西田宗千佳のRandomTracking

完成近づく電子ペーパー採用楽譜専用端末「GVIDO」。発売は9月に

 4月5日、テラダ・ミュージック・スコアは、かねてより開発中であった楽譜専用デジタルデバイス「GVIDO」(グウィド)の発売時期と価格を公表した。9月20日に日米欧で同時に発売し、価格は米国で1,600ドルを予定している。発売の1カ月程度前から、同社のウェブサイトなどを通じて予約販売を開始する。

GVIDO。本体と同時にケースやフットペダルなどの専用アクセサリーも発売になる。発売は9月20日

 昨年6月に開発の第一報をお伝えしたが、その後、音楽関係者から寄せられた要望を中心に、試作機から大幅な改良が施され、製品版が作られることになったという。テラダ・ミュージック・スコア 社長であり、GVIDO企画会社である55クリエイティブデザインスタジオの野口不二夫社長をはじめとした開発陣にインタビューする機会を得たので、進化点とその考え方、こだわりなどを聞いた。

GVIDO開発メンバー。左より、デザイン担当のKOTOK・安富浩氏、ソフトウエア担当のソニーデジタルネットワークアプリケーションズ株式会社・池田貴広氏、F55クリエイティブデザインスタジオ 野口不二夫社長、同 技術部長 越田昌伸氏
Play with GVIDO

ソニーのDNAで楽譜専用端末を

 インタビューに入る前に、GVIDOがどんな機器なのか、概要をおさらいしておこう。

 GVIDOは、E INK社の電子ペーパーを応用した端末だ。電子ペーパーというと電子書籍専用端末を思い浮かべるが、GVIDOが対象にするのは「楽譜」だ。楽譜はある程度の大きさが必要で、見やすさも重要。書き込みや訂正も頻繁に行なわれる。そのため現在は紙が中心だが、クラシックやピアノなどを演奏している人にとっては、多くの楽譜管理が負担にもなっている。

 そこで開発されたのがGVIDOだ。13.3型の電子ペーパーにワコムのペンタブレットを組み合わせ、楽譜と同じサイズで書き込みも出来て、大量の楽譜をまとめて管理できる「専用端末」として発想された。あえてタッチパネルは採用せず、ページ送りはボタン。シンプルな構造で、音楽を演奏する人にとっての使いやすさにこだわった端末である。楽譜データは基本的にPDFとして処理し、オンラインでの配信も準備が進められている。

 楽譜は、ケーブルでPCから転送するほか、同社が提供するクラウドサービスと連携し、そこからGVIDOへ転送する形が基本。日本を含めた各国では、音楽出版社から楽譜がデータ販売されるようにもなるという。また、楽譜データは書き込み情報を含めた形で、特定のメンバーと共有することもできる。オンラインサービスについての詳細は、発売が近くなってから改めて発表される。

 GVIDOのビジネスを担当するテラダ・ミュージック・スコアは、倉庫業で知られる寺田倉庫と、野口氏が社長を務めるF55クリエイティブデザインスタジオが共同で開発した会社。野口氏はソニー出身で、音楽配信や電子書籍ビジネスを立ち上げた経験を持つ。GVIDOのハードウエアの開発と生産はこれも「元ソニー」であるVAIOが長野県・安曇野市の本社工場で受け持ち、ソフト開発は、これまたソニー由来のソフトウエア受託企業、ソニーデジタルネットワークアプリケーションズが受け持つ。デザインを担当したKOTOK・安富浩氏も、ソニーデザインスタジオを経て独立した人物だ。GVIDOのビジネスにソニー本社はまったく関わっていないが、エンジニアリング的には非常にソニーのDNAの濃い製品である。

フィードバックを元に機能や使い勝手を改良

 2016年6月に試作機が発表されると、本誌でも大量のページビューとソーシャルメディアでのシェアを集め、潜在需要の高さを証明した。テラダ・ミュージック・スコアにも当然、大量の問い合わせと要望が寄せられたという。

 そこで同社は、試作機をより多数のプロ・アマ双方の音楽関係者に試してもらった上でさらに設計をブラッシュアップすることになった。そのため、当初より発売時期がずれ込み、2017年秋の発売となった。「2016年の試作機と今回のものとでは、デザインこそ似ているものの、中身はほぼすべて入れ替わっている」と野口社長は話す。

2016年6月時点での試作モデル。一見製品版にかなり近いが、内部的には大幅な変更が加えられている

 まず、製品版と過去の試作版とでは、使われているディスプレイが変わっている。同じE INK社の13.3型「Mobius」電子ペーパーディスプレイではあるのの、試作機は「Pearl」という世代の技術であったのに対し、製品版では新しい「Carta」世代になる。Carta世代はPearl世代に比べコントラストが高く、10:1から15:1に進化している。そのため、全体の反射率が高く、より紙に近い白さに見える。「13.3型のCartaは今回、E-INKに新たに開発してもらい、我々が最初に採用するもの」と野口社長は言う。

製品版に向けた現在の試作機。ディスプレイが変更になっただけでなく、色々と細部がかわっている

 実は、より「白い」ディスプレイの採用により、デザインも変更になっている。ディスプレイ周囲の白いプラスチックのボディの色を、ディスプレイの「白」の色味に合わせて変更しているからだ。デザインを担当した安富氏は、「演奏家の邪魔をしない、黒子に徹するようなデザインを目指した」と語る。縁とディスプレイの白が大きく異なると気になってしまうからだ。

GVIDOのデザインを担当した、KOTOKの安富浩氏

 ボディの裏は青、というか藍に近い色だが、これは楽譜の表紙にこの色が多く使われているからで、デザインのイメージは完全に「楽譜の再現」である。

「個性の主張はカバーなどでやっていただければ……という発想」と安富氏は言う。この辺は後ほど詳しくふれる。

 ハード的な変化点としては、ページを送るためのスイッチが「接触センサー」から「赤外線による非接触センサー」に変わったことが挙げられる。GVIDOは右下と左下、左上にページを送るボタンとしてのセンサーがある。画面にタッチセンサーは搭載せず、楽譜を「めくる」動作はタッチセンサーで行なう形だった。これは、腕を動かす範囲をできる限り小さくするための配慮だった。

 だが製品版では、より動作を小さくできるようにした。「本体に手を触れると楽譜が動く可能性がある」という指摘に対応するため、センサーのある場所(ごく小さな穴がいくつか空いている)に手を近づけると、それを感知してページ送りをするようになった。ページ送りの確認のため、左上には、手を検知したことを知らせるLEDも用意された。

変更になったページ送りセンサー。左上のものには、小さな緑のLEDがセットになっており、どれかのセンサーが手を感知すると控えめに光る

 このLEDは非常に控えめなもので、知っていればわかるが、そうでなければ気にならない程度のもの。穴の底も黒ではなく、表の色にあわせてわざわざ塗装されている。こうしないと「穴が目立って没入感を削ぐ」(安富氏)という判断からだ。

 動作はなかなか早く、スムーズなページ送りができる。ソフトウエアはかなりチューニングされており、「このディスプレイで、このハードウエアに使われるCPUの規模でこのスピードを出すにはかなり工夫した」(ソフトウエアを担当した池田貴広氏)という。

ページ送りの様子を動画で。動作はかなりなめらか

 ソフト的にも色々と、要望をとり入れた改良点がある。

 例えば「白ペン」。元々は黒での書き込みだけだったが、元々の楽譜への修正を目的に、「白で書いて元の楽譜をぬりつぶせる」ペンも用意された。書き込みのデータは複数保存可能になり、セッションや指揮者ごとに書き込みをそれぞれ記録できる。また、楽譜を演奏順にまとめて、順によびだす「セットリスト」機能も用意された。これは、演奏後にも楽譜を探すことなく、速やかに次の曲へ移るために必要なものだ。

 どれも、実演奏者の要望に沿った変更である。

楽譜の上から呼び出せる機能。本体右下部に用意された「メニュー」ボタンを押すことで表示できる
楽譜を「セットリスト」ごとにまとめ、探さずに次の曲を呼び出せるようになった
楽譜の修正のために「白ペン」も用意

 本体には1本、専用のペンが付属するが、これも変わった。ワコムの技術をつかっておリ、ペンもワコムの純正品だったのだが、結果的にこれもオリジナルのものに変わった。ワコムの純正ペンでは、ペンのお尻にある「消しゴム」機能は、ペンのお尻にあるスイッチを表面におしつけた時にのみ動作する。だが、GVIDOを動かさず、軽くなでる程度でも消せる消しゴム機能を求めていた。そのため、一般的なワコム用のペンとは違い、消しゴムは「押しつけなくても消える」、独自のペンをワコムとともに開発することになった。

GVIDOの専用ペン。ワコムの技術を使った「消しゴム機能付き」ペンだが、消しゴム機能を使いやすくするため、汎用のものから専用ペンへと変わった

フットスイッチもカバーも「ニーズ重視」で徹底的にこだわる

 もうひとつ、GVIDOに非常に多く寄せられたのが「ページ送り専用のフットスイッチを用意して欲しい」という要望だ。演奏の手をページめくりで煩わせたくない……という発想である。

 そのため、GVIDOのためにページめくり専用のフットスイッチを開発することになった。

GVIDO専用のフットペダル。本体と同時発売を予定

 GVIDOはBluetoothを内蔵しており、フットペダルとは無線で接続することができる。しかし、フットペダルはあえて「USBによる有線接続」もできるようになっている。これは、特にプロが演奏に使う際、ワイヤレス通信が原因でトラブルが起きることを避けるためだ。同様の発想で、バッテリーにも「単三電池」がつかわれており、充電池ではない。セッションのはじめに新しい電池にいれかえれば、バッテリー残量の問題は発生しない、と言う発想からだ。単三電池ならどこでも買えるし、同形状の充電池もある。

フットスイッチの背面。設定切り換え用のボタンが複数用意されている
フットスイッチの底面。単三電池を入れるフタがあり、USBケーブルを挿す場所があることもわかる

 F55 クリエイティブデザインスタジオ 技術部長の越田昌伸氏は「スイッチへの要求も非常に厳しい」という。軽く踏めなければいけないし、かといって間違って押されてしまう軽さではいけない。押した時に音がしてはいけないが、「踏んだ感覚」はしっかり伝わらなければいけない。どのスイッチを押すとどの機能が働くかも、カスタマイズが求められる。だからこのフットスイッチは、PCと接続して専用ソフトから、スイッチの機能や動作をすべて自分好みに設定できるようになっている。

 一方、別のこだわり方をするのがカバーだ。標準添付でスリーブ式のカバーが付属するが、それとは別に、牛革でつけたままつかえるカバーも販売する。こちらもGVIDO本体と同じく、安富氏のデザインによる。製造は、日本唯一の馬具メーカーであり、カバンメーカーでもある、北海道のソメスサドルが担当する。競馬好きやカバン道楽の方なら、「おお」と思うメーカーではないかと思う。

標準添付のカバー。これも、サイズにピッタリ合わせたかなり凝った作りである。
別売の純正レザーカバー。牛革製で、ネイビー・ライトブラウン・レッドの3色が用意される
純正のカバーはつけたままつかうことを前提にデザインされている。

 ケースにこだわるのは、美観の個性をケースで出してほしい、ということに加え、実際にはケースをつけて使われることが多いだろう……という想定に基づく。高価なピアノなどと一緒に使うことが多いので、プラスチックのボディがあたって傷をつけないように……配慮である。実はフットスイッチも、革靴のつま先に傷をつけないよう、形が工夫されている。フォーマルな装いで使うことを配慮してのものである。

 冒頭で述べたように、GVIDOは1,600ドルを予定しており、後述するフットペダルとセットで20万円を切るところを狙っている。これでもずいぶんがんばった価格、と関係者はいうが、一般的には決して安い価格ではない。しかしそれでも。プロやこだわりのあるアマチュア演奏家が、楽器と同じように「本気で使う道具」とみれば十分納得できる価格である。

 だからこそ開発陣は、実演奏者からの要望を徹底的に聞き、開発に採り入れようとしている。専用でなく、マスを狙うものでもないので、使ってもらいたい人々に寄り添う製品をめざしているのだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41