西田宗千佳のRandomTracking

ソニーの「Android TV」はどうなっているのか

ソニービジュアルプロダクツ今村社長インタビュー

 ソニーのテレビ事業部門子会社、ソニービジュアルプロダクツ(ソニーVP)は、今村昌志社長の記者向けラウンドテーブルを開催した。ソニーVPへ分社することでテレビ事業は黒字化が必達とされているが、それだけでなく、今年は、OSから画質面、内部のLSIまで、テレビを大幅に変えてきた。Android TVと4Kパネルを使ったテレビはどのようなものなのだろうか? テレビにAndroidを採用することの価値と懸念はどこにあるのだろうか? 今村社長のコメントと、テレビ商品企画を統括する長尾和芳氏への取材から、今年のソニーのテレビの姿を探ってみよう。

ソニーのテレビ事業会社、ソニービジュアルプロダクツの今村昌志社長

Android TV採用の核は「全・自前主義」からの脱却

 今村社長は、テレビ事業立て直しの上で目指すテレビの姿を、「画質音質」「たたずまい」「使い勝手向上」という3つの柱で説明している。その中で「業界標準を縦糸、独自技術を横糸にタペストリーを織る」という表現も使ってきた。その正体が、今回発表した、Android TV採用の製品群、ということになる。

ソニーのAndroid TV。写真は薄型デザインが特徴の「X900Cシリーズ」。
X900Cシリーズは、最薄部が約4.9mm。会見では「Xperiaよりも薄い」(平井社長)と表現された

今村:三つの柱のうちの「使い勝手の向上」について、ずっと昔から色々な議論をしてきました。ポイントは、コンテンツが多様になってきた、ということです。いままでは、極論すれば放送しか受信できなかったわけですが、インターネットの映像コンテンツもあります。お客様がモバイルデバイスから色々な情報を取得するようになりました。それもコンテンツです。そういったのを、いかに簡単に大画面に映していくか、という観点で色々な検討を重ねてきました。

 その中で、一番お客様が使っておられるモバイルデバイスをシームレスに連携するか、ということで、一つはAndroid OSをベースにした連携が最もシームレスではないか、と考えたのです。

UIのほとんどもAndroidベースに。入力切り換えなども、古典的なリモコンの「入力切り換えボタン」だけでなく、Android的メニューでも行なえる

 Android TVには「Google Cast」という機能が搭載されている。これは外付け周辺機器であるChromecastが提供しているものと同じ機能を、各種機器でも実現するためのものだ。今回のCESでは、映像でなく音楽だけを機器へ転送する「Google Cast for Audio」も準備された。

 スマホのコンテンツをテレビに表示する機能は、今のテレビにだってある。だから「できること」ベースでの変化はない。しかし、今の機能では表示に時間がかかる。動画が出始めるまでに数十秒、写真一枚でもけっこう待たされる。また、スマホから転送する場合に「どのアプリでどこをタップすればいいか」をすぐに答えられる人は少ないだろう。ソニーのスマホをソニーのテレビにつなぐならいいが、それが他社製品だと、さらにわかりにくくなる。「写真をみんなで見てもらいたいから、スマホの写真をテレビに映す」というシナリオは、もう10年近く前からあるものだ。だが「素早くワイヤレスで誰もが使える形」であった製品はどれだけあるだろうか。結局はケーブルでつないだり、メモリーカードで渡したりする人が多い。

 しかし、Google CastベースのAndroid TVならそうではない。OSに基本的に盛り込まれたものであり、多くのアプリに「同じアイコンをタップすれば転送できる」機能として実装される。対象となるスマホもXperiaだけではなく、Android全体になる。一部のCast機能だけならiOSアプリにも搭載されているから、それらからも使えるだろう。

 しかも、切り替えはずっと素早くなる。従来はそのための機能を呼び出す操作が必要な場合が多かったが、Android TVではOS側でCastを待ち受けているので、テレビ側は特別な操作をしなくてもいい。表示までの時間も短くなる。もちろん、一切の知識なく使える、とまでは言わないが、今までより敷居が下がるのは間違いない。

Androidなので、ウェブ検索ももちろん可能。とはいえ、キーボードでの入力は主軸ではなく、スマホや専用リモコンを使った「音声入力」だ。もちろん日本語にも対応

 Google Castの仕様はある程度公開されているし、Googleとパートナーシップを組めば、Android以外の機器に実装するのも難しいことではない。実際、サムスンのTizenベースのテレビでも、似たことはできていた。だが、それはサムスンが自社で実装したからできている、ということでもある。ソニーVPが選択したのは、そうしたところで自社実装することを止め、パートナーであるGoogleと連携する、ということだった。すなわち「全・自前主義」からの脱却である。

今村:過去は、すべて自社でやっていました。SoCを自社で開発し、それに合った形でLinuxベースでのソフトウエアを自分達で作ってきたわけです。

 しかしこれから先の事業展開を考えたときに、すべてを1社で賄う、すでに世の中にあまたあるモバイルのアプリ・ハードウエア連携を、我々の考えだけで独自にやり直すことに意味はあるのだろうか、ということは、従来より議論されてきました。

 ここは、世の中のスタンダードに近いAndroidベースで基本的なアーキテクチャを見直し、我々のエンジニアリングリソースを、ソニーが本来強くすべきである場所、例えば「画質・音質」や「美しいたたずまい」を実現するために集中しよう、と決断しました。それにはオペレーショナル(開発・製造)上の理由もありますが。

「自前主義でない」のは、ハードウエアに関しても同様である。今村氏の説明にあるとおり、従来はソニー独自のSoCで実現されていたが、Android TVベースの製品からは、スマホ向けSoCも多く手がける台湾の半導体メーカー、MediaTekとパートナーシップを組んで開発したものが使われる。

「X1」は第3世代の差異化パーツ、Android用SoCは別に存在

 Androidを採用するということは、ソフトウエアで実現される部分において、ソニーの独自性が薄くなる、ということに感じる。また、MediaTekとSoC開発をするということは、そこでも汎用品に近い、という印象を強くする。液晶パネルも外部調達で、似たものはすでにある。ということは、「Android TVを使い、汎用SoCを使えばソニーのテレビに近いものができるのでは」という印象を強くする。多くの人々がここを危惧していることだろう。

 しかし、ソニーVP側はそうした見方を否定する。

今村:均一化に巻き込まれるのでは、という可能性は確かにあります。

 ただ、Googleとの議論の中で、「テレビを見る」「簡単にコンテンツを探す」といった部分については、ソニーが独自に開発してきた「OneFlick Entertainment」などの機能については、ソニーとしてエクスクルーシブに展開する、という合意をとっています。さらには、ホームメニューの中に、ソニーの持つアプリも表示するスペースも確保しました。

 基本的な作りは汎用のAndroidベースになりますが、ソニーが独自に色々な領域を改善できる、という合意をとった上で進めていますので、差異化はできます。

ハイレゾ対応の「XBR-65X930C」

 Googleは、Androidベースの機器で「カスタマイズに制限をかける」ことが多い。カスタマイズしすぎると互換性の問題が生まれるからだ。同じAndroidだが詳細が違うものがたくさん生まれてしまうのは、彼らも避けたい。特にスマホにおいては、初期には「カスタマイズできる自由度」をアピール点にしていたが、次第にルールが多くなっていき、メーカーの開発自由度が減った。最近出たものでは、スマートウォッチ向けである「Android Wear」で、似たような「均質化」が起きている。

 しかしどうやら、テレビにおいては、メーカー側のカスタマイズの幅がかなり広いようだ。会場に展示されていた試作機でも、Android TVのホームメニューを見ると「なるほどAndroidだな」と感じるが、OneFlick Entertainmentを使う限りは、Androidなのか従来通りなのか、差が小さく感じる。画質面・音質面についても、「Androidだからダメになった」とは感じない。

 商品企画担当・長尾氏は「Androidが理由で画質に制限がかかったところはなく、前の製品より確実に向上している」と断言する。

 その理由は、SoCの側にもある。

 すでに述べたように、今年のAndroid TV搭載モデルより、ソニーのテレビ向けSoCはMediaTekとの共同開発になる。同時に、4K向けの高画質化エンジンLSIとなる「X1」が導入された。ここまでの報道だけを見ると、AndroidもX1で動いている、という印象を受けるが、実際には異なる。

長尾:X1は、DRC、X-Realityに続く世代の高画質化エンジン、といえます。4K世代にあわせてデータベースも一新し、HDRも含めた高画質化に対応するために開発したものです。X1は完全にソニーオリジナルの、独自のLSIです。もう一つ、Androidの制御用にはMediaTekと共同開発のSoCが使われています。こちらにもX-Reality Pro由来の、ソニー独自の要素を組み込んではいます。

 4K製品では「X1」とAndroid制御用のSoCの2つが使われ、2K製品ではX1が使われていない、ということです。

 すなわち、画質面での差別化には、これまで通りソニーのオリジナルLSIが使われており、そのノウハウは門外不出。一方で、汎用OSであるAndroidを動かすSoCについては、より汎用SoCに近い構成の採用されている、ということだ。

今村:Android採用とあわせて、もうすべてのLSIを自社でスクラッチで開発するのは、我々にはできない、という判断がありました。

 MediaTekが私どもにとって優れているのは、過去のテレビ向けLSIで実績がある、ということです。テレビ向けではシェアも高く、実績があります。放送受信など、テレビ向けで必要とされるノウハウをお持ちです。同時に、スマホ向けでも大きなシェアをお持ちです。これからやろうとする、スマホと連携するテレビを作るために必要なノウハウが両方あることが、パートナーシップを組んだ理由です。

 Android採用の時点で大幅なプラットフォーム刷新を検討しており、そこでの「差異化」と「スムーズな開発」の両面を考え、SoCパートナーを含めた検討が重ねられた、ということのようだ。

サポート期間は? 主導権は? テレビならではの事情にどう対応するのか

 では、ソニーとGoogleの関係はどのように始まったのだろうか? どうやら「Android TV」「Android 5.0 Lollipop」の登場そのものに、大きく関わる話であったようだ。

今村:Google社とは約2年前くらいからだったと思いますが、色々な議論を開始しました。すると、Googleの方も、彼らのAndroidというOSを、スマートフォン以外の色々な製品に展開したい、という思いをもっておられたんです。それが基本的に「Android L(5.0 Lollipop)」のスタートになったのですが、Google社と一緒にテレビを考えましょう、ということで、2年間近く議論を進めてきました。

 その中で「テレビというものはいったい何なのか」という話になりました。大きいタブレットがテレビかというと、私達は違うと思っています。テレビの基本機能は、お茶の間でリラックスして簡単にコンテンツを楽しむものです。タブレットやスマートフォンは、どちらかとえば自分が前向きに情報を取りに行くものだろう、とこちらから申し上げたんです。それに彼らも同意してくれました。

 Googleがぜひやりたい、と考えていたのは「とにかく簡単にしたい」ということでした。ユーザビリティを上げ、テレビをもっと使いやすいものにしたい、と考えていたわけです。

 そこで「これは両者でいけるな」と思ったので、議論をすすめていきました。

 すなわち、Android TVにソニーが乗ったというより、両社で進めてきたもの、とソニーは認識しているわけだ。今回公開されたのは北米市場向けモデルだが、操作性の向上については「日本モデルでも同様の価値を体験できる」(長尾)としている。

ソニーが2010年に発売したGoogle TV「Sony Internet TV」(NSX-40GT1)

 Googleのテレビ向けプロジェクトとしては、2010年にインテル・ソニー・スイスLogitech(ロジクール)とともに展開した「Google TV」がある。こちらは不評であり、あまり売れなかった。ソニーも商品は出したが「おつきあい」のイメージが強かった。

今村:Google TVは、基本的にPCやモバイル、タブレットのコンセプトをそのままテレビに展開するものでした。従って、リモコンの中にキーが仕込まれていて、パソコンのように文字を入力して操作する、という形でした。アプリも「Google TVのもの」という方向性が強かったのです。

 しかしAndroid TVは、Googleが色々な方向性にAndroidを使いたい、という発想でできたものです。スマホで普及したAndroidという仕組みを、ストレスなくテレビや他のデバイス、自動車などに広げていくことを狙っています。アプリ開発者から見れば、従来はAndroid向けとは別にGoogle TV向けにアプリを作らないといけなかったのですが、Android TVはそうではないです。作業の複雑性が緩和されました。ソフトなりアプリが広く使いこなせると言う意味で、環境が異なっていると思います。

 テレビそのものをリラックスして楽しめるものにしよう、という発想なので、Google TVとは発想そのものが違います。

 他方、Androidを使うことに対する懸念はあと2つ残っている。

 一つ目は「寿命」の問題だ。

 スマホやタブレットのOSは、2年も経てば新バージョンへの移行が進む。機器をそのくらいで買い換える人が多いからだ。しかし、テレビの買い換えサイクルは7〜8年おき。買った時は最新だが、そのうち使えなくなっては困る。機能面だけでなく、セキュリティ面でも同様だ。テレビとは文化が違い過ぎる。Googleの論理に則ると、テレビとしてはマイナスの影響を受けかねない

 しかし、スマホとのサイクルの違いについては「想定済み」と今村氏は言う。

今村:Android OSは定期的なアップデートが必要になりますし、ハードウエアと連携したバージョンアップも考えられます。

 スマートフォンのライフタイムは2年間、ご指摘のように、テレビは5年・6年と長いです。

 しかし、これはGoogle側でも色々な検討をしています。今回テレビだけでなく、白物や車のような領域に展開した場合、商品のライフサイクルにあわせてどうやってAndroidの最新OSを担保するか、そして、ソニーとしてその中でテレビを「ご迷惑のかからないものにする」にはどうすべきか、ということは、ソニーの企業としての基本ですから、両社でご迷惑がかからない施策を考えています。ただ、今回具体的には申し上げられないのですが、きちんと配慮していこう、という議論を進めています。

 第二の懸念は「Googleに主導権を奪われること」だ。Androidでスマホを開発してきた企業は、Googleに色々と振り回されてきた。カスタマイズ性にしても機能にしても、Googleの気持ちひとつで変わってしまう可能性がある。また、サービス構築についても、Google側の「広告ビジネスの事情」などがかかわりかねない。そうしたところはどうだろうか?

今村:Androidを使うことで、Googleにすべてを支配される、という見方だと思います。

 そうしたリスクはたしかにあります。もちろん、OSもエコシステムも顧客の行動データもすべて自分で管理する、というやり方もあるでしょう。しかし、ある意味、ソニーがすべてをスクラッチからできるかというと、私は無理だと思っています。それを仮にソニーが「全部できる」なら、一つの方向だと思っています。しかし、我々は車もやっていませんし、白物もやっていません。すべてを自社でやる選択肢はない、と思いました。

 しかし、だからといって、Android TVを使うとすべてのデータをGoogleが握ってしまうのか、というと、イチゼロの判断ではない、と思います。Googleが色々今後握るであろう、検索をベースとしたデータもあろうかとは思います。しかし我々は、彼らのシステムが組み込まれているハードウエアそのものをお客様にお届けしているわけです。平井(一夫・ソニー社長)も申し上げたように、お客様が肌に触れ、感動する「ハードウエアに連携した」お客様のご意見・反応は、きちんと把握をしておかなれば、商品の改善にも顧客満足度向上にもつながりません。そこをつかむことが、ソニー、ひいてはソニーVPできちんとやっていきたいところです。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『金曜ランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41