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西田宗千佳の
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iPadマーケティング担当者に聞く「アプリから見る連続性の価値」


iPad 2

 年末年始は、デジタルガジェットが売れる時期だ。クリスマスまではプレゼント(もちろん、自分宛も含む)として、年始以降にはお年玉需要などがある、と考えられる。そんな中で、アップル製品はやはり人気の高い商品だろう。アメリカの6歳から12歳の子どもを対象とした「このクリスマスに欲しい商品」の調査(Nielsen調べ)では、1位がiPad、2位がiPod touch、3位がiPhoneと、トップをアップル製品が独占している。

 その人気を支えているのは、アプリや周辺機器マーケットの豊かさである。現在のiOS機器で登場している、ユニークなアプリや周辺機器の状況について、米Apple ワールドワイドプロダクトマーケティング iPad担当のスコット・ブロドリック氏に聞いた。なお、インタビュー中の写真のうち、ブロドリック氏の顔写真については公開が許可されていないため、紹介している商品とデモのものだけになることをご了承いただきたい。



■ 電子雑誌やアプリの価値で「タブレット」ジャンルを独占

 iOS、中でもiPadは、同じジャンルの機器の中でも特に人気が高い。今年多数のタブレット製品が出たが、iPad 2を追い落とすことはできなかった。

ブロドリック氏(以下敬称略)現在、タブレットから生まれるウェブトラフィックの97%は、iPadから生まれています。このことを考えると、iPadはこのジャンルをクリエイトしたのではなく、実質的に「独占している」といえるでしょう。

App Storeで「Newsstand」をキーワードに検索してみた例。多くの対応電子雑誌アプリが見つかる。日本向けはまだ少ないが、それでも「DIME」「東洋経済」「AERA」などのメジャーな雑誌が参入している

 その理由は、やはりアプリの豊富さだろう。iPadはその面積の広さを生かした電子書籍系アプリに注目が集まりやすい。iOS5では、雑誌・新聞などの定期刊行物を扱う「ニューススタンド」機能が追加されたことにより、そういったアプリを扱いやすくなった。

ブロドリック:マーサスチュアートの「Martha Stewart Living Magazine」など、非常に美しくクオリティの高いものがたくさん登場しています。インタラクティブに動くことで、これまでとはまったく違うものになります。この中にあるカードのクリップアートは、Airprint機能を使い、印刷して使えるようになっているんですよ。また、日本の雑誌も増えています。

 事実、AppStoreを「Newsstand」で検索してみると、現在は非常にたくさんの雑誌が見つかる。中には、メジャーな日本の雑誌も登場している。まだまだ数は多くないが、順調に伸びているといえるだろう。

 iPad向けのアプリには、書籍的な内容ではあるがインタラクティビティが高いものが多い。冷笑的にみればCD-ROMの時代に流行った「マルチメディアコンテンツ」的なものへの揺り戻し、ということになるが、そのコンテンツのリッチさは、当時とは大きく異なる。

ブロドリック:例えば「A Charlie Brown Christmas」では、登場する人物の声は、1965年にアメリカで「ピーナッツ」がアニメ化された時のオリジナルキャストのものが使われています。この「X is for X-Ray」では、指で様々なものの中身を、X線で透かして見ることができます。ほら、ぬいぐるみにはこんなものが……(笑)

iPad用アプリ「X is for X-Ray」(700円)。家電製品やエンジンなどの中身を透視し、構造を確認できる。くまのぬいぐるみの中にあるのは……

 音楽を楽しむ楽器アプリとしては「MadPad」がお勧めです。これは、映像と音を記録して、それをパーカッションにしてしまうものです。プルタブの音で演奏したりもできますし、この場で私の声と顔を楽器にすることもできますよ。

iPad用アプリ「MadPad HD」(250円)。映像と一緒に音を記録し、それをパーカッションにする。日常を楽器にするアプリといえる。カンのプルタブで音楽を奏でることも

■ 「連続性」がユニークなアプリを産む

 ゲームも充実している。前出のように「子供がこのクリスマスに欲しい商品」のトップにiOS機器が来るのは、ゲームに惹かれての部分もあるのだろう。

ブロドリック:iPad 2やiPhone 4Sに使われている「A5」ならば、ゲーム機向けに作られたゲームを、ゲーム機で発売されるのと同時に出すこともできます。専用機とクオリティがそう違わないものも登場しています。特にテレビとつないで使うと、テレビで専用機を使う場合とは違う体験ができます。iPadやiPhoneを動かして操作できますからね。例えば、この「Sky Gamblers」というゲーム、バンダイ・ナムコゲームズが開発中の、まだ未発売のものです。迫力があって操作も面白く、専用機に負けていないと思うのですが。

 「Real Racing 2 HD」では、レースの様子をテレビに映しつつ、複数のiPad、iPhoneで対戦することもできます。こういうことが、難しいことをしなくてもできる、という点が重要だと考えています。

バンダイナムコゲームズが発売を予定している「Sky Gamblers」。俗に言うフライトシューティングゲームで、本体を動かして操作しつつ、敵の撃墜を狙う。グラフィクスの水準は確かに高い iOS用レーシングゲームとしては定番ともいえる「Real Racing 2 HD」(600円)。AirPlay機能を使い、最大4人でレースが楽しめる。普段使っている機器を持ち寄れば楽しめる、というのは大きなメリットだろう
ゲームなどをプレイする上でカギになる「Airplayミラーリング」機能。無線LANを使い、簡単にiOS機器の画面表示をテレビに写せる。遅延なども意外なほど感じない

 ゲームという意味で大きな価値を持つのが「AirPlayミラーリング」だ。これは、iOS機器と連携し、無線LAN経由で映像を転送する機能で、iPadやiPhoneの画像をApple TVでテレビに映す、といった用途で使われる。詳しくは以前「スマホLIFE」に掲載されたレビューを併読していただきたい。

 ブロドリック氏は、AirPlayミラーリングゲームなどをプレイする上で「iOS機器ならではの価値」として強調する。デモにおいても、テレビとの連携を中心にアピールしていたが、それはやはり、家庭用ゲーム機の持つ要素をカバーしつつ、より自由度の高い遊び方ができる、という点を見せたかったからだろう。通信対戦もテレビとの連動も、ゲーム機にできない話ではない。だが、操作の洗練度やケーブルのない自由度など、iOS機器ならではの美点も多い。

 率直にいって、「ゲームの品質が家庭用ゲーム機並」という点については、少々異論もある。だが、手軽にプレイできること、複数の機器との連携のスムーズさなどの点ではiOS機器の方が上であり、専用機とは別の美点があると感じる。

 ゲーム向けという意味で、ブロドリック氏は面白いグッズをいくつか見せてくれた。

ブロドリック:これは日本では販売されていないものなのですが……。「Cars Appmates」は、「カーズ」をテーマとした製品で、アプリとミニカーがセットになったものです。アプリを立ち上げ、画面上でセットになったミニカーを動かすと、道に沿って走るんです。裏を見ると分かるのですが、それぞれに伝導体がそれぞれ違う数だけついていて、それでミニカーの種類を判別し、操作に使うんです。

 日本でも売っている、もう少し面白いものとしては、この「インベーダーケード」があります。もう、見ておわかりですよね(笑)。「スペースインベーダー」をプレイするのにも使えるのですが、単なるクレードルとしても使えます。

カーズを題材にした低年齢向けゲーム「Cars Appmates」(日本未発売)。ミニカーが2台セットになっていて、それをiPadの上で動かすことで、簡単なレースゲームが楽しめる。ミニカーの底面には、識別用の伝導体が埋め込まれている
タイトーが発売している「インベーダーケード」(15,800円、アプリは450円で別売)。アーケードゲーム機をそのまま縮小したような構造になっている。ゲームをプレイしない時は「充電台」としてもつかえる

 iOS機器は、機器そのものが人気であること以上に、アプリや周辺機器などのビジネスが好調であることが特徴だ。アプリや周辺機器が豊富にあるからこそ、商品としての魅力が増し、それがさらに新しいアプリの登場を促す。このようなサイクルが生まれている理由を、アップルはどう分析しているのだろうか?

ブロドリック:まず、これらのアプリの多くはiPad専用にデザインされています。単に、小さいものを拡大しただけではありません。

 iPad向けに最新の機能を使ったアプリや商品を投入できる理由は、「プラットフォームは連続しているから」です。新モデルが登場したり、OSが新しいものにバージョンアップしたりすると、多くのアプリメーカーは、アプリをアップデートして新しい機能を追加していきます。そういったことができるのは、「どの機器でも最新の技術を活用できる」とわかっているからです。新しい技術に対応すれば、それだけビジネスのチャンスが生まれます。

 他のプラットフォームでは、色々なデバイスが色々なバージョンのOSを使っているため、最新の技術にフォーカスしてアプリなどを作ることができません。結果、最新のOSを活用したアプリがなかなか充実して来ず、ビジネスも広がらないのです。消費者にとってどちらがいいかは明らかでしょう。

 ブロドリック氏の言う「連続性」とは、Android採用機器に様々なバージョンのOS・解像度のものがあり、統一性がないことと比較してのものだ。多用な端末が存在することは一つのメリットではあるが、アプリ開発の面から見ると確かに問題だ。特にタブレット向けの「Android 3.0」以降向けのアプリは、iPad向けに比べ極端に少ない。端末販売量の問題もあり、ターゲットとするOSやディスプレイ解像度を絞るのが難しく、Androidタブレットのためだけにアプリを用意しづらい現状がある。「Ice Cream Sandwicth(ICS)」こと4.0以降では、ようやく携帯電話向けとタブレット向けでバージョンが統一されることになるが、しばらくは混乱が続くだろう。

 技術基盤を統一することでビジネスを促進する、というやり方は、iモードなどの携帯向けサイトビジネスや家庭用ゲーム機を成功させた方法論といえる。iOS、特にiPadのビジネスは、それらのビジネスを分析して作られたものだと言われているが、現在のiPadの成功を見ると、それも頷けるというものだ。

 日本での今冬のビジネスの成果も、アップルがいかに「他にないアプリや周辺機器の価値」を広く示し、iPadなどの魅力につなげられるかにかかっているといえそうだ。


(2011年 12月 22日)


= 西田宗千佳 =  1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]