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東芝・テレビ担当者が語る「4K」と「クラウド」

4Kは「大型戦略」のために、クラウドで「脱ハード依存」

 東芝は今年のCESで、テレビについて2つの方針を発表した。一つは、58V型以上での「4K(UHD)テレビ」の訴求。そして、日本国内ではすでに展開済みのテレビ向けクラウドサービスのアメリカ市場展開だ。それらにはどういう意味があるのだろうか? そして、日本市場にはどう影響してくるのだろうか? 来たるべき「日本での商品」についても含め、同社・東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 TV商品統轄部 本村裕史氏と、同・プロダクト&ソーシャルインターフェース部の片岡秀夫氏に話を聞いた。



4Kは「大きい2K」、特別なものではない!

東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 TV商品統轄部 本村裕史氏

 まずは、テレビの話をしよう。すでに述べたように、今回の東芝の戦略の軸は「4K」。CESでの発表はアメリカ市場向けのものだが、もちろん日本でも、58型・65型での「4K(UHD)テレビ」展開の予定はある。1月6日に開かれた日本記者向けの説明会では、東芝デジタルプロダクツ&サービス社の深串方彦社長が「1インチ1万円」のかけ声とともに、積極的な商品展開を確約した。その狙いの真意を、本村氏は次のように話す。

本村氏(以下敬称略):全体の整理から入りましょう。

 そもそも、「4Kという新しい商品カテゴリーですよ」という打ち出し方をしたのが、「REGZA 55X3」であり「XS5」。CELL REGZAから受け継ぐ「X型番」の製品だったわけです。正直いうと、イメージリーダーとしてのテレビ、技術アピールモデルという位置づけでした。

 一方で今回発表させていただいたのは、それとはまったく異なる方向性。そういう宣言を、社長の深串からさせていただきました。なにを彼が説明していたかというと、「大型本気宣言」だったんです、実は。大画面モデルの構成比をのばします、という宣言だったんです。

 正直申しまして、REGZAは国内である一定のシェアをいただいて、いいポジショニングにいます。しかし「大型は?」というくくりでいうと、実はそんなに強くない。50型・55型オーバーという範囲では。なぜなら、強力なアイテムをもっていなかったからです。つい最近まで55型が最大サイズ、やっと65型も作りましたが、そういう商品展開をしていたがゆえに、40型台・30型台ではREGZAが強かったのですが、55型オーバーとしては構成比が低かった。

 今、他社さんで大画面の製品が動いています。市場でも大画面を求める声が非常に大きい。流通さんも大画面を売りたくて、お客様も大画面テレビが欲しい。そのために、大画面テレビの構成比が増えているんです。その中で我々も大画面テレビの構成比を増やしていきたい、と考えた時に、「じゃあなにを強みとするのか」という意味での発想だ、と考えていただければと思います。

 大画面テレビになると、大きさへの感動軸の他に「綺麗」なことへの感動軸があります。画面サイズが大きくなると、ある部分でサチュレーションが起きてしまって、フルHDならば60型オーバーになってくると「ちょっと荒いね。画質に難ありだね」とみたいなコメントもいただいています。

 「REGZAのハイエンドモデルとしての大画面」と考えた時に、感動の大画面で感動の高画質、にとしたい時に、4Kパネルという存在がとても有効な技術として存在する、ということになります。また、そのためには新しいエンジンも必要です。4Kのためのエンジンと4Kのためのパネルを組み合わせて「シネマ4Kシステム」と銘打たれていますが、あれは「大画面で映画を最大限に楽しんでもらうためのシステム」なんです。

 ここはきちんと説明しないといけないところですが……。「大きな画面で2Kのコンテンツを楽しんでもらう」ためには、言い方は悪いですが、どうしても4Kの性能が必要だった、ということです。4K、ということをひけらかす気はないです。

 地デジは1,440×1,080ドットですが、いまや、フルHDのパネルでないと、皆さん満足していただけない。それと同じことかな、と思っています。もちろん、4Kのネイティブコンテンツは重要で、それを否定するつもりはありません。我々も日々やっています。それをこのモデルに入力する方法も色々検討し、対応を進めます。

 しかし、4Kについては「次世代テレビ」、と言うから誤解されたイメージがあって、そこは解きほぐさないといけない。

 これはですね、我々が先行して「X3」などで4Kテレビをやって、気がついたことかもしれないです。これは私の反省の弁でもあるのですが……。

 展示会などでは「4Kすごいね!」と言っていただける。そこで、店頭に持って行って、なんとか4Kネイティブのコンテンツを、ケーブルをつないで映しました。確かに好評。でも、「それどうやって自宅でやるの?」と言われると、きちんと説明できない。あまりにハードルが高いんです。

 他方、隣では、他社さんの(55型オーバーの)大型テレビがあって「大きいね!」とお客様が驚いている。でも同時に「なんか荒いね。残念」とも言うわけです。

 この2つの反省のバランスが見えてきています。

 「大型でも綺麗じゃなければいらない」

 「うちの4Kは綺麗でしょう? と言っても、コンテンツが見られないものはいらない。将来のための投資、と言われても買ってはいただけない」

 そこでのバランスを考えたのが、今回の4Kテレビ、とお考えください。

CESで展示された4K REGZA 3モデル

 すなわち、「現在の大画面テレビの延長」としての解像度変化であり、「まったく新しいテレビ」ではない、という考え方だ。

 これは、タブレットやスマートフォンにおける高解像度ディスプレイの使われ方を考えると納得できる部分ではある。高解像度スマホが出てきても「別のスマホ」になったわけではなく、文字や絵が見やすくなったもの(それこそが価値ではあるが)に過ぎない。コンテンツには、ディスプレイの解像度に依存しないものが増えている。写真やテキスト(正確には、最終的にディスプレイにレンダリングされた文字)は、本質的に「高い解像度の情報をディスプレイにあわせてシュリンクして見せる」ものになっている。映像も同様であり、その傾向はより強まっている。

 もちろんこれは、ネイティブコンテンツが供給しづらい現状を、(言葉は悪いが)ごまかす意味もある。しかし他方で、ディスプレイサイズと解像度の関係を単に数字として捉えるのではなく、「サイズと視聴距離による快適さ」でとらえ直している、という言い方もできるだろう。

本村:用途として何インチが4Kに適している、というつもりはないんです。でも、50型前後の4Kを見ると、ぱっと見で差がわかりにくい、というのは事実。55型になると違いが見え始めるのですが、65型が一番顕著にわかります。

 ちっちゃい4Kというのは、PCのように超至近距離なら解像度が高い方がいいのは当然です。他方でテレビの距離で、ということであるならば、わかりやすい差が出始めるのは大きいところからかなあ、と……。

 他方で、58型以下は4Kやりません、と宣言するつもりはなくて、売価との関係もありますが、心の中ではもっと小さい4Kがあっても、とは思います。

 スマートフォンからタブレット、65型のテレビまで、色々なディスプレイサイズがあるわけじゃないですか。そこで、視聴距離にあわせたパネル選択を、という話になってきている、とご理解いただければと思います。今回の4Kは、やはり、テレビ距離で特に大型な画面を見る時のためのもの、ということです。

 では、この4Kのラインは、日本ではどういう形で出てくるのだろう? もちろん日本向けの製品発表はまだだが、本村氏はヒントを教えてくれた。

東芝が考える「4K」のラインナップ。2Kとして挙げられているのは「REGZA Z7」と「J7」であり、その上に大型・ハイエンド機種として位置づけられる

本村:ラインナップの説明にこの図を使わせていただいたんですが……、ここには「超ヒントページ」を用意したつもりなんです。

 これって、サイズをよく見ると、Zシリーズのことなんですよ。その下はJシリーズですね。フラッグシップラインでないところは、ここまで作りましたね、と。で、ハイエンドは55型までしかない。その上はここ(4K)でしょう、と(笑)

 「Z」という型番で、実際に売るかは別として、Zのハイエンドラインにおいて、55型オーバーは4Kでないといけないですよ、ということが言いたかったんです。以前、我々の社長から、「我々の4Kにはタイムシフトマシンもざんまいプレイもクラウドも入る」とお話させていただいたのは、これを意識したことです。

 だから、4Kが先にありきではなくて、高画質・大画面テレビのラインナップを拡充していく中で、事業的な目線でいうと「ここ(55型以上)のシェア」を稼ぎますよ、売り上げを最大化しますよ、という宣言の場でもあった、ということなんです。

 だが、そこで価格が上がっては意味が薄い。大画面モデルの構成比が上がっているのは、そこの価格が下がって、いままでに近い予算でより大きいものを買える人が増えているからだ。

本村:そこで「1インチ1万円」の話が出てくるんです。いくら本気だと言ったって、100万円のテレビでは、数は売れない。そこで出てきたのが「1インチ1万円」という言葉です。さすがに84型についてはインチ1万円というわけにはいかないのですが。

 65型・58型というのは84型のような特別なサイズではなく、今の市場においては、リビングに置ける最大のサイズでもあります。自分でも、次には65型が欲しい、と思いますよ。

 ではいくらが売れるのか。

 テレビは、二十数万円で大ブレイク、ということがわかっています。55V型なら、いま30万円以下で買えます。ということは、それに近ければ近いほど売れる、ということなんです。特に二十万円以下では、同一シリーズ内でも、価格が1万円でも安い方が売れるんです。しかし二十万円を越えると、「どうせ買うなら」とお客様は、少々高くても良いものから売れる。

 フルHDの65型と4Kの65型で画質を比べた時には、誰が見ても4Kの方がいいですから、例えば10万円の差でも、20万円の差でも、こっち(4K製品)を買う方が多い、と期待できます。そういうことも含めて、「1インチ1万円」という考え方なんです。

 その中で一つ気になる点がある。他社は、65型の下を「55型」としている。そこで東芝だけは「58型」。この選択の理由はなんなのだろう?

本村:パネルには色々な候補がありました。でも、実はですねえ……。55型のREGZA Z7って品質の良い製品で、画質的にもパネル解像度が足りない、という問題にはなっていないんです。55ならセーフかな、と。

 ですので、できれば55オーバーのモデルでの4K化をやりたかった、ということなんです。65型はドンピシャのサイズですし、84型はフラッグシップ。

 55から65を埋めるサイズとして60なのか58なのか……。55というのはZ7とかぶりますから、これより大きくて65より小さいものはなにかな、と考えた時、「58」というのは面白い数字であった、というのは事実ですね。60でも良かったんですけれど、「55よりあがった」くらいで、いい感じはするのではないかな、と思っているんです。



ハード開発の速度から離れるための「クラウド」
目的は日本と同じく「コンテンツとの出会い」

 4Kと並び、東芝がテレビ戦略の軸と位置づけるのが「クラウド」だ。

東芝 デジタルプロダクツ&サービス社 プロダクト&ソーシャルインターフェース部の片岡秀夫氏

 日本で2012年から、REGZA Z7・J7で導入しているテレビ向けクラウドサービス「TimeOn」を、アメリカ市場では2013年より、「Toshiba Cloud TV Service」としてスタートする。

 開発を担当しているのは、日本での担当と同じく片岡秀夫氏である。そのため、基本的な狙いは日本と同じ。テレビを見る際に「コンテンツとの出会い」をどう演出し、人とテレビの間を近づけ、番組を見る習慣をもってもらうか、という問題意識から出来上がっている。この辺り、日本での開発コンセプトについては、以前本連載で採り上げているので、そちらも併読していただけるとありがたい。

片岡氏(以下敬称略):プラットフォームとしては、日本のものもアメリカのものも同じです。ですから、継続して開発が行なわれています。

 今回変わったのはメディアガイド(EPG)です。以前は、テレビ内に組込系の技術を使って用意していましたが、今回からクラウドになりました。機能としては一から作っています。データは以前と同様、Roviから供給を受けているのですが、すべて一度東芝のサーバーに取り込んで、そこから変換して、HTML5の形でテレビ側に出しています。

東芝が北米向けテレビに実装したクラウド機能「Toshiba Cloud TV」。日本でいう「TimeOn」と同じプラットフォームを使っている
番組表(メディアガイド)は、リモコンの「MEDIAGUIDE」ボタンを押すと呼び出される
北米向けメディアガイド。いわゆるEPGだが、HTML5で実装され、クラウドを介して提供されている。だが動作は素早い

 クラウドで提供されるのは番組表だけではない。そこに付随する番組情報やキャストの情報、そして、そこから、同じ番組の過去分や同じキャストの出ている番組の再放送情報、ビデオオンデマンドの情報などが串刺し検索されて表示されるようになっている。昨年は、この部分をRoviがテレビ向けに提供する「組込系技術によるソフト」で実現していたが、2013年モデルからは、すべてがクラウド化されることになる。

メディアガイドを使うと、各番組の情報や出演者情報を探し、それをビデオオンデマンドなどの外部サービスとも連携できるようになっている

片岡:UI的には、一番上の帯に情報を集約しよう、という考え方でやっています。キャストに注目している時にはここにそのキャストの情報が出て、下の部分が番組情報やビデオオンデマンド情報になりますし、番組に注目している時は、下がキャストの情報になります。将来的には、ビデオオンデマンドなど以外の、新しいサービスについても、この中から随時呼び出せるようにします。アメリカではCATVのセットトップボックスを使う場合が多いわけですが、この操作に従い、IRブラスター(筆者注:赤外線のリモコン信号をテレビなどから代わって発信する仕組み)で連携しますから、CATVも問題なく連携できます。この辺は昨年と同様ですね。結果的には、視聴予約やチャンネル切り替えもテレビからすべて行なえます。

 HTML5で記述されている(すなわち、本質的にはWebと同じ)であるにも関わらず、動作は快適。使う側の視点で見れば、既存のやり方と大きな差は生まれていないように見える。狙いはどこにあるのだろうか。

片岡:組込系ですと、機能やサービスは製品出荷時に決まってしまい、大幅なアップデートは難しかったのですが、クラウド化することで、継続的に進化させられます。メニューの内容や機能も増えます。

 別の言い方をすれば、テレビの商品企画サイクルからは離れて、拡張と開発が行なえるのです。これまで、新機能はテレビの新製品が出る時に入るもので、前の機種には供給しづらかったのですが、クラウド側に持てば、すでに出荷した機器にも提供できます。もちろん、APIを整備するなど、そのために必要な基盤作りは大変なのですが。今回は番組表で、それができたという事です。表示上・機能上、継続的に進化させる仕組みが、今回で整った、とお考えください。しかも、グローバルに、です。

 今回はアメリカ向けですが、言葉とコンテンツさえ入れ替えれば、同じものをすぐにヨーロッパにも展開できます。各地域毎の差は言語くらいですから。そうすると、進化のスピードもあがりますよね。各地域でバラバラに開発する必要がなくなりますから。いろんなステップで、いろんな国にいろんな機能を作り、それを順繰りに世界中に回していく、というやり方が採れるようになったわけです。

 すでに述べたように、クラウドを使うというフレームワークと同様、「人とテレビコンテンツを結びつける」という狙いも同じだ。例えば、メッセージ機能を使うと、視聴予約した番組の情報を友人に送ることができて、そこからその人も番組を見られる。友人に番組情報を送るといっても、簡単な話ではない。日本でもそうだが、CATVが普及したアメリカの場合、住んでいる地域やサービスの形態によって「実際にテレビでその番組を見られるチャンネル」は異なる。単に番組名とチャンネルを、メールで送るだけではダメなのだ。クラウド側で「その人のチャンネル状況にあわせ、送られてきた番組情報を読み替える」作業までが必要になる。広大で時差もあるアメリカでは、タイムゾーンの調整も必要になる。

 そういうことをやってはじめて、人に「この番組が面白い」と気軽に、しかも確実に伝えるようになるのだ。

片岡:まだリリース前なので伝えづらいですが、SNSのようなものを活用し、番組の流通を促進していく、というのは変わらぬ目標のひとつです。そこをのばしていくのは共通ですね。やはり「知人に奨められる」方がいいと思うんですよ。東芝がレコメンデーションするよりは。人と人とのメッセージ性をどうするか、が今後の進化方向の一つです。

 東芝は、アメリカのSmart TV向けアライアンスである、Smart TV Allianceに参加している。別記事でお伝えしているように、今年よりパナソニックも参加し、共同でスマートTV向けの仕様策定を行なっている。これらと、自社で行なうクラウド戦略の関係はどうなっているのだろうか。

片岡:それはレイヤーが違う話です。

 Smart TV Allianceの大本は、各プラットフォームに合わせてカスタマイズするのは大変ですし、検証も1社1社行うのは大変じゃないですか。そこで、1社で動けば他でも動くよ、という共通性が必要。その視点でできたものです。その結果、サービスが増えやすくなります。

 そして、そこで増えたサービスを見つけやすくするには、我々の機能の中でどのように配置するか、動線をつけるか、という話になります。

 ですから、ぜんぜんバッティングしていませんし、共存できると思っています。

 Smart TV Allianceのようなレイヤーがあることで、ユーザーの方が好きに機能を増やす、ということはやりやすくなると思います。

 クラウド機能の実装は、日本はZ7・J7の2機種だけですが、北米市場向けには、もうすこし変わります。中級機まで、より多くの機種に入れます。

 アメリカでは、ネットのサービスを生かすテレビは増えているんです。スマートTVが注目され、この種の製品に脚光が当たっているからです。録画にこだわる日本とそうでないアメリカで、結果的にアプローチが違ってきているのでは、と考えています。

 なお、アメリカではHTML5でEPGが提供されるが、日本ではその予定はないという。今回作ったEPG機能は、番組表の時間軸が「横」に流れるものであるのに対し、国内では「縦」に流れるのが主流であるから、だそうだ。

西田 宗千佳