西川善司の大画面☆マニア

第208回

プロジェクタ入門機決定版。エプソン「EH-TW5350」

10万円フルHD 3Dモデルの確かな進化

 「映像を大画面で楽しみたい」という欲求を満たすため、「ホームシアタープロジェクタを自宅に導入する」という選択をする人はなかなかの好事家だ。とはいえ、いきなりハイエンド機にいくのは不安があるし、まず最初は「その世界の素晴らしさを覗き見たい」ということで、比較的、お求めやすいエントリー機に目が向くことになる。

 ハイエンド機の存在は重要だが、ユーザー層の拡大、新規開拓をしなければ、その製品ジャンルの存在そのものが先細る。だからこそ、エントリー機の存在は重要だ。

EH-TW5350

 8月末から発売されたエプソンの「EH-TW5350」は、約2年ぶりに投入されるフルHDエントリー機の新モデルだ。その性能を検証すると共に、前世代「EH-TW5200」から進化ポイントについても見ていきたい。価格は約10万円。リアル フルHD、3D対応で、この値段はなかなかの意欲作である。

設置性チェック:小型軽量で高出力。天地逆転設置用のゴム足も付属

 本体デザインは基本的にEH-TW5200をそのまま継承。外形寸法は297×245×114mm(幅×奥行き×高さ)と変更無い。占有面積としては、A4用紙よりは大きいが、見た目的にはかなりコンパクトだ。

 重量は約3.1kgで、片手でも持てる軽さ。基本設置スタイルは台置きとなるが、天地逆転して設置するためのサポートグッズが商品セットに標準添付されている。それは「ゴム足」だ。

EH-TW5350。3.1kgと軽量なため設置は楽だ

 本機の本体は丸みを帯びているデザインのうえ、操作パネルが上面にレイアウトされている関係で、本棚天板等に天地を逆転して逆さ設置すると、転がったり、操作パネルのボタンを接地部が押し続けてしまったりする。それを回避するためのゴム足なのだ。ご丁寧にも、貼り付け位置が細かく指示されている親切ぶり。これを用いると、たしかに逆さ設置がやりやすい。今回は、このゴム足を使っての逆さ設置で評価した。

 もちろんゴム足を使わない、普通の天吊り設置も行なえる。純正設定されている天吊り金具は従来通りの「ELPMB23」(31,500円)が利用できる。天井の高さに応じて天吊り金具と組み合わせて使う延長パイプも、調整幅668mm〜918mmの「ELPFP13」(8,400円)、調整幅918〜1,168mmの「ELPFP14」(8,400円)の2種類がラインナップされている。

 台置き時にお世話になる高さ調整式の脚部は、前側一脚、後ろ側二脚の三点支持方式。エントリー機では後ろ側の脚部がゴム足の高さ固定式なものが多いが、本機では三脚全てが高さ調整に対応している。前部脚部と後部脚部までの横から計測したところ約18cm。

前脚はスライド式で高さ調整が可能
2つの後脚はネジ式。2つの後脚を結んだ軸線と前脚の距離は約18cm。つまり幅18cmの台における

 投射レンズは先代から変更なしの手動調整式の光学1.2倍ズームレンズ(F:1.58-1.72 f:16.9-20.28mm)を採用。レンズシフト機構はなく、投射光軸は固定されている。映像の99%が本体上方向に投射され、1%が下に広がる投射光軸デザインで、スクリーンのほぼ下辺あたりの高さに設置するイメージになる。投射レンズには電動式ではないが、手動式のシャッターがあしらわれているのがユニークだ。

投射レンズ部。手動式のスライドシャッター付き。

 100インチ(16:9)の最短投射距離は272cm。最長等射距離は327cm。ズーム倍率は小さいが「短い投射距離で大画面を投射する」ことに特化した光学設計で、一般家庭においてはそれほどの不満はない。

 レンズシフト機構はないが、画像処理による上下左右の台形補正機能は搭載されている。上下方向の台形補正は自動補正に対応しており、左右方向の台形補正は本体上面のスライダーによる調整となる。

 前側の脚部を持ち上げて角度を付けて、映像の打ち上げ角を上げる際には、上げすぎには注意して欲しい。というのも、画面の上と下でフォーカスがずれて画質が低下する。もっとも、最上質の画質を求めるならば、台形補正は画像変形技術であるため、使わないに越したことはない。

ズーム、フォーカスの調整は手動式。レンズシフトはなし。台形補正をスライダーで行なえるがデジタル画像処理によるもの
台形補正機能。縦方向は自動モードもある

 エアフローは、側面吸気の正面排気というデザイン。側面には物を置かないように気を付けたい。

フロントのスリットは排気用
側面に吸気口。ここを塞がないように気を付けたい
吸気フィルターはユーザー交換が可能

 公称排気騒音は最小29dBと発表されているが、これは「明るさ切換」(ランプ輝度モード)が「低」の時の値になる。「高」設定にすると一段大きい騒音になる。そもそも「低」時の騒音レベルがやや大きめだ。これは小型ボディで小径の冷却ファンを高速に回しているためだと思われる。

 本機の光源ランプは、小型ボディからは連想できないほどの高出力の200W超高圧水銀系ランプを採用。動作音が大きい原因は、ここにあるのかもしれない。

 なお、交換ランプは、先代から輝度スペックが変更になったこともあって、「ELPLP88」(27,000円/税込)というEH-TW5350専用設計のものに変更された。

 消費電力は「明るさ切換=高」時で307Wで、微妙に先代よりも高くなっている。2,000ルーメンクラスのプロジェクタ製品としては普通だが、小型ボディの外観を考えるとかなりの消費電力の高さといえる。

接続性チェック:HDMI/MHL対応。MiracastやBluetoothも

 接続端子パネルは背面側にある。HDMI入力は2系統で、DeepColorに対応し、x.v.Colorには未対応。3D立体視とHDMI CECによる機器制御にも対応する。HDMI1はMHLにも対応する。MHLは、スマホやタブレットなどで採用されている端子で、MHL経由でスマホを接続したときには、スマホが充電状態になるのがMHLの特徴。

背面の接続端子群。D端子はなくてもD-Sub15ピン(アナログRGB)端子を残している

 HDMI階調レベルは「映像」メニューの「HDMIビデオレベル」にて設定が可能。「オート」の他、「通常」(16-235)、「拡張」(0-255)が選択できる。

 オーバースキャンも「映像」メニューの「オーバースキャン」設定で「オフ」とすることでアンダースキャン表示に切り替えられる。ゲーム機やPCとの接続にはなんの不満もなし。

オーバースキャン設定
HDMI階調レベルの調整

 アナログビデオ入力系は、コンポジット映像入力端子のみで、アナログ音声入力(RCA)も装備されている。D端子やコンポーネントビデオ入力端子はない。PC入力用としてアナログRGB接続用のD-Sub15ピン端子も備えており、音声入力端子は、このPC入力用の音声入力としても利用できる。

 本機には出力5Wのモノラルスピーカーが搭載されており、HDMI入力、前出の赤白音声入力からの音声信号を鳴らすことができるようになっている。EH-TW5200が2W出力だったので、EH-TW5350では微妙にパワーが上がったことになる。

 ちょっとしたゲームプレイやプレゼン用途では、本体のみで音声を鳴らせるのは便利だろう。あくまで簡易用途として搭載されているものなので、音質はノートパソコン内蔵スピーカー程度、という印象だ。ステレオミニジャックの音声出力もあり、外部のPCスピーカーやオーディオ機器にも接続できる。

本体内蔵のモノラルスピーカー。HDMI入力、MHL入力の音声も再生可能。Bluetoothオーディオでサウンドは無線で飛ばす事もできる

 USB端子も装備。ここはストレージデバイスの接続に対応しており、USBメモリやデジカメなどが接続できる。接続機器内に収録されたJPEG静止画を本機上でスライドショー再生できるので、こちらもPCレスのプレゼンなどで重宝しそうだ。ただし、動画の再生には対応していない。

 また、新たに無線LANを標準搭載した点が、接続性関連でのEH-TW5350の大きなトピックとなる。これについては、次節で詳解することにしたい。

Bluetoothオーディオ出力にも対応。Bluetooth接続のヘッドフォンや外部スピーカーを接続して利用することもできる

 本機は3D立体視にも対応する。

 プロジェクタ本体と3Dメガネとの同期は電波式(Bluetooth)で、シンクロエミッターは本体内蔵だ。3Dメガネは別売で、純正品としては「ELPGS03」(10,500円)が設定されている。

 ただし、「フルHDグラス・イニシアチブ規格」に準拠しているので、同規格品であれば他社製3Dメガネも利用できる。なお、今回は、手持ちのパナソニック製の3Dメガネ「TY-ER3D5MW」をペアリングしてみたところ、問題なく使うことが出来た。

操作性チェック〜充実のスマホ連携機能。スマホ画面との2画面機能も

 リモコンは小振りな飾りっ気のないデザインのもので、ボタンのライトアップもなく、簡素である。

 操作機能名はボタンに刻印されておらず、リモコンのボディ側に記載されている。機能名がボタンの上に書かれている列、下に書かれている列があり、最下段のボタンは機能名とボタンの対応が一瞬分かりにくい。

シンプルなリモコン。ライトアップ無し。先代にあったアスペクト比切換の[Aspect]や、動的絞り機構「オートアイリス」設定の[AutoIris]ボタンは本機で姿を消している
本体天板には簡易操作パネルがある。[Home]ボタンを新設

 ただ、入力切換は、個別ボタンで実装されていて希望の入力系統に直接切り換えられるし、HDMI-CEC機器操作ボタンや、2D/3D切換、3Dフォーマット切換までがあり、使用頻度の高いボタンは一通りそろっているので、使い勝手は悪くない。好きな機能ボタンを1つだけ割り当てられる[User]ボタンも先代から継承。筆者は、使用頻度の高い「明るさ切換」(ランプ輝度モード)設定呼び出しをここに割り当てて使ったが、結構便利であった。先代機には[Fast/Fine]ボタンという、低遅延モード(速い)と画質重視モード(きれい)の切り替えボタンがあったのだが、EH-TW5350のリモコンではカットされてしまった。この機能を[User]ボタンに割り当てるのも良さそうだ。

 なお、本機では、アスペクトモードのうち、4:3映像を疑似16:9化する「ワイド」モードがついにカットされている。最近では4:3映像の疑似ワイド表示を選択する機会も減ったので実害はないだろう。

[User]ボタン設定
アスペクトモード一覧

    【アスペクトモード】
    ノーマル:アスペクト比4:3を維持して表示。
    フル  :パネル全域に表示。アスペクト比16:9を維持して表示
    ズーム :4:3映像に16:9をはめ込んだレターボックス映像を切り出してパネル全域に16:9映像として表示

 先代にはない、本機から搭載された新機能に「ホーム画面」がある。

 これは[Home]ボタンを押すことで現れるグラフィカラルな操作(+情報)画面で、選択されている入力系統表示とその切換や、ネットワークステータスの確認、スマホアプリ「EPSON iProjectioin」と連携するためのQRコード表示などが行なえる。意外に便利なのが、ラインナップをカスタマイズ可能な「よく使う機能」メニューで、「使用頻度は高いが、[User]ボタンに割り当てるほどではないもの」をここに並べるといい。例えば[User]ボタンに「きれい/速い」(低遅延モード)を設定したのであれば、ホーム画面には「オートアイリス」「明るさ切換」(ランプ輝度モード)を並べるといいだろう。ちなみに、ここに並べられる機能は「オートアイリス」「明るさ切換」「台形補正」「情報」の4つからの選択となっている。

 前世代EH-TW5200では、画質を調整してユーザーメモリに保存することができず、プリセット画調(カラーモード)を上書きする形でしか保持できなかった。今回のEH-TW5350では、上位機と同等に10個のユーザーメモリに保存することができるようになった。ここも地味ながら重要な改善ポイントだ。

新搭載のホーム画面
上位モデルとほぼ同等のユーザーメモリ機能が搭載された

 電源オン操作からEPSONロゴが表示されるまでが実測で約9.0秒、HDMI入力映像が表示されるまでの所要時間は実測で約16秒。先代よりも少し高速化されたようである。なお、本機ではEPSONロゴを非表示にしても、HDMI入力映像が表示されるまでの所要時間は変わらなかった(先代はEPSONロゴを非表示にした方が速かった)。

 HDMI1→HDMI2の入力切り換え時の所要時間は実測で約3.5秒。先代よりも少し高速化されているようである。

 プリセット画調モードの切り替え所要時間はほぼ1秒未満。ほぼ瞬間に切り替わる。

 さて、新機能として搭載されたスマホ連携機能についても触れておこう。

 かなり力を込めて開発されている機能で、2タイプの機能が提供されている。

 1つは、無線LANを利用した映像伝送機能の「Miracast」だ。スマホがMiracastに対応していれば、無線でスマホの画面を複製(ミラーリング)できるのだ。この機能の活用のしかたは機種によって異なるが筆者のスマホの「Xperia Z ULTRA」だと、設定メニュー階層下の「スクリーンミラーリング」を選択して、接続先をEH-TW5350と選択するだけで接続できてしまった。実に簡単である。

Miracast(スクリーンミラーリング)関連設定は「ネットワーク」設定で行なう
スクリーンミラーリング状態でスマホの「アルバム」を起動したところ
HDMI入力映像とスマホ画面の2画面表示にも対応。これはプロジェクタ製品としては初!?

 スマホの縦画面、横画面の各状態に連動しての表示となるので、スマホで撮影した横や縦の静止画、動画をスマホで見たままの状態で大画面表示出来る。嬉しいのは、スマホのサウンドまでもがEH-TW5350のスピーカーで再生されるところ。音質はともかくとして(笑)、スマホの内蔵スピーカーよりは大きな音量で再生出来るので、集まった家族や友人同士でスマホ内の動画コンテンツを見せ合うなどでは役に立つだろう。

 また、Miracast以外でも無線LANを使ったスマホ連携機能を用意している。iOS機器はApp Store、Android機器はGoogle Playから「EPSON iProjection」アプリをダウンロードし、インストールすることで、スマホの画面そのものは表示できないが、スマホ内のコンテンツ(主に静止画やPDF)をこのアプリ経由で転送してプロジェクタに表示できる。

 スマホ画面側でメモ書きも行なえ、それもちゃんとプロジェクタ側にも反映されるので、意外と本格的なPCレスなプレゼン用途に使えてしまえそうである。しかも、書き込んだメモは表示コンテンツごと別ファイルで保存することも可能。この時、スマホ側のコンテンツ自体には手を触れない(一切の更新はせず)ので安心である。

EH-TW5350でQRコードを表示して、EPSON iProjectionアプリにこれを見せればスマホとEH-TW5350が一発接続!!
スマホ内のコンテンツ(JPGやPDF等)をEH-TW5350で投射できるようになる。ただし、動画には未対応

 もともとは、ビジネスプロジェクタ向けの機能だが、完成度は高い。オーナーになった暁には活用しないともったいない。

画質チェック:2,200ルーメンの高輝度最適化画質。3D画質も良好

 映像パネルは0.61型サイズのエプソン製透過型液晶パネルで、解像度は1,920×1,080ピクセルのリアルフルHD対応品だ。パネル世代的にはEH-TW6000系に採用されるものと同じD9世代で、480Hz駆動にまで対応する。EH-TW5350では、新たに補完フレーム挿入にも対応し、滑らかな動画再生に対応するなど、上位機種との機能差が縮められている。

 レンズシフトがなく、光学系がシンプルなためか、フォーカス精度は高い。画面中央で合わせれば、外周までムラなくクリアな映像となる。フォーカス合わせには内蔵テストパターンよりも、カラフルで文字情報の多いホーム画面の方が重宝した。

 画素形状は正方形ではなく、将棋の駒、あるいは野球のホームベースのような五角形形状。こうして近寄って画素を見ると、格子筋はそれなりにある。透過型液晶パネルは、画素外周のTFT回路の影が格子筋として出てしまう関係で開口率においてD-ILAやSXRDのようなLCOSパネルには及ばないのだ。しかし、今回のような約100インチ程度での投射でも、1.5mも離れれば、画素粒状感はほとんど気にならなかった。

「きれい」(低遅延モード=オフ時)
「速い」(低遅延モード=オン時)。先代EH-TW5200では、解像感劣化を伴った「速い」モードが改善

 最近ではほとんど触れなくなってしまったので、確認を含めて改めて述べておくが、最新のエプソン透過型液晶パネルでは、D4世代くらいまでは問題視されたラビングノイズ(すだれのような縦縞ノイズ)は視覚できない。安心してほしい。

 本機は、先代からさらに200ルーメン明るくなった公称スペック2,200ルーメンという明るさを誇る。なんといってもこの点が、本機の投射映像の最大の特長だといえる。

 とにかく明るく、画調モードをランプ輝度モードが「高」だと蛍光灯照明下でも映像はけっこうはっきりと見える。

 リビングとダイニングを兼用している部屋などは、なかなか完全暗室にするのが難しいが、一段暗い照明モードにすれば、十分に映像鑑賞レベルに近い画質で映像が見られる。これはカジュアルユーザー層やファミリーユーザー層には歓迎される性能だと思う。なお、完全暗室にできるのであれば、ランプ輝度モードが「低」でも十分に明るい映像が楽しめる。

 リモコンから1ボタンで直接、ランプ輝度モードを変更出来ないので、輝度優先で活用したいときには、[Color Mode]ボタンで切り換えられる画調モード変更を利用するといい。「ダイナミック」「ブライトシネマ」がランプ輝度モード「高」に対応し、「ナチュラル」「シネマ」はランプ輝度モード「低」に対応している。

 公称コントラストは35,000:1を謳う。これは、プリセット画調モードが「ダイナミック」、ランプ輝度モードが「高」、「オートアイリス」オンかつ、ズームがワイド端の時の値だ。この数値はあくまで参考値という捉え方でいいと思う。というのも本機は透過型液晶機であるため、ランプ輝度モード「低」でも、黒浮きはある。黒を沈めてコントラストを稼ぐのではなく、高輝度方向の伸びでコントラストを稼ぐ画作りなので、明るい映像では、視覚が明部に引っ張られるので気にならないが、暗い映像だと、それがないのでやや黒浮きが目立つのだ。

「明るさ切換」(ランプ輝度モード)=低。漆黒部が明るいのは透過型液晶の宿命
「明るさ切換」(ランプ輝度モード)=高。輝度が上がった分、絶対的な黒浮きはさらに顕著にはなるが、その分、明部が延びるので相対的には黒は黒く感じられるようにはなる

 ただし、階調表現力は優秀で、暗部階調も、その黒浮き付きの最暗部からリニアかつなだらかに描き出してくれる。この辺りは透過型液晶パネルと長年向き合ってきたエプソンならではの絶妙な「技」を感じる。意識して暗いところを注視すれば、たしかに黒は明るいのだが、映像全体を見ている限りは暗い映像でもそこにあまり意識がいかないような、うまいバランスで階調が表現されているのである。

 黒浮き低減を行なうための動的絞り機構(オートアイリス)は搭載されているが、絞れば絞るほど、本機の旨味である明部の伸びがなくなってくる。ただし、暗いトーンの映像を視聴するときは黒浮き低減の効果は大きいので臨機応変に使い分けるといいだろう。

オートアイリス=オフ。暗い映像では黒浮きが目立つ
オートアイリス=有効。黒浮きが低減される。暗い映像には有効

 ちなみに動的絞り機構は、その応答速度「標準」と「高速」が選択できるが、明暗差の激しい映像を幾つか見てみた感じでは、「標準」の方が動作に違和感がない。「高速」では「絞り操作をがんばってます」という感じが視聴者に伝わってきてしまってちょっと不自然と感じた。

「オートアイリス」設定。標準設定がお奨め

 今回は、映画コンテンツとして「ワイルド・スピード・スカイミッション」のブルーレイを視聴した。

 入門機ということもあって色域拡張の機能などはない。しかし、sRGB規格を実直に再現したクセのない色使いには特に注文はない。よくチューニングされていると思う。映画本編を見ていて色味に関しての違和感は全くなかった。

 人肌など注視していると、時折水銀系ランプの黄味の強さは、明色(輝度の高い有彩色)付近で顔を出している気はするが、赤緑青の純色のトータルバランスはよく調教されている。原色鮮やかなエキゾチックカーの発色もとてもリアルに見えていた。

 先代EH-TW5200評価時に指摘した、ランプ輝度モード「高」「低」での色味の違いも、EH-TW5350では改善はされているように感じた。「高」では明色での水銀ランプのクセの黄味が強くなるが、有彩色の艶やかさは「高」の方が上だ。

カラーモード=ナチュラル、「明るさ切換」(ランプ輝度モード)=低。色温度は高くなりやや青味が多い
カラーモード=ナチュラル、「明るさ切換」(ランプ輝度モード)=高。水銀ランプ特有の黄味が増し、結果、色温度が下がったような色あいになる

 アニメは「星を追う子ども」を見てみたが、色使いが鮮やかなこのような作品だと、「高」の方がしっくりくる。部屋の明るさだけでなく、試聴するコンテンツの種類に応じても、ランプ輝度モードを「高」「低」切り換えて見るのも面白いかも知れない。

 前述したように、EH-TW5350では補完フレーム挿入付きの倍速駆動に対応した。その品質評価で、本連載ではお馴染みの映画「ダークナイト」のブルーレイの冒頭やチャプター9のビル群の空撮シーンを視聴してみたが、[オフ]、[弱]、[標準]、[強]設定のうち、オフ以外の全ての設定で、ビルの窓の並びの複数箇所で、かなり強めの振動現象を確認した。「ワイルド・スピード・スカイミッション」を視聴中にもかなりの頻度で動体の周辺にチラチラと振動する現象を確認している。常用は正直厳しい品質だと感じる。オフ設定での使用をお奨めしたい。

 3D立体視の映像も評価した。評価ソフトはクロストーク(二重像)現象が分かりやすい「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターシーンだ。

 表示品質は極めて良好。クロストークはほとんど感じられない。2,200ルーメンの高輝度性能も活きて、非常に明るい3D映像が楽しめるのも魅力だ。前述したように今回の3Dの評価は純正メガネではなく、パナソニック製の3Dメガネだったが、3D眼鏡を通して見た時の映像の色味などに違和感などはなし。

エントリー機ながら3D立体視関連の設定機能は上位機に引けをとらず

 なお、先代機にも搭載されていた「3D設定」-「映像サイズ」という項目は本機にも搭載されている。これはスクリーンサイズを設定するもので、普通は自分手持ちのスクリーンサイズの値を入れればいいのだが、逢えて異なる値を設定することも出来る。奥行き感が調整でき、視聴距離が近めのときは、実際の画面サイズよりもやや大きめに設定するとより強い飛び出し感が味わえるようだ。似た設定項目に「3D奥行き調整」もあるが、「映像サイズ」の方が細かく設定できる。

 また従来機の課題として指摘した、低遅延モード(速いモード)時に表示映像の解像度劣化現象だが、今回のEH-TW5350では、ついに改善の手が施された。

 低遅延モード(速いモード)時も、標準モード(きれい)時も、全く同じ表示で低遅延モードに負い目はない。EH-TW5200ユーザーのなかでゲームもプレイする人は、きっと、この改善ポイントが一番うらやましいと感じているかも知れない。

「映像処理」設定は事実上の低遅延モードの設定に相当する

 また、先代に対して低遅延モード時の遅延時間もさらに短縮されている。

 業界最速クラスの表示遅延3ms(60Hz時約0.2フレーム)を有するREGZA 26ZP2との比較の形で行なったが、EH-TW5350の低遅延モード(「速い」モード)時の遅延時間は約17ms(60Hz時約1フレーム)だ。プロジェクタ製品としてはトップレベルの低遅延性能である。対して、低遅延モードオフ(「きれい」モード)時の遅延時間は約83ms(60Hz時約5フレーム)であった。先代に対して約1フレーム分短縮したというイメージだ

低遅延モード時
低遅延モードオフ時
プリセット画調モードのインプレッション
【ダイナミック】
色再現性は二の次の輝度優先の画調。明るい部屋で投射向き。プレゼン用途に
【ブライトシネマ】
高輝度出力と色再現性を両立しようとした画調。明るさの点で「ダイナミック」に劣るが色再現性で「ダイナミック」を上回る。完全暗室ではないが、薄明るいくらいならばこのモードがお奨め
【ナチュラル】
実質的な標準画調モード。sRGBを実直に再現
【シネマ】
階調表現を優先した画調。実写映画はこのモードでみればOK

10万円のフルHD 3D入門機の確かな実力

 約10万円で、リアルフルHD対応。しかも3D立体視モードにも対応。解像度劣化のない低遅延モード時を搭載し、遅延時間もプロジェクターとしては最速レベルの遅延時間17ms(60Hz時約1フレーム)。輝度性能もクラス最高峰の2,200ルーメン。

 エントリー機としての完成度は高く、そしてコストパフォーマンス的にも優秀だ。

 透過型液晶機ということで、黒浮きはある程度避けられないが、そこはそれ、本機では、最初からその負い目は高輝度性能でカバーするという哲学だ。そして、その高輝度性能は、「部屋の暗さに囚われないでいつも使えるプロジェクタ」というファミリーユースにおいて重要視される要求仕様を満たしている。

 ランプ輝度モードを「低」にして、オートアイリスを有効化すれば、暗室で映画を見る向きにも不満はない。

 広色域モードはないが、現状のコンテンツはいまのところほぼsRGBなのだから、コンテンツ本来の色表現を再現していると捉えれば、不満もないだろう。実際、シネマフィルタのような調色フィルタ非搭載の割には本機の発色はうまくチューニングされている。ランプ輝度モードの「高」「低」の違いでホワイトバランスの違いはあるが、前向きに「二つの発色モード」があると考えて、それぞれを使い分ければいい。

 惜しむらくは、倍速駆動の補間フレームの品質が低いこと。これはもう「なかったことにする」「使わない」と割りきるしかない。いずれにせよ、EH-TW5350は、今季の入門機の決定版として推奨する。

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トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。本誌ではInternational CES他をレポート。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。映画DVDのタイトル所持数は1,000を超え、現在はBDのコレクションが増加中。ブログはこちら