西川善司の大画面☆マニア

第204回

レーザー+4K対応。エプソン入魂の最上位プロジェクタ

新反射型液晶+4K相当の画質は? 「EH-LS10000」

 民生ホームシアター向けプロジェクタで、レーザー光源採用の反射型液晶プロジェクタがエプソンから登場。しかも、同社初の4K対応プロジェクタである。その名も「EH-LS10000」。

EH-LS10000

 同社のシアタープロジェクタは、これまで4桁型番でdreamioブランドで展開してきたが、今回、初めて5桁型番で与えたことからも、気合の入りようがうかがえる。なお、EH-LS10000はdreamioと別のフラッグシップラインとして展開する。

 「レーザー光源」、「反射型液晶パネル」、「(疑似)4K表示」といった3要素については既に本連載の別記事で解説済みなので、本稿では、その画質性能や使い勝手に重点的に迫りたいと思う。

設置性チェック〜セクシーな見た目だが重量はヘビー級

 エプソンは、もともと、ビジネス向けプロジェクタを得意としてきた経緯もあり、良い意味で無個性な外観デザインをプロジェクタに与えてきた感があったが、今回は少々様子が異なる。

 というのも、EH-LS10000では、なんとも有機的でグラマラスな見た目が与えられているからだ。全体的に丸みを帯びていて、正面左右には大きなエアダクトと大きな投射レンズ開口部があり、SF映画に出てくるエイリアン軍勢の兵器のようだ。投射レンズの円形額縁部分に入れられた赤の差し色もそうした雰囲気を演出している。

これでもか! というほどの複雑な曲面で構成されたボディは半光沢のブラック
一般的なプロジェクタと比較すると、横幅がかなり広い

 サイズは550×553×225mm(幅×奥行き×高さ)。丸みを帯びた形状ではあるが、大まかな寸法的にはほぼ正方形に収まるフォルムと捉えていいだろう。重量は18kg。複雑な光路設計、内部冷却のために搭載されたという特大ヒートシンクなどがその重さの要因なのだろうが、箱から取り出すのにも「よいしょ」と力を込める必要があるほどの重量だ。競合クラスのVPL-VW500ES、DLA-X700Rも15kg前後なので、EH-LS10000はクラス最重量級だ。

 天吊り金具はエプソン純正はなく、CHIEF社製のものが推奨されている。ただ、推奨品以外でも天吊り金具の選択肢は多いので心配は無い。とはいえ、かなりの重量級なので、天吊り設置を考えている人は、天井補強を含めた設置相談を住宅会社やインストーラ業者と相談した方が良いだろう。

 天板部が丸みを帯びているので、本棚などの天板に天地逆転しての設置は難しい。ただ、本機はレンズシフト量が相当に幅広いので素置きでも問題はないはずだ。

 底面にある脚部は3つ。後部に一脚、前部に二脚で、全部の二脚のみがネジ式の高さ調整に対応する。ネジを締めきった状態が0度、上げきると仰角3度となる

前部の2脚を結んだ中心点と後部脚部までの距離は実測で約32cm
エアフローは後部吸気の前面排気。正面の仰々しい2つのエアダクトから排気されるが、排気は投射軸を避けるように側方に排出されるため、埃が映像の前を舞わないよう配慮されている

 投射レンズは約2.1倍電動ズーム(F2.5-3.7 f:21.3-44.7mm)。ハイエンド機らしく、ズーム倍率、フォーカス調整、レンズシフトの全てが電動リモコン調整対応式だ。

 100インチ(16:9)の最短投射距離は2.83m、最長投射距離は6.04mと、狭めの部屋での大画面投影はもちろん、広めの部屋での投射にも対応できる。レンズシフト範囲も、上下±90%、左右±40%と非常に広く、設置柔軟性はかなり優秀だ。

投射レンズは、電動シャッターで保護されている。しかも、4枚羽根のシャッター構造の凝った作りで、開閉の様子もカッコいい

 フォーカス調整を行なった時に気が付いたのだが、フォーカス合わせは、疑似4K表示モードをオフにした方がやりやすい。疑似4K表示モード中は画素輪郭がぼやけてフォーカスのスイートスポットが分かりにくいためだ。

レンズポジションを最大10コマでのユーザーメモリに登録可能

 この他、設置関連で特記しておくべきことに、レンズポジション機能(レンズメモリー機能)の搭載が挙げられる。レンズポジション機能とは、フォーカス調整状態、ズーム倍率状態、レンズシフト状態を記録して、いつでも呼び出せるようにする機能だ。

 映画コンテンツの多くはシネスコ(2.35:1)で記録されており、一部の映画コンテンツではビスタ(1.85:1)のものも存在する。最近のホームシアターシーンでは、通常の16:9(1.78:1)スクリーンではなく、映画視聴を重視するユーザーは、そうした映画アスペクトのスクリーンを設置することも増えており、この機能はそうしたユーザーが重宝するのである。最もオーソドックスな使い方は、2.35:1スクリーン全域で映画映像を表示させるレンズ状態と、2.35:1スクリーンの左右両端に黒帯(未表示)領域をともなって16:9映像を全域表示させるレンズ状態をメモリーしておくスタイルだ。

 EH-LS10000では、このレンズポジションのメモリーを10個まで記憶させておくことが出来るのが特徴で、うまく活用すれば、1.85:1、4:3など、様々なアスペクトの映像コンテンツを、手持ちのスクリーンの最大表示域を使った投射を要領よく実践できるはずだ。10個もレンズメモリーがあると、ドンピシャに合わせたクリスピーフォーカス状態と、あえて「ややずらし」のしっとりフォーカス状態の両方をメモリーしておいて、映像の種類によって使い分ける、なんていう使い方も出来そうだ。

「明るさ切換」で光源の輝度モードを設定できる。公称スペックの1,500ルーメンは「高」設定時

 光源ランプは、冒頭や技術解説編で述べたようにレーザー光を採用しており、公称寿命は3万時間。これは、一般的なプロジェクタの超高圧水銀ランプの約10倍以上の寿命に相当し、メーカーも、EH-LS10000をユーザーによるレーザー光源ランプの交換を想定した設計にしていない。経年劣化によるホワイトバランス崩れが心配されるところだが、この点も心配なし。本体内蔵の調光システムが2系統のレーザー光源の出力バランス調整を一定稼動時間ごとに行なってくれる。

 気になる消費電力は、スペック上は459Wと相当に高い。このクラスの4Kプロジェクタが350W前後なので、100W近く消費電力が大きい。これは、EH-LS10000が、高出力なレーザー光源を2系統備えていることと無関係ではあるまい。ただし、エプソン開発陣によれば、「実利用上では250Wのランプ相当」とのことだった。

 騒音レベルは、公称値で19dB〜28dB。出力輝度に応じて冷却ファンの回転速度が変わり、低輝度モードでは19dBだが、高輝度モードでは28dBとなる。また、中輝度モードでは23dBとなる。

明るさ切換=低
明るさ切換=中
明るさ切換=高

 今回の設置ケースでは視聴位置が本体から1メートルほど離れたところだったのだが、低輝度:19dBモードでは、騒音は気にならない。中輝度:23dBモードでは、耳を澄ませば聞こえる。高輝度:28dBモードでは、うるさいというほどではないにせよ、存在感はそれなりに感じるといったレベル。

接続性チェック〜HDMI1はHDCP 2.2対応で4K AV機器接続対応

 接続端子パネルは本体後面に存在。といっても、開封して本体を取り出してもどこにあるのかわからないかもしれない。というのも、接続端子パネルは標準で付属する後面カバーに覆われているからだ。

接続端子パネルは後面部のカバー内にある。寸法値の奥行き553mmは、このカバーを装着したときの長さになる

 ケーブル類を接続したあと、カバーを被せてしまえば、後ろから見ても接続部を隠蔽できるというわけだ。設置後の美観も考えられているのはなかなか心憎い。

 HDMI端子はHDMI 1、2の2系統を装備。2系統ともHDMI 2.0対応で、4K/60Hz表示が行なえる。しかし、「HDCP2.2対応」はHDMI1のみとなる点に留意したい。すなわち、4K放送チューナーなど、HDCP 2.2接続が必要な4K機器はHDMI 1にのみに接続可能ということだ。

接続端子パネルのクローズアップ。HDMIは両方4K/60Hz対応だがHDCP2.2はHDMI1側のみ。RS232C端子とLAN端子(100BASE-TX)はホストPCからのリモート制御用のためのもの
「映像」-「アドバンスト」メニューにある「オーバースキャン」設定と「HDMIビデオレベル」設定。手動設定も可能だがオート設定は賢い

 ゲーム機やPCを接続したときに問題となるオーバースキャン調整やHDMI階調レベルの設定にも対応。HDMI階調レベル(HDMIビデオレベル)の設定は「オート」が優秀で、PlayStation 3などとの接続時も正しいモードが選択されていた。アナログビデオ入力は、コンポーネントとコンポジットを1系統ずつ備える。

 そして、ホームシアターハイエンド機にもPC接続用のミニD-Sub15ピン端子をあしらっているのは、ビジネス向けに強いエプソンらしいところ。

トリガ端子の動作を選択

 電動アナモフィックレンズ脱着、電動開閉スクリーンなどと連動させるためのトリガー端子はハイエンド機らしく3.5mmミニジャックタイプで2系統を装備。2端子共に「動作条件」を満たしたときに、この端子からDC12Vが出力される。「動作条件」は2系統、それぞれを独立に設定が可能。

 トリガ端子の動作は「オフ」「電源連動」「アナモフィック連動」が選べる。「アナモフィック連動」とはアスペクト比を「アナモフィック」に設定したときに動作させるモードで、電動アナモフィックレンズの制御に適している。

操作性チェック〜マニアにも使いやすいリモコン。PinPも搭載

リモコンはボタンが橙色に光る自照式

 リモコンは、EH-TW8100シリーズなどの下位モデルと同系デザインのもので、ボタンが橙色に光る自照式機構や、ダイレクトに希望の入力系統に切り換えられる入力切換ボタン、使用頻度の高い画調モードを変更する[Color Mode]ボタンなどは従来通り。ただし、ボタンのレイアウトはEH-LS10000用にカスタマイズされている。

 実際に使ってみると、筆者のようなマニア層の使い勝手にうまく適合したボタンレイアウトになっていて好印象を持った。例えば、レンズメモリーの呼び出しボタンは[Lens1][Lens2]として直接呼び出しが可能になっているし、レンズアイリス機構の調整も[Lens Iris]ボタンで直接呼び出せるようになっている。

 補間フレームの動作モードの設定は[Frame Int]ボタンで、疑似4K表示や超解像の動作モードの設定は[SupreRes/4K]ボタンで行える。3D立体視に関連する調整も[2D/3D]ボタンで3D立体視のオン/オフ調整ができるし、3D映像種別の切換も[3D Format]ボタンで行なえるようになっている。筆者のようなウルトラ・マニア層の普段使いでも、ほぼ、メニュー画面を出さないでも大抵の設定切換が出来てしまう。これは嬉しい。

本体側面にも簡易操作パネルがあしらわれている
室内照明状況に応じてランプ輝度モードを変更出来ればいいと思っていたが、任意の機能呼び出しを割り当てる[User]ボタンに割り当てることで対応できた

 電源オンから4Kチューナーからの4K映像が表示されるまでの所要時間は実測で約21秒。通電直後から最大輝度で発光出来るレーザー光源ということで短時間起動を期待したのだが、意外にもそれほどは早くない。ちなみに、同じエプソンの超高圧水銀ランプ採用機のEH-TW5200が約20.0秒だったので、ほぼ同等。できれば一桁秒台の起動→表示で驚かせて欲しかった。

 HDMI1→HDMI2の切換所要時間は実測で約5.0秒。これもあまり早いとはいえない。

 搭載されているアスペクトモードは以下の通り。長らく搭載されてきた4:3映像の外周を引き伸ばして16:9化する疑似ワイドモードは省略された。

アスペクトモード
ノーマル アスペクト比4:3を維持して表示。16:9映像ではパネル全域に表示
フル アスペクト比によらずパネル全域に表示。
ズーム 4:3映像に16:9映像をはめ込んだレターボックス映像を切り出してパネル全域に16:9映像として表示
アナモフィック 16:9映像に2.35:1映像をはめ込んだような、上下に黒帯を含んだ投射状態の2.35:1映像をアナモフィックレンズで2.35:1スクリーン全域に表示させるためのモード
Hスクイーズ 2.35:1映像を16:9映像パネル全域にはめ込んだ投射状体の2.35:1映像をアナモフィックレンズで2.35:1スクリーン全域に表示させるためのモード

 アスペクトモードの切り替え所要時間は実測で約1.0秒。なお、720p、1080p、4Kの映像を表示させたときにはアスペクトモードの変更は出来なかった。

 画調モード(Color Mode)の切り替えは「カラーモード」メニューから選択する方式。切り換え所要時間は約2.0秒。やや待たされる印象で、一度画面が暗転してしまうので、変更前後の画調変化が分かりにくい。

 画質調整機能自体の仕様は、エプソン従来機からの大きな変更はなし。「明るさ」「コントラスト」「色の濃さ」「色あい」「シャープネス」「色温度」といった基本項目に加え、RGBのオフセットとゲインで各色のバランスを調整したり、RGBCMYの各系統の色に対して「色相」「彩度」「明度」で出色の傾向を調整する機能が用意される。

エプソン プロジェクタではお馴染みの調整項目、調整メニューが用意されている。過去機種からの移行組はすんなりと馴染めるはず

 少し変わったEH-LS10000ならではの機能項目を幾つか紹介しよう。

 1つ目は「画質」メニューにある「ダイナミックコントラスト」。リモコンの[DynCR]ボタンでも呼び出せるこの設定項目は、「オフ」「標準」「高速」からの三択が可能となっている。機能名から連想されるように、フレーム単位の平均輝度に呼応して、光源輝度をリアルタイム制御する仕組みなのだが、従来機では動的絞り機構(オートアイリス)によって実現されてきた機能になる。EH-LS10000では、レーザー光源の高速応答性を活かし、オートアイリスを配してレーザー光源出力をリアルタイム調整することでこの機能を実現しているのだ。

 機能としては従来機のオートアイリスそのままだが、機械式絞り機構ではないので無音によるハイレスポンスができるようになったことがウリとなっている。「オフ」設定ではこの仕組みを完全キャンセルする設定(輝度一定)で、「標準」と「高速」は映像の変化に対して実践する輝度調整の遅延具合を設定するものになる。

「ダイナミックコントラスト」は時間方向の映像平均輝度連動型の光源輝度動的調整機能になる
EH-LS10000における「レンズアイリス」はオートアイリスではなく「固定絞り」設定となる

 「標準」と「高速」では、漆黒の映像完全暗転時には光源オフ(消灯)も実践される。これは一度消灯してしまうとスペック輝度にすぐに戻せない超高圧水銀ランプでは考えられない制御で、レーザー光源ならではの機能といえる。ちなみに、漆黒映像入力後、「標準」では実測で約3.0秒後、「高速」ではその瞬間に光源オフが実践される。実際に映像を見てみると「高速」はやや唐突な印象で、「標準」では実際の映像コンテンツでは3秒間も漆黒表示はほぼないため、光源オフが実践されることがほとんどなかった。一秒くらいで消える中間の遅延モードが欲しいと感じる。

 それと、EH-LS10000には「オートアイリス」機能がないと述べたが、EH-LS10000には絞り具合を調整出来る「固定絞り機構」は搭載されている。絞り具合は[Lens Iris]ボタンで呼び出せる「レンズアイリス」設定で行え開放(0)から最大絞り(-11)の12段階設定が行なえる。

カラーガマット

 2つ目は画調モードを「ナチュラル」に設定している時に限って設定できる「画質」-「アドバンスト」階層下の「カラーガマット」という設定項目。これは要するに色域モードの設定で、「HDTV」「EBU」「SMPTEC-C」から選択が可能となっている。HDTVはsRGB同等の国際規格BT.709準拠のもの、EBUは欧州放送連合の規格、SMPTE-Cは映画テレビ技術者協会の規格に対応する。通常の民生用途では「HDTV」を選択しておけばいい。

 3つ目は「ピクチャー・イン・ピクチャ−」(PinP)機能。ホームシアター向けプロジェクタで、しかも、HDMI入力同士のPinP機能を搭載しているのはかなり珍しい。

 HDMI1、HDMI2のいずれもが親画面ないしは子画面にすることが可能だが、どちらか一方に4K映像/3D映像が入力されていると利用は出来ない(一部うまく映る場合もあったが、色あいがおかしくなったりする)。また、アナログビデオ入力はPinP表示出来ない。

 ゲームプレイ中にスポーツ中継をチェックする場合など、「ながら見」する際には便利そうな機能ではある。

「ピクチャー・イン・ピクチャー」機能。子画面表示位置は、親画面の四隅のいずれかに設定可能で、子画面のサイズは大小の二択で設定ができる
「映像処理」設定は事実上の低遅延/通常モードの切換設定に相当

 EH-LS10000は「ゲームモード」は搭載されていないが、その代わり、システム遅延を低減する設定は用意されている。それが「映像」-「アドバンスト」階層下の「映像処理」設定だ。ここでは「きれい」「速い」の2つの設定が選択でき、「きれい」が映像エンジンをフル稼働させる通常モードで、「速い」が一部の高画質処理をバイパスさせる高速応答モードになる。

 実際に、表示遅延3ms(60Hz時約0.2フレーム)を誇る東芝のREGZA 26ZP2を用いて、ES-LH10000を「画調モード=ナチュラル」として表示遅延を測定してみたところ、「映像処理=きれい」では約200ms、60fps時で約12フレームの遅延が計測された。一方、「映像処理=速い」では約34ms、60fps時で約2フレームの遅延となった。

 「映像処理=速い」では、リアルタイムゲームのプレイにも対応できそうである。

「映像処理=きれい」モード時
「映像処理=速い」モード時

 ただ、低遅延モード時には、解像度が劣化してしまう症状に見舞われる。下の写真は、4Kエンハンスメント=オフ(超解像処理、疑似4K表示無し)のフルHDのドットバイドット表示のテキストを撮影したものだが、低遅延モードでは明らかに表示ピクセルが間引かれているのがわかる。これは、競合機では起きない症状なので、改善を望みたい。

「映像処理=きれい」モード時
「映像処理=速い」モード時

画質チェック〜疑似4K表示品質の実力は?

 ES-LS10000の技術的詳細は既に前回解説済みだが、本稿でも軽く触れておこう。

 映像パネルは反射型液晶パネル。解像度は1,920×1,080ピクセルのフルHDの1080p解像度である。EH-LS10000に採用された液晶パネルは、反射型液晶パネル採用1号機であるEH-R4000から世代が改まっており、開口率は84%から90%に高められている。その甲斐あって、投射映像に粒状感はほぼ感じられない。

フルHD解像度のキングパターンをドットバイドットで表示。リアルフルHD表示(疑似4K表示無し)
フルHD解像度のキングパターンをドットバイドットで表示。疑似4K表示有効化

 また、エプソンによれば、EH-LS10000の反射型液晶パネルは画素駆動に関してあえてアナログ駆動を採用したとのこと。反射型液晶パネルにおける画素のアナログ駆動は、画素電極の駆動を文字通りアナログ的な電圧変化で行なう。このため、入力想定電位幅が大きくなることから、画素駆動部に高耐圧トランジスタが必要になり、デジタル駆動方式に比べてコストが高く付くことになる。

 ちなみに、EH-LS10000と同じく反射型液晶パネルを採用するソニーのSXRDプロジェクタ、JVCのD-ILAプロジェクタの近年モデルでは画素駆動にデジタルパルス変調方式を採用しており、今回エプソンは差別化を図ってこの選択をしたと思われる(ソニーもJVCも2005年くらいまではアナログ駆動を採用していた)。ちなみに、EH-LS10000が採用するアナログ駆動では、グラデーション表現がパンしたとき(スクロールしたとき)などにおいて、擬似輪郭が視覚されにくいという特長がある。

 投射レンズのフォーカス性能は良好。レンズシフトを活用した状態でも中央でフォーカスを合わせれば画面ほぼ全域でぴったりと合ってくれる。色収差による色ずれはそれなりにあるものの液晶アライメント調整でソフトウェア的にG(緑)基準でR(赤)とB(青)のシフト調整が行なえる。

色ずれの修正は「液晶アライメント」調整で行える。ただ、ソニーのSXRDプロジェクタの同系機能と比べると、シフト調整量はやや粗め

 「EH-LS10000はエプソン初の4Kプロジェクタ」と冒頭で説明したが、1080p解像度の映像パネルを光学的に半ピクセル分斜め方向にシフトすることで、疑似的に3,840×2,160ピクセルの4K表示を行なう方式だ。JVCのD-ILAプロジェクタが実践している「e-shift」と呼ばれるものとほぼ同系の技術を使っていることになる。

 この方式では、4K映像フレームを時間軸上で2つのサブフィールドに分解して表示を行なう。具体的には、隣接する4ピクセル同士の陰影と色の情報を時間方向に分解し、2つのサブフィールドに振り分けて表示することになるのだが、原理上、ある一定量の誤差は免れない。ワーストケースを想定すれば、この方式では1080pの縦横解像度を√2倍した2,715×1,527ピクセル程度の解像度になる。

 それでは、EH-LS10000の4K映像の表現力はどの程度なのだろうか。

 実際に「Channel 4K」で放映中の「美JAPAN」シリーズを色々と見てみたのだが、想像していたよりは画質はいい。

 例えば「神奈川・截金 仏画彩色 崇高な極限美」では、4K解像度のチェックにぴったりな、極細なテクスチャを伴った仏画やその制作現場のシーンが続くのだが、そうしたシーンにおいても、EH-LS10000はなかなかがんばった表示が行なえていた。高い解像表現能力が求められるテクスチャ表現においても、ほぼ4K解像度の1ピクセル単位の描写が出来ているように見える。

フルHD解像度の文字パターンをフルHDのドットバイドットで表示。リアルフルHD表示(疑似4K表示無し)
4K解像度の文字パターンを4Kのドットバイドットで疑似4K表示

 ただ、完全無欠というわけではなく、不得意なシーンもあるようだ。

 例えば明暗差の大きい1ピクセル単位のテクスチャ表現だ。この半ピクセルずらし方式では、極端な説明をすれば、鋭く明るい4K解像度の1ピクセルの輝度値は、2つのサブフィールドに分解されることで平均化されて4ピクセルに拡散される。このため、1ピクセルがとても強い存在感を持った4Kテクスチャ表現は、もやったとした(≒本来のフルHD解像度の)描画になる。

 結論としては、EH-LS10000の疑似4K表示で、美しく見える4K映像は、木目、布のシワ、水面のさざ波、人肌の肌理のような同色系の輝度差の少ない色ディテール表現であった。

 PCで4K接続したときの4K表示能力を気にする人もいるかもしれないので、そのことについても軽く触れておこう。前述したように、明暗差の激しい1ピクセル単位の表現はEH-LS10000の疑似4K表示システムにとっては不得意事項なので、Web画面などにおける画数の多い漢字表現などは、やはりボヤっとした表示になってしまう。その代わり、静止画の高解像度写真を表示する向きにはそれなりに高品質の高い表示が行なえる。

 それと、EH-LS10000の疑似4K表示についてカラーブレーキングのような現象が知覚されないか心配する人がいるかも知れないが、この点は問題なし。カメラがパンするようなスクロール映像においても、擬似輪郭が出ることもなかった。これは、もしかすると、液晶パネルがアナログ駆動である事の恩恵かも知れない。

 4K表示性能について総括すると、疑似4K表示という枠組みの中では十分に評価できるものになっている。

 続いて、LH-ES10000のメインの活用シーンであるフルHDコンテンツの表示能力について見ていくことにしよう。

4Kエンハンスメント」設定。「オフ」は超解像処理なしのフルHDパネルによるリアル表示。「1〜5」がフルHD映像に対する超解像処理。数値が大きいほど強度の高い超解像処理を行う。「4K-1〜4K-5」は4K映像にアップスケールしての超解像処理で、その表示においては疑似4K表示モードが採択される

 EH-LS10000では、フルHD映像が入力された際、そのままフルHD映像として表示することもできるが、超解像処理を実践して4K解像度にアップスケールさせる「4Kエンハンスメント」処理を利用できる。そしてその4K化された映像は、前述してきたような疑似4K表示によって出力されることになる。

 実際に、ブルーレイの映画として「エクスペンダブルズ3」(日本版)を見てみたが、結論から言えば、EH-LS10000の疑似4K表示機能は映像体験にプラスに働くことはあってもマイナスに働くことはなかった。

 俳優のアップショットにおいては、人肌がリアルに描き出してくれており、感嘆ものだ。主役のスタローンが実際にそこにいるかのように見えることもあった。EH-LS10000の「4Kエンハンスメント」処理は、ただ「陰影を鮮鋭化」するのではなく、視力が上がったかのような「解像度情報の鮮明化」を実践しているかのようで、肌の肌理表現においても凹凸や毛穴が陰影が際立たされるというよりは「もともとあったものがよく見えるようになる」という感じになっている。「4Kエンハンスメント」処理が単なる陰影強調でないことは、化粧をした女性などのアップでは、過度に肌の肌理が強調されないことからも感じ取れる。

 これは恐らく、「4Kエンハンスメント」処理が、陰影自体を単純に明暗方向に深掘りするのではなく、その陰影の形状自体を高解像度で復元する……というようなアルゴリズムだからではないか。映像中のオブジェクトの「実在感」が強調されるのはそうした理由からだと思う。

 「エクスペンダブルズ3」以外にも幾つかの映画コンテンツを見た感じでは、「4Kエンハンスメント」処理の設定は1.5〜2メートル前後の視聴距離であれば「4K-3」か「4K-2」あたりがお勧めだ。

Super-resolution/4K Enhancement=オフ」
Super-resolution/4K Enhancement=1
Super-resolution/4K Enhancement=3
Super-resolution/4K Enhancement=5
Super-resolution/4K Enhancement=4K-1
Super-resolution/4K Enhancement=4K-3
Super-resolution/4K Enhancement=4K-5
Super-resolution/4K Enhancement=オフ」
Super-resolution/4K Enhancement=1
Super-resolution/4K Enhancement=3
Super-resolution/4K Enhancement=5
Super-resolution/4K Enhancement=4K-1
Super-resolution/4K Enhancement=4K-3
Super-resolution/4K Enhancement=4K-5

 続いて発色と階調について。

 EH-LS10000は、2系統の青色レーザー光源を持ち、1つはそのまま青色を取り出すのに使い、もう一つは、青色レーザーから蛍光体にぶつけて波長変換して黄色を作り出し、ここから緑色と赤色を抽出している。公称輝度は1,500ルーメンだ。

 青色レーザー光から直接取り出された青色の純度はさすがで、色深度も深い。明るい青のパワー感はもちろん、かなり暗い青い色にまでなだらかな階調表現が行なえている。

 一方の赤と緑も不自然さはなく、画調モード「デジタルシネマ」などでは、鋭い赤と鮮烈な緑が出せていた。

 各画調モードにおいても、レーザー光源採用機だからと言って、どぎつい色使いにはしておらず、従来のエプソン製プロジェクタが出してきた発色傾向は踏襲している。エプソン従来機ユーザーからすれば、「ダイナミック」「リビング」「ナチュラル」といったお馴染みの画調モードにおいて色味に関しては、まったく違和感がないはずだ。「ダイナミック」にいたっては、わざとなのか「超高圧水銀ランプっぽい、黄色に飛んだホワイトバランスの発色を再現しているほど。

 映画コンテンツを視聴する際には、エプソン従来機からあった画調モードである「シネマ」、そしてEH-LS10000から新設された「THX」、「デジタルシネマ」の3つから選択することになるかと思う。

 「THX」は、暗部階調をやや強めに暗く落とし込む傾向があり、少しコントラストを強くだそうとするチューニング。肌色などもやや赤味を強めに寄せて血の気の質感を重視した色あいだ。

 「シネマ」は、肌色を透明感重視の発色にしており、その他の純色の発色は「THX」に近く、sRGBの範囲からはあまり逸脱しないチューニングだ。階調は、「THX」ほど暗部階調を強く黒には落とし込まず、暗部階調も比較的よく見せようとする思惑を感じる。

 「デジタルシネマ」は、階調バランスは「シネマ」とそっくりで、暗部情報量重視のチューニングだ。発色に関してはレーザー光源の広色域性能を使い切ろうとした作り込みになっていて、赤、緑、青の純色は彩度がやや強まる。とは言っても強すぎるほどではない。ただ、肌色も含めて、色温度は若干高くなる。

ダイナミック
リビング
ナチュラル
THX
シネマ
デジタルシネマ
Adobe RGB

 で、「映画をどの画調で見るか」ということになるわけだが、これは悩ましい。

 「THX」は、ハリウッド映画の標準画調規格のようなものなので、基本的に洋画などは「THX」で見ておけば間違いないと思うが、EH-LS10000が持つ広色域性能を活かしたいならば彩度豊かな「デジタルシネマ」ということになるだろうか。ただ、一部の映画コンテンツではバランス的に緑色が強くなりすぎることもあったので、違和感を感じたならば「シネマ」にするといいかもしれない。「シネマ」は、暗部階調の描写力が高いので、暗めの映画などは「THX」よりも適している。

 EH-LS10000の公称コントラストについて、エプソンは「無限大:1」を謳っている。これは、漆黒表示時に前述の光源オフを用いて計算した値なのだが、1フレーム内に明暗が同居した場合には2万:1〜3万:1とのことだ。実際に映像を見てみると、最暗部はかなり部屋の暗さに近いところまで落とし込めている。

 これまで、エプソンのプロジェクタはどちらかと言えば輝度でコントラストを稼ぐ画作りだったが、EH-LS10000は、反射型液晶パネル採用と言うこともあって、暗部の暗さでもコントラストが稼げている。ソニーのSXRDやJVCのD-ILAとほぼ同等のコントラスト性能が達成できていると思っていい。

 動画性能についても触れておこう。

「フレーム補間」設定

 EH-LS10000には、補間フレーム挿入付きの倍速駆動に対応しているが、実は、使用有効条件が意外に厳しい。4K映像の60Hz(60fps)表示に対応してはいるが、この4K/60Hz映像を補間フレーム挿入によって120Hz表示することには対応していない(「フレーム補間」設定項目も不活性化される)。4K/30Hz映像も同様だ。

 フルHD映像入力時も「4Kエンハンスメント」機能を活用してしまうと、60Hzの映像に対してはフレーム補間挿入は行なえない。

 では、逆に補間フレーム挿入が行なえるのはどう言った状況なのかというと、「4Kエンハンスメント」オフ時はフルHD/60Hzまで、「4Kエンハンスメント」オン時はフルHD/24Hzまでということになる。

 その補間フレームの品質はどうかというと、まずまずといったところ。画面全体が動くカメラパンにはうまく適合できているが、映像内に同一模様が存在し、これが動いた場合などは破綻しがちだ。

 いつものように「ダークナイト」のチャプター1およびチャプター9のビル群の空撮シーンを見てみたところ、ビルの壁面が大きく振動するアーティファクトが確認された。「フレーム補間」設定の「弱・標準・強」のいずれにおいても同様の症状が確認されたが、「弱」設定の方が、原フレーム支配率が高い描画となるため振動が目立ちにくい。使うならば「弱」、安心して映像鑑賞したいならば「オフ」設定が無難だろう。

3Dメガネが付属

 3D立体視にも対応しており、Bluetooth方式の3Dエミッタを標準搭載。規格的には「フルハイビジョン3Dグラス・イニシアチブ規格」の3Dメガネに対応しており、商品セットには純正の3Dメガネが一個付属する。

 実際に、3D映像を視聴。いつものように視聴コンテンツは「怪盗グルーの月泥棒」だ。

 公称スペック1,500ルーメンの甲斐もあってEH-LS10000の映し出す3D映像はかなり明るい。なお、3Dモードの時は高輝度モードが自動採択されるようだ。

 メガネを掛けた状態での画質も良好。自然な色調や階調が再現されるようにうまくチューニングされていた。なお、3Dモード時は画調モードは「3Dダイナミック」「3D THX」「3Dシネマ」の3つに限定される。画調モードの色調、階調の傾向は、前述した平常時(2Dモード時)の同名画調モードと同じだ。

 3Dモード時は「4Kエンハンスメント」処理を使った疑似4K表示は利用出来ず。3D映像でも、あの高品位な超解像4K化映像が楽しめれば、EH-LS10000の価値がさらに高まるだけに残念である。

3D設定

 3Dモード時でも、1080p/24Hzの映像であれば、補間フレーム挿入を効かせることは可能。ただ、前述したようにあまり積極活用はしたくない機能ではある。

 クロストーク(二重像)の具合は、ジェットコースターのシーンでチェック。フレームシーケンシャル方式の立体視ではかなりシビアなトンネル内の照明オブジェクトも、二重像は目立たず。

 総じて3D映像品質はかなり完成度が高いと思う。

エプソン入魂のハイエンドプロジェクタ

 「EH-LS10000」は、エプソン初のホームシアター向けハイエンド機ということで、「レーザー光源搭載」「疑似4K表示対応」「新・反射型液晶パネル採用」と、新ネタが盛りだくさんのモデルとなっており、エプソンの気迫が感じられる新製品であった。

 実際に評価をしてみても、ユーザーの顔を思い浮かべながら非常に丁寧に作っていることが伝わってくるし、表示映像品質も良好であった。

 想定価格は約80万円、そして4K対応のハイエンド機というジャンルで括ると、競合製品はソニー「VPL-VW500ES」やJVC「DLA-X700R」ということになるだろう。

 それではEH-LS10000がこの2つのライバルに対して、どの程度、競争力があるのか。スペック的には、2つのライバルの中間に位置してくると思う。

 VPL-VW500ESはリアル4K映像パネル採用で加点。DLA-X700RはEH-LS10000とほぼ同方式の疑似4K表示対応で、表示性能では同列。EH-LS10000は、2つのライバルにない、ほぼ交換不要のレーザー光源を採用。これで加点。

 4Kプロジェクタとしてみれば、EH-LS10000はVPL-VW500ESには表示解像度性能で及ばないのだが、疑似4K表示能力をもったフルHDプロジェクタとしてはレーザー光源を採用する分、DLA-X700Rの上といえると思う。

 2015年4月現在の実勢価格は、VPL-VW500ESが約80万円、DLA-X700Rが約70万円。EH-LS10000は初登場ということで、約80万円程度となっているが、これがVPL-VW500ESやDLA-X700Rの実勢価格を下回ってくれば、EH-LS10000に高い競争力が見えてくると思う。これまで従来のエプソン上級機を使い続けてきたファンは、30〜40万円前後でフルHD機を購入してきたユーザー層なので、彼らに強い訴求ができれば、フルHD機からの買い替え派を多く取り込めるのではないかと思う。

 もっとも、70万円オーバーのクラスに手を出すようなハイエンドユーザーは、“リアル4K”に高い関心を示しているのは間違いない。EH-LS10000はよい製品だ。それだけに、エプソンのリアル4Kモデルを見てみたい気にはなってしまうのである。

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EH-LS1000

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら