藤本健のDigital Audio Laboratory
第596回:プロ/PCオーディオ注目の「Fireface 802」。10年ぶり後継機の実力は?
第596回:プロ/PCオーディオ注目の「Fireface 802」。10年ぶり後継機の実力は?
(2014/6/16 13:37)
既報のとおり、6月13日、シンタックスジャパンから独RMEのオーディオインターフェイス「Fireface 802」が発表され、6月26日より国内での販売が開始される。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は、228,000円前後(税込)とのことで高価な製品ではあるが、レコーディングの世界の人にとっても、PCオーディオユーザーにとっても注目度の高い製品だ。この発売前の機材をさっそく借りてみたので、実際どんな製品なのか使ってみた。
10年ぶりのモデルチェンジで入出力などを強化
オーディオインターフェイスに限ったことではないが、日本メーカーとヨーロッパメーカーの違いとして、よく言われるのが一つの製品の息の長さだ。どんどん新製品を発表し、過去の製品は徐々にサポート対象からも外していく日本メーカーに対し、ヨーロッパメーカーは1つの製品を出したら長期間、現行製品として発売していく。日進月歩で製品スペックが進化するコンピュータの世界ではなかなか難しいことは確かだが、それを実践しているのが独RMEだ。
今回発表されたFireface 802は、2004年に発売されたFireface 800の後継機種。実に10年ぶりのモデルチェンジなのだ。実際、Fireface 800は現行機種として現在でも人気のある機材であり、店頭価格も18~19万円程度をキープしている。また、中古価格を見ても15万円以上と値崩れしないのも、RME製品全般に共通する特徴だ。
Firefaceという名称からも想像できるように、もともとFireWire=IEEE 1394に対応させたオーディオインターフェイスであり、Firefaceシリーズの第1弾として開発したのがFireface 800だったのだ。また800という型番はFireWire 800から来ており、800Mbpsでやりとり可能な規格であるFireWire 800に対応した初のオーディオインターフェイスとして登場したものでもあったのだ。ご存じのとおり、その後、下位モデルのFireface 400やUSB対応させたFireface UC(その後Fireface UCXへアップデート)、FireWireとUSBに両対応したフラグシップモデルとなるFireface UFX、エントリーモデルのBabyfaceが出てきたが、Fireface 800は上から2番目という位置づけで存在していたのだ。それが、今回ついにFireface 802へと交代したわけである。
もっとも、技術進歩の速いコンピュータの世界でFireface 800もトラブルなしというわけではなかった。発表会で来日していたRMEプロダクト マネージャーのMax Holtmann氏によると、FireWireとの物理的アクセスを行なうのにTIのチップを搭載していたことが大きな問題になったのだとか。そう、2008年にAppleから新しいコンピュータがリリースされた際、AgereというFireWireチップが使用されたのだが、そこにバグがあり、TI製のチップとだけうまく動作することができなかったのだ。結果としてFireface 800はAppleのコンピュータに対応しなくなってしまったのである。では、なぜそのFireface 800が現行製品として生き延びてきたのか。そこにはプログラムで回路を書き換えることができるチップ、FPGAを搭載していることにあったのだ。。RMEでは、TIのチップを使わず、FPGAでFireWireとのやりとりをする回路を作り、ファームウェアアップデートでそれを実現させてしまったという経緯があるのだ。
さて、そのFireface 800の後継機となるFireface 802、スペック的に見ると何が変わったのだろうか? まずは、PCとの接続インターフェイスだ。従来同様FireWireでの接続をサポートしつつ、USB 2.0にも対応。いずれか一方での接続とはなるが、これによりどんなPCとでの接続も可能となっている。ただしFireWireに関してはFireWire 800ではなくFireWire 400での接続と仕様変更になっている。そうFireWire 800の場合、通信速度が速いためにデイジーチェーンで複数のFireface 800を数珠つなぎにできる仕様だったが、Fireface 802ではデイジーチェーンには非対応で、PCとFiraface 802の1:1での接続となっている。
一方、192kHz/24bitで28in/28outだったのが、今回30in/30outへとポート数が2つ増えている。具体的には下記の通り。
- アナログ入力×12(うち4chにMic/Instプリアンプ搭載)
- アナログ出力×12
- AES/EBU入出力×1
- ADAT入出力×2(1系統はS/PDIFとして使用可)
これらを合計すると30in/30outとなるのだ(AES/EBUはステレオ2ch、ADATは44.1kHz/48kHz動作時に8chなので、このような計算になる)。またFireface UFX/UCXと同様にクラス・コンプライアント・モード(以下CCモード)を搭載したことで、iPadやiPhoneとの接続も可能になったのも大きな進化点となっている。
実際の製品を見比べてみると、デザインも大きく変化しているが、フロントの入出力も使いやすくなっている。まず左に4つ並ぶのはXLRおよびTRS/TSでの入力も可能なコンボジャックとなっており、プリアンプも搭載しているため、コンデンサマイク、ダイナミックマイク、ライン入力、ギター入力など何でも可能となっている。また右側には独立した2つのヘッドフォンジャックが搭載されており、これらが計4ch分のアナログ出力となっている。
一方リアパネルを見てみると、右側にTRSのバランス・ライン入力×8、バランス・ライン出力×8が並ぶ。中央にあるXLRの入出力はAES/EBUで、業務用機器との接続はここを通じて行なう形となる。その左にある4つのオプティカル入出力がADATで、そのうえにワードクロックの入出力、さらに左にはMIDIの入出力が並んでいるのだ。
TotalMix Fxは“何でもアリ”の自由度
Holtmann氏によると、USB 2.0接続とFireWire接続でのレイテンシーなどに差はないということだったので、ここではUSB 2.0接続でテストしてみた。USB用とFireWire用では異なるドライバをインストールする形になるのだが、Fireface 802用があるわけではなく、Firefaceシリーズすべて共通のもの。またドライバのインストール自体もいたって簡単だ。一度PCの再起動をかける必要があるが、あとは接続するだけで音が出る。30in/30outがWindowsとしてどう認識しているのかを確認するため、サウンドの録音、再生をチェックしてみたところ、MMEドライバとしてステレオ×15がズラリと並んでいるのが確認できる。例えばヘッドフォンアイコンとなっている「Analog(9+10)」を規定値に設定すれば、ヘッドフォン端子から音が出てくるわけだ。
また、ASIOドライバに対応しているので、Cubaseから入出力を見てみると、30ch分の入出力へ一挙にアクセスすることができ、同時入力、同時出力ができるわけだ。
ただし、RMEのFirefaceシリーズのユニークな点であり、かつオーディオユーザーやDTM初心者にとって非常に難しいのがTotalMix Fxというミキサーコンソールの存在だ。初期設定では先ほどのとおり、ヘッドフォンに出力すればヘッドフォンから音が出てくるし、3/4chのアナログ端子へ出力すれば、その先に接続されたスピーカーから音が出てくるのだが、TotalMix Fxを使うことで、そうした接続をよりフレキシブルにコントロールできてしまう。ただフレキシブルすぎるからこそ、どこに何がどうつながっているのかわからなくなってしまうし、かなり本格的なミキサーコンソールになっているからこそ、ミキサーのルーティングやチャンネルストリップに関する理解がないと、まったく使いこなすことができない代物なのだ。筆者自身も、普段からRME製品を常に使っているわけではないので、時々TotalMix Fxを使うと、いつも戸惑ってしまう。最近になってようやく覚えた感じではあるが、まさに“何でもあり”という感じの自由度があるのだ。
TotalMix Fxの画面は基本的に3段のミキサー画面で構成されている。上段が入力チャンネル、中段がPCからの出力、そして下段が出力となっており、各出力チャンネルにどの信号を送るか、上段、中段のミキサーでバランスをとっていくのだ。つまり、初期設定ならヘッドフォン出力はAnalog(9+10)となっていたが、TotalMix Fxの設定によりヘッドフォン出力はAnalog(7+8)をメインに、ADAT(1+2)とAES/EBUをミックスした信号を送るといった設定に変えてしまうことができるのだ。
また出力段はチャンネルごとにEQの設定ができたり、ダイナミクスの設定ができる。さらにリバーブ系、エコー系の2系統のシステムエフェクトも搭載されており、ここへセンド・リターンの形で信号を送ることもできるのだ。この辺については、Fireface 802に限らず、Firefaceシリーズ全体に共通するところなので、ここでは深くは説明しないが、とにかくやろうと思えば、何でもできてしまいそうなシステムとなっているわけだ。
なお、このミキサー画面とは別にマトリックス画面というものも用意されており、こちらを使えば、どの入力がどの出力へ接続されているのかを俯瞰することができるとともに、ここで設定していくことも可能になっている。
では、これはどんな音質性能を持っているのだろうか? 発表会の会場では、Fireface 800とFireface 802を切り替えながらのA/Bテストを行なっていたが、Holtmann氏によれば、両機種で抜本的な音の違いはないので多くの人はわからないだろうと言っていたとおりで、聴感上、非常に近い音であった。ただ、出力設定の問題なのか、両機種で音量レベルが微妙に異なっていたので、どっちで鳴っているのかはすぐにわかったのだが、どちらもオーディオ的な味付けのないストレートなサウンドのようだ。ちなみに、D/AコンバータにはAKMの32bit DACであるAK4414EQが、A/Dコンバータには120dBのS/NというAK5388AEQが搭載されている。
しかし、今回借りた機材を試してみて、改めて驚いたのはヘッドフォン出力のS/Nの良さだ。ノイズゲートのようなシステムが入っているのかもしれないが、ヘッドフォンの出力レベルを最大に回しても、音が出ていないときはまったく無音なのだ。実際にオーディオの再生を行なうと、ソース側が持っているノイズはハッキリと聴き取れる一方、再生のスタート時、終了時も非常に滑らかであり、再生が終わると、また完全な無音になるのだ。これについてはライン出力側でも同様。TRSのバランス接続でモニタースピーカーに接続してみたが、音を出していないときは気持ちよく無音なのである。
さて、ここからいつものようにRMAA Proを用いた音質テストを行なってみよう。ここではリアパネルのライン入力とライン出力をループ接続した上で44.1kHz、48kHz、96kHz、192kHzのそれぞれで行なった。その結果が以下のものだ。
これを見る限り、過去最高クラスの音質性能になっていることがわかるだろう。さすが20万円超のオーディオインターフェイスだけはある、といった感じだ。続いてレイテンシーに関するテストも上記4つのサンプリングレートで行なうとともに、参考値として44.1kHzにおけるバッファサイズ128サンプルにおいてのテストも行なってみた。結果を見る限り、やはり過去最高クラスという結果である。ちなみに、Fireface UFXおよびFireface UCXと比較した場合は、ほぼ同程度となっている。これがFirefaceシリーズの実力である、ということなのだろう。
マイクプリアンプの性能計測といったことはできていないが、手元でテストしてみた感じでは、味付けはなく、非常にシンプルでクリアなサウンドだった。
iPadとのCCモード接続も試す
最後に試してみたのがCCモードだ。Fireface UFXやFireface UCXと同様にCCモードを搭載しているためにCamera Connection KitやLightning-USBカメラアダプタを使えばiPad/iPhoneからの利用が可能になる。以前、Fireface UCXを使った際Fireface UCXを使った際は、本体の操作でCCモードにしていたが、現在はTotalMix Fxのメニュー操作で「Switch to CC-Mode on disconnect」にチェックを入れておけば、USB接続をPCから切り離すと自動的にCCモードとなり、再度PCと接続すると通常モードになる。これは極めて便利な機能だ。
前回の記事でiPhoneの出力をSteinbergのUR28Mから出そうとした際、S/PDIFへルーティングさせる手段がなかった旨を書いたが、Fireface 802でどうなっているのかも確認してみた。初期設定では、PCと同様、出力先と表示名と実際の出力ポートの関係は1:1の対応。入力も同様であるため、AuriaやCubasisのようなマルチ入出力に対応したアプリであれば、22イン/22アウトの入出力を自由に利用できる。ADATの2つ目が無効になるようで、30in/30outではないようだが、iOSでの利用ならこれで十分だろう。
一方、一般的な2イン/2アウトのアプリの場合は、オーディオ出力は1ch/2chのメイン出力と9/10chのヘッドフォン1の出力から出てくるようになっている。しかし、iPad用にPCとほぼ同じ機能を持つTotalMix Fx for iPadというアプリが登場したため、必要に応じてポートを切り替えたり、ミックスすることが可能になっているのだ。実際試してみたところ、iOS標準のミュージック機能での再生音を各ポートから出すことができたので、いろいろな使い方ができそうだ。ちなみに、TotalMix Fx for iPadはRME製品と接続する際にのみ利用できるものであるが、無償ダウンロードではなく400円という価格設定になっている。ここはどうも納得のいかないところだが、こういう高級品は無料配布はしないのかもしれない。
以上、RME Fireface 802についてみてきたがいかがだっただろうか? オーディオインターフェイス機能としてはフラグシップモデルのFireface UFXとほぼ同等だが、UFXの場合、本体にLEDのレベルメーターがあったり、何よりDURec機能というUSBメモリーに直接レコーディングする機能があるのが大きな違い。UFX(直販255,000円/税込)と比べるとFireface 802は低価格とはいえ、プロ以外はなかなか手が出せない値段かもしれないが、その価格を出すだけの価値を持った製品であることは間違いなさそうだ。