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9月2日スタート! Netflixに日本参入の狙いと戦略を聞く

技術とオリジナル作品で先進層を開拓

 世界最大のネット配信事業者「Netflix」が、9月2日から日本でのサービスを開始する。今年2月に日本参入が公になって以降、他の事業者の動きも加速しており、「定額制映像配信」の世界が騒がしくなってきた。

 台風の目であるNetflixだが、日本でのサービス内容やビジネスの形は、まだわからない部分も多い。今回、サービス開始に先立って、Netflix日本法人代表のグレッグ・ピーターズ氏と、国内コンテンツ調達を担当する同社執行役員副社長の大崎貴之氏に話を聞いた。

Netflix株式会社 グレッグ・ピーターズ 代表取締役社長

 2人それぞれに聞いた「日本におけるNetflix」の状況を総合し、同社がどのような存在になろうとしているのだろうかを分析する。

「映画」「連続ドラマ」「ドキュメンタリー」にフォーカス

 本連載で何度もご紹介してきたように、Netflixは、月額料金を支払えば映像が見放題になる「サブスクリプション・ビデオ・オン・デマンド(SVOD)」だ。日本でも、dTVやHuluのようなSVODがサービス中だが、Netflixとしては、他社との差別化要因をどこだと考えているのだろうか?

グレッグ・ピーターズ社長

ピーターズ社長(以下敬称略):我々の他社との違いは、3つのレイヤーで説明できると思っています。

 もっとも基本的なレイヤーが「技術」です。技術的な面には非常に巨額の投資を続けています。シンプルな部分では、テレビの「NETFLIXボタン」が挙げられます。押せばすぐに再生が始まりますし、バッファ待ちをすることも稀です。4KやHDRの提供についても同様です。ビデオを見ていただく上でもっとも良い品質であることを常に心がけています。

 別の価値としては「体験の違い」があります。その一つが、Netflixの「レコメンド」となって現れています。背後にあるのはビッグデータであり、その解析技術です。そうしたテクノロジーがあることで、ユーザーはレコメンドを受け、適切なコンテンツに、素晴らしいストーリーに出会うことができます。

 最後のレイヤーが「コンテンツ」です。我々が特に力を入れているところでもあります。コンテンツには非常に巨額の投資をしていますし、コンテンツの配信ライセンスを受けるために、世界中の企業と交渉をしています。日本のユーザーにも、様々なコンテンツにどこからでもアクセスできるよう、努力を続けています。

 特に最後の、コンテンツのレイヤーが、他の事業者と大きく違うところではないでしょうか。

 技術面では、大崎氏も強い自信がある、と語る。

大崎貴之 副社長

大崎:弊社は社員の50%がエンジニアです。コンテンツ調達にもお金がかかりますが、テクノロジー投資も、投資額は明かせませんが、他の業種と比べても高い額を投じています。

 ローカライズも、言葉の部分だけでなく、日本人に使いやすいよう、徹底したリサーチを心がけています。

 なにより、Netflixに注目が集まる理由は、SVOD事業者の中でも、オリジナルコンテンツへの制作投資に積極的である、ということがある。9月2日に配信されるコンテンツの内容についても、まずはオリジナル制作コンテンツを軸にしており、「Netflixだけで見れる」ことを差別化要因にしようとしている、と強く感じる。

ピーターズ:「ライセンシング」(他社から配信権だけを取得したもの)と「オリジナル」には、それぞれ別のユーザニーズがあります。ライセンスものはストーリーへのアクセスが容易です。もう見たことがあるか、知っているが見る機会がなかったか、ですからね。

 オリジナルコンテンツもあることは、同じ時に「まったく知らない体験」を、あらゆる国々へと同時に提供できます。非常にハイクオリティであり、Netflixエクスクルーシブです。そうしたオリジナルのコンテンツがあることで、「Netflixとは何者なのか」をコンシューマに伝えることができます。それもとても重要です。

 ライセンシングとオリジナルはどちらも重要なので、今後も両方に注力していきます。

 オリジナルコンテンツの代表例は、2013年にエミー賞を3部門受賞した「ハウス・オブ・カード 野望の階段」であり、9月2日から配信を開始する、マーベルコミックス原作の「デアデビル」だ。デアデビルについては、ピーターズ氏も「スーパーヒーローファンではない私も夢中になる、ヒューマンドラマ的な側面もある作品」と太鼓判を押す。

デアデビル
(c) Netflix. All Rights Reserved.
オレンジ・イズ・ニュー・ブラック
(c) Netflix. All Rights Reserved.
Sense8(センス8)
(c) Netflix. All Rights Reserved.

 では、Netflixが作る「オリジナル作品」の条件はなんなのだろうか?

ピーターズ:実際のところ、「ルール」はないんですよ。ハイクオリティなコンテンツを作ろうとは常に努力していますが。

 あるグループの人々は、あるコンテンツを非常に愛していて、情熱を持っています。でも、他のグループの人はそうではない。むしろ嫌っている。別のコンテンツを愛しています。

 我々のオリジナルプログラムを作成する上でのゴールは、全てのユーザーがNetflixを開いた時に「自分が情熱を持てる」ものを用意することです。

 我々は、「映画」「連続ドラマ」「ドキュメンタリー」にフォーカスしています。これらのコンテンツは長く見られることが特徴です。今年私がこの映画を見なかったとしても、来年には見る可能性がある。それに比べると、スポーツは「その時」のものです。5年前のサッカーの試合を見る人は、そんなに多くはありません。

 我々はコンテンツ調達を行なう上で、長い期間楽しんでいただけるもの、という点を重視します。しかし、そうした中で、できるだけ様々なカテゴリーのものを用意したい、と考えてはいます。

Sense8(センス8)
(c) Netflix. All Rights Reserved.

「海外への進出」を武器に日本のパートナーを開拓

 Netflixは、日本のパートナーを探し、日本向けのオリジナルコンテンツ調達を進めている。その第一弾は、フジテレビとのパートナーシップによって作られる「テラスハウス」新シーズンや、ランジェリー業界を描くドラマ「アンダーウェア」だ。日本向けのコンテンツ施作について、大崎氏は「日本市場に合わせることが重要」と説く。

大崎:2003年くらいから、日本のマーケットは邦画重視にシフトしています。当然その流れは続くと思っているので、ローカルコンテンツの重要性は、特に日本では意識しています。

 グローバル展開の中で、ローカルコンテンツは比較的重視しているんです。例えばフランスやドイツでもローカルコンテンツは重視しているのですが、その中でも日本は、特に消費者がローカルコンテンツに対して洗練されているし、選ぶ目も優れています。ですからNetflixの中でも、特にローカルコンテンツに力を入れる国になります。ローカルコンテンツ比率の目標は開示していませんが、かなり高い確率になります。

 「アメリカ生まれのサービスは海外ドラマ重視になる」、というイメージがあるかと思います。Netflixの場合、必ずしもそうではありません。

 もちろん、海外ドラマファンにも愛されるラインナップにはなります。洋画も素晴らしいラインナップを用意します。洋画や海外ドラマを削って、というより、日本のコンテンツをプラスαする形で実現します。

 ピーターズ氏も同様の点を指摘する。そして、日本製作コンテンツを集めるための武器としてうち出すのが「海外展開」の可能性だ。

ピーターズ:日本の消費者は、日本のローカルコンテンツを強く求めています。ライセンス供給についても、オリジナル制作についても、投資を活発化します。

 ワールドワイドにみると、アニメは非常に強い訴求力を持つコンテンツの一つです。そこへの注力はもちろん続けます。

 一方で、日本のハイクオリティなドラマや映画を、今まで配信されていなかった地域へ届ける、という役割も重要です。そこからは新しい視聴者を発見できるかもしれないからです。

 日本のコンテンツホルダーは、ネットビジネスへの展開が保守的である、と言われる。SVODについても、「見たい作品が配信されないのでは」という不安が常につきまとう。交渉の窓口を担当する大崎氏も「そういう面がないわけではない」とする。しかし、状況は変わりつつある、という感触も得ている。

大崎:配信するとコンテンツが消耗してしまう、商品価値が落ちる、ディスクなどの「モノ」になっていないと消耗品になる……という感覚の方も多いかと思います。

 しかし現在、コンテンツホルダーの方々は、必ずしもそうは見ていない。もちろん諸事情あり、ディスクでのみ販売されるタイトルは、今後もあろうかと思います。例えば、ライブ作品だとか。コレクション性もありますし、特典も含めた「モノとしての価値」はあります。アニメなどもそうですね。

 しかし、コンテンツホルダーの方々の意識も変わってきているのではないか、と思っています。我々がいつも彼らにお話しさせていただいているのが、配信だからできる「海外展開」の部分。日本人のためだけでなく、欧米・南米、今後のアジアへの展開を視野に置けます。これまで、そうした時にはエリアごとに違う企業と話をしなければならなかったものが、我々の場合、グローバル企業である体制を生かしたお話し合いができます。

大崎副社長

ピーターズ:日本のコンテンツ提供者の態度には、幅がありますね。我々とのビジネスに対して非常にエキサイトしている人もいれば、そうでもない人々もいます。

 そういうことは時間が解決してくれることでもあります。我々がやろうとしていることを説明していけば、広がっていくことと思います。いかにこのビジネスモデルがうまく行き、収入を増やせるのか。ということを周知していく必要があります。

 しかし、そうした競合というのは、ツノを突き合わせての完全な「敵対」ではないのです。共にビジネスをできれば可能性は広がります。日本でも、他の地域で起きたことと同じような状況なのだと思います。こうしたビジネスのための状況が理解され、収益最大化のためのモデルの周知が進んでいくものです。そのために力を尽くします。

 一方で、日本でのコンテンツパートナー調達の難航は、Netflixが日本でサービスを開始する上での最大の難点でもある。

ピーターズ:ご存知の通り、我々は海外進出をカナダからスタートしました。カナダはアメリカからも近く、進出が容易でしたからね。そこから我々は、ゆっくりとしたペースでの拡大を続けてきました。その国に進出するために必要な技術開発をし、その国特有の事情を学び、着実にビジネスを進めてきました。

 その中で、アジアに広げるチャンスを考えた場合、日本から広げるのがもっとも適切だ、という結論に至ったのです。だからこそ、今日本でスタートするのです。

フジテレビとの関係は「ノリ」で生まれた?!

 では、日本での大型パートナーとなったフジテレビとは、どのように関係を構築したのだろうか?

 日本では、多くの映像作品が、テレビ局の企画力と制作費出資で生まれる。そのため、Netflixがテレビ局に足を運び、パートナーとなることを希望した。結果的にまずはフジテレビとの間で関係が生まれたわけだが、その経緯はどんなものだったのだろうか。

大崎:コンテンツのことは生き物のようなところがあって、あまり科学的に話すことはできない。ノリ、と言ってもフジテレビさんも怒らないとは思うのですが、コンテンツのお話をしながら食事をしている中で、「面白いね」みたいな感じが積み重なり、決まっていきました。高いところ、格好をつけたところからだんだん「この作品が好きだ」みたいな話題になっていって、結果、格好をつけていえばビジョンが合った。というか、普通にいえば「ノリが合った」という印象ですね。

 そうした話し合いの中でいくつかコンテンツのお話があって、その中に「テラスハウス」もあったんです。先方からも、「テラスハウスにはコアファンもついているので、最初のコンテンツとしてはいいのではないか」という話が出てきました。私自身もテラスハウスを観ていて、新しいフォーマットの番組だと思っていましたので、最初のコンテンツとしてはいいのではないか、と思い、進めました。

フジテレビとテラスハウス新作を共同制作

 正統的なドラマから始めなければ! みたいな話はなかったですね。「ハウス・オブ・カード」は大規模でアイコニックな作品なので、どうしても目立ってしまいます。キャスティング・ストーリー・スタッフまで、全てが揃った作品だったとは思います。しかし、ああいう作品だけにこだわったわけではない。「映画」、「連続ドラマ」、「ドキュメンタリー」という3つの枠に入るものであれば、間口は広く、いろいろなお客様に愛される作品を作っていきたいです。

会議室の名前もHouse Of Cards、Marco Poloなどオリジナルコンテンツ由来のもの

 オリジナルコンテンツを作る場合、パートナー企業にとって重要なことがある。それが「Netflix以外ではいつ扱えるのか」ということだ。今や、コンテンツは複数の場所に提供し、収穫の機会を増やすのが定石。ネット配信、中でもNetflix以外のサービスへいつ出せるのかは、ビジネス戦略を語る上で重要な点と言える。

 意外にも、そこでのNetflixの縛りはゆるいようだ。

大崎:ネットではNetflix限定、他のウインドウはコンテンツホルダーの方々の判断で、というやり方については、いつも意識してお話しさせていただいていますし、今後も継続していきます。

 例えば、プロデューサーや制作委員会の方々が、「配信はNetflix限定だが、ディスク販売は同日、もしくは小さな差で行ないたい」という判断をされたとしても、我々としては、そこに固執するものではありません。あくまで、「配信」というドメインでの優位性を保ちたい、と考えます。

「データ半分、アート半分」、コンテンツ制作では自由度を重視

 冒頭でも触れたように、Netflixは積極的な技術投資で知られる会社だ。その技術中でも、同社の戦略に大きな役割を果たしているのは、いわゆる「ビッグデータ解析」だ。

ピーターズ:我々は、ビジネスのすべての領域において、実証主義的な方法論を採用しています。

 例えばユーザー体験のパーソナライズについてです。すべてのコンポーネントはテストされ、そこから得られたデータから「素晴らしい体験とはなにか」を導き出そうとしています。私が操作性向上について良いアイデアを持っていたとします。一方、あなたはまた違うアイデアを持っていたとしましょう。誰が正しいかは誰も知りません。しかし、ユーザーは、実際にどう使われたのか、というデータから、それを教えてくれるのです。

 コンテンツ制作にも利用します。視聴データからは、作ろうとしているコンテンツがどのくらいの市場規模を持っているのか、ということが見えてきます。我々のオリジナルコンテンツは、その作品を求める人々がどのくらい集まるのか、をデータ分析の手法から導き出しています。一方で、その内容をクリエイターに対して提供しているのです。「ハウス・オブ・カード」を作ったデヴィッド・フィンチャーもそうですし、「Sence8」のウオシャウスキー姉弟もそうです。素晴らしいプラットフォームからの情報を使い、彼らを説得するのです。

 しかし、素晴らしいデータがあっても、それで素晴らしい映画やドラマができるわけではないです。データから「どこに有望な視聴者がいるのか」はわかっても、実際に素晴らしいドラマを作るのはクリエイターの力です。

 ですから我々のアプローチは、データによる部分が半分、そして、もう半分が「アート」の領域のものなのです。我々の仕事は双方を同時に持ってくることであり、サイエンティストとアーティストの間を同時かつシームレスにつなぐことです。

 日本でのコンテンツの制作にも、海外での事例と同様にビッグデータが使われている。一方で、ビッグデータ活用の背景にある「データ半分、アート半分」の世界には、別の原則もある、と大崎氏は話す。

大崎:アプローチとしては、日本も海外も同じです。社内に「どのくらい人気が出そうか」ということをリサーチする仕組みはあるので、それは使っています。

 とはいえ、我々の特徴は「クリエイティブ・フリーダム」なので、基本的には制作側の方々を信じる。それが大前提になっていますね。

 制作のプロセスは恐ろしく簡素化されています。クリエイターの方々に枠や条件を作ると、その中でしか考えられなくなっていきます。創造性は自由と表裏一体です。かといって、全てが自由かというとそうではなく、ある程度のコンセプトや方向性はきっちりとお話させていただいています。どのキャストにしないとダメだとか、台本を細かくチェックしたり、ということはありません。

 幸いにして我々のコンテンツには、映画と違って「劇場公開の収益」のような厳しい縛りはありません。もちろん目標はあるのですが、より長期的な視点で収益をみます。投資については、ライフサイクルでの価値でみています。

 大崎氏のいう「クリエイティブ・フリーダム」とは、番組制作にできるだけ制約をかけない、ということだ。日本のみならず、世界中で、映像制作には「御法度」「しがらみ」がつきもの。そうした、いわゆる「センサーシップ」に関する制約の少なさは、Netflixがクリエイターから支持される部分だ、と聞く。その方針は、実際どういう形なのだろうか?

ピーターズ:クリエイターが我々と共に働きたい、という理由の一つは、決まりきった厳格なやり方を適用しない、ということにあります。特別なルールがあるわけではないんですよ。我々は彼らのビジョンのどこがどう、という話はしません。ビジネスをする上でも、一般の公共放送でありがちな「こうしなければいけない」というやり方はしないのです。

 Netflixはテレビメーカーとの関係が深い。その理由の一つが、4KやHDRへの積極性にある。日本市場で、それらの技術にはどのくらい期待しているのだろうか?

ピーターズ:ユーザーによるでしょうね。あるユーザーは4Kにまったく見向きもしないでしょう。しかし、新しく4Kテレビを買ったばかりだとすると、そのテレビで素晴らしい4Kコンテンツをみたいと思うのは、自然なことだと思いますよ。

 どちらにしろ、その時の最高のものを提供できるようにしておけば、そこに熱狂していただける人もいるはずです。もちろん、そうでない人もいる。それはそれでいいのです。

 オリジナルコンテンツは4Kで作成します。しかし、そうでないものをアップコンバートすることはありません。もちろん、コンテンツを供給していただく時に、4Kで撮影されたものを4Kでご提供いただく可能性はあります。

 我々が行なうのは、「4Kで撮影されたコンテンツは4Kで配信する」ことのみです。

映像の見方に生まれる新たな秩序の時代

 Netflixについて、海外では「Binge Watching」、いわゆる「イッキ見」の効果が非常に高い。イッキ見しやすいものであることが価値を生み、テレビ放送との差別化になっている、とも言える。その可能性はどうだろう?

ピーターズ:Binge Watchingそのものに大きな価値があるわけではありません。我々は、Binge Watchingは、我々が「コンシューマ・コントロール」と呼ぶ現象の一つだと考えています。

 我々はコンシューマに対して、生活の中にフィットする形で映像を見るための方法を提供しています。我々はコンテンツを作る際、「連続ドラマ」的なものを重視します。連続ドラマの場合、自宅に帰って何回分を見るのかは、完全に自由です。1話で止めてもいいし。3話分だけを見ることもできるし、時間があるなら全話を見ることだってできます。何話連続で見ていただいても構わないのです。我々は、皆さんに自分のペースで見る機会を提供したいのです。Binge Watchingが重要なのではなく、コンシューマが自分の判断で体験できることがポイントです。

 好きなように見られる自由度を持つSVODは、テレビ放送と大きく性質の異なるものだ。日本で海外でも、SVODを日常的に使っている人のなかには、「テレビ放送に魅力を感じなくなった」とコメントする人も少なくない。だが、コンテンツ調達の面で、テレビ局はNetflixのパートナーでもある。テレビ局との関係をどう考えているのだろうか?

ピーターズ:まず、全世界的な傾向をお話しします。非常に長い目で見た場合、また別の状況になる可能性はありますが、日本だけでなく世界中で起きていることです。

 非常に明確な点として、我々は放送局の代わりになろうとは思っていません。彼らには特別な役割があります。コンテンツの流路であると同時に、コンテンツのプロデューサーでもあります。

 現在起きつつあるのは、放送局にしろ映像の製作会社にしろ、そして我々にしろ、今の新しい状況に適応した「正しいビジネスモデルとは何か」を考える必要がある、ということです。過去の状況とは異なる動きが、それぞれの業界で始まっています。彼らとはある部分で競合もしてはいますが、お互いに協力できる関係でもあると信じています。もちろん、日本でも、他の国々でも、です。

 Netflixの日本でのビジネス開始まで、あと1カ月をきっている。映像業界の中では、Netflixという海外の巨人がやってくることについて、期待と怖れの両方が入り混じった感情があるのは否めない。そこで、ライバルである他のSVODとはどう差別化しようとしているのだろうか? どうやら、広告宣伝の面で、いきなり「マスに打って出る」わけでもないようだ。

大崎:CMなどで誰かを顔として立てるというより、やっぱりコンテンツですね。

 今の時代は、宣伝をターゲティングできます。たくさんのターゲットに対し、その人々にあったコンテンツを見せていく、というやり方をしたいです。全体で1メッセージではなく、うまくターゲティングした形でやっていきます。

 もちろん、テレビCMなどのマス媒体向け広告もやるのは間違いない。だが、戦略面でいえば、やみくもな会員獲得をやるのではなく、「その作品のファンが納得できる割合」を増やす戦略だと感じられる。

大崎:ブランド認知率とビジネスの成功は比例しないと思っています。ブランド認知をどんどんやっていく、というやり方もあるとは思いますが、我々の戦略の第一フェーズと位置付けているのは「アーリーアダプター(先進層)の方々に愛していただけるものにする」ことです。コンテンツだけでなく、テクノロジーの要素も含めて、です。使っていただければ、テクノロジーの高さを支持していただけると思います。

 まずは、アーリーアダプターの方にフォーカスします。日本の全人口の皆様がNetflixを知っていただく、というのは少し先かな、と思っています。

 まずは、影響力のあるアーリーアダプターの方に使っていただき、「使ってみると他とは違う」という評価を得たい。その自信があるからこそ、アーリーアダプターの方をターゲットにするんです。

 そこでは、NTTドコモとエイベックス・デジタルが手がける「dTV」のような、回線とバンドルして利用価格を割り引く(サブシダイズする)、という意志はないそうだ。

ピーターズ:我々は(dTVと)大きく考え方が違います。我々は、サービスそのものの価値を、利用者に直接理解してもらいたい、と思っています。もちろん、成長という意味では、携帯電話サービスに含むなどの形である方が、サービスに触れる人の数は多くなるのでしょう。しかし、価値を理解して使い続けていただくという観点では、サブシダイズやバンドル型のモデルは適切ではない、と考えます。

 すなわち当面は、技術やコンテンツ面での良さを理解してくれる「先進層」にフォーカスした上で、より日本に向けたコンテンツを作っていくことになるようだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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