【新製品レビュー】

とにかく小さなフル機能音楽プレーヤー。新iPod nano

-ホイールの無いnanoへの戸惑いと期待


第6世代iPod nano

 アップルは9月2日に新iPodシリーズを発表した。iPhone 4と同様に高解像度ディスプレイを搭載した新「iPod touch」、コントロールパッドを使ったデザインに“先祖帰り”した「iPod shuffle」が発表されたが、その中でも最も大きな変化があったのが、第6世代となるiPod nanoだ。

 2006年の登場以来、iPodの中核シリーズとして展開してきたnanoシリーズ。縦長のボディ(第3世代以外)と、クリックホイールによりシンプルな“オーディオプレーヤー”としての側面を打ち出した人気シリーズだが、第6世代ではデザインを完全に一新。iPod shuffleと見まごうような超小型ボディと、スクエアな液晶を搭載して生まれ変わった。

 第5世代nanoとの比較では、体積比で約46%小さくなったという。小型化にあたって、nanoの特徴であるクリックホイールを省いた代わりに、マルチタッチ対応の1.5型液晶を搭載。基本操作をタッチパネルで行なうようになった。また、第5世代で搭載していたビデオカメラやビデオ再生機能も省かれている。発表会でもスティーブ・ジョブズCEOが、機能や慣れ親しんだUIを削減しながらも小型化を選んだ、ということを強調していた。このあたりが、実際に使い勝手におよぼす影響も気になるところだ。

カラーはシルバー、グラファイト、ブルー、グリーン、オレンジ、ピンクで、Apple Store限定カラーの(PRDOCUCT) REDも用意

 まさに、フルモデルチェンジといえる新nanoで、あまり変わっていないのは価格。初代nano以来、大量購買/生産による圧倒的なスケールメリットで、フラッシュメモリプレーヤーの“価格破壊”を先導してきたnanoだが、今回は8GBが13,800円、16GBが16,800円とそれほど価格的にはインパクトはない。

 従来モデルの8GB 14,800円、16GB 17,800円と比べると、容量据え置きでそれぞれ1,000円値下がりしただけ。しかも、米国では第5世代も第6世代も8GB 149ドル、16GB 179ドルなので、1,000円の値下げには円高要因が大きいと思われる。デジタルオーディオプレーヤーの普及が進み、昔ほどの伸びが期待できない中、これ以上の値下げは、台数や収益、ブランド維持などの観点からあまり意味がないレベルまできているのかもしれない。

 カラーはシルバー、グラファイト、ブルー、グリーン、オレンジ、ピンクで、Apple Store限定カラーのプロダクトレッドも用意。今回は、9日に販売開始された第6世代iPod nano(8GBモデル)のApple Store限定REDモデルを入手。一新したnanoの実力を検証した。 


■ とにかく徹底的に小型化されたボディ

 ボディの小型化に伴い、パッケージも大幅に小型化。手に握れる程度のサイコロ状のパッケージになった。同梱品はイヤフォンとUSB-Dockケーブル、説明書程度で、iTunesをAppleのホームページからダウンロードするという点は、従来モデルと共通。最新バージョンのiTunes 10が必須となっており、対応OSはWindows XP/Vista/7、Mac OS X v10.5.8以降。

パッケージ手に収めるほど小さなパッケージになった同梱品

 外形寸法は37.5×40.9×8.78mm(縦×横×厚さ/クリップ部分含む)。重量は21.1g。第5世代の38.7×90.7×6.2mm/36.4gのほぼ半分といえるくらい小型化されている。クリップで留められるデザインは、iPod nanoというよりはiPod shuffleを想起させる。金属筐体のボディも光沢や触感も含めて高級感は十分だ。

 前面のマルチタッチ液晶は1.54型で、解像度は240×240ドット。本体上部にスリープ/スリープ解除ボタンと音量調整ボタンを装備、下面にDockコネクタとヘッドフォン出力を装備。背面はクリップになっており、シャツやバック、ズボンなどに留めて利用できる。

 とにかく第一印象は“小さい”ということ。それでいて、機能を簡略化することなく、音楽プレーヤーとして考えらえるほとんどの機能を内包している。MP3プレーヤーの黎明期には液晶リモコン装備のHDDプレーヤーがいくつかあったが、新nanoはその“リモコン”の中にすべてのプレーヤーの機能が入ってしまったという印象だ。古くからのMP3プレーヤーファンには感慨深いものがあるかもしれない。

1.54型ディスプレイを前面に装備背面。クリップを装備する
上面にボリュームやスリープボタンを装備下面にDockコネクタとヘッドフォン出力背面にはクリップを備えている
第5世代iPod nanoとの比較歴代iPod nanoとの比較(左から第1世代~6世代)。第6世代だけ明らかにデザイン基調が違う

 


■ マルチタッチ液晶操作が基本の新UIを採用。レスポンスは良好

iTunes 10

 楽曲転送/管理ソフトのiTunesも新iPodシリーズに合わせて「iTunes 10」にバージョンアップ。新たに、アルバムアート付きのリストビューのデザイン変更を行なったほか、ストリーミング再生機能「AirPlay」も搭載。同機能に対応したiPodスピーカーやAVアンプなどのAV機器に、無線LANや有線LAN経由で音楽や映画をiTunes 10からストリーミング配信できる。

 なお、iTunes 10の最大の特徴といえるソーシャルネットワーク機能「Ping」については、iTunes上では利用できるが、iPod nano上では利用できない。これは、アーティストやユーザーをTwitterのようにフォローして、ファンコミュニティの一員として参加。アーティストの写真や最新情報、コメント、気に入っている曲やおすすめの楽曲などを知る事ができるもので、iPod touchやiPhoneの場合は、機器側からもPingの情報をチェックできる。


iTunes 10の最大の特徴であるiTunes Ping。nanoからは利用できない表示画面も改善。アルバム内の曲が5曲以下の場合、アルバムアートを省略して表示する

 iTunes内の音楽や写真を同期し、iPod nanoに転送できる。なお、新nanoではビデオ録画機能が省かれているほか、ビデオの再生にも非対応になっている。対応音楽形式は従来モデルと同じで、AAC(8~320kbps)、MP3(8~320kbps)、Audible(フォーマット 2、3、4)、Apple Lossless、WAV、AIFF。

メインメニュー。プレイリスト、再生中、アーティスト、Genius Mixが選択可能

 楽曲を転送して、iPod nanoを起動するとメインメニューが表示される。初期状態では「プレイリスト」、「再生中」、「アーティスト」、「Genius Mix」の4つのアイコンが選択可能となっている。この画面を右から左になぞる(スワイプ)すると、「ラジオ」、「ポットキャスト」、「写真」、「設定」の4つ、さらに左にスワイプすると、「曲」、「アルバム」、「ジャンル」、「作曲者」の4つを表示。もう一度左スワイプすると「フィットネス」、「時計」の各機能にたどり着く。左から右にスワイプすると前の表示画面に戻れる。

 要するに一画面に表示できるアイコンは4つで、それを左右にスワイプして任意の機能を呼び出す。このアイコンの順序は、アイコンの長押しで設定モードに移行するので、ここで並び順を変更し、メインメニューのトップ画面に使用頻度が高い機能を並べ替えることが可能だ。

 操作に対するレスポンスは良く、iPod touchやiPhoneのユーザーであれば比較的すぐに慣れると思う。ただし、こうしたタッチパネルUIに慣れていない人にとっては、操作とUIの考え方に慣れるまでは戸惑うかもしれない。

 各アイコンをクリックすることで、音楽プレーヤーやポットキャスト、ラジオ、写真などの機能を呼び出し可能となる。各機能から戻るときは液晶パネルを右から左にスワイプする。特にガイドなどが画面に出ないので、とりあえず、機能や階層の移動にはスワイプするという操作を覚えておく必要がある。

2ページ目にはラジオやPodcastなどを用意曲やアルバム、ジャンルごとの検索メニューをワンボタンで呼び出せるフィットネス機能や時計も備えている
右にスワイプ(指でなぞる)して、メニュー画面を遷移

 また、液晶は正方形で、任意の向きに変えることも可能だ。といってもiPhoneやiPod touchのようにジャイロセンサーで自動的に向きを検出するのではなく、液晶画面に触れながら、2本の指で画面を回すようになぞると向きが変わる。4方向好きな向きに設定可能だが、意識的に操作しない限りは誤動作で画面の向きが変わることはない。

 説明書は「はじめに」と題した簡単なものなのだが、使う前に簡単に読んでおいたほうがいいかもしれない。これまでAppleのiPodシリーズで、説明書をチェックしないと機能がわからないことはあまり無かったが、やはり新UIということで慣れるまではわかりにくさを感じるところもあった。

 特に覚えておきたい操作は、メインメニューへの戻り方。液晶部を3秒ほど長押しすると、メインメニューに戻ることができる。楽曲選択時や枚数の多い写真アルバムの表示時など、左にスワイプで前の画面に戻るのが大変な場合も多い。また、どの階層で操作しているかわからなくなってしまった時でも、パネル部を長押しすればメインメニューに戻って操作ができる。ここを覚えておくだけで、操作時の不安はだいぶ解消される。なお、新nanoがハングアップしてしまった場合、スリープ/スリープ解除ボタンと音量の下ボタンを同時に8秒以上押すことで、再起動が行なわれる

 なお、新iPod nanoのOSは、iPhone/iPod touchのようなiOSではなく、独自のものとなる。そのため、App Storeで提供中のアプリなどは利用できない。今後のアプリの追加などについても未定としている。

マルチタッチ液晶により2本の指を使って画面を回転できる
ホーム画面のアイコン入れ替えにも対応する

 


■ Genius Mixなどフル機能対応の音楽プレーヤー

 音楽プレーヤーとしての操作性はシンプル。アーティスト/ジャンル/アルバムなどの各検索メニューが用意されるほか、プレイリスト再生にも対応する。

 アルバム検索時にはアルバムアート付の検索が可能。また、各検索モードの右側にはアルファベット順や数字順のガイドバーが表示される。ここで任意のポイント、例えばアルファベットの[A]から始まるアーティストを表示している場合でも、ガイドバーの中程をタップすると[G]などの文字を表示。これをタップすると[G]のアーティストまで一気に移動できるなど、検索性の向上のための工夫がされている。

 ただし、ディスプレイが1.54型と小さいこともあり、一発で任意のアーティストやアルバムを呼び出せるほどの精度ではなく、操作にはやや慣れが必要だ。また、近年のiPodシリーズの特徴にもなっているCover Flow画面は備えていない。

アルバム検索ではアルバムアート付きで検索できるジャンル検索プレイリスト再生に対応

 再生画面では、再生中の曲のアルバムアートを背景に、アーティスト名/曲名/アルバム名と、再生/停止ボタン、スキップ、バックボタンを表示。タッチパネルで操作が行なえる。曲中の早送り/戻しは、スキップ/バックボタンの長押しで行なう。再生画面からもう一段右にスワイプすると、リピート、Genius Mix、シャッフルの各再生モード選択が行なえるほか、下部に表示されるバーを使って、タッチパネルで曲の任意の位置までスキップ、バックが可能となる。

再生画面。楽曲やアルバム名、再生/停止、スキップなどをUIに表示する右ページにスワイプすると、シャッフル、Geniusなどの再生モードや、曲の任意の位置まで移動できるバーが表示されるアルバムアート表示にも対応
選曲操作

 また、再生画面の右下に表示される(i)ボタンを押すと、アルバム内の楽曲検索画面にジャンプ。楽曲検索画面で画面内に収まらない長いタイトルの楽曲がある場合、曲名をタップすると、横に文字がスクロールし、曲名を確認できるなど、細かく気を配ったUIの設計がなされている。ボタンやガイドは少ないのだが、慣れれば、イメージするたいていの機能はすぐに呼び出せるようになる。ただ、やはり少し慣れが必要とは感じる。

Genius MiXにも対応

 ライブ盤などの曲つなぎ目で無音部が発生してしまう曲間ギャップについては、いくつかのアルバムで試してみたが、気になることは全くなく、自然に繋がっていた。

 iTunesで自動的に最大12個のエンドレスミックスを作成する「Genius Mix」にも対応。イコライザなどの音質調整機能や音量のノーマライズ機能なども備えている。

 付属のイヤフォンは従来モデルとほぼ同じで、FMラジオ利用時にはアンテナとして機能する。低域にハリがあり、音場も広く、ボーカルのセンター定位もしっかり出ている。中域の抜けや解像感はそれほど高くないが、iPodシリーズらしく、ソースの魅力を殺さず、どんな楽曲にも対応できると感じる。

 iTunesから指定した任意のフォルダの写真再生にも対応。iTunesから転送する際にiPod nanoに最適化したデータを生成/転送するため、スムーズなサムネイル表示やスライドショーが可能となっている。画面を2回タップすることで、2倍程度の拡大表示にも対応する。とはいえディスプレイサイズが小さいため、写真の迫力やディテールを確認したいといった利用には適さない。

写真の表示に対応サムネイル表示拡大表示やサムネイル表示の切替、次の写真へのスライドなどの操作が可能
FMラジオ

 FMラジオチューナも搭載。国名で日本を選んで周波数を合わせるだけで、設定が完了。左右の矢印を押すと、自動取得したローカルFM曲の選曲が行なえる。受信感度もまずまずで、東京千代田区の編集部では東京近郊のFM局をほぼ全て楽しむことができた。画面左下の☆マークをタップすると、聴取中の局を「良く使う項目」に登録可能となっている。

 従来モデルと同様にライフポーズ機能を搭載。受信中のFM局の放送を、画面中央の■ボタンを押すことで、最長15分間バッファリングしておくことができ、聴取時にほかの作業で席をはずしたい場合などに、一時停止し、作業が終わってから再生を再開できる。

 なお、アンテナとして、イヤフォンのケーブルを利用しているため、FMを楽しめるのはイヤフォン接続時のみとなる。

 「歩数計」や「時計」も搭載。その日の歩数を検出し、カレンダーで一覧管理できるほか、体重を入力し、消費カロリー計算も可能となっている。また、Nike + iPod Sports Kitと組み合わせて、トレーニングの成果を記録することもできる。


フィットネス機能。体重や目標歩数を決めて、歩数計として利用できる歩数形時計

 電源は内蔵のリチウムイオンバッテリで、最大24時間の音楽再生に対応。USB経由で充電する。高速充電に対応し、約1.5時間でバッテリ容量の80%まで充電可能。完全充電時間には約3時間かかる。 


■ 小さなフル機能音楽プレーヤー

 とにかく小さくてフル機能の音楽プレーヤーとしての完成度は高く、パッケージ、外装の高級感、音質など、アップル製品ならではの高い満足感がある。

 ただし、オーディオプレーヤー専用機としての使い易さという点で、従来のnanoを超えているかというと、必ずしもそうでもないと感じた。例えば、旧nanoのクリックホイールでは、画面を確認せずに、再生/停止やスキップ、バックなどの操作が行なえるなど、ハードウェア操作ならではの魅力があった。

 一方、新nanoではボリュームボタンがハードウェアになったり、アイコンを並べ替えて機能をワンタッチで呼び出せるという利点はあるが、「画面を見ないで操作」というnanoの利点が無くなった点は残念だ。shuffleの液晶搭載上位モデルとして登場したら全く抵抗は無く、「よくぞ」という完成度の製品なのだが、nanoというブランドでこのUIとなると、個人的には少し抵抗を感じてしまう。

 ただし、nanoという名称は、もともと“小さい”プレーヤーを意識したものだ。そうした意味では、当初のコンセプトに基づく正常進化といえるのかもしれない。スポーツや、よりカジュアルに音楽を持ち運びたい人にとって、この小型化は間違いなく大きな魅力。フル機能音楽プレーヤーとして、有力な選択肢であることは間違いない。

 アップルの会見では、2009年にはtouchがnanoを抜き「一番売れたiPod」の座を獲得したことが報告された。こうした実績も、アップルがタッチパネルUIに舵を切った要因なのかもしれない。新nanoの投入で、本格化する冬商戦に向け、日本そして世界のユーザーはこのAppleの新提案にどうこたえるのか、注目したい。


(2010年 9月 10日)