日沼諭史の体当たりばったり!

渋谷でVRトリップ! VR風ワークアウト「THE TRIP」で斬新サイクルトレーニング体験

 VRの波は、どうやらトレーニングジムにも押し寄せているらしい。日本全国にフィットネスクラブを展開するルネサンスが、ニュージーランドのトレーニングプログラム開発企業レズミルズインターナショナルの考案したVRサイクルプログラムを導入し、3月19日に渋谷にオープンした「CYCLE & STUDIO R Shibuya」で提供を開始したのだ。

VR風ワークアウト「THE TRIP」

 名称は「THE TRIP」。仮想空間の映像を見ながら固定されたエアロバイクをこぐ、新感覚のトレーニングだという。詳しい中身は追って解説するが、あらかじめ断っておくと、THE TRIPは体験者の動作に合わせた映像の変化などはないため、一般的な意味でのVRとは異なる。とはいえ、果たしてこの「THE TRIP」でその名の通りトリップできるのか、運動不足気味の筆者がいきなりのハードトレーニングで別の意味でトリップしてしまうのか、実際に体験して確かめてみることにした。

3台の業務用プロジェクタと6台のスピーカーで仮想空間を作り出す

 新世代のサイクルトレーニングプログラムであるTHE TRIPは、レズミルズ本拠があるニュージーランドのほか、米英仏などで展開されており、日本の渋谷にオープンした「CYCLE & STUDIO R Shibuya」で世界6カ国、7カ所目。5月1日にはやや規模を縮小した形で名古屋駅 JRゲートタワーにオープンする「Coqul RENAISSANCE」にも導入される予定だ。

「CYCLE & STUDIO R Shibuya」の受付

 運営元のルネサンス担当者いわく、渋谷は多くの若者が集う文化発祥の地であり、今や多数の先端IT企業が本拠を構える場所ともなった。すなわち、トレーニングやフィットネスに対する意識が高いビジネスマンも多い。こうした土地柄から、専門性の高い“特化型”あるいは“ブティック型”と呼ばれる、“尖った”フィットネスの形が受け入れられやすいと見て、渋谷に進出したのだという。

 さて、THE TRIPがどういうものかというと、簡単に言えば「映像とサウンド付きのサイクルトレーニング」ということになる。ただ、その映像は(レッスン時のポジションにもよるが)左右視界のほぼ全体を覆うほどの大きさ。具体的には、エクササイズルームの壁に、幅12m、高さ2.7mの映像が3台のプロジェクタを用いて投影され、没入感を演出する。

幅12m×高さ2.7mの映像が視界一杯に広がる

 このプロジェクタには1チップDLP方式のパナソニック製「PT-RZ770J」シリーズが採用されている。明るさ最大7200ルーメン、コントラスト比10000:1で、1920×1200ドットの映像を出力できる仕様の業務用製品だ。3台の映像を横に並べて1つに見せているわけだが、その境目に気付くことはなく、自然に映像に入り込めるだろう。

この映像を出力するのは、パナソニック製の業務用プロジェクタ「PT-RZ770J」3台
PT-RZ770J

 映像に合わせてサウンドを再生するスピーカーは計6台。前方2カ所、後方2カ所にTOA製の2ウェイコンパクトアレイスピーカーを、さらに前方1カ所、後方1カ所にそれぞれ1台ずつJBL製のパワード・サブウーファーを配置する。サラウンドサウンドではなく、エクササイズルームにまんべんなく、十分な量感のサウンドが行き届く構成としているようだ。

 メインとなるエアロバイクには、トレーニングジムではデファクトスタンダードとも言えるテクノジム製のGROUP CYCLEを50台近く使用。ハンドルとサドルそれぞれの高さ、前後位置を細かく調整して体型にフィットさせることができ、電磁ホイールにより極めて滑らかなペダリングを実現している。ハンドルの中央に据え付けられた液晶ディスプレイのコンソールには、ペダルの回転数、運動強度、消費カロリー、稼働時間などが表示され、ペダルの重さを表す負荷も数値で確認できる。

50台近くのエアロバイクが整然と並ぶ
テクノジム製のGROUP CYCLE
ハンドルとサドルはそれぞれ高さと前後位置を細かく調整できる
ビンディングペダルを使用
ボトル置き場などが設けられたハンドル回り
ペダルの回転数、運動強度、消費カロリーなどを表示するコンソールを装備。NFC搭載スマートフォンをかざしてトレーニング結果を受信できるような機能もあるが、今のところ使用する予定はないとのこと
こちらはインストラクター用のエアロバイク。シルバーカラーで特別感がある

 THE TRIPのレッスンにはいくつかの種類がある。今回体験させていただいたのは正式オープン前のタイミングだったこともあり、「TRIP:7」というレッスンプログラムのみ利用できる状態。3月19日のオープン後は、「TRIP:5」と「TRIP:6」が解禁となり、4月からは「TRIP:8」にも挑戦可能になる予定。レッスンプログラムによって映像の内容が異なるので、新鮮な気持ちで続けられるはずだ。なお、各レッスンはあらかじめ設定されたタイムテーブルに沿って行なわれ、いずれも1レッスンあたりの時間は40分。その間ひたすらペダルをこぎまくることになる。

最低限必要なものは替えの下着のみ

 THE TRIPにチャレンジするに当たって必要なものはそれほど多くない。せいぜい自前で用意しておいた方がいいものは、トレーニング用の上下ウェアと替えの下着、水分補給用のドリンクくらいだ。タオル類は無料で貸与され、ウェアはレンタルもでき、高濃度水素水のベンディングマシンも用意されているので、最低限必須と言えるのは替えの下着のみ(ウェアのレンタルと水素水は有料)。

料金(税込)

・入会金+事務手数料:3,240円+5,400円(入会時のみ)
・Premium Monthly:月額1万6,200円(月間利用30回、8レッスン連続予約可能)
・Monthly:月額1万4,580円(月間利用30回、4レッスン連続予約可能)
・Drop in:月額1,080円+1レッスンごとに2,500円(月間利用制限なし、平日のみ、1回ごとに要予約)
・ウェアレンタル:一式2,700円
・水素水飲み放題:月額1,620円

 エアロバイクがビンディングペダルなので、クリート付きの専用シューズも借りることになる。

トレーニング用のウェアはレンタルも行なっている
クリート付き専用シューズは借りることになる
シューズサイズは幅広く取りそろえている
定額で飲み放題となる高濃度水素水

 更衣室はシャワー付き。男性用更衣室はさほど広くはないものの、女性用更衣室は男性用よりかなり広いという。なぜなら、7対3の割合で圧倒的に女性の利用者が多いからだそう。運営元のルネサンスによれば、他の一般的な内容のトレーニングジムだと最近は男女比が同程度になってきたとはいえ、THE TRIPのような特化型のフィットネスプログラム、つまり“新しいもの”については女性ユーザーが多くなる傾向にあるのだとか。

男性用更衣室。レッスンが終わった後はシャワーで汗を洗い流し、すっきりと帰ることができる

トレーニングの流れ

 いそいそと更衣室でレンタルウェアに着替えたら、エクササイズルームに移動していよいよ体験開始。エアロバイクにまたがってビンディングペダルにシューズをガチッとはめ込み、ペダルを踏んで、脚が伸びきる手前の高さに合わせる。ハンドルはペダルを回していて体勢がつらくなく、少し前傾した時に最も力を込められそうな位置に調整した。

 膝あたりにある丸いノブは、右に回転させると負荷が上がり(重くなる)、左に回転させると負荷が下がる(軽くなる)仕組み。映像とエアロバイクの負荷設定やペダルの回転は、同期はしていない。自動で流れる映像に合わせて、自らの操作で任意に負荷を上げ下げしながらトレーニングするようになっている。

レッスン中は丸いノブを回してペダルの重さを積極的に変えながらトレーニングする

 担当者によれば、映像とエアロバイクはあえて同期させていないとのこと。有酸素運動においては、その人がきついと感じながらトレーニングする「自覚的運動強度」が大事なのだという。そのきつさのレベルは人によって異なるため、強制的に映像と負荷を同期させてしまうと、逆に効果的な運動にはならなくなってしまう。「映像はあくまでもトレーニングをサポートするためのツール」(担当者)なのだ。

 そんなわけで、レッスンスタート。映像は近未来の大都市のような風景で、なぜかビルが上下動したり、合間に波打つ水面が見え隠れする不思議な世界。しかし我々が走行するのは、そんな風景のど真ん中にまっすぐ伸びる平らな直線道路だ。ひとまず負荷のレベルを「5」に設定し、こぎ始めるが、ちょっと軽い。上げ下げしてほどよい負荷を探りながら走ることにした。

 ちょっと進むと、平地だった道の彼方が、天上へと向かうかのごとくそびえ立っているように見える。リズミカルなサウンドとともに、ハイテンションでノリノリに活を入れるインストラクター。迫ってくる坂道の手前で発した「ギアアップ!」のかけ声に合わせ、なかば強制的に負荷を上げていく。平地になると負荷を戻し、下り坂の直前では軽めにする指示が飛ぶ。

スタート後、そびえ立つ坂道
坂道を登ったかと思ったら、次はダイブするかのような下り

 なるほど、映像とエアロバイクの負荷は連動していないが、インストラクターの合図に合わせて操作すれば、上り坂のつらさや下り坂の疾走感を仮想体験することができるのだな、ということがわかる。ただし、インストラクターの合図に素直に従って負荷を上げ下げするか、どれくらい変化させるかは本人の自由だ。負荷を大きく上げる自信がなかったり、とても終盤までもたないと考えたら、自分の判断で負荷を小さめにするか、変化させないというのももちろんOK。自分にとって最もトレーニング効率が良くなりそうな、「無理せずそれなりに頑張る」状況を作るのが大事なのだと思える。

 上り坂は連続することもあれば、平地になってしばらくゆっくり走ることもあるし、長い下り坂が続くこともある。有酸素運動と、無酸素運動のインターバルトレーニングの組み合わせになるよう、映像は巧妙に作り上げられているようだ。

しばらく走ると風景が変わる
ツイストする道路が出現
この写真だとよくわからないが、宇宙船のような乗り物と競争するようなシーンもある

 最初は自分の体力に見合う負荷レベルを探り探りで試していたが、中盤からはインターバル中の休憩タイムは「7」、通常の平地は「10」、坂道の前半は「12」か「13」、連続する坂道の後半は最大「16」か「17」という目安を決めて走った。レッスンの半分となる20分過ぎまではBGMのリズムに合わせて走るくらいの余裕はあったが、上り坂と短い平地が何度も何度も繰り返される中盤あたりを境に脚の動きはみるみる鈍くなる。

 中盤の時点ですでに汗をびっしょりかき、「なんでオレ、こんなに頑張ってるんだろう」と思いながらも、風景のパターンが次々変わっていく楽しさもあって、「でも走らなきゃ」という気持ちになる。後半は肩で息をしつつ、汗がとめどなく流れるなか、それでも脚が止まることはなかった。きっと、筆者はその時トリップしていたのに違いない。終了時にコンソールの画面が示していた消費カロリーは550KCalほどだった。

従来のサイクルトレーニングでは得られないモチベーションが効果を高くする

 「VRサイクルプログラム」というワードから、正しい意味での「際物」なのかとも思ったが、実際に体験してみて、THE TRIPは従来のサイクルトレーニングとベースの部分は同じなのだろうと感じた。映像はもちろん楽しく感じるが、あくまでもきっかけや、担当者が語っていたように「ツール」の1つにすぎない。

 ただ、壁やガラス越しの風景に向かって黙々とペダルを踏むような従来のサイクルトレーニングでは、負荷を積極的に変えるというモチベーションはなかなか働かないだろう。言ってみれば、THE TRIPは、効率的なトレーニングを自然にこなすための負荷コントロールのタイミングを映像が作り出すことで、そのモチベーションを引き出しているのだ。インストラクターのモチベーションを刺激する的確な話術もあるだろうが、明らかにこれまでのサイクルトレーニングとは異なる、自発的に追い込んで鍛え上げることが可能なエクササイズだと感じた。

 同スタジオでは、THE TRIP以外にも、エアロバイクのみを使用した「SPRINT」、バーベル等を使用した全身エクササイズの「LES MILLS GRIT Cardio」と「LES MILLS GRIT Strength」というフィットネスプログラムも提供している。THE TRIPの体験レッスンも受け付けているので、気になる人はぜひチャレンジしてみてほしい。

バーベル等を使用するフィットネスプログラムも用意している

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、現在は株式会社ライターズハイにて執筆・編集業を営む。PC、モバイルや、GoPro等のアクションカムをはじめとするAV分野を中心に、エンタープライズ向けサービス・ソリューション、さらには趣味が高じた二輪車関連まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「GoProスタートガイド」(インプレスジャパン)、「今すぐ使えるかんたんPLUS Androidアプリ大事典」(技術評論社)など。