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PlayStation 4開発責任者伊藤雅康氏インタビュー

PS4世代のカギは「パーソナライズ」にあり

ソニー・コンピュータエンタテインメント SVP 兼 第一事業部 事業部長の伊藤雅康氏。手にしているのは、PS4の実機だ

 欧米では11月に発売が予定されているPlayStation 4(PS4)。だがご存じの通り、日本では2014年2月22日と、かなり遅いタイミングになる。

 それはなぜなのだろう?

 また別の話として、PS4の「ハードウエアとしての特徴」はどのようなものになるのだろうか? AV機器として使った時、モバイル機器などと連携した時、どのような価値を持つのだろうか?

 PS4の技術開発・ビジネス開発を統括する、ソニー・コンピュータエンタテインメント SVP 兼 第一事業部 事業部長の伊藤雅康氏に、最新事情を聞いた。

サービス連携で「人によって違う」体験を目指す

−−日本ではPS4の登場が2月になるわけですが、その意味をどう捉えればいいでしょうか?

伊藤:システム全体から言いますと、日米欧、本当に同時にすすめてきましたし、実際今、同時に進行しています。システムだけ考えると、本当に同時導入しても良かったんですが……

 ゲームというのは、ハードとソフトの両方がないとビジネスが成り立ちません。やはりそこは、ソフトが揃うということと、やはり大きいのは、ローンチだけ揃ってその後が続かなければ、どうしようもないですよね。ちゃんと続くことがはっきりするタイミングが2月、ということですね。年末だけポーンとあって、その後が全然続かない……ということではいけないな、ということで。

PlayStation 4

−−東京ゲームショウの基調講演でも、PlayStaion App(筆者注:PS4と連携するスマートデバイス向けのアプリ。Android用とiOS用が提供される予定)やPlayStation Vita TVとの連携がデモされましたが、PS4というシステムで狙っているのは、どんなエンターテインメントということになるのでしょうか? これまでにも「ゲームに主軸を置く」という話はしていただいていますが、もう少し具体的にお教えいただけますでしょうか?

伊藤:今日、基調講演ではお話できなかったんですが(筆者注:インタビューは9月19日に行なわれた)、最初に考えたのは「パーソナライズド」ということです。

 私、この機能については、個人的によく「おもてなし」という言葉を使うんですよ。なんか最近ブームになって、アレなんですけど(笑)、要は、その人個人に合わせたサジェスチョンなどをしてくれると、とても気持ちよく使える、ということです。この製品はそういう機械にしたいと思っています。

 そのためには、システムの方で、例えばネットワーク経由でクラウドに情報を集めるなどの手法をとって、その人に合わせ、パーソナライズ化した情報を提供することが必要になります。「おすすめ」もそうですし、それ以外の機能もあると思います。マッチングの部分でいえば、自分と同じくらいのレベルの相手とゲームができるとか。いつも強い人とばかりあたるのでは、面白くないですからね。そういうことも全体でできるようにしたいです。

−−PS3の時代から、ネットに繋がっているか否かは大きな差になっていました。ただPS3の時代は、マッチングはともかく、ネットワーク側は「コンテンツ送出」といった意味合いが強かった。しかしPS4では、その辺が変わってくるわけですか? ユーザーの行動によって機能の提示の仕方が変わってくるなら、クラウド側に相当の重きが置かれるような印象を持つのですが。すなわち、ローカルの性能とクラウド側の連携で価値が生まれる、というイメージですが。

伊藤:はい、まったくその通りです。

−−ということは、PS4はネットワーク接続は必須ではないけれど、つないで遊ぶことでどんどん快適になり、他の人とは違う環境になっていく、ということですか?

伊藤:今回、ネットワーク必須とは言っていませんが、ネットワークにつなげていただくことで、より多彩な機能を提供できる、という言い方をしています。極論すれば、ネットワークにつないでいただかないとPS4のすべての面白い部分は体験できない、ということになります。

−−この世代のコンソールの面白い部分を楽しむ、という観点で伺いたいと思います。ライバルであるXboxOneは、「オールインワン・エンターテインメント」という言い方をしています。ゲームをしながらいろんなことを同時にするのが当たり前ですよね、というまとめ方です。PS4は「濃いゲームをいかに快適に提供するのか」というメッセージを出してきましたが、ゲームと他の機能・ユーザーとPS4とゲームであるとか、その関わりについての設計思想を、もう少し教えてください。

伊藤:PS4を設計するにあたっては「ゲームに集中しましょう」と考えました。そのためには、リード・システムアーキテクトとしてマーク・サーニーも招聘しましたし、本当に「ゲームが開発しやすい」アーキテクチャに注力しました。

 そしてそれは、PS3の時の反省でもあるんですが、PS3の時には、Blu-rayもあります・ゲームもあります・ソニー機器との連携もあります、ということで、「この機械はなんなんでしょう」というところがぼやけてしまったんです。だからPS4を開発するにあたっては、なにかに集中したいと考えました。それがなにかといえば、当然ゲームです。

−−ゲームのコアファンはたくさんいます。ビジネスデーも混んでいますが、一般公開日は恐ろしいほどの熱気になり、まったく違ったショーのような様相になります。そこに大切なお客様がいて、そこに大きなビジネスベースがあるのはよくわかります。

 しかし、それはピラミッドの上の部分であり、ビジネスを広げるには、いかにそれをピラミッドの下の方に広げるかが重要でもあります。マイクロソフトや任天堂は、アプローチは違いますが、下に広げていく戦略を採っています。

 PS4でも「ピラミッド頂上の三角形をいかに大きくするか」が重要になると思いますが、そのための方策はなんですか?

伊藤:最初はやはり「ゲームに特化しています」というメッセージを出しつづけることになると思います。しかし次のステップとしては、ライトユーザー層・ファミリー層に広げていく必要があります。それはPS4だけでなく、プレイステーションのプラットフォームとして広げていくことになると思います。

 ネットワークにつなげることが重要だというお話をしましたが、そこがキーになっています。ネットワークにつなげて、ゲーム以外のなにかのサービスができる仕組みを考えていかなくてはならないと思います。

 そこで「パーソナライズド」というところがキーです。

 ゲームファンのお子さんがPS4を買ったとします。でも、おかあさんはゲームに興味がない、とする。でも、カメラを使って、ユーザーを認識し、「おかあさん」の時には全然ゲームと違った画面が出てくれば、どうでしょう。

 これは一つのヒントですし、どこまで実現できるかはわかりませんが、そういう部分も考えていかなければいけないと思います。

PlayStation Appと密な連携、実は単体で「サーバー」にもなる?!

−−いままでの世代と違うのは、PlayStation Appやリモートプレイのような、「ゲーム機に対して他の機器からアクセスする」ことによって利便性・可能性を広げる部分が大きくなっていると思います。PlayStaion AppなどはクラウドとPS4が連携して動作するのですよね?

伊藤:その通りです。PlayStation Appは、PS4の情報だけでなく、Vitaのアクティビティ情報も表示します。

−−その時、PlayStation Appの役割はどうなるのでしょうか? 現状だと、他の利用者のアクティビティを見たり、動画を見たり、といったことが中心のように思えますが。PS4の中にアクセスするわけですから、自分がプレイ中のゲームにインタラクションすることもできますよね。

伊藤:その通りです。しかしそれはシステムとしてサポートしているというよりも、ゲームクリエイターがそういったことをしたければできる……という形になっています。

 そうした場合の開発難易度も、低いですね。ウェブベースでできるようにしています。

−−ウェブベースというのは、データがクラウド側に行ってクラウド側がウェブベースのゲームを提供する……という形なのか、PS4がスタンドアローンのウェブサーバーになって動くのか、どちらですか?

伊藤:完全に後者ですね。PS4がスタンドアローンのサーバーになります。PlayStation Appと一対一で動きます。

 ただ、現状そこまでである、ということですね。将来的にどうなるかは、まだ考えているところです。

−−将来的には、そうしたPS4+PlayStation Appで動いているゲームがクラウドでさらにマッチして、複数の人が連携して動く可能性もある、と?

伊藤:それも一つの可能性です。

−−そうした機能はPS4のどの部分を使って動いているのですか? いわゆる「セカンダリープロセッサー」側でですか?

伊藤:メインプロセッサーをフックして動いています。そういうアプリケーションを使いたい、というリクエストが外部から来ると、セカンダリープロセッサーが検知してメインプロセッサーに処理を渡す、という形です。

−−どうも、セカンダリープロセッサーが「なんでもできる魔法のプロセッサー」のような意識を持っている方もいるようなのですが、そうではない、わけですよね。

伊藤:そうではない、です。必要なリソースを判断してそれに応じてシステムをコントロールするためのプロセッサーです。スマートフォン・タブレット側でも性能は色々ですからね。セカンダリープロセッサーにすべてを頼ってしまうと、それによってゲーム体験が変わってしまいますからね。

−−ちなみに、セカンダリープロセッサーとは、要はARMあたりのコアをもった独自プロセッサーで、映像のエンコード・デコードのIPも持っているもの、という理解でいいのですか?

伊藤:基本的にはそうです。しかし、セカンダリープロセッサーにデコーダーまでは持たせていないです。エンコーダー/デコーダーは別にあって、それに作業を割り振っている形です。I/Oやネットワークトラフィックなどをコントロールするプロセッサーになっています。

−−PS3世代ともうひとつ大きく違うのは「Immediate」の部分。起動が素早くてすぐにゲームができる、という点になると思います。アップデート系も自動で終わっていることも重要ですね。ネットワークからの購入後のダウンロードを短くしたりとか。そうした「即時性」がどういう形で、どのレベルになるのかを教えてください。そこでの「快適さ」が、ゲーム機から離れた人を呼び戻すためのキーになると思うのですが。「ダウンロードが短くなるっていっても、2時間かかるものが30分になる程度でしょ」という声も聞くのですが。

伊藤:さすがに、30分よりはずっと短くなると思いますよ(苦笑)。そうしようと、我々は努力しています。

 ゲーム全体をダウンロードしなくてもゲームが始められる、という部分ですが、RPGだと最後までいくのに何日もかかりますよね。初日に必要な部分はほんの少しです。ですからそこだけを先にダウンロードする、といったような形を採っています。それに30分も40分もかかるようなことはないと思いますよ。

−−そうしたダウンロードについては、背後でセカンダリープロセッサーが動き、自動的にやってくれる、という理解でいいですね?

伊藤:はい。ユーザー設定はできないんですが、だいたい夜中の1時から4時の間に勝手に起動して、なにか必要なものがあればダウンロードしてくる……という形にします。PS3でも、PlayStation Plusに加入するとオートアップデートができましたが、その延長線上にある機能です。

 さらに、PlayStation Appを使ってゲームを外で購入すると、自宅に帰った時にはすでにダウンロードが終わっている、という形になります。

ファン回転は「無段階」で調整、AV機能は「PS3並」からスタート

−−PS4のアークテクチャの特徴として、GPUとCPUが協調して動作する、というところがありますが、この辺の活用はスタートの段階でどのくらいできているのでしょうか? PCと違う感触のゲームがどれだけできるのか、というのがポイントになると思うのですが。

伊藤:いま、私が見る限り、だいぶPCと違った感じになってきたと思います。発売日でどのくらい揃うかはまた別の話ですが、PCとの差別化は、パッと見ただけでも違うレベルで出てきたのがわかりますね。

−−消費電力などですが、そもそも低いだろうとは思います。それ以上に、動作している時の省電力コントロールなどがどうなっているか気になるのですが。もちろん、セカンダリープロセッサーさえ動いていなければ問題ないでしょうが、それ以外の時はどうですか? 今のPCのトレンドだと、相当に細かくコントロールできるようになっていますが。

伊藤:まったく同じように、PCのトレンドに乗っています。動作音もかなり小さくなっていますね。やっているゲームが使うパフォーマンスによって、消費電力もファンの動作量も大きく変わります。

 PS3の時からやっていますが、ファンは負荷によってスピードを変えています。PS3の時は何段階かしか持っていなかったんですが、PS4はリニアに変えるようにしているので、消費電力が大きくなれば回る量は増えますし、そうでない時にはずっとゆっくりしか回りません。

 ただ、この点だけは「悪い点」なのでお伝えしておかなくてはならないのですが……。

 今回、BDプレーヤーが6倍速になっています。PS3の時は2倍速でした。その分、どうしても回っている時の音は大きくなります。そんなにうるさくはないのですが、PS3の時に比べると大きいかな……と思います。

−−ゲームによってはデータをハードディスクにキャッシュすることでカバーできますよね?

伊藤:その仕組みはとってます。でも、最初のスピンアップ時の時だけは、どうしてもうるさくなってしまいますね。

−−AV性能についてはどうですか? PS3の時が高レベルであったので、当然PS4でも期待されるところだと思いますが。

伊藤:まずローンチの時には、PS3と同じレベルを目指します。ただ、我々はソニーでAVの会社ですから、将来的には4Kの対応などを考えると、アップデートを通じて性能を上げていかなければならないと思います。

−−PS4ならではのゲームは色々出てくることになると思いますが、伊藤さん自身で期待しておられる部分はどういったところになりますか?

伊藤:ネットワークを中心に考えた機器ですから、いかにネットワークを使いこなすか、ということですね。

 それに「パーソナライズ」。個人に合わせたゲーム、同じタイトルでも個人で体験が違ってもいいと思うんです。RPGで、AさんとBさんではストーリーが違ったっていい。そういった人それぞれに応じたゲームで、ネットを使った対戦であったりが組み合わされれば、と思います。

−−その人の振る舞いや趣向をゲームに生かす、ということですよね?

伊藤:やる人によって違う形になっていいと思うんです。それは、いわゆる自由度の高い「オープンワールド型」という意味ではなく、です。もっと違った形でパーソナライズされたゲームが出来るようになれば、と思います。

西田 宗千佳

1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)などがある。  個人メディアサービス「MAGon」では「西田宗千佳のRandom Analysis」を毎月第2・4週水曜日に配信中。 Twitterは@mnishi41