第520回:TASCAMのHDビデオレコーダ「DR-V1HD」を試す

~180度回転カメラ/マイク搭載の24bit/96kHzレコーダ ~


DR-V1HD

 ZOOMやオリンパスがカメラ搭載のビデオ撮影機能付きのリニアPCMレコーダーを出す中、ティアックのTASCAMブランドからも、同様のビデオ機能搭載レコーダー「DR-V1HD」(オープン価格、実売価格は30,000円前後)が発売された。

 24bit/96kHzの録音対応で1,280×720ピクセルのHDムービーも撮影できるというこのDR-V1HDがどんなものなのか使ってみた。


■ バリアングル機構採用でカメラが180度回転可能。マイクL/Rの自動切り替えも

 DR-V1HDは最近のリニアPCMレコーダとしてはやや大きめだが、手のひらサイズといったところ。同じTASCAMの一世代前のリニアPCMレコーダ、DR-2dと並べると、厚さ、横幅はほぼ同寸だけれど、縦の長さが1cm程度長い。iPhone 4SやRolandのR-05などと並べてみると、だいたいの大きさがつかめると思う。

DR-2d(右)と並べて比較左からiPhone 4S、TASCAM DR-05、DR-V1HD、Roland R-05

 DR-V1HDの最大の特徴は、やはり左右のマイクの間に搭載されているカメラだろう。これは撮像素子が1/4型CMOSセンサーで焦点が39cm~∞というもの。録画可能な画素数はHDモードの場合1,280×720/30fps、SDモードの場合640×480/30fpsとなっている。ユニークなのは、このカメラ部が180度回転できる「バリアングル機構」を採用していることだ。これにより、撮影したい方向にカメラを向けられ、手前に向ければ自分を撮ることも可能になるわけだ。

左右のマイクの間に搭載されているカメラカメラ部が180度回転する「バリアングル機構」
操作はポインティングスティックで行なう

 また液晶部分がかなり大きく見やすいのも、DR-V1HDの特徴のひとつ。これは2.4インチのTFTカラーで、解像度的には320×240ドットというもの。ビデオ撮影時のモニターとして利用できるのはもちろん、メニュー設定などもすべてここで行なう形となっている。操作は液晶画面の下、中央にあるポインティングスティックを利用して行なう。このポインティングスティックは十字に動かせるほか、押すと決定ボタンとして機能するようになっている。

 一方、リニアPCMレコーダの要ともいえるのがマイク。前述のとおり、カメラの両サイドに取り付けられているのだが、これは単一指向性のステレオコンデンサマイクとなっている。では、どちらの方向に向いているかというと、これがビデオカメラが向かっている方向を向くように設計されているのだ。ビデオ撮影を行なわず、あくまでもリニアPCMレコーダとしてオーディオだけを取り込むという場合でもカメラが向いている方向からの録音となる。

 でも、ここでちょっと気になったは、カメラが液晶モニターの反対側を向いている場合と、こちら側を向いている場合では、左右が逆になるのでは……という疑問だ。メニュー画面のInput Settingの中に、「L/R SWAP」という項目があったので、これを使って入れ替えるのか? だとすると、なかなか面倒だな……と思いながらヘッドホンでモニターしてみた。

メニュー画面Input Settingの中にある「L/R SWAP」

 すると、なかなかうまくできており、カメラの位置が真上からちょっと手前に来る時点で自動的に左右が入れ替わるようになっていた。つまり、通常は「L/R SWAP」をいじる必要はないわけだ。実際、そのモニターを聞きながら、音を拾う方向を確認してみたところ、確かにカメラを向けた方向の音を拾っており、そうでない方向の音は非常に小さかった。

 また、このマイクの入力はメニュー設定でHIGH、MID、LOWの3段階切り替えができるようになっているほか、右サイドのある無段階のボリュームによってレベル調整ができるようになっている。ちなみに、このマイクユニットの構造は下図のようになっているとのことだ。

マイク入力は3段階切り替えが可能右サイドの無段階ボリュームでレベル調整が可能マイクユニットの構造図

■ 入出力端子をチェック。USBマスストレージ対応、ミニHDMI映像出力も

 その他の入出力もチェックしていくと、入力ボリュームのある右サイドにはLINE IN/OUTのステレオミニ端子がある。LINE INにジャックを接続すると、入力元は内蔵マイクからこちらに切り替わる。またメニュー設定で入力をMICにすれば外部マイクが利用可能となり、さらにPLUG IN POWERをオンにしておけば、プラグインパワー対応のマイクに電源を供給することが可能になる。

入力をMICに切り替えて外部マイクを使用できるPLUG IN POWERをオンにすると対応マイクに電源供給可能

 

リアパネルにはスピーカーを内蔵

 一方、その左にあるのがLINE OUTの端子。これについては、とくに設定項目はないようだが、ヘッドホン出力も兼ねており、ここを通じてレコーディング音のモニタリングが可能となっている。さらに、リアパネルを見るとスピーカーが内蔵されている。その左下にあるSPEAKERスイッチをONにすると駆動し、レコーディングした音を確認できる。ちなみに、その右にあるHOLDボタンは、フロントにある各ボタン類の操作を無効にするためのもの。長時間録音する場合などは、これをオンにしておくといいかもしれない。

 左サイドにはカバーがされているが、これを取り外すと3つの端子類がある。一番左はmicro SD/SDHCのスロット。DR-V1HDではmicro SD/SDHCにデータを記録するようになっており、製品には2GBのmicro SDが付属している。また中央はUSB端子。これはPCと接続した際、PCからこのmicro SD/SDHCがドライブとして見えるようになるというもの。DR-V1HDをオーディオインターフェイスやカメラとして使うような機能はないようだ。

 そして一番右がHDMI端子。ケーブルは付属していないが、TASCAMのオプションケーブルまたは一般のミニHDMI(TypeC)のケーブルを接続すれば、DR-V1HDで撮影した映像をテレビなどに映し出すことができる。この際、オーディオ信号もHDMIで送られるが24bitのデータは16bitに変換されて伝送される形になる。またHDMI出力している場合は、DR-V1HD本体の液晶画面はオフになる。

左サイドのカバーを取り外すと端子群が現れる左からmicro SD/SDHCスロット、USB端子、ミニHDMI端子

 電源は単3電池×3本で動作し、アルカリ電池またはニッケル水素電池が使えるようになっている。スペックを見るとニッケル水素電池を使う場合、24bit/96kHzの音声だけを録音する場合で約5.5時間のスタミナ、またHDモードで24bit/48kHzで録画する場合では約4.5時間の録画が可能であるとのことだ。

単3電池×3本で動作する設定でアルカリ電池とニッケル水素電池を切り替えられる

■ 音質はDR-05並み。画質の課題は設定次第で改善?

 では、このDR-V1HDを持って、外に音を録りに行くことにしよう。夏の季節は野鳥の鳴き声を録るのは難しいので、狙うのはセミの鳴き声。予め24bit/96kHzに設定するとともに、マイクゲインをHIGHに設定。いざ録音ボタンをと思ったら、その前にモードを選択する必要があった。そう、DR-V1HDには録画モード、録音モード、写真撮影モードの3種類があるので、モード切替ボタンを押して、選択しておかなくてはならない。

24bit/96kHzに設定
録画モード録音モード写真撮影モード

 ここでは音だけを録音するので、録音モードに設定して、屋外に出、ツクツクボウシの鳴いている桜の木の下に。ここでカメラとマイクを真上に向ける形に設定して録音した結果がこの音だ。聴いてみるとわかるとおり、右側にミンミンゼミ、左上にツクツク法師が鳴く形でのアンサンブル。回りでパラパラと音がしているのは、実はちょうど録音を開始したのとほぼ同時に大粒の雨が降り出したところで、アスファルトに落ちる雨音を拾ったのだ。こうした回りの音を含め、なかなかリアルに録音できているのが分かるだろう。

録音サンプル
セミの鳴き声
DRV1HD_semi.wav
編集部注:ファイルは24bit/96kzで録音しています。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 雨がすぐに止んだのだが、そのまま線路のほうに歩いていき、今度は録画モードに変更して電車をビデオ撮影してみた。電車の音はそんなにリアルに録っても仕方ないので、16bit/44.1kHzに変更した上で、1,280×720/30fpsのHDモードおよび、640×480/30fpsのSDモードのそれぞれで行なった。録画結果はQuickTimeのmovファイルとなる。

記録モード解像度FPS動画
HDモード1,280×72030pHD.mov
SDモード640×480SD.mov
編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。
また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 今回も三脚なしで手持ちでの撮影。DR-V1HDには手振れ補正機能はないため、どうしても画面が揺れてしまうのは仕方ないところだろう。空が曇っていたせいもあると思うがビデオ映像が少し白っぽくハッキリしないところは少し気になった。筆者もビデオは専門ではないので、それ以上のコメントは控えておくが、その辺は撮影した画像を確認してみてほしい。なお、メニュー画面にはWHITE BALANCEという項目があり、ここでいくつかのモード設定を選択できる。今回は、特に設定せずに「AUTO」のまま行なったが、「CLOUDY」を選んでおけば、もう少し鮮明な画面になったのかもしれない。

HDモードとSDモードで撮影可能WHITE BALANCEは「AUTO」のままで撮影

 さて次は、部屋に戻って音楽のレコーディング。いつものようにCDを同軸デジタルで出力できるセッティングにしてモニタースピーカーを鳴らし、約50cmの距離に設置してのレコーディング。こちらは三脚を使ってのレコーディングとなるのだが、一般的なリニアPCMレコーダーと違い、三脚穴の場所がディスプレイの反対面ではなく、マイクの反対側。そのため、縦に置いてカメラを前に向けてのセッティングとなった。結果の音はここに掲載したとおりだ。


録音サンプル
CD音声
DRV1HD_music1644.wav
編集部注:録音ファイルは24bit/96kzで録音した音声を編集し16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 

周波数分析した結果

 カタログには「リニアPCM専用機譲りの高音質」とあり、実際に以前レビューしたDR-05と聴き比べてみると近い傾向にある。ただ、細かくチェックしていくと、低域がやや弱めで、高域が強め。ディエッサーの逆の効果をかけたような感じでもある。もっとも周波数分析した結果は、そう変わらないので、あまり極端な違いというわけではないのだろうが……。

 以上、TASCAMのDR-V1HDを見てきたがいかがだっただろうか?各社とも普通のPCMレコーダーでは価格低下が激しく利益が出にくくなってきたため、より付加価値のあるシステムへと製品展開しだした結果、このようなビデオ機能付きが増えてきたのだろう。ZOOM、オリンパスに続きTASCAMもこのジャンルに参入したことで、今後競争も激しくなってきそうだ。


(2012年 9月 3日)

= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。EPUBマガジン「MAGon」で、「藤本健のDigital Audio Laboratory's Journal」を配信中。Twitterは@kenfujimoto

[Text by藤本健]