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西田宗千佳の
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米Apple、「iPad」に関するプレスイベントを開催

狙いはネットブックより「なにかもっといいもの」


 

会場はサンフランシスコ市内のYerba Buena Center for the Arts Theater。アップル関連のイベントが多く開催されるMoscone Centerに比べるとコンパクトな会場。垂れ幕のデザインは、招待状に描かれたものと同じ
 現地時間の1月27日、米Appleは、アメリカ・サンフランシスコのYerba Buena Center for the Arts Theaterにてプレスイベントを開催した。

 話題は、もちろん噂のタブレット端末こと「iPad」。既に第一報をお聞き及びの方も多いと思うが、ここでは会見で公開された内容を中心に、その詳細をお伝えしたい。

 会場となったYerba Buena Center for the Arts Theaterは、製品の注目度のわりに小振りなところだ。そのためか、現地につめかけたプレスの熱気は凄まじいものがあった。

 そんな中、発表されたのはたった1つの商品、iPadだ。2時間にわたるイベントのすべてが、iPadとそれに関するサービスの解説に費やされた。Appleが、そしてスティーブ・ジョブズCEOがこの製品にかける意気込みが、その1点からでも伝わってくる。



■ アップルは世界一のモバイルデバイス会社?!
  PhoneとMacBookの間に「なにかある」

 ジョブズ氏が登壇し、イベントがスタートすると、会場は割れんばかりの拍手とスタンディング・オベーションに包まれた。いかにもAppleのイベントらしいスタートだが、それを受けてか、冒頭ジョブズ氏は次のように語った。

 「2010年を、革命的で魔法のような製品の発表ではじめたい」。

 とはいえ、そこから続けられたのは、先日発表されたばかりの、同社第一四半期の業績と、最近のビジネスについてだった。iPod、iPhone、そしてMacBookの好調について説明したあと、ジョブズ氏はこう続けた。

 「アップルは、いまや世界最大のモバイルデバイス・カンパニーになった。ソニーよりも、サムスンよりも、ノキアよりも大きい」。

 

現在のアップルという会社の立ち位置を、ジョブズ氏は「世界一のモバイルデバイス・カンパニー」と称した

 続けて振り返ったのは同社の歴史。1991年に登場したPowerBook、2007年に登場したiPhoneの例を引いて、アップルが常にモバイル機器の世界で革新的な存在であった、ということをアピールした。

 「iPhoneもモバイルデバイスだし、MacBookもモバイルデバイス。では、その間はどうだろう?」。

 ジョブズ氏の問いはそこから始まった。

 「ブラウジングやメール、写真にゲームにeBook……。そういった用途には、“ネットブック”が使われることが多い。しかし、本当にそれがいいのだろうか? ネットブックは遅いし、ディスプレイのクオリティは低いし、使うのはPC用ソフト。“安いPC”でしかなく、良いところといえば、安いことくらいだ」。

 

古くからのMacユーザーには懐かしい、初代PowerBookの1台である「PowerBook100」。ちなみに製造・設計はソニーが担当した iPhoneとMacBookの間に「すき間」がある、とジョブス氏は主張する。日本だとモバイルノートが使われることも多い領域だが、そこにiPadが登場する

 そこで、「もっとずっといいもの」としてジョブズ氏が紹介したのが「iPad」である。これまで「電子書籍端末だ」と噂されてきた製品の正体は「電子書籍にも使える、ネットブックよりもリビングに最適なコンピュータ」だった、ということなのだ。

 

ジョブズ氏は、ネットブックを手厳しく批判。「PCはすき間を埋める存在ではない」と断言した iPadを発表するジョブズ氏。薄さを強調するかのように、手に持って縦に回して見せた

 ハードスペックなどについては、すでに記事が掲載されているので、そちらをお読みいただいた方が詳しいだろう。ジョブズ氏が強調したのは、「きれいで、薄くて軽くて、バッテリーが持つ」ということだ。

 採用しているのは9.7型、1,024×768ドットのIPS液晶。表面には、iPhone同様マルチタッチセンサーが内蔵されているが、それが画質に影響している印象はない。サイズこそ大きめだが、1.5ポンド(約680g)/0.5インチ(約1.3cm)という筐体は、十分に薄く、軽いと言っていい。

 それでいて、バッテリー持続時間が10時間(スリープ状態では約1カ月動作)という点が注目だ。これは、iPadが同社オリジナルのLSI「Apple A4」を採用しているためだ、とジョブズ氏は説明する。

 

IPS液晶ディスプレイを「プレミアムLCD」と呼んで紹介。特に視野角の広さを強調し、この分野には最適と語った タッチセンサーは、iPhone譲りのマルチタッチ対応。即応性と感度の良さを特に強調する
iPadで使われるのは、独自の「Apple A4」プロセッサ1GHzと、16GB〜64GBのフラッシュメモリ

 ただし、会見内でも、その後に行なわれたハンズオン・イベントでも、A4がどのようなLSIなのか、ということは解説されなかった。唯一公表されたのは、クロック周波数が「1GHzである」ということだけだ。どうやら、CPUコアなどを1チップに混載したシステムLSIであるのは間違いないようだが、どこが製造しているのか、どのような能力を持っているのかは分からない。

 だが、その能力は「省電力性能」だけでないことだけは、間違いないようだ。iPadを公開したジョブズ氏は、そのままステージ上に用意されたソファーに腰掛け、iPadのデモンストレーションを始めた。これはiPadの利用シーンを強く意識したものであるのは間違いない。

 

デモの大半はステージ上のソファーで行なわれた。Appleが想定するのは、おそらくこのようなスタイルでの利用なのだろう。キーボードも「膝の上」で使う

 最初に行なわれたのは、iPhoneでできることが、iPadではいかに「より快適にできるか」というデモ。Web閲覧はもちろん、メールの送受信や地図、iTunesを使った音楽や動画の再生などが中心だ。率直に言って、それぞれの機能はまさに「iPhoneでもできること」だった。だが、iPadでは広い画面とより強力になったプロセッサ・パワーを活かし、「機能性はパソコンに近いけれど、直感性はiPhoneに近い」といった趣の操作が実現されていた。HDクオリティの映像もスムーズに表示されていたし、iPhoneでは機能の割に画面が狭すぎるように思えたiTunesも、かなりリニューアルされて使いやすくなっている印象を受けた。

 

Webブラウジング画面

 

iTunes利用画面

iPadのメイン画面。デザインの細部は異なるが、iPhoneがそのまま大きくなったような印象。横に向ければ、もちろん横画面で利用可能 メールなどの文字入力はバーチャルキーボードで行なう。iPhoneのそれに近いが、キーサイズは「ほぼフルサイズ」(ジョブズ氏)だ iTunes Storeから購入した映像(ディズニーの「カールじいさんの空飛ぶ家」)の画面。説明やチャプタなども詳しく見られる。解像度は720p

 

 特にスピードとなめらかな操作感は、iPhoneよりも、ひょっとすると高性能なパソコンよりも優れているのでは、という印象を受けるほどだ。「安いPCでないもの」が目指したところは、その辺であるのだろう。

 家庭用を目指すのだから、本体価格も高くてはいけない。イベントの最後に、ジョブズ氏は「499ドルから、3G通信の定額制もあり」という価格を提示したが、この点も、最初から織り込み済みであり、だからこそiPhoneの技術をベースにしている、と考えるのが自然だ。

 

価格は、フラッシュメモリの容量と、3G通信の有無で変わる。3G内蔵モデルは一律130ドルアップする 3G通信の交渉については、すでにアメリカではAT&Tとの間でなされているものの、日本などそれ以外の国はこれから。「6月、ひょっとすると7月までに」(ジョブズ氏)という見通しだ。なお、端末はすべてアンロック版で、SIMには新しい規格である「micro SIM」が採用される
アメリカの場合、月額29.99ドルの定額制で3G通信が利用可能で、しかも「契約期間による縛り」がない。端末を買ってきて、端末内で「アクティベーション」して契約するようだ。このポリシーが日本でも実現されるといいのだが 気になる発売時期は、無線LANのみのモデルが「全世界で60日以内」(ジョブズ氏)、アメリカでの3G内蔵版が「90日以内」

 なお、iPadを実際に触ってみたファーストインプレッションや仕様の詳細については、ここでは割愛し、別途掲載するハンズオン・イベントの体験記の方で詳しくご紹介する。そちらを併読していただけるとありがたい。


■ iPhone用アプリがそのまま動作
  SDKを同日公開、専用アプリの開発も促進

 iPadを支える要素として、特に大きくフィーチャーされたのが「AppStore」の存在だ。iPhoneの現在の成功は、間違いなくAppStoreにある。iPadは「AppStoreで売られているiPhone用アプリケーションのすべてを、そのままエミュレーションして動作させられる」(ジョブズ氏)ため、発売初日から、大量のアプリケーションをユーザーに提供することが可能だ。

 その仕組みは意外とシンプルなものだ。iPadのべースとなっている技術は、見ての通りiPhoneとそのOSである。iPad用OSのバージョンは「iPhoneOS 3.2」だ、と言われているが、だからこそ、操作の面でも動作の面でも共通項が多い。

 

iPadでのアプリ動作を解説する、アップル・iPhone ソフトウエア担当シニアバイスプレジデントのスコット・フォルストール氏
 iPhone用のアプリは、まずディスプレイ上で「ドットバイドット(そのままの解像度)で動作する」(iPhoneソフトウエア担当シニアバイスプレジデントのスコット・フォルストール氏)が、画面右下に用意された「2x」ボタンを押すと、素直にそのまま拡大される。フォントや3Dグラフィクスなどの書き換えも行なわれていない。そのためどうしても眠い画面にはなるが、おおむねフル画面で動作する。

 もちろん、それだけでiPadの価値が出てこない。iPadの高解像度ディスプレイを生かす「専用アプリケーション」の存在がカギとなる。

 そこでステージ上には、「1、2週間前に秘密裏にiPadを渡したデベロッパー」(フォルストール氏)が手掛けた、専用アプリケーションのデモが行なわれた。ゲームやペイントソフトなど、いかにも大画面が映えそうなアプリケーションが目を惹いたが、筆者が特に注目したのは2つのアプリケーションだ。

 

Pad専用の「MLB.com」。情報量が豊富になり、より自然に試合の内容を確認できるようになった。映像配信と合わせて利用すると、iPadだけでメジャーリーグが楽しめる
 一つはメジャーリーグ観戦用公式アプリケーション「MLB.com」。打者・ピッチャーの情報や試合の状況などをグラフィカルに表示し、場合によってはそのまま試合をライブ・ストリーミングで受信する機能を持ったアプリである。同様のものはすでにiPhone用に公開されているのだが、iPad用のものは画質といい操作性といい段違いに優れている。これまで、「データを見ながらスポーツを見る」といえばPCか携帯電話で、というのが定番であったが、iPad用MLB.comは、まさにそういったニーズの置き換えを狙った存在である。

 もう一つの注目株が、アメリカの大手新聞社The New York Timesの「新聞アプリ」だ。このアプリでは、紙のニューヨーク・タイムズにそっくりなレイアウトのものを、iPadのユーザーインターフェースを使って閲覧できる。しかもそれは、紙面をスキャンしたものではなく、Webのようにきちんと「独自にレイアウトして、リンクを生かした」ものだ。また、写真だけでなく動画も組みこまれており、単なる「紙の代替物ではないもの」という印象を受けた。


 

ペイントアプリのデモ

 

The New York Timesのアプリ版。iPadのディスプレイに最適化されており、精細な表示と、文章と動画・映像とを組み合わせた情報提供が特徴だ
 Apple作るiPad専用アプリとして、特に大きくフィーチャーされたのが「iWork」である。iWorkは、Mac向けの「各種文書作成パッケージ」として、低価格かつ使い勝手の良いソフトとして人気が高い。それをiPad用に最適化したのが、iPad版iWorkだ。タッチ操作とタッチパネルを使った仮想キーボードに特化して開発されており、プレゼンや文書の編集などがひととおり行なえるようになっている。携帯電話やPDA用の「オフィスソフト」は、閲覧中心の簡易版であることが多いが、iPad版iWorkは、Mac版とビューワー型簡易ソフトの中間、といった印象である。

 こちらは標準添付ではなく、Pages(ワープロ)、Keynote(プレゼンテーション)、Number(表計算)の3本が、それぞれ9.99ドルで配信される。

 iPad用アプリは、本日から公開された「iPad対応SDK」を使って開発できるという。SDKの中にはiPhoneの場合と同様、iPadのシミュレーターも含まれており、挙動を確認しながら開発できる。


 

iPad版iWorkを発表する、ワールドワイドプロダクトマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏 iPad版「Pages」。文章を書けるのはもちろん、写真を自動的に文字が避けてレイアウトされるなど、高度な処理も施される

■ eBookは「iBooks」ブランドで展開
  ePUBと「オリジナルアプリ」の二段階作戦で攻める?!

 

ジョブズ氏は、Kindleの功績について説明した上で、「我々はさらにその上を行く」と解説、eBook市場への自信を強調した
 iPadに注目するプレスの多くが期待していたのは、やはり噂となっていた「電子書籍(eBook)」へのアプローチだ。この市場を開拓したのは間違いなく、Amazonの「Kindle」であり、ジョブズ氏も、わざわざステージ上でKindleの写真を大写しにし、「Amazonは、eBookリーダーというジャンルを開拓するという、すばらしい仕事をした」と語り、賞賛を惜しまない。だがもちろん、それだけで終わるつもりはなかった。

 「だから僕たちは、彼らの肩の上に乗って、ビジネスを始めようと思う」

 そう言って発表したのが、iPadにおけるeBookリーダー・アプリであり、配信サービスでもある「iBooks」だ。

 簡単に言えば、iBooksは、eBookにおけるiTunes Music Storeである。正確に言えば、「iTunes Storeの中に、eBookのためのストアが作られる」ことになる。iTunesでおなじみのレーティングや、1クリックでの購入といったシステムは、そのままiBooksでも採用されている。


 

iBooksを販売するストアである「iBookStore」。iTunes Storeと統一した操作感・画面デザインを踏襲している iBooksの画面例。文字サイズやフォント種別などは変更が可能。液晶であるせいか、他のeBookリーダーよりかなりリッチな見かけである

 iBooksの特徴は“カラーで美しい表示である”ということだ。他のeBookリーダーがモノクロ電子ペーパーを採用しているのに対し、カラー液晶を採用しているのだから当然といえば当然だ。また、他の端末がページ送りを「画面切り換え式」としているのに対し、iBooksは文字通り「ページをめくるような動作」としているのも異なる。なにしろ、指の動きに追随するよう、ゆっくりとめくっていくこともできるのだ。このあたりは、「単機能型eBookリーダー」にない特徴である。

 他方、他のeBookリーダーに習ったのが「フォーマット」だ。iBooksは、データフォーマットとして、アメリカ国内でeBook向けの標準化を推進する団体の一つであるInternational Digital Publishing Forum(IDPF)が推し、ソニーやバーンズ&ノーブルが採用する「ePUB」形式を採用する。Google Booksで提供される電子書籍もePUBだ。ePUBは「MP3の電子書籍版」と言われることあるが、それはサポートする端末やサービスが多いゆえである。

 ただし、この点にはまだ不明確な点も多い。ePUBを採用していても、DRMが違えば他のサービスのeBookは読めないし、iBooks StoreのeBookを他の端末で読むこともできない。

 会見ではその点に対するコメントは一切無かったし、別途記事で触れるハンズオン会場でも、「DRMはあるだろう。iBooks Store以外から取得したeBookについては、誰かがアプリを作れば読めるようになるのではないか」という、少々不安な答えが返ってきた。ただし、eBookの価格やラインナップについても、iTunesを使ったPC側との連携についても「現時点ではわからない」との回答だったため、むしろ「そのあたりもまだ明確にできないか、しない」と見るのが正しいだろう。

 

iTunes Storeの持つ強みを、「すでに1億2,500万件の、クレジットカードの情報を持つアカウントがあること」を例に説明。3つのコンテンツを中心に、iPadでもiPhone同様の成功を狙う
 ジョブズ氏は、iPadの強みとして、iTunes Storeの存在を挙げる。iTuens Storeの強みとはたくさんのユーザーがすでに利用しているということ。DRMは、それを補強する一つの策と考えられるだろう。

 また、詳しくはハンズオン記事で述べるが、そもそも「読書体験」として、KindleとiPadのそれは相当に異なるもので、同じ土俵で比較しづらい。仮に「eBookそのものの数」や「読みやすさ」で他のeBookリーダーに劣っていても、iPadには「アプリを使う」という手もある。ニューヨーク・タイムズのアプリをデモしたのは、そういったeBookリーダーでは終わらない“二段構え”を明確にするため、と考えていいだろう。


(2010年 1月 28日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]


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