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西田宗千佳の
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Kinect開発責任者に聞く「Natural Input」の可能性

E3 2011特別編 クドー・ツノダ氏インタビュー


米Microsoft Game Studio ジェネラルマネージャー兼クリエイティブ・ディレクターで、Kinect開発責任者のクドー・ツノダ氏(撮影は2010年のE3)

 マイクロソフトは、今年新ハードウェアを出さなかった。理由は、Xbox 360と「Kinect」が好調であるからだ。日本国内ではいまだ苦戦中だが、特に北米とイギリスでは、Xbox 360の調子が良い。昨年以降その一因となっているのが、画像認識を中核とした複合センサーユニットである「Kinect」だ。コントローラーを持たず、体の動きや音声コマンドなどの「Natural Input」を実現するKinectは、非常に革新的な技術といえる。

 Kinectはもちろんゲームデバイスだが、ことによれば家電の世界、ひいてはコンピュータの世界全体に大きな変化をもたらす視座を与えてくれている。

 米マイクロソフト・Game Studio ジェネラルマネージャー兼クリエイティブ・ディレクターのクドー・ツノダ氏に話を聞いた。


Xbox 360 E311 Media Briefingの模様 Kinectを大々的にアピール

 


■ Kinectの成功には満足。イノベーションを「体験」するソフトを配布

−Kinectローンチ(立ち上げ)から今までの状況を振り返って、どう評価していますか?

ツノダ氏(以下敬称略):非常に満足しています。Kinectの販売台数はすでに1,000万台を突破しており、ギネスで「もっとも速く売れた家電製品」と認定されました。リサーチ結果の中でも特に興奮しているのは、Kinectを購入した多くの人が、Xbox 360とのバンドルであったということです。しかも、これらのお客様はXboxを初めて買った方々がほとんど。それだけ多くの人々が、Xboxというプラットフォームに参加してきていただけたということは、とてもハッピーなことですね。

−KinectでXbox 360を初めて使うユーザーを集める、ということは、開発の段階でどのくらい意識していたことなのですか?

ツノダ:Kinectは「すべての人」のものになるよう開発をしました。「すべての人」という意味は、カジュアルゲーマーだけでなく「コアゲーマー」も含む、という意味です。ゲームを一度もしたことがない、という人も含みます。Kinectのローンチからは7カ月しか経過していませんが、すでにバラエティに富んだ、たくさんのゲームタイトルが発表されています。(コアゲーマー向けである)「Forza4」(Forza Motorsport 4、日本では10月に発売)や「Mass Effect 3」もKinectに対応します。様々な種類のゲームがKinect対応となります。特に大きいのは、「Kinect Disneyland Adventures」のように特別なタイトルが登場することでしょう。

Xbox Liveで配布が始まっている「Kinect Fun Labs」のひとつ「Kinect Me」。自分の姿から自動的にアバターを生成する

−Kinectの使い方として、もっとも驚いたタイトルはどれでしょうか?

ツノダ:発表したばかりの「Kinect Fun Labs」ですね。すべてのXbox Liveメンバーに、無償で公開されています。

 このソフト群では、あらゆる違った形でのKinectによるイノベーションの姿をお見せしています。ゲームデベロッパーによって作られたものもありますが、同じように独立系のクリエイティブな人々、学術系の人々による作品も含まれます。Kinectによる「指」のトラッキングやオブジェクトスキャナー、プレイヤースキャニングなど、新しい要素が色々あります。

 Kinectの上で起きている新しいイノベーションについては、多くの人がネット上でビデオで見ることができます。ですが同じものを「Kinect Fun Labs」では「体験」できるのです。


 


■ 広いイノベーションには「協調的な姿勢」が必要。ゲームから学んで人生を豊に

−これまで、ゲームのプラットフォーマーが、Kinect Fun Labsのような「エッジな」ソフトを公開することはあまりありませんでした。どちらかといえばクローズドな姿勢が中心だったでしょう。ハッキングコミュニティやテッキーなコミュニティに好意的なプロダクトに見えます。どのような考え方に基づくものでしょうか?

ツノダ:Kinectプラットフォーム上でのイノベーションについては、なんであれとても好ましく思っています。たくさんのイノベーションは、確かにネットビデオで見られます。しかしこういったものは、自分で体験してこそ本当の価値がわかるものです。我々は、人々がイノベーションを作り上げる場所を用意したかった。それが、Kinect Fun Labs発想の原点です。

 ゲーム業界の人であろうとそうでなかろうと(イノベーション)をエンジョイできる。それが狙いです。

−こういう活動は、ずっと続けていきますか? ゲームのためだけでなく、イノベーションのためにKinectを使う活動をどう見ていますか? また、こういった活動はXboxにどういう影響を与えると考えていますか?

ツノダ:Xboxは最初から「イノベーション」に強くフォーカスしたプラットフォームです。Xbox Liveを見てもおわかりでしょう。様々なタイプのユーザーに向けたイノベーションを提供しています。

 思い出していただきたいのですが、初代Xboxは、非常に「ゲームに特化」したプラットフォームでした。しかし360は優れたゲームがあるのはもちろんですが、映像配信も含め、優れた「エンターテインメント・プラットフォーム」になっています。これは「イノベーションをすべての人に提供する」ことを目的としているXboxにとって、自然なステップなのです。

−これまでゲームプラットフォーマーは、デベロッパーとクローズドな関係を交わすことが多かったように思います。しかしKinectについては、非常にオープンな関係が築かれつつあります。このことは、イノベーションに対して大切なことだと考えていますか?

ツノダ:クリエイティブな世界で活躍している人々には、様々なタイプがあります。そして、広くバラエティに富んだアイデアを持っています。それはイノベーションをより加速するはずです。

 それこそが、とても「協調的」な姿勢を取る理由なのです。

 ディズニーのように大きな企業や、スターウォーズのような大きなタイトルを作っている人々もいれば、個人もいる。すべてのタイプの人々と関係を持ちたいと考えています。それこそが、コンシューマーに新しいイノベーションを元にした、満足感の高いエンターテインメントを届けるためにもっとも良い方法だと考えています。

−Kinectでのゲーム開発は十分やりやすいものになったと評価していますか?

ツノダ:はい。私自身が開発者として評価するとすれば、Kinectはとても開放的な環境だと感じます。なぜなら、これまでのコントローラーは、非常に少ない情報しか使えず、自由度が小さかったのですが、Kinectはそうではありません。もっと広い情報を使えるようになったので、より自由な発想で開発できるようになった点がプラスだと感じます。

 Xboxでは、コントローラーだけの経験も、Kinectだけの経験も、両方を同時に使える経験も設計できます。デベロッパーとしては、それだけチョイスが増えたことになるので、ゲーム開発の難易度は逆に下がったと考えることができるでしょう

−Kinectを発売してみて、特に意外だったことはなんでしょうか?

 開発者は「ゲーム」としてソフトを開発していったのですが、それが「生活としてのエンターテインメント」に拡大していった部分が多いのです。

 例えば「Dance Central」というゲームがあります。とてもいいゲームです。

 正直に言って、これまでの人生で私はダンサーとしてはひどいものでした。実は結婚した時も、ダンスなしで済まそうとしたくらいなんですよ。下手なダンスを見せたくなかったんで(笑)妻は許してくれませんでしたけどね。

 私がDance Centralをプレイしたのは、別にダンスを覚えたいからじゃないです。これがゲームとして面白かったからです。でもゲームをプレイしていたら、ダンスがすごくうまくなったんですよ。妻はとてもハッピーだと言ってくれますよ。一緒にDance Centralで踊るんですが、「ダンスうまくなったじゃない!」って言ってくれます。

 楽しむためにゲームをしていたらなにかが身につく、憶えられるというのは、人生を豊かにする上でとても大きな体験です。

 私はほんとに長い時間ビデオゲームをやってきましたけど、こうやって「プレイすればするほど人生が豊かになる」なら、こんなにいいことはないですよね。

−Kinectの可能性について教えてください。Natural Inputはコンピュータを大きく変える可能性を秘めていると思います。エンターテインメントデバイスの中で、Kinectのように自由度の高いインターフェースの存在は、世界をどのように変えていくと考えていますか?

ツノダ:Kinectはとても魅力的な可能性を秘めていると思います。これまでゲーム業界は、他で開発された様々なものを「取り込む」ことで進化してきました。映画業界からゲームに取り込み、コンピュータ業界からゲームに取り込み……。Kinectは、ビデオゲーム業界にとって、「他の業界に、まったく独自のなにかを与える」体験の、パニオニアになれるものではないかと考えているのです。

 私にとってもっとも興味深いのは、エンターテインメント業界に限った使われ方ではありません。この種の入力方法・認識技術は、ビデオゲームの業界から、エンターテインメント業界を超え、さらに広い世界で活用できるはずです。例えば、医師を支援するといった医療分野での活用です。

 すべての異なる産業で、KinectのようなNatural Input技術は活用できると信じています。いかにKinectをエンターテインメント業界の外へと広げていくか、ユニークなテクノロジーを生み出していくかが大切だと考えています。

−Kinectの現状について教えてください。精度やコスト効果を高めたい、と考える人もいます。ハードやソフトの改善で、そういったことは可能だと考えていますか?

ツノダ:現状のKinectは、多くの人にとって満足すべき状態であると思いますよ。ソフトウエアのイノベーションにより、様々なことが可能になっています。

 例えば、「Kinect STARWARS」では、飛んでくるレーザーをライトセーバーでブロックできるのですが、それを動きで実現するのは難しいものでした。

 また、指をトラックしていくということも、以前は難しいことでした。

 しかし、同じKinectセンサーを使い、コストもかけず、なにも追加購入することなく、より高度で複雑なことができるようになっています。

 現在のKinect対応タイトルで行なえるようになっていることは、多くの人にとって楽しく、有意義で、価値のあるものだと思います。しかし我々は、今後も改善を継続していきます。

 Xbox Liveは、定期的に改善が行なわれ、ユーザーインターフェースや機能がよりよいものに進化しています。Xbox 360も、発売当時の機能と現在とでは、大きな進化のあとが見られます。Kinectも同様です。ソフトウエアをベースにイノベーションしていくことで、今後も進化していきます。

−個人的な要望として、もう少し狭い部屋でも使いやすいようにしていただきたいんですが、どうでしょうか?

ツノダ:「Mass Effect 3」はボイスコントロールに対応しました。これは、狭いスペースでもとてもうまく動作します。また「Fable:The Journey」では、馬に乗る時には手綱を振るように動かしますし、魔法を打つ時にも、手を前に突き出すような動作をします。ですがどちらも、狭いスペースでできます。

 Kinectによるエンターテインメントはバラエティに富んでいます。その中には、どうしてもスペースを必要とするものもあります。しかし、ゲームのデザインによっては、音声や小さなジェスチャーといったもので、狭いスペースでも十分に革新的な体験ができるはずです。

−ということは、ゲームデザインの段階で、狭いスペースを考慮して開発すべきだ、ということですか?

ツノダ:いえ、そうともいえません。最初からスペースのことだけを考えて開発すると、Kinectの豊かな可能性を狭めてしまいます。

 Kinectのいいところは、操作の実現に様々な可能性があるということです。その中にはよりスペースを必要としないものもある、という風に考えるべきでしょう。「Fable:The Journey」の場合、「魔法をコントロールするにはどうしたらいいだろう」という発想から、体の前で手を動かすという操作方法にたどり着きました。狭いスペースでも楽しめるものですが、「狭いスペースで使いたい」ということが第一義ではなかったのです。

(2011年 6月 10日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]