第505回:USB/FireWire対応のRME「Fireface UCX」を試す

~iPadも接続可能なDSP搭載オーディオインターフェイス ~


Fireface UCX。左は専用のコントローラ

 高性能なオーディオインターフェイスとして定評のあるドイツRME。国内ではPCオーディオ用のデバイスとしても人気が高いが、そのRMEから新たなオーディオインターフェイス、Fireface UCXが発売され、国内でも3月末から出荷が始まっている。

 高音質であるとともに、USBとFireWireを備え、iPad接続にも対応するなど、非常にユニークな特徴を数多く備えているFireface UCXについて紹介してみよう。



■ FireWire/USB両対応。UC同等のサイズで大幅に機能強化

 Fireface UCXは国内の実売価格が145,000円程度と、オーディオインターフェイスとしてはかなり高価な製品ではあるが、これまでのRME製品の品質の高さから購入を検討している人も少なくないようだ。見た目はFireface UCとソックリな1Uハーフラックとなっているが、Fireface UCXはFireface UCの後継ではなく、上位に位置づけられ、実売価格的にも3万円程度の開きがある。

Fireface UCX既発売のFireface UC

 では、機能的に見て、Fireface UCXとFireface UCは何が違うのだろうか? 最高で24bit/192kHzに対応し、44.1kHz/48kHz動作時は最大18IN/18OUTの入出力に対応という点では同じ。また見た目がソックリな点からも想像できるように、この入出力端子なども同様となっている。

 Fireface UCをご存知ない方のために、簡単にこの入出力端子について紹介しておくと、まずフロントパネルの左2つがマイクプリアンプを搭載した、マイク兼ライン入力でバランス対応のコンボジャックになっている。またその右にあるのが3/4chに相当するTRSフォンのライン入力だ。リアパネルの下段には右側に4つのフォンジャックでの入力、左側に8つのフォンジャックの出力があるが、いずれもバランス対応になっている。これらすべてを合わせるとアナログで8IN/8OUTということになる。一方右上には、金メッキされたRCA端子が2つあるが、これはS/PDIFコアキシャルの入出力だ。その左にあるのはオプティカルの入出力。このオプティカルはドライバの設定によってS/PDIFとadatの切り替えができるようになっており、adatとした場合はこれだけで8IN/8OUTとなるわけだ。これらを合計して18IN/18OUTとなっている計算だ。

前面背面

 ちなみにフロント右側にあるヘッドフォンジャックは、モニター出力用という位置づけとなっており、後述するTotalMix FXというソフトウェアミキサーを利用することで、18outあるうちの好きな出力をヘッドフォン用に割り当てられるようになっている。その他の端子を見ていくと、オプティカル端子の左にあるのがワードクロックの入出力、その左にあるミニDIN端子がMIDI入出力だ。この端子用にブレイクアウトケーブルが付属しており、これを利用することで2IN/2OUTのMIDIインターフェイスとしても利用可能になっている。

Babyfaceと似た形のリモコン

 ここまでは、基本的にFireface UCX、Fireface UCの共通点となっていたが、ここからがいろいろと違ってくる。MIDIの端子の左にあるREMOTEと書かれている端子はその名のとおりリモートコントローラ用のもの。この端子には付属のリモコンを接続するのだが、そのリモコンというのが写真のようなちょっと不思議な物体。RMEのエントリーモデルであるBabyfaceをご存じの方は、あれ? と思うかもしれないが、まさにBabyfaceソックリなリモコンなのだ。

 ただし、Babyfaceと比較すると一回り小さく、またこれはリモコンなので当然オーディオの入出力などはない。ガッチリとしたメタル製のボディにエンコーダー・ダイヤルと2つのボタンが用意されており、これが5mのケーブルを使ってFireface UCXと接続する形になっているのだ。エンコーダー・ダイヤルを用いてメイン出力やヘッドフォン出力のボリューム調整ができるほか、ボタン操作も合わせることで、Dimとして利用したり、その他さまざまな設定をコントロールできるようになっている。DAWのコントロールサーフェイスというのはいろいろあるが、オーディオインターフェイス専用のリモコンというのもちょっと珍しい。PCオーディオ用として考えると便利に使えそうだ。

 そしてもうひとつ、非常にユニークなのは、その隣にFireWire(IEEE 1394)とUSBの2つの端子が並んでいること。そう、Fireface UCと決定的に違うのがこの点で、USB接続もできるしFireWire接続もできるようになっているのだ。もちろん、両方を同時に使えるわけではなく、どちらかの接続になる。またUSB接続の場合はACアダプタが必要となり、FireWire接続の場合は、バス電源供給で動作するようになっている。もうお分かりになった方も多いだろうが、Fireface UCXはアーキテクチャ的に見てFireface UCのシリーズではなくFireface UFXの弟分的な存在となっているのだ。内部にDSPが搭載されていてエフェクト処理をハードウェアでできるといった点もFireface UFXと共通だ。

Fireface UCXとリモコンの接続時1Uラックマウント型のFireface UFX


Fireface UCX、Fireface UC、Fireface UFXの仕様比較

 発売元のシンタックスジャパンの担当者に話を聞いたところ「持ち上げてみると分かりますがUCXはUCと比較してずっしりと重くなっています。というのも300以上の新しいパーツを採用しているほか、電子パーツが密集しているので、干渉しないように50箇所以上のシールド処理もおこなっているからなのです。その結果、音質的にも向上しています」とのことだ。

 そこで、カタログスペックなどを元にFireface UCXとFireface UC、それにFireface UFXのそれぞれの機能がどう違うかを表にまとめてみた。これを見れば、分かりやすいだろう。Fireface UFXとはサイズが違う分、入出力端子やマイクプリアンプの数が違うほか、液晶パネルの有無、そしてUSBメモリーへ直接レコーディングできるDirect USB Recording機能などに違いがある。



■ Mac接続時はUSBの方が低遅延

 さて、ここでいつものようにRMAA Proを用いて音質測定の実験を行なってみた。ここではPCとUSB接続した上で、1/2chの出力とマイクプリアンプの入っていないリアの5/6chの入力をバランスケーブルで接続してループ状態に設定して測定を行なった。その結果が以下のとおりであり、非常に優秀という結果が出ている。まあ、これはあくまでも機械的な測定なので、オーディオ的に見て必ずしも「いい音である」という証明になるわけではないが、RMEが訴えている原音に忠実な音ということは示しているのではないだろうか? またRMAA Proは出力性能だけでなく、入力性能も同時に示すものなので、レコーディング機能の高性能さを表してもいるのだ。

24bit/44.1kHz24bit/48kHz
24bit/96kHz24bit/192kHz

 このRMAA Proの測定、FireWire接続でも行なったがほぼ同じ結果となったので、ここでは掲載を割愛する。しかし、レイテンシーのテストを行なったところ、こちらでは結構大きな違いが出た。接続は、今のRMAA Proでの測定と同じようにループを構成した状態でパルスを出力したものが、どれだけの時間差で入力されるかを測定するものだ。USB接続でもFireWire接続でも、ほかのオーディオインターフェイスと比較すると、非常に低レイテンシーとなっているが、両者を比較すると15%程度USB接続のほうが短い時間なのだ。

【USB接続】
128 samples/44.1kHz48 samples/44.1kHz48 samples/48kHz
96 samples/96kHz192 samples/192kHz

【FireWire接続】
128 samples/44.1kHz48 samples/44.1kHz64 samples/48kHz
96 samples/96kHz192 samples/192kHz

 この点について、前出のシンタックスジャパンの担当者は「Windowsの場合、ハードによっていろいろ違うので、何ともいえませんが、Macの場合は確実にUSBのほうが低レイテンシーになります。というのは、USB接続のほうが、OSのカーネルに近いところで処理できるため、PCI Expressに匹敵する速度が出せるのです」とのこと。やはり仕様上USB接続のほうがいい、ということのようだ。

 もっとも、USB接続用のドライバとFireWire接続用のドライバは別物。とはいえ、それぞれの設定画面を見てみると、ほとんど同じで、微妙にデザインや文字の配置が違う程度。設定できるバッファサイズも同じだ。その同じバッファサイズで比較して15%の差が出るということなのだ。ただし、48kHzのサンプリングレートの場合のみ、もう少し大きな差になった。というのはUSB接続では最小のバッファサイズである48Sampleに設定できたが、FireWireで48Sampleに設定すると処理が追いつかないのか、うまく音を出すことができなかった。そのため、ひとつ大きな64Sampleで測定を行なったので、48kHzの結果のみより大きな差になっている。

設定画面(USB接続)設定画面(FireWire接続)
USB接続時のバッファサイズFireWire接続時のバッファサイズ


■ TotalMix FXで全機能をコントロール。iPad接続にも対応

 ところでFirefaceシリーズを語る上で非常に重要になってくるのが先ほども少しふれたTotalMix FXの存在だ。これはドライバとしてインストールされるミキサーであり、Firefaceシリーズ内部のミキサー機能をコントロールするもの。上からHardware Inputs(入力端子からの入力信号)、Software Playback(PCのソフトウェアの出力信号)、Hardware Outputs(出力端子への出力信号)となっており、Fireface UCXの場合、最大で18IN/18OUTを持つオーディオインターフェイスであるだけに、結構大規模なコンソールとして見える。

 また、どの信号をどこにルーティングするかを自由自在にセッティングできるというのも面白いところ。Fireface UCXにはDSPが搭載されているので、チャンネルごとにEQやダイナミクスの設定を行なうこともできる。さらに、システムエフェクトとしてリバーブとエコーを搭載しており、各チャンネルからセンド・リターンで利用することも可能。これらはすべてDSP処理で行なうため、PCのCPUリソースを使わないのも嬉しいところだ。このTotalMix FXを利用することで、Fireface UCXのすべてをコントロールできるようになるのだが、その状態でのブロック・ダイアグラムを表したのが右下の図だ。

TotalMix FXチャンネルごとにEQやダイナミクスの設定が可能
システムエフェクトとしてリバーブとエコーを搭載TotalMix FXでFireFace UCXの全機能をコントロールできる

 ただ、このTotalMix FXの画面、DAWを使いこなしているユーザーなど、ミキサーコンソールに関する知識、経験を持っている人であれば、非常に強力な武器になるが、リスニング主体のPCオーディオユーザーにとっては、厄介な代物という印象はぬぐえない。実際、これを見てRME製品を敬遠してしまっている人もいるかもしれない。ところが、このFireface UCXではエントリーユーザーでも快適に、簡単に使うためのモードが搭載されている。それがクラス・コンプライアント・モードだ。ちょっと聞きなれない言葉かもしれないが、ジェネリックモードとか、CoreAudioなんて呼び方をする場合もあるもので、要するにドライバ不要で接続可能なUSBオーディオデバイスという意味だ。このクラス・コンプライアント・モードにするには本体のLEDとスイッチで設定する必要がある。その設定さえ終えれば、あとは簡単。USB接続するだけで、複雑なルーティングなどはせず、DSP機能も利用しないで、単純に入力と出力が1:1で対応するオーディオインターフェイスになるのだ。

 ただし、現在のところ、Firefece UCXのクラス・コンプライアント・モードでの接続ができるのはMacのみに限定される。というのもクラス・コンプライアントにはUSB Audio Class 1.0と2.0という2種類があり、Fireface UCXが対応しているのは2.0だからだ。1.0はUSB 1.1接続で上限が24bit/96kHzに限定されるのに対し、2.0は最高で24bit/192kHzにまで対応する。しかし、この2.0にはMac OS Xは対応しているものの、Windowsは現時点で対応していないため、OS標準ドライバでは使うことができないのだ(説明ページ)。Mac OS X 10.7で試してみたところ、こちらでは問題なく使うことができた。

クラス・コンプライアント・モードにするには本体のLEDとスイッチで設定現時点ではWindowsでクラス・コンプライアント・モードは利用できないMac接続時の画面

 しかし、RMEがクラス・コンプライアント・モードを搭載したのはMacでドライバレスで使えるということよりも、もっと大きな目的があった。それがiPadで使えるという点。iPad Camera Connection Kit経由で接続すると、Fireface UCXが利用できるのだ。いつも問題になる電源もFireface UCXならACアダプタで電源供給できるため、その点でも問題はない。そしてFLAC Playerなどを使えば、24bit/96kHzでの再生もできるというのだ。

 さらにそれ以上に、筆者が個人的に興味を持ったのは、USB Audio Class 2.0に対応したクラス・コンプライアント・モードにおいてマルチポートでの入出力ができるという点。クラス・コンプライアント・モードというのは、てっきりステレオ1系統の入出力に限られるものと思っていたが、そうではなかったのだ。そしてiOSにおいても、これに対応していたことが判明。正確には入力がマルチポート対応で、出力は1系統となっているようなのだが、実際それに対応しているアプリがある。それは以前にも取り上げたことのあるMultitrack DAW。12月にアップデートされた最新版3.1.4.1で8トラックの同時レコーディングに対応していたのだ。Multitrack DAWが起動している状態で、クラス・コンプライアント・モードに設定したFireface UCXを接続すると、8IN/2OUTのデバイスが接続されたことが表示される。さらにマルチポートでのレコーディングを試してみたところ確かに実現できることが確認できた。まあ、わざわざiPadでマルチでレコーディングするシーンがあるのかどうかは別として、また大きな可能性を感じられた。

Multitrack DAWが起動している状態で、クラス・コンプライアント・モードに設定したFireface UCXを接続マルチポートでのレコーディングも可能だった

 以上、RMEのFireface UCXについてみてきたが、いかがだっただろうか? 価格的にはそれなりに高価なものなので、気軽に買うというわけにはいかないかもしれないが、高音質・高機能であり、かつ使い勝手にも考慮したユニークな機材であるといえそうだ。


(2012年 5月 7日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]