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SCE WWS吉田修平プレジデントが語る「PS4のヒット分析」と「Morpheusに賭ける思い」

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)ワールドワイドスタジオ(WWS)プレジデント、吉田修平氏のインタビューをお届けする。吉田氏には、昨年E3以来なんどかインタビューしているが、今回は特に「アメリカでのPS4市場の盛り上がり」「今後のゲーム開発施策」「Project Morpheusに賭けるもの」を聞いた。

SCE ワールドワイドスタジオ(WWS) 吉田修平プレジデント

PS4の立ち上がりは「予想以上」、新規ユーザー流入が要因か

−アメリカのゲーム業界は、2年前とは明らかに状況が違ってきていますよね。「Console is Dead」みたいな風潮がくるっと逆転した。なぜここまでPS4がヒットしたのか、ゲームへの熱が戻ったのかを知りたいのですが。

吉田氏(以下敬称略):印象は私も同じですね。マイクロソフトさんやEAさんのカンファレンスも見ましたが、すごくたくさんのタイトルが、しかも多くのお金をかけて作られている印象です。インディーのタイトルも、クオリティが上がっていて、数もどんどん増えている。「投資のされ方具合」というのが、元気ですよね。ネット配信をご覧になられた日本のユーザーさんからも「いいなあ」みたいな書き込みをされていた。確かに「戻った」という感じがしますね。

 これは確かに、予想を上回っているんですよ。アンディ(ハウス社長)も昨年「年度末までに500万台」を予定、とアナウンスさせていただきましが、それ以上の700万台に行きました。遥かに予想を超えています。

 最近、ニールセンさんから、アメリカ市場に関する面白いデータが発表されたんですよ。

 PS4のユーザーを調査したところ、17%のユーザーが、前の世代のコンソール、要はPS3・Xbox 360・Wiiを一台ももっていらっしゃらなかったんです。まったく新しいゲームユーザーか、PS2時代にやっていて戻ってこられた、という方が17%いました。それに加え、31〜2%が、PS3をもっていらっしゃらなかった方々です。Xbox 360かWiiか、ということになりますが。足すと半分くらいなんですね。ですから、ほぼ50%の人は「PS3ユーザーじゃない」人がPS4を買っている。しかも一番最初の数カ月で、です。これは非常にびっくりしました。

 新しいハードを出した時というのは、一番のコアユーザーと、前世代ハードをお持ちのロイヤルユーザーの方。その方々にまずは支持していただける……という想定はしていたわけですが、蓋をあけたらちょっと違った。この数の差が、我々の想定をかなり上回った理由だと思っています。似たような傾向は、ヨーロッパにもある、と聞いています。

−では、なぜ新しいユーザーがPS4を買い求めたのでしょうか。

吉田:それはまだ、「え?」という感じなんですよ。我々のマーケティングチームもリサーチを続けています。「カジュアルユーザーはコンソールを買わない」と言われていました。まあ、カジュアルといってもどこまでを指すかはわかりづらいですが、「PS3時代にはコンソールゲームをプレイしていなかった方々」も、予想したよりも早い段階で増えていく可能性はある、という予兆を感じていて、それはとてもうれしい話です。

−とすると、「コアユーザーが競って買っているのだから、コアユーザーに行き渡ると販売スピードがぐっと落ちるのでは」という予想が成り立たない形になる、ということですか?

吉田:そう信じたい、ですね。まだ今の段階ではどちらとも言えないと思うんですよ。

 過去最大のスピードで売れていますが、それはPS3が非常に長い時間販売されているので、「次はなんだ」とお待ちいただいていた方がドッと来ている……と考えるのが普通じゃないですか。そこから「コアユーザーに買っていただいたあとはどうするのか」という危機感を、我々は常に持ち続けています。そうあるべきだと思っていますし、コアユーザー以外になぜPS4を買っていただけたのかを分析し、ポテンシャルをさらに増やすにはどうしたらいいかを、会社の中で検討します。サービスであるとか、コンテンツであるとか。日本であればtorneみたいなものも大事ですよね。そういうものを準備することが大切かと思います。

ゲーム作り込みには時間が必要、開発方針は「あくまでデベロッパー主導」

−コンテンツについて伺います。アメリカでPS4・Xbox One世代向けのゲームが出てくるスピードが非常に速い。投資の集まり具合や開発効率の良さもあるかとは思うのですが……。

吉田:実はですね……。弊社のタイトルも含め、発売はけっこう遅れているんですよ。「DriveClub」は1年近く遅れていますし、「Watchdogs」も1年近く遅れました。「Destiny」もそうです。弊社も他社も含め、1年くらい遅れているんです。

「PS4はゲーム開発が簡単なんでしょう?」と言われるんですが、それはハードやアーキテクチャを知るために必要な最低限の時間のことです。できる事は非常に増えているので、デベロッパーががんばってしまうんですね。PS3の時代にはやってこなかったようなグラフィックであるとか、オンラインのフィーチャーだとかを入れようとするところで、想定外の問題にぶつかっている、ということです。やはり非常に複雑なソフトになってきていますから。

−今回、カンファレンスでは、PS3用ソフトにフォーカスがあたりませんでしたよね。また、正確な数字は把握していないのですが、北米で先月発売されたWatchdogsの場合、PS4版の割合が非常に高いようです。PS4世代への移行が非常に早い印象を受けます。

吉田:実際には、特に他社さんのタイトルの場合、「同じタイトルのPS3版も用意しているけれど、カンファレンスでは見せない」というやり方をやっていらっしゃいましたね。もちろん、PS4世代に特化した作品も出ていましたね。「Assassin's Creed Unity」だとか。

 PS4世代への移行の早さは、私も感じることですね。マイクロソフトさんと弊社のカンファレンスを見ると、そう感じます。クロスジェネレーション・マルチ(注:世代の違うゲーム機で同じタイトルが発売されること。日本のゲームファンの間では「縦マルチ」と呼ばれることが多い)のタイトルでも、昨年は「PS3をメイン作ってからPS4にアップデートしてるな」という感じだったのが、今年は「PS4をメインに作って、PS3もやってますよ」という感じになってきた。あるいは、PS4世代だけとか。その移行が早いな、と思いましたね。

−では、WWSのプロジェクトとしては、PS4への移行はどうなっていますか?

吉田:去年の段階では、PS3からのトランジションがもう少しゆっくりだろう、という想定もありましたし、我々はPS3版も一生懸命やっていたんですよ。「The Last of Us」だとか「グランツーリスモ6(GT6)」だとか、「パペッティア」だとか。特にGT6は、PS4発売後の発売となったため、ニュースとかユーザーさんの関心だとかは「PS4版が欲しかった」というものが非常に多かったです。早くPS4でGTを遊びたい、と言う声は、想定よりも多いです。

 去年のビックタイトルの発売を経て、弊社の内部製作の大きなチームは、今はすべてPS4に移っています。

−The Last of UsのPS4リマスター版が、北米では7月に発売されます。非常に早い印象を受けるのですが、ああしたプロジェクトはどういう流れで進んだのですか?

吉田:「Tomb Raider」もPS4版が出ましたよね? あれもだいたい、PS3版から1年くらいで出ています。我々のThe Last of Usも、だいだい同じくらいのサイクルではあるんですが……。

 開発チームはPS3版、というか元々のバージョンの開発を終えると、小さなチームになってDLC開発に移行します。Naughty Dogという開発スタジオとしては、「Uncharted」のPS4版をやりながら、PS4用のゲームエンジンを開発する上で、The Last of UsをPS4化するのは、いい題材なんですよ。それをやって色々不具合を調整しながら、エンジンを煮詰めていってUncharted 4の開発につなげる……という使い方をしていたようですね。

 もちろん我々としても、Xbox 360ユーザーさんがPS4に来てくれるかな、という期待があったので、PS3でヒットしたThe Last of Usを遊んでいないユーザーさんに「Best of PS3」、ある意味ベスト版として、Game of The YearもとったこのタイトルをPS4で遊んでください、という形で提供したい、ということはありました。ただ先ほども述べたように、移行してくるユーザーさんがこれほど多いとは予想していなかったわけですが。

−次には、日本をどうするか、ということがポイントになってきます。日本のゲームとアメリカのゲームでは確かに好まれるものが違っていて、プレスカンファレンスで出てきたタイトルすべてがフィットするわけではない。PS4が日本でまだブレイクしない理由の一つだと考えられますが、WWSがゲームを供給する上でも、日本向けをどうするかは課題だと考えます。

 現状WWSの日本向けタイトルとしては、Vita向けでがんばっている印象がありますが、PS4の日本市場向けをどうするかが重要です。とはいえ、日本だけのために作ると、投資効率の問題があるでしょうから、それを「いかにアメリカやヨーロッパで売るか」、もしくは「欧米でウケるゲームをいかに日本でも売るか」が重要なテーマです。

 そうした課題をどう考えていますか?

吉田:まさにおっしゃる通りです。そこはいつも頭を悩ませているところです。

 Vitaについては、おかげさまで日本で好調に普及してきたので、日本市場だけを向いて、バーンと投資をしてゲームを作っても回収できる状況になってきているのですけれど、PS4クラスで大きな投資をすると、よっぽど注意しないと、日本市場だけではまず回収できない、という流れになってしまいます。以前から世界中にファンをお持ちのフランチャイズ、例えば「メタルギア」とか「ファイナルファンタジー」とかでない場合には、注意が必要です。我々もそこに気をつけています。

 現在、「FREEDOM WARS」であるとか「SOUL SACRIFICE」であるとかといったタイトルは、Vitaではガンガン日本向けにやっていますが、PS4向けでは、欧米向けのマーケッターの方と色々話をしたり、デベロッパーの方々とディスカッションをしたりしています。

 ただし「日本人が考える欧米向けのゲーム」というのは、まず成功しない。ですから基本は、デベロッパーにまず「これを作りたい!」というものを提示してもらって、その上でマーケッターに「これどうでしょうか」という形で聞いてみる。その中で「おお、これはいいんじゃないの」というものをピックアップしていく、という形にしています。

 今回、プレスカンファレンスで「Bloodbone」というタイトルを発表させていただきました。フロム・ソフトウエアさんと共同で開発しているもので、以前「Demon's Soul」を手がけたチームです。「Demon's Soul」も「DARK SOULS」シリーズも、日本だけでなく欧米ですごく人気があります。特にゲームディレクターの宮崎(英高氏。現フロム・ソフトウェア取締役社長)さんは、欧米でカリスマ的な人気があります。「Bloodboneという新しいシリーズをやりたいんだけど」とSCEアメリカやSCEヨーロッパの人間に相談したところ、「いいね! ぜひやろう。E3で大々的に紹介しよう」という感じになったんですね。

 日本で作るコンテンツ、日本のクリエイターが「己の信じるもの」を作っていただき、それでも欧米のマーケティングチームが「これはいい」というものを見つけ出すしかないのではないか、と思いますね。

−ちょっと規模感は違いますが、音楽でいうA&R(Artist and Repertoire)に近いですね。

吉田:すごく大事ですね。

 クリエイターはなんでも作れるわけじゃないですが、一つのものしか作れないわけではない。ですから、「こんなのはどう?あんなのはどう?」と提示してもらいながら、こちらからもフィードバックして……という形が非常に大事だと思います。

 WWSのプロデュースをする場所としての機能は、非常に重要です。それは、今回の件に限ったことではないのですが。編集者とライターの関係じゃないですが(笑)。

−具体的に聞きます。といっても「人喰いの大鷲トリコ」のことじゃないですよ(笑) それはみなさん聞いているようなので、別のことを聞きます。Bloodbone以外にも、WWSで「日本向けのPS4タイトル」は動いているんですか?

吉田:まだ発表していないタイトルが、PS4向けに複数あります。それが日本に向いているか、ということになりますが……。

 どちらにしても基本は「クリエイターが提示するもの」をやるかやらないか、ということです。それが日本市場に向いているかどうかは、作りたいものによります。それ以上は、ちょっと今はご勘弁ください。

 ただ、ですね。今Vitaでがんばっていて、そこでは日本市場中心で動いているタイトルが多いです。FREEDOM WARSやSOUL SACRIFICEは欧米でも期待されていますが、例えば、そういうフランチャイズがPS4に行って、「これは欧米でもウケるのでは」と評価されれば、それはまた、とてもうれしいことかも知れないです。まだわからないですが。

−ゲームを売る側・作る側から見て、「シェア機能」にはどんな効果があったと分析していらっしゃいますか?

吉田:ビデオストリーミングでいうと、インディーさんの「Outlast」というホラーゲームが、すごくランキングが高いんですよ。ホラーゲームで人がこわがっているのを見るのは、やっぱり楽しいんですよね。あと、「Don't Strave」というアドベンチャーゲーム。これはいろんなテクニック・戦略を生かした遊び方ができるので、上手い人の映像を見るととても楽しい。ですから、明らかに「向いているもの」がある、と考えます。

 これはWWSのタイトルですが、「Dead Nation」というタイトルをPS4向けに出す時、シェアによるインタラクティブ機能を追加したんです。デベロッパーが「インタラクティブの機能を上手く使いたい」と考えたからなのですが。

 ゲームのストリーミングを見ている人が、プレイヤーに対して「ゾンビを増やす」か「アイテムを出して助ける」かの投票ができるんです。投票の数秒後に、結果としてゾンビが増えたりするわけです。そして、「ゾンビを増やす」と投票した人の名前が、増えたゾンビの上に出るんですよ。知ってる人が増やすと「あ、こいつだ」ってわかりますよね(笑)

 デベロッパーもインタラクティブなストリーミングの可能性に気付き、機能を入れてきている状況ですね。

 スクリーンショットのシェアについて言えば、「inFAMOUS Second Son」のフォトモードがものすごく使われているんです。ゲームを好きなところで止めて、エフェクトをかけてきれいな写真が撮れる機能なんですが、それをシェアしてソーシャルメディアに流してくれているんですね。PS4を持っていない方にも、「PS4ってこんなにきれいなゲームができるんだ」ということを告知していただける効果はすごくあったと思います。

−これからはまさにゲームソフトの勝負になると思います。吉田さんの考える「PS4世代」の要素とはなんですか?

吉田:これは私が考えるというより、各パブリシャーの方々のゲームをザーッと一覧する機会が多いので、そこから感じることなのですが……。やはりPS4世代には、共通の特徴がありますね。それは開発チームが「PS4になるならこれをやりたい」ということなのですが。

 一つは「広い世界」。オープンワールドのゲームを作って、知らない間にそこに他のプレイヤーが入ってきて、対戦や協力プレイが始まるといった、「シングルとマルチの融合」もありますね。

 ソーシャルメディアのつながりを使い、自分が遊んでいない時もゲームが進行したり、ソーシャルメディア上の知り合いとチームを組んだり、といった、ネットワークを使った新しい遊びも流行りです。

 あとはもちろんグラフィックス。いままでは難しかった、水に濡れた表現や血しぶき、布がはためいたり切れたりする表現ですね。エフェクトやパーティクル表現は大幅に進化しました。

 inFAMOUS Second Sonはシアトルが舞台なんです。それは開発元のサッカー・パンチがシアトルにある、ということもありますが、シアトルは雨がちな地域なので、そういう表現が出しやすい、ということで選択されたようえす。

 あとはインディーですね。すごくいろんな変わったタイトル、いままで誰も知らなかったようなタイトルが突如出てくるのが、今世代ならではだと思います。

PS4の「ゲームサスペンド」は開発中

−PS4は順調にシステムアップデートを続けています。最初に「あれがない」「これがない」と言っていたことも、追加されつつあります。

吉田:ちょっとずつ、ですけどね(笑)

−やっとtorneも出た。YouTubeも来た。YouTubeについては、もうちょっと早くても良かったと思うのですが……。

吉田:そうですね……。技術的な問題ではないです。大きな会社同士の交渉なので、色々。なんとなくおわかりかと思いますが。

−問題なのは、PS4お披露目時に示された「Immediate(即座に)」の部分。ゲームも含めたサスペンドの機能は、最初に提示されたにもかかわらず、まだ実現されていません。どうなっていますか? 実装は可能なのでしょうか。

吉田:実現していないのは、システムソフトウエアを開発しているチームの本人達が、一番残念がっています。ですから、がんばって開発を続けています。今はまだ出来ていない、というのが事実ですが、「できる」と思って開発を続けています。いつできる、とはアナウンスできないのですが。

 そういう機能開発のリストがあって、優先度に合わせて開発が進んだ段階から、システムソフトのアップデートの形で少しずつ提供していくことになります。また、我々の側で「これは面白い」と考えて、少しずつ仕込んでいるものもあるんですよ。例えばシェア機能のようなものですが。あと、ご要望もいただいている「DLNA的なもの」だとか「MP3的なもの」だとかも。

 言葉に出すと「これをやると言ったじゃないか」ということになってしまうので避けますが、PS4にどのような機能が必要か、ということを、システムソフトウエア開発チームは常に考えています。

VRの立ち上がりに「疑問なし」、Oculusと共同で開拓を目指す

−Project Morpheusについて伺います。非常に可能性のあるプロジェクトですが、ああしたものを「推す」のは、かなり挑戦的なことでもあります。可能性は大きいですが、まだ市場が定まっているわけではない。スタジオとしてもSCEとしても、ああしたものを背負って世界に問うていくのは、リスクもあると思います。狙いはどこにありますか?

E3で展示された「Project Morpheus」試作機。機材としてはすでに発表済みのものと同じだが、新たなコンテンツを用意し、体験を広めることに努めていた

吉田:もう、リスクはまったくない、と思っています。

 確かにビジネスリスクはありますよ。でも、「バーチャルリアリティ(VR)が立ち上がらないリスク」はまったくない、と私は思ってます。それは、パルマー・ラッキー(注:Oculus Rift開発元・Oculus VR社の創業者)も同じ考えです。今の世代のVRで出来ること、近い将来出来ることは、幅広いユーザーさんにとって素晴らしいものになる、という確信があるんです。

 もちろん、それをどういうパッケージでどういうコンテンツを提供するか、あるいはどういう値段で出すか、という点では、リスクはあります。

 でも、うちが失敗したとしても、誰かが成功する。Oculusさんが失敗してもうちが成功させるかも知れない。誰かが必ず成功させる世界になります。

VR向けHMDで注目されるOculus VRも、はじめて大規模な一般展示を展開。体験を求める人でブースが連日いっぱいになった

−光ディスクが出てきた時、それでゲーム機を作った人々はたくさんいましたよね? その中で成功したのはPlayStationだった。それと同じように、「VRは必ずいつか成功するものだ」ということですね?

吉田:絶対誰かが成功させます。もう、そのための火は点いてしまっているんです。まだ産業としては小さいんですけれど。

 面白いんですよね。先日も、VRに絞ったテーマの業界イベント「SVVR」(Silicon Valley Virtual Reality Conference and Expo)がシリコンバレーであったんですが、そこにうちのリチャード・マークス(注:SCE Research and Development所属。EyeToyなど,SCEで一貫して画像認識AR系技術を手がけてきた人物で、Project Morpheus担当でもある)やパルマー・ラッキーも参加してました。その記事を読むと、まるで昔のGDC、サンノゼの一つのホテルに集まってた頃みたいなんですよね。みんな知り合いなんだけど、そんな人々が集まってワイワイやってる感じで。一つの産業が生まれつつある感触がしますね。

−SCEはMorpheusで、違和感を無くすためのチューニングに、ものすごい手間をかけていらっしゃいますよね? 酔いやすい自分が「酔わない」のが印象的でした。

吉田:はい、その通りで、かなり手間をかけてますね。

 やっぱりPlayStationをずっとやってきた会社ですから。家庭用ゲーム機の良さは「安心して使える」ことじゃないですか。誰が買ってきても、テレビにつなげば絶対楽しめる。VRだからといって……、いや、VRだからこそ、そういう要素は変えたくないです。新しいものだからこそ、使うのが難しかったり、ソフトによってはすごく酔ってしまったり、というものは出したくないです。

 PS4と組み合わせる、というのもそのためです。まずはPS4に集中して、ノウハウをシェアしながら作っていきます。

 全員が酔わない、とはいいません。車に乗っただけで酔ってしまう方もいらっしゃるので、それは難しいかも知れません。だとしても、多くの方に楽しんでいただけるところまでシステムを煮詰めて、ノウハウを共有していきたいと思います。

 装着のしやすさや使いやすさは、「No.1プライオリティ」といっていいかも知れません。

−PS4とセットであることにはマイナス点もあります。OculusはPCとつなぐものなので、思いついたことを簡単に実装できる。Oculusが燃えている理由の一つは、いろんな方がよってたかってコンテンツを作り、可能性を試しているという状況があります。

 MorpheusはPS4とセットであるがゆえに、デベロッパー登録などの契約が出てくる。そうした敷居の問題はどう考えますか?

吉田:我々は、本当に、Oculusさんがいてくれて良かった、と思っています。そういう意味で。

 新しいものをちょっとやってみました、という流れ……日本でも初音ミクがOculusで、みたいな流れは、面白いじゃないですか。草の根で色々なものがどんどん出てくるのは、我々にもとても参考になります。開発面だけでなく、ユーザーさんがそれをどう受け止めていらっしゃるか、という面も含めて。

 我々はそこまで広くはアプローチできません。でもそうした草の根的な動きは、VRが立ち上がるために絶対必要なことだと思うんですよ。

 Oculus開発キットを使って開発者の方々が経験を積まれるということは、我々にとってもとてもいいことだと考えています。

−そこで、SCEがVRに対して「返す」ものはなんになるのですか?

吉田:開発者の中には、PCで趣味としてやっていらっしゃる方もいるでしょう。それだけでなく「この世界で食っていくんだ」と、リスクを採る方もいます。そういう方々には、PCでも自分のコンテンツが売れるし、PS4でも売れる、という形にすることで、我々は色々と貢献できると思います。新しい市場を作る、という意味ですが。PS4はPCベースのアーキテクチャですし、OculusでプロトタイプしてPS4で出す、ということはとても簡単です。

 今のインディー向けプログラムでやってることと同じなんですが、PCでやっているものですごくいいものがあれば、PS4向けを作っていただいてE3の場でドカーンとプロモーションするだとか、ゲームファンに広く知っていただくとか、そういった形でも貢献できるじゃないですか。

−今回、インディー開発タイトルとしては、「No Man's Sky」がものすごくフィーチャーされていましたよね。ああいう形ですか。

吉田:すごいですよね、No Man's Sky。たった4人で作っていて。ああいうタイトルを、私もみなさんにご紹介したいんです。Morpheusで同じ事ができれば、と思います。

 我々も開発キットを作っています。「Oculusでこんなの作っています」というお話があって、それを「スゲー!」と思えば、開発キットを提供して「どうぞどうぞ。Morpheusでもお願いします」という形でやっていただいたり。

 PCゲームだと、Unityという簡便な環境が普及した結果、なにかしら動くものを我々に見せていただくのが簡単になったじゃないですか。我々にとっては、Oculusがそんな存在になっているんです。

−すなわち、「市場を作る側」と「デベロッパーコミュニティを作る側」で、OculusとはWin-Winな関係になりつつある、ということですか。

吉田:そうです。実は昨夜(6月10日)、アメリカの番組に呼ばれて出てきたんです。そこにパルマーも呼ばれてたんですよ。

 私が来ていることを知らない状態で、パルマーは司会者に「Project Morpheusをどう思っているの?」と質問されていたんですが、彼は「ソニーは本当に、ちゃんとした形でVRを世に出そうとしている。それは我々と同じビジョンだから、とてもありがたい」と言ってくれました。もちろん、Oculusとはずっと一緒に色々な話をしていますからね。

 帰ってくるとき、ちょっと彼と立ち話もしてました。今回Morpheusは、はじめてE3で一般に公開しました。OculusもDK2を持ち込んで、新しいデモをはじめて一般公開しています。「とにかく、VRはもうできる。網目の前にこんな世界が来てるんだ」ということを知ってもらわなきゃ、ということなんですよ。体験していただければすぐ分かるのですが、そうでないとなかなか理解していただけない。我々はそれを「ビリーバー(信者)になる」と言っているんですが、それはOculusで入ってもMorpheusで入ってもまったく問題ない、ということで、彼と意見が一致しました(笑)。このフィールドを一緒に開拓していこう、ということですね。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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