかりステレオイメージが広がり、一気にオーディオ的な魅力がグレードアップ。今どきのBluetooth再生スタイルの中で、カジュアルながら本質的なオーディオ的楽しみへのステップアップにも対応する1台と言える。
そして最後に、JBLのハイエンドサウンドバー「BAR 1300MK2」で、Dolby Atmos再生を体験した。完全ワイヤレスのリアスピーカーでリアルサラウンドをカジュアルに実現できる本機は、オブジェクトオーディオの醍醐味をガッツリ味わえるのが何よりも魅力。視聴者である自分の周囲、“何もない空間”にちゃんと音がある。
映画「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」でヘリコプターが翼竜に襲われるシーンでは、イネーブルドスピーカーによる上方向の音の再現のおかげで頭上から襲撃されている臨場感があり、金属の軋む音も鋭く響いて緊張感のある映画体験だった。
なお最も印象的だったのは、ステレオ再生、Bluetooth再生、マルチチャンネル再生(立体音響)と、それぞれにスピーカー自体のグレードや担当ジャンルは異なるが、すべて「JBLらしいパワフル感」が一貫していたことだ。まさに冒頭で濱田氏が語った「ライブ感」を享受できた。
「ジャズのためのJBL」じゃなくて良い。ライフスタイルに合わせたオーディオ論
なお、この試聴室は基本的にはクローズドな空間だが、時には一般のユーザーを招くイベントも行なわれているという。
JBLの11.1.4chサウンドバー「BAR 1300MK2」で映画鑑賞できる無料イベント
濱田:サウンドバーのBAR 1300MK2の一般発売時には、店頭の騒がしい環境ではわかりにくい天井反射のリアルな効果を体験してもらうため、一般の参加者をこの部屋に招待して試聴イベントを開催しました。
また最近は、Bluetoothスピーカーやヘッドフォンで新しくJBLを知った若い世代の方も多いので、そんなユーザー層にリーチするインフルエンサーさんをこの部屋に招くこともあります。あのHIKAKIN(ヒカキン)さんに来てもらったこともあるんですよ。
これまで大型のスピーカーでガッツリと音楽を聴いたことがない層にこそ、この試聴室を起点にして「本物の音のポテンシャル」を伝えたい。そこからオーディオの楽しさを知ってもらえればと思っています。
では、そんな風にJBLに辿り着いたユーザーが、自宅でJBLのポテンシャルを引き出すためにはどうしたら良いか? 濱田氏にオススメの組み合わせ機材や音楽ジャンルなどはあるのか尋ねてみると、非常に現代的で温かい答えが返ってきた。
濱田:“ジャズを聴くならJBL”という定説もありますが、ぶっちゃけると作っている側はそんなこと1ミリも考えていないです(笑)。どのスピーカーであっても、細かい空間表現や音のニュアンスが正しく伝わるように、あらゆるジャンル、あらゆる年代の音楽がちゃんと心地よく聴こえるように作る。それこそが開発側の思いです。
だからこそ、組み合わせるアンプやケーブルにも「これが正解」という縛りはないという。JBLのスピーカーは総じて能率が高く、どんなアンプでも鳴らしやすいからこそ、「自分が愛せるデザインのものや、直感で好きだと思えるものを選んでほしい」と語る。
濱田:大切なのは、自分のライフスタイルと予算の中でどう楽しむかです。最初から無理をして高いシステムを買う必要は全くありません。スマホの音を直接聴いていたところから、ヘッドフォンやBluetoothスピーカーに変える。それだけでも、音楽体験としてはものすごい発展であり、素晴らしい行為です。
そこからステップアップして、次はステレオスピーカーで聴いてみよう、となる過程が面白い。で、途中で「自分のライフスタイルにはここまでで十分」と止まったって良いんです。それぞれの暮らしに合わせて楽しむことこそが、オーディオの本当の豊かさですから。
かつての「音を分析的にチェックできる部屋」から、「ユーザーの生活空間を見据えたリアルな部屋」へ。秋葉原のビルの一室に作られた新生リファレンスルームの心地よいライブ感は、まさにハーマンが現代のリスナーへ向ける「ライフスタイルに合わせた自由なオーディオ論」を体現していた。
最後に、この試聴室が完成した直後の2023年2月に撮影した動画も紹介しておこう。現在とは機材・配置などは大きく異なっているが、試聴室の雰囲気は伝わるはずだ。


















