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東芝、LG、パナソニックから見る2014年のスマートTV新潮流
画質追求は「直球勝負」、新OSでUI改善へ
(2014/1/13 08:00)
CESから読む2014年のテレビトレンド、2本目の記事では、東芝を中心に、LGエレクトロニクス・サムスン電子・パナソニックといった「主要4社」の動向をまとめてみたい。
「もうメインストリームでは、『4Kにあらずばテレビにあらず』的なところがありますね」
大手テレビメーカーの開発者は、CES会場の端で筆者と雑談しながらそう話した。そのくらい、4Kによる高画質化は当然の流れだが、形状やITテクノロジーの進化など、各社の中で共通するトレンドは多い。そこからは、「4Kが離陸したあとのテレビ」を模索する流れが見えてくる。
東芝・本村氏が語る「2014年のREGZA」
「もう少なくともCESブースにおいては、4Kに『WOW』はないです。なので、その先の『+α』戦略が求められています」
東芝でREGZAの商品企画を担当する、デジタルプロダクツ&サービス社ビジュアルソリューション事業部 VS第一部 商品企画担当 参事の本村裕史氏は、現状をそう説明した。その上で、東芝が採っている戦略を「剛速球ストレートと変化球の二本立て」に例える。
本村氏(以下敬称略):今回、「Premium Ultra HD 4K TV」を発表させていただきましたが、ここでの高輝度広色域追求、さらなる高画質化というのは、まさにど真ん中、直球ストレートな勝負です。この製品については、日本でももちろん、展開を予定しています。
お客様に対して店頭で薦めやすいテレビというのは、やっぱり『いちばん画質がいいテレビ』なんですよ。多くの方がそれを求めていらっしゃいます。それが普遍的な価値であるならば、高画質追求の手を緩めてはいけない。弊社としても『一等賞グループ』でいつづけなければ、と強く思います。
東芝の4K戦略は、2013年以降、「特別でない4K」という流れに集約されていた。4Kコンテンツは重要だが、4Kコンテンツを観ることに主眼を置いた特別なテレビというよりも、「大画面なのだから解像度はより高くないと満足できる画質にはならない」という流れだ。これはすでに東芝だけのあり方ではなく、CES全体で見られる傾向にあった。
本村:昨年の「Z8X」では、4K=チャンピオンモデルで買えないもの、というイメージを変えたかったんです。Z8Xでは、4Kだけを表示するのでない「普通だけれども高画質な4Kテレビ」の経験を、本当にたくさん積ませていただきました。
他方で、直下型LEDバックライトを使い、700nitの高輝度を実現した「Z8」も作りましたが、こちらも「最高の2K画質」を追求するためにやってきたことです。「Premium Ultra HD 4K TV」は、この両者の路線を合流させたものになります。4Kでの、解像度面での高画質と、700nitの高輝度をもちあわせ、しかも、単にプラスしたよりもさらに上の映像が出てきています。
「じゃあ最初から両方を追求したものを作れば良かったのでは」と言われるのは重々承知なのですが、実際、結果論ではありますが、最初から両方を追求したモデルを作っていたら、同時にやらなければいけないことが多すぎて、ここまで良いものにはならなかったでしょう。
民生品である以上、費用対効果の問題は避けて通れません。欲しいけれどギリギリ買えるものを商品化します。超高級スポーツカーのようなテレビにはしないし、もうできません。そういう意味では、CELL REGZAの頃とは変わっています。
その中で、4Kのサイズバリエーションは当然広げていきたいと考えています。弊社社長の徳光が、CESでの日本プレス向け説明会で「58型以上はすべて4Kにする」と宣言させていただきましたが、それは本当に、我々にとっては自然なことなんです。より小さいサイズへの展開も、もちろん視野に入っていますので、ご期待のサイズについては、色々考えています。
ただ、フルHDの製品がガッと広がった時、どのサイズまでフルHD化にするか、各社色々ありましたよね。弊社も一時は「32型までフルHDに」とがんばりましたが、結局今は、32型は価格重視になり、フルHDの機種はほとんど見かけられなくなっています。4Kもそんな風に、ある時点でバランスが決まってくるのだろうな、と思うんです。ですからメーカー側で、「これ以下のサイズは解像度を高くしなくていい」と主張するのも、間違いだと考えます。
Z8と、今年出る「Premium Ultra HD 4K TV」では、バックライトに東芝独自の直下型LEDモジュールを採用している。液晶パネルモジュールとして直下型LED採用のものがすでにラインナップにないため、やるなら自前でやらなくてはならない……という事情もある。実際、パネルを製造しているLGですら、直下型LEDモデルについては、テレビ部門がバックライトを独自にアセンブルしている。
東芝はそうしたやり方を、比較的初期から採用しており、そういう意味では、ソニーが採る「オープンセル戦略」を先にやっていた、といえるし、バックライトを中心とした画質向上アプローチという点も近い。
「形訴求」は「変化球」? ポイントは「没入感」
では「変化球」はどうだろう? 東芝は、流行の「カーブド」(曲面型)も、21:9の超ワイドも、両方展示を行っている。こちらをどう見ているのだろうか。
本村:カーブドは、確かにある距離において、没入感を高めるのに効果的です。それ以上に21:9の「5K」は、やっぱりちょっとインパクトがありますね。弊社の展示では、4K映像を加工したものではなく、ネイティブの5Kコンテンツを表示しています。なので、意外と高度なことをやっているんですよ(笑)。ただ、すべての映画が21:9であるわけではないことを含め、コンテンツ調達と画面の有効活用法の面で、課題も大きいです。
ある意味これら「変化球」は、テレビの世界では懐かしさすらあるものかな……とも思うのです。アナログ・CRT時代の「ワイドブラウン管テレビ」を思い出します。またそもそも、薄型テレビというものも、形の変化による訴求です。メーカー側からお客様にくどくど説明しなくても提案できる、という点は大きいです。
しかし、その先受け入れられるかどうか。感動を与えられるかどうかにかかっていますね。メインになり得るのか一過性なのか、結論は出していません。
本村氏は断言を避けたが、やはり彼も本命は「直球」にある、と思っている印象を受けた。実際、筆者も同様だ。あるメーカー関係者は、「結局、サムスンが全力でカーブドを推してきたので、追随せざるを得なかったところがあるのでは」と皮肉な見方をする。
サムスンブースを見ても、カーブドの姿は目立つが、テレビの技術面において、あまり見るべきものがない。カーブドと平面の「変形」モデルはあったが、要は無理矢理動かしているだけ。テレビが儲かりにくいビジネスになっているためか、それともサムスン自身が「次のテクノロジー面での切り口」を見つけられずにいるためか、どうにもぱっとしない。そうしたジレンマを、見た目的にインパクトの大きいカーブド全推しでカバーしているのでは……というのが、筆者の見立てである。液晶テレビの立ち上がり時、サムスンは「薄型強調」のデザイントレンドでトップシェアへと躍り出た。カーブドでそれを再現できるかどうかは、もう少し市場動向を見極めたい。
スマートTVで「webOS」「Firefox OS」が脚光を浴びる
テクノロジー面で言えば、スマートTV化の流れも見逃せないポイントだ。特に注目されたのは、LGエレクトロニクスとパナソニックが相次いで、テレビ向けに新OSプラットフォームの採用を決めたことだ。LGはPalmで生まれ、HPに買収され、さらにLGにやってきた「webOS」を採用し、パナソニックは「Firefox OS」を採用する。
LGエレクトロニクスは、ブースですでに製品を動かし、画面デザイン・キャラクター性の強さをアピールしていた。LGは近年、マジックリモコンを軸に「スマート性」をアピールしていたが、webOSを採用した今年の製品では、その方向性をさらに突き詰める。
「ポイントは即時性。これまでは、テレビとネットコンテンツ、アプリなどの切り換えに相応の時間がかかっていた。しかしwebOS採用により、各機能が同時動作するようになったため、瞬時に切り換えができる。レコメンド機能なども、バックグラウンドで動作しているのですぐに出てくる」
LGブースのwebOS関連担当者は、メリットをそう説明する。デザインがかなりポップになったことは好みが分かれそうだが、表示系の美しさ・なめらかさは特筆もので、「スマート性」は明らかに向上している。私見だが、スマート性だけで評価するなら、CESで見たテレビの中でもトップである。日本で発売されるものも含め、2014年モデルの大半での搭載が予定されているため、現在「急ピッチで製品への実装が行なわれている最中」(LG関係者)だという。
それに対し、パナソニックのFirefox OS実装は、まだ緒に就いたところだ。VIERAとしてのスマート機能「Life+ Screen」を、米国向け製品であるAX800シリーズを使い展示していたが、機能的にには日本ですでに「スマートVIERA」で展開済みのものに近く、デザイン変更が目立っていたのみ。実装としてもこれまでのVIERAと同等で、Firefox OSを搭載した製品は「2014年中に市場に出せれば」(パナソニック関係者)というところのようだ。
OSを変えた、という表現のインパクトが強いし、それぞれ別のOSを使うことになったため「テレビ向けOS戦争」的なイメージで捉える人もいそうだが、実際にはちょっと違う。そもそも、現在のスマートTV系機能は、ほぼウェブ技術で実装されている。各社各機種毎に使われているプラットフォームが異なるため、ネイティブ実装は効率的でないからだ。HTML5での実装、という点では、これまでの製品と違わないのだが、よりなめらかかつ大規模にアプリを動かす必要が出てきていること、動作速度のより一層の高速化が求められていることなどから、モダンなOSへの移行が検討されている……という状況と考えていい。
東芝は、日本ですでに実働中の録画連動型クラウドサービス「TimeOn」と、タイムシフトマシンによる「全録」を、アメリカを含む全世界に展開する、と発表している。だが、「録画」という世界が定着しているのは日本だけで、世界的になニーズは未知数。そこに「日本型スマートTV」として録画を軸にしたものを展開するのは、若干勝算が弱いように思えた。だが、本村氏は「そうではない」と説明する。
本村:タイムシフトマシンは、もう録画、というつもりで訴求していません。録画予約という面倒な操作を経ずともすべてが録画されていたり、自分が見たいであろう番組がリコメンドされたり、自動録画されたりする、という機能があれば、欧米でも「録画」のニーズはある、と考えています。
例えば、日本では「ざんまいプレイ」機能の一例としてゴルフをご紹介していますが、クリケットがウケる国ではクリケットを主題に置いた紹介をすれば同じように支持されるはずです。
他社さんは操作性の改善を目的にスマート化をすすめつつありますが、そういう意味では東芝も同じです。ただ、我々が「テレビを見る時に必要となる機能」、「テレビを見ている時に面白い機能」による、“テレビを最大限に楽しむためのスマート”という方向に向いているのは事実です。
先日の会見にて「名ばかりのスマートTVは終焉」という宣言をさせていただきましたが、それはこういう文脈なんです。
そういう意味では、カーブドで攻めているサムスン電子の「動きの遅さ」が気になる。機能面でもUI面でも、昨年と大きな差が見受けられず、今年のCESでは停滞していた印象が強い。