鳥居一豊の「良作×良品」

「ガルパン劇場版」再び。総額15万円でAVアンプ+4.1chシステムによる高密度シアター

 今回の良作は「ガールズ&パンツァー劇場版」。前回の続編だ。前回の記事はたいへん多くの人に読んでいただけたようで、筆者としてもうれしい。twitterなどのたくさんの書き込みも読ませていただいたが、不満を感じた人もいらっしゃったようだ。ひとつは音量が非常識なレベルで大きいこと、もうひとつは組み合わせたスピーカーが紹介したAVアンプと組み合わせるには高価すぎるということだ。

「ガールズ&パンツァー 劇場版」Blu-ray 特装限定版
(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

 これについてはおっしゃる通り。だが、少しの言い訳させてほしい。「ガールズ&パンツァー」は、TVシリーズの音声が2.1chの「センシャラウンド」。OVA版が4.1chの「センシャラウンド改」。そして劇場版では東京・立川のシネマシティなどで「センシャラウンド・ファイナル」(すでにいくつかの亜種が派生している)の名称が使われた。当然ながら、劇場版のBDの音声も「センシャラウンド・ファイナル」となることを期待していたのだが、その音声の名称は「センシャラウンド リアルムービーエディション(5.1)」。「センシャラウンド・ファイナル」は特定の劇場のためのものということなのだろう。その音質は後述するがマジで手加減なしのリアルムービーな音だった。しかし、筆者は「家庭用では『センシャラウンド・ファイナル』の音は出せないのでその名称は使いません」と曲解し、意地でも「センシャラウンド・ファイナル」を家庭環境で実現するつもりでいる。それを自己満足で済ませておけばよかったのだが、前回の記事でも劇場に近い大音量を前提としてしまった。

 いずれにしても、今回は音量を下げる。

 使用したスピーカーとサブウーファーが高価なことについては、AVアンプを主体とした記事を書く場合、その他の機器は自宅のシステムなど使い慣れたものとしないと、機器の音の個性を正確に判断できないため。つい深く考えずにいつもの通りやってしまったわけだ。

前回のガルパン劇場版の爆音上映システム。フロントとサラウンドがB&W「Matrix 801S3」×4。サブウーファはイクリプス「TD725SWMK2」×2と、6万円AVアンプには吊り合わないシステムだった(それでも鳴らせるのだが……)

 「安価なAVアンプで『ガルパン』を鑑賞」ではあるものの、これからのシアター作りやシアター入門という点では、スピーカー選びの参考にはならなかったかもしれない。今回を続編としたのは、参考になる身近な価格帯のスピーカーとサブウーファーの組み合わせで、改めてガルパン経由のホームシアターを楽しみ方を紹介してみたい。

今回選んだシステム

常識的な範囲の音量、リーズナブルなシステムのための機器選び

 いよいよ本題の5.1chシステムのための機材の選出だ。まず、システム全体の音の印象を大きく左右するスピーカーだが、スピーカーは好みによって評価が大きく変わる物なので、紹介したスピーカーがガルパンに最適というわけではない。あくまで参考としてほしい。重要なのは、そのスピーカーを選ぶに至った理由。その考え方を自分に当てはめて、自分なりの機器選びをすることが肝心だ。

 具体的に機器を選定する前に、今回の視聴において定めた条件を説明する。スピーカーなどを選ぶにしても、音量を含む視聴環境を把握することは不可欠。大音量でこそ本領を発揮するスピーカーを、小音量でしか楽しめない環境に置くことは、スピーカーもユーザーも不幸にしかならない。

 今回の条件は、

(1)価格を身近な範囲に収めること
(2)「音量を絞る」こと

 (1)については、AVアンプを含む総額で15万円ほどとした。

 (2)で具体的に設定した条件は、昼間限定の再生を前提とし、音量の最大値が85dBを超えないこと。この音量は、木造2階建ての我が家の本格的な防音をしていないリビングで、昼間のみに限るならば周囲に迷惑をかけないレベルの音量であること、隣接した寝室にいて迷惑になるような音量が聞こえてこないこと。などなどの一般的な常識を考慮して音量を定めた。音量に関しては、iPad用アプリの「騒音Checker free」を使用して計測している。

 最大音量85dBというのは、数字だけ見ればけっこうな大音量だ。騒音の目安を簡単に調べてみると、80~85dというのは、「うるさくて我慢できない」レベルのようで、地下鉄の車内、布団たたき(1.5m)、麻雀牌をかき混ぜる音(1m)などが該当する。

 実際、最初は80dB以下を目標としていたのだが、それは無理だった。というのは、BD版の「ガルパン劇場版」の音が非常にダイナミックレンジが広いため。多くのハリウッド映画と比較すると、ガルパン劇場版は同じボリューム位置で再生すると登場人物たちの会話の音声レベルがかなり小さい。我が家では+6dBほどAVアンプの音量を上げないと声が小さくて物足りない印象になる。小さい音から大きな音までの範囲が広いほど、言葉通りダイナミックな音響になるのだが、セリフの音量レベルに関してはハリウッド映画よりもダイナミックレンジが広い設定には驚いた。つまり、ピークの音量を制限してしまうと、ダイアローグが相対的にかなり小さくなり、映画全体の満足度が低くなってしまう。ハリウッド映画(のBD版)と同じ音量にセリフのレベルを上げると、突き抜けた大音量再生になる。「センシャラウンド リアルムービーエディション(5.1)」はマジで手加減なしだ。

 大まかにいろいろなシーンで視聴位置から騒音レベルを測定してみたが(無音時の騒音レベルは40dB)、会話のみの普通の生活を描くシーンで65dB前後(洗濯機/1mの音量)、BGMが流れると70dB(騒々しい事務所内)くらいとなり、戦闘中は75~80dB。重量級戦車や大口径火器が登場すると80dBを超えて85dBに達するという感じ。つまり、地下鉄の車内や工事現場の近くのように、常時85dBの音が鳴り響いているのではないということ。海岸から上陸したKV-2がホテルを豪快に破壊する場面、カール自走臼砲の砲撃、ミフネ作戦で観覧車が支えを失って着地したときの轟音(これらが劇中での最大音量と思われる)、当該のシーンで85dB以下となる音量として、実際に日常的な場面のシーンを見てほしい。音量が小さいと感じる人は少なくないはずだ。ちなみに前回の視聴時の音量はピークで105dB(電車が通るときのガード下、自動車のクラクション)ほど。数字を見て、改めて非常識だと実感した次第。

 もちろん、このくらいの音量(ピークで85dB)でも近所迷惑と感じる人がいるのも間違いないが、個人的には、昼間の再生でこれよりも音量を下げなければいけないのであれば、ヘッドフォンを使うか、引越を検討する。やはりガルパンを迫力ある音で楽しむならば、これくらいの音量は欲しい。

 あくまでも個人的な感覚だが、ふだんの映画鑑賞時の音量よりも20dBも下げると、音量的には物足りない。聞こえない音が多い、聴き取りづらいというわけではないが、迫力不足だし声も元気がない。つまり痩せた音に感じやすい。

 こういう音量を控えた鳴らし方(小音量再生)で、元気よく鳴ってくれるスピーカーを探す。これが一番のテーマだ。

 音量を無理に上げなくても、迫力を損なわない鳴り方をするスピーカーを「鳴りっぷりがいい」などと表現するが、これを探すのがかなり困難だった。予算15万円くらいを想定していたので、4.1ch再生としてスピーカー4本が必要になり、1本当たりは1万円台のものから探した。全てのスピーカーを聴いているわけではないので、筆者の知らない名品もあるとは思うが、この価格帯だとパッと聴くと元気よく鳴っているようだが、歪みが多く含まれ聴き疲れのする音のものが少なくない。聴き疲れのする(つまり、うるさい)音のスピーカーは2時間ほどの長さがある映画を見るには向かないし、大音量ではもっとやかましい音になりやすいので、おすすめしない。

 そこでようやく見つけたのが、JBL Control X(税込実売価格 32.180円/ペア)。ControlシリーズはJBLのコンパクトサイズスピーカーの定番で、Control Xはその最新モデルだ。

JBL Control X。スピーカーの横幅は165mmでPC用のデスクトップスピーカーとして使うにはちょっと大きいくらいのサイズ感。重量は2.6kgでDIYレベルの工事で壁掛けや天吊りが可能だ

 サイズもほどほどに小さく、壁掛け用の金具類も付属するのでさまざまな設置が行なえる。ツィータは133mmのセラミック・メタル・マトリックス振動板を使ったドーム型。そしてプロ用モニターのために開発されたHDIホーン技術を採用したXウェーブガイドを備えている。ウーファーはグラスファイバーで強化したポリコーン・ウーファーだ。ボディのカラーはホワイトとブラックの2色がある。シアター用には黒が似合うと思うが、壁掛けを考えるならばホワイトもいいだろう。

JBL Control Xを斜め振りの角度から。天面、底面は斜めに絞った形状で、バッフル面は斜め上を向く。左右も背面に向けて斜めになっており内部定在波の発生が少ない形状
JBL Control Xの保護用パネルを装着した状態。パンチングメタル製で強度も高い
背面。上部にあるのはバスレフポート。中央には壁掛け/天吊り用のネジ穴がある。下部のスピーカー端子はバナナプラグ対応のネジ締め込み式。安価ながらしっかりとしたスピーカー端子を使っている

 JBL Control Xの音質については後で詳しく紹介するが、前述した通りに鳴りっぷりの良さを期待したもの。JBLらしい出音の勢いの良さやエネルギー感のある鳴り方で、音量を抑えた再生でも不満のない音が得られると考えた。

機器選びの考え方、その2。サブウーファ

 サブウーファーは価格的には3万円ほどを想定して探した。ホームシアター用のモデルなどを含めればこの価格帯のサブウーファは製品数もそれなりにあるが、今回はホームシアター用のサブウーファは除外した。厳密に言えば、バスレフ方式のサブウーファーではなく、密閉型のサブウーファを候補とした。

 ホームシアター用に多いバスレフ方式は、内蔵するポートの長さで特定の帯域を増強し、低音感を強める仕組みだ。映画では単純に低音が鳴るというよりも、量感と呼ばれる大きく膨らむような低音の響き感が重視される。このほうが、同じ音量では迫力のある音に感じやすいのは事実。だが、ポートで増強した帯域よりも下の低音があまり出ず、最低域の伸びを追求するのは不利になる。特に小型のサブウーファではこうした傾向が出やすい。

 密閉型のサブウーファは、どちらかというとハイファイオーディオ向けの製品が多く、小型スピーカーでは物理的に再生ができない低音域を担当する2.1ch再生用としてラインアップされていることが多い。密閉型は低音域の周波数特性がなだらかなカーブを描くので、自然な低音感になるし最低音域の伸びも有利。ただし、量感が少ないタイトな低音になるので、映画では迫力不足に感じる可能性がある。

 だが、今回はもともと音量を控えた条件での再生なので、絶対的な低音の量感不足を心配することはない。重視したのは最低音域の伸びだ。

 結果として選んだのが、フォステクスのPM-SUBn(MB)(税込実売価格28,290円)。小型アクティブスピーカー「PM0.4n」、「PM0.4d」との組み合わせを想定したサブウーファだ。コンパクトスピーカー用とは言っても、ウーファの口径は20cmで大口径の部類と言えるし、駆動するパワーアンプも68Wと十分な出力。当然ながら、各種のスピーカーと組み合わせるための、音量調整、ローパスフィルター調整が可能で、位相切り換え(正相/逆相)と一通りの機能が揃っている。

フォステクス「PM-SUBn(MB)」。横幅、高さ、奥行きともにほぼ30cmほどの立方体フォルムとなっている。ウーファユニットは前面に配置されている
20cmのウーファはロングストローク設計。振動板の素材はパルプ系と思われる
PM-SUBn(MB)の側面部。エンクロージャー形状はほぼ立方体だが、背面のヒートシンク部分が少し張り出している
PM-SUBn(MB)の背面。上部に接続端子や各種の調整つまみがあり、ヒートシンクの下には電源コードと、電源スイッチがある
PM-SUBn(MB)の背面の上部。RCAとTSフォーンジャックの接続端子があり、スルー出力端子も備える。フェーズ切替、ボリューム、ローパスフィルター調整もある

 外形寸法が30cmほどのコンパクトと言っていいサブウーファだが、木製エンクロージャーはがっしりとしていて剛性も高く、作りはかなりしっかりとしている。サブウーファの箱鳴きは中低音を汚してメインスピーカーとのつながりを悪くするので、剛性が高いことは重要だ。床に設置する底面はフラットな形状だったが、今回は低音の振動が階下に及ぶことや床の共振を防ぐことも考慮し、インシュレーターを底面の四隅に挟んで設置している。

JBL Control Xを4台と、フォステクスPM-SUBn(MB)を並べてみたところ。サイズ的にも決して大型ではないことがわかると思う。比較的使いやすいシステムだ

AVアンプを選び、実際に設置して、音量、距離などの調整を開始

 あとはAVアンプだ。もともと前回紹介した2台を想定していたが、JBL Control XとフォステクスPM-SUBn(MB)のシステムでは、ヤマハ「RX-V581」を使うことにした。価格の制約もありDolby Atmos対応をあきらめ、4.1ch構成としたのだから、ソニー「STR-DN1070」でも良いのだが、音質的な傾向を考慮したためだ。

 前回の記事では、5.1ch再生で実力を比べた場合はソニー「STR-DN1070」の方が音質的に優れた部分が多いと書いた。それは間違いないのだが、STR-DN1070の方が「スピーカーにお金がかかる」。その理由はスピーカーのドライブ能力を含めて質は高いのだが、音質的にはかなりストイックで、小音量ではエネルギー感や迫力が控えめのおとなしい再現になりやすい。それなりに実力の高いスピーカーを組み合わせ、音量も大きくしないと、本来の良さが感じられないことが多いと思う。和室などデッド(残響が短め)の環境でも同様の印象になりやすい。

ヤマハ「RX-V581」。安価なスピーカーとの組み合わせでも持ち味をしっかりと出せるなど、トータルバランスが高い。

 このような違いは、メーカーのラインアップである程度説明がつく。ソニーは国内向けのAVアンプは「STR-DN1070」が最上位機で、メーカーの責任として上級クラスのスピーカーも鳴らせるAVアンプを作る必要がある。国内メーカーの中でもAVアンプのラインアップ数で随一のヤマハは、同社のハイエンドなスピーカーを鳴らすための高級AVアンプも揃っているので、「RX-V581」はそのあたりを無理に欲張る必要がない。逆に、もっと安価なホームシアター用スピーカーと組み合わせてもしっかりとした音が鳴るように作られている。つまり、価格帯的に相応のスピーカーと組み合わせた場合、ヤマハの方が気持ち良く楽しめる音になることを意識して作られている。これは前回の音質的な印象の違いなどを考えても間違っていないと思う。

 そんなわけで今回の良品が揃った。スピーカー4本、サブウーファ1本とAVアンプで合計価格は実売で142,390円(税込)。プレーヤーは、システムの予算にも含めていない。視聴で使ったプレーヤーはOPPO Digital「BDP-105D JAPAN LIMITED」(税込実売価格27万9,500円、先日生産完了した)だが、こんな高級プレーヤーを用意する必要はない。BDプレーヤー/レコーダでも、PS4などのゲーム機、PCなど手持ちのBD再生機器を使えばいい。予算制限の問題が大きいが、スピーカーやサブウーファ、それを鳴らすためのAVアンプに比べると、プレーヤーが総合的な音質を左右する要素としては影響度が低いので心配は無用だ。ま、予算があるならプレーヤーにもコストを投じた方が幸せになれるのも事実だが。

いよいよ音を鳴らす。が、上映開始かというとそうでもない

 ここまで(まだ中盤)読んでいただいて申し訳ないが、「ガルパン劇場版」の音については前回語り尽くしているので、今回はほとんど語らない。予算はなんとかクリアーできたが、音量を絞るという条件がかなり厳しく、そのためのノウハウを解説するのが精一杯だ。劇場版の音のついての説明は前回記事を参照して欲しい。

 まずはセッティングだが、サラウンドスピーカー設置のための基本的な考え方(各スピーカーの距離を基本的に等距離とする。しっかりとした台に設置する)などは徹底しているが、小型スピーカーでは不可欠なスピーカースタンドを使用していない。常設のサブウーファ「イクリプスTD725SWMK2」、以前使っていたトールボーイ型スピーカーELAC「FS247SE」をスピーカー台として代用した。

 実際に小型スピーカーを使う人は、幅の広いテレビ台、本棚など、今ある家具を有効に活用して欲しい。JBL Control Xの場合は、持ち家ならば壁掛け設置をした方がコスト的な心配は少ない。

自宅の視聴室に各スピーカーを設置。サラウンドスピーカーは斜め後ろではなく、視聴位置の真横よりも少し後ろに下げた位置としている
前方スピーカー、サブウーファの設置。常設のサブウーファーをスタンドとして代用。エンクロージャーが斜め上を向くので低い位置の設置がちょうど良かった。サブウーファは振動対策としてインシュレーターを使用

 セッティングが終わったら、RX-V581の自動音場補正機能「YPAO」で距離やレベルを測定。スピーカーの距離は2m前後、レベルもほどほどの範囲内に収まった。サブウーファのレベルについては、測定値は+5dB。低音を増強するために+1.5dBほど上げている。

RX-V581でのスピーカー設定。フロントとサラウンドのスピーカー設定は「小」。センタースピーカーは「無」の4.1ch設定。JBL Control Xの周波数特性が90Hz~20kHzなので、サブウーファとのクロスオーバー周波数は100Hzとした
RX-V581で測定した各スピーカーの距離。フロント2m、サラウンド1.9mとほぼ等距離となるように配置。サブウーファーも実距離は2mほどなのだが、ここは測定値のまま2.5mの設定としている
RX-V581で測定した各スピーカーの音量。フロントとサラウンドの音量は1dBほどと差異はほぼ無し。電気的な補正量が減るのも全チャンネル同一スピーカーとする場合のメリット。サブウーファーは能率の違いのため測定値でも+5dBと盛り気味。結果としてさらに1.5dB盛っている

 音量は絞るが、低音は上げる。爆音を諦めると言った覚えはない。こうする理由について説明しよう。要するに人間の耳の感度は音量によって周波数特性が変化する。音量が下がるほど、低音域と高音域の感度が下がっていく。小音量では低音や高音が聞こえにくくなるということだ。詳しい説明は省くので、「等ラウドネス曲線」について調べてほしい。特に低音が聞こえにくくなるのはガルパン劇場版においては致命的なので、そのぶんをサブウーファの音量を上げて対処した。

 このノウハウは深夜での視聴を含めた、小音量での再生全般で有効だ。ホームシアターシステムを導入したのはいいが、サブウーファの低音で床が振動して不快だとか、階下に迷惑がかかるという話はよく聞く。気になるのは近所迷惑だからサブウーファを使わない人が居ることだ。特に小音量時でもサブウーファを使わないのは、人間の耳の特性から言うと正反対の判断で言語道断、まともな音になるはずがない。もちろん、深夜の場合などは等ラウドネス曲線の通りに低音を増量することはできないが(1kHzで60dBほどになる音量の場合、100Hz以下の音は80dBかそれ以上の音量にしないと同じ音量に聞こえない)、できる範囲で低音を増量するだけで映画も音楽も格段に音が良くなったと感じるのは事実。薄型テレビの音を良くするために(スピーカーではなく)サブウーファを追加するというテクニックは理にかなっており、かなり実用的なのだ。

 低音による振動の影響については、絶対的な音量レベルが低いので振動や近所迷惑になることはかなり少ないので安心してほしい。サブウーファ付きのサラウンドシステムなどをお使いの人は、音量をいつもよりも低くして、そのうえでサブウーファの音量だけ上げてみるとよくわかるのでお試しを。音量を出しにくい環境に居る人ほど、サブウーファを有効に活用してほしい。

 低音だけ増量しても、iPadの「騒音Checker free」での騒音レベルは増えるので、そのぶん全体のボリュームを下げる。またサブウーファのレベルを上げる。これを繰り返しながら、会話のみのシーンでも十分満足できる音量と低音のバランスを取っていった結果、当初目標としてた最大レベル80dBでは会話の音量が低すぎるため、ピークレベル85dBという結果に落ち着いたわけだ。

 絶対的なボリューム位置と、サブウーファの低音レベルの調整はこれで完了した。部屋が変わればその数値も変化するので参考レベルでしかないが、ヤマハRX-V581のボリューム位置は-32dB(MAXボリュームは+16.5dB、前回は+10dBほどの位置で再生)。フォステクスPM-SUBn(MB)のボリューム位置は時計の針で午後2時くらいの位置(正午の位置がボリュームの中間位置)、AVアンプ側のサブウーファのレベルが+6.5dB。AVアンプのボリュームをかなり絞っているのに、サブウーファは逆にかなり音量増し増しになっていることがわかると思う。繰り返すが、この設定で視聴位置から騒音レベルを計測し、ピークで85dBという音量の制限はキープできている。

 この状態で、カール自走臼砲の発射音や着弾音を聴いても、サブウーファが床を奮わせるようなことはない。音量はそれなりに大きいが、日中ならば近所迷惑を心配することはないと思うし、階下の住人が驚いて家を飛び出すような事態も発生しないだろう。PM-SUBn(MB)は、スペック上の周波数特性は20Hz~150Hz(-10dB)とサイズを考えるとかなり低音域の特性が優れているが、30Hzやそれ以下の低音のエネルギーは決して大きくはないので、振動の影響はあまり心配ない。低音は出ているが決して過剰にはならない。これが密閉型の利点。大音量再生では低音がやや細身で迫力不足に感じやすいが、音量を下げて低音を盛った条件ではそのデメリットがあまり気にならず、迷惑にならない範囲でしっかりとした低音感が得られるのだ。

 しかし、妥協してピーク-85dBまで条件を緩和したにも関わらず、セリフの音量が小さい。ガルパンの魅力は個性豊かな多数のキャラクターたちがそれぞれの持ち味を活かして戦車を操ることでもあるので、キャラクターの声の力強さが削がれてしまっては台無しなのだ。

 これをなんとかして克服するには、AVアンプのあらゆる機能を活用することになる。

セリフの音量を上げるための方法を思いつく限り試していく!

 主にセリフなど、画面の中央に定位する音を担当するのがセンタースピーカー。5.1chシステムの場合、AVアンプの各スピーカーごとの音量調整で、センタースピーカーだけ音量を上げるというテクニックがある。セリフに力がない、小音量だと聞こえにくいなら、5.1chシステムの場合は有効だ。しかし、4.1chシステムにセンタースピーカーはない。これは困った(マジで頭を抱えた)。予算に余裕がある場合は、JBL Control Xをもう1ペア追加するのもいいだろう(余った1本はサラウンドバックとして使用。6.1chで運用するか、センタースピーカー2本のデュアルセンターという方法もある)。

 ここで頼りになるのが、ヤマハRX-V581が備えるさまざまな音質調整機能。スピーカー設定の項目や音質設定などの項目をすべてチェックして役に立ちそうな機能を探してみた。

 まず発見したのが、「音声設定」にある「ダイアローグ」の設定。ダイアローグとはセリフなどの総称。ドンピシャの機能というわけだ。ここにはそのものズバリの「セリフ音量調整」という項目があるので、そこを最大値の「3」とした。ちなみに「DTSダイアローグコントロール」も同様の目的で使えるが、これはセンターチャンネルのある構成でないと使えない。ついでに、スピーカーの位置が画面の下になるので、「セリフ位置調整」を「3」とした(最大値は5だが、やや声に不自然な強調感が出たので、3としている)。

 この状態で、セリフのみのシーンを中心に確認したが、セリフの音量が増したことで、かなり聴き応えのあるものになった。セリフに関してはひとまずこれで満足としよう。

RX-V581の音声設定のメニュー。普段はあまりチェックしないが、今回はすべてのメニューを確認した
ダイアローグの設定項目。セリフ音量調整などのセリフに関する調整が行なえる。ここでは、セリフ音量と、セリフ位置調整を行なった

 小音量再生で不満だったのは、実はセリフだけではない。劇伴だ。ガルパン劇場版のサントラは個人的に2016年上半期で一番再生数が多かったアルバムで、すべての音が耳に染みつくくらい聴いた。何故なら、劇場公開(2015年11月末)からBD発売(2016年5月末)までの期間が長かったから。家に居ればサントラを聴き、ヒマがあれば劇場に足を運んでいたわけだ。

 ガルパン劇場版のサントラは非常に音質が良く、すべてが新録で素晴らしい出来映えなのだが、本編ではセリフや効果音を打ち消さないようなバランスで音量を控えめにして配置される。これはどの映画でも同様なので仕方のないことだが、小音量再生ではやはり物足りなさが募る。妥協しようかと思ってもいたのだが、すべての設定メニューをチェックしていて、これを改善するための設定を発見した。

 それが、「音量」の調整項目にある「ダイナミックレンジ」。ダイナミックレンジは音の大小の幅のこと。人間の耳の特性は時間を含めた音の総量で音の大小を認識するので、ピークの音量が大きいよりも、ピーク音量が低くても平均的な音量レベルが高い(音の大小の幅が狭い)方が大音量に感じる。テレビを見ていてCMになるとボリュームをいじっていないのに音量が大きくなってびっくりした、というような事例がちょっと前に数多く話題になった(最近はガイドラインも作られ、多少緩和されたようだ)。これは上述の仕組みを利用していることが理由。ピーク音量を抑え、平均的な音圧レベルを上げることで同じ音量でも大音量に感じさせ、視聴者の注意を引くわけだ。こういう音作りを「ダイナミックレンジが狭い」と表現する。音量感はあるのだが、音量の変化が少ないので、静かな状況で突然大爆発が起こるというようなショッキングな演出が台無しになる。映画も音楽もその音はダイナミックレンジの広さによって盛り上げるように設計されているので、基本的にダイナミックレンジは広いほどいい。だから、AVアンプのダイナミックレンジの調整などは基本的に「最大」のままでいじることはない。

 今回はあえてそこに手を出す。ダイナミックレンジを狭めて、相対的に音量が下がる場面や小さな音を増量してやるわけだ。RX-V581の場合、ダイナミックレンジは「最大/標準/最小(自動)」の3つが選べる。ダイナミックレンジを狭めるのは諸刃の剣なので、注意深く3つをすべて検証した。

 結論から言うと、「最小(自動)」でもダイナミックレンジが極端に狭くなるような不自然さはなかったのでそれを採用した。それぞれの動作の違いで言うと、どれを選んだ場合でもピーク音量に変化はない(「騒音Checker free」で確認)。標準、最小(自動)とするほどに中音量からそれ以下の音量の音がわずかながら底上げされる印象だ。最初はまさにTV放送のCMのように明らかな音量感の増大があるのかとハラハラしたが、さすがにそんな下品な調整はしていないようで安心した。足りない小音量を少し底上げするという感じで、聴き比べてみてやっと気付くくらいの味付けだ。だから、映画全体のダイナミックな迫力が消え失せることもなく、積極的に使うことができた。

 食わず嫌いでこんな機能は今まで見向きもしなかったのだが、小音量再生では極めて有効。どんな機能でも一通りは試してみるものだ。もちろん、こうした機能は音質的にはそれなりの悪影響も懸念されるので、多用は禁物。音量を上げて再生できる環境ならば、使わない方がいい。実際に家庭で許される音量で試してから、使うかどうかを判断しよう。

 最後にサブウーファに使用したインシュレータについても説明しておこう。今回はTAOCの鋳鉄インシュレーターを使っている。理由は最低音の伸びがもっとも良く、小音量でも低音感がしっかりと出たため。

 だが、音質よりも低音の振動対策としてインシュレータを使う場合は、振動吸収性能に優れた樹脂系のものの方が効果がある。おすすめは、J1プロジェクトのA40R/4P(税込実売価格2,300円/4個1組)。振動吸収性能の高い樹脂を使ったインシュレーターで小型のスピーカーやサブウーファだけでなく、プレーヤーやAVアンプなどに使っても効果がある。材質はやや硬めなので、重量のある機器でも使える。紹介したものは40mm径だが、50mm径、25mm径とサイズがいくつかあるので用途に合わせて選びやすい。

 もうひとつはAETのHPDM-4004(税込実売価格3,370円/4個1組)。工場設備や「砲台のクッション」にも採用される高分子振動抑制素材HPDMを採用したインシュレーターだ。音色の色づけが少なく効果的に振動を抑制できることが特徴。感触はかなり柔らかめで、スパイク等の尖った脚の受け皿にするのには向かない。一般的なスピーカーやフォステクスのPM-SUBn(MB)のような設置用の脚やゴムパッドを付けていない底面がフラットなモデルと組み合わせるといいだろう。

 J1プロジェクトは低音を含めた全帯域が締まった印象になることが特徴で、AETは特に中低域が締まり、ベースの音階がしっかりと出る。ただし、量感はさらに細身になるので、音楽用として最適だが映画ではややストイックに感じた。

 予定外の出費になるので必須とはしないが、振動対策として有効なので検討してい欲しい。もしも、少しでもコストを抑えたい場合はホームセンターに足を運ぼう。探索すると振動吸収系の良いアイテムがけっこう見つかる。ゴムシートやゴムブロックも、生ゴムからブチルゴムまでいろいろ種類があるし、振動対策に有効なハネナイトやソルボセインといった特殊なゴム系素材も手に入る。オーディオ用のパーツではないので、音質的な効果や音色の善し悪しは自己責任で試すことになるが、振動対策という意味ではオーディオ用のインシュレーターよりも安価で手に入る。

今回試したインシュレーター。上の青いものがJ1プロジェクトA40R/4P、下の左側2つがTAOCの鋳鉄インシュレーター(上面に硬めのゴムパッドを装着した手製カスタム品)、右2つがAETのHPDM-4004。これらを4個1組で揃えておくと、音質チューニングに便利。木製のものも用意しておけば万全

ガルパン劇場版は音を絞ってもいいぞ! 大音量とはひと味違う魅力を発見

 これでようやく、ひとまずは納得の行くセッティングが完了した。では、手短に上映を行おう。まずは冒頭の大洗を舞台にしたエキシビジョン・マッチ。音量は明らかに小さい。そのため、シネマDSPの「スペクタクル」を加えて空間的なスケール感を加え、音質的にもやや厚みを増している。まずはJBL Control Xの良さだが、出音の勢いが良いので砲撃シーンの炸裂する感じがリアルだ。細かい音まできめ細かく出るので、履帯の音、エンジン音といった個々の音がしっかりとわかる。大音量で聴くよりも細かい音が鮮明に耳に入ってくるので、改めて音数の多さに驚かされたほど。4つのスピーカーを統一していることもあり、スピーカー間のサラウンド感も良好だ。これは、RX-V581のサラウンド音場の再現性やシネマDSPの不自然さのない空間再現能力の優秀さも効いている。

 重量級の戦車の砲撃なども、思った以上に迫力が出た。これはPM-SUBn(MB)のしっかりとした低音再生能力のおかげ。はっきり言うと30Hz以下の低音はないに等しい。だが、低音感はあるので音量はあるのに音が軽いという印象にはならない。IV号戦車が参道の石段を下りる場面やKV-2が無理な姿勢で砲塔を回して横転する場面でも、床も空気も震えないが、ドシンという感じの重みは伝わる。これは小音量としては上出来な低音の再現だと自画自賛したくなる。低音を受け持つサブウーファは縁の下の力持ち的存在なので、あまり存在感を主張しないが、JBL Control Xがここまでの活躍ができたのは陰で支えるPM-SUBn(MB)のおかげでもある。

 鮮明でキレ味のある音の出方も秀逸で、キャラクターの会話を生き生きと再現した。劇場版本編では、主役級のキャラクターであるあんこうチームの面々を深掘りして描くシーンはあまりなく、戦闘場面などでは簡潔な会話のみのやりとりで済ませることが多い。これはすでに彼女たちの関係が十分に成熟していることを示す演出で、その会話のひとつひとつに言葉にはないお互いの信頼感がよく出ている。反応が良くニュアンスがよく出るので、セリフに込めた感情の起伏やキャラクターの声が魅力たっぷり。ダージリン様の声も気品があって実に良い。また、生徒たちの目の届かないところでいろいろがんばった生徒会長の帰還を伝える放送は、やや低めの音量かつエコーも多めで仮宿の校内に響いているのに、後ろで鳴いている桃ちゃんの声まではっきりとわかる。鳴りっぷりの良さは必須条件だったが、ここまで微小音をきちんと再現してくれるのは期待以上だった。

 こうしたセリフのニュアンスがよく出るのは我ながら良いスピーカーを見つけたと思ったほど。今回のために厳選したすべてのコンポーネントと、執念深いレベルの調整で、ようやく出た音ではあるが、貢献度No.1はJBL Control Xで間違いない。見た目こそ樹脂製のボディで高級感があるとは言い難い。だが、小型で使いやすい。手頃な価格なのでDolby Atmos用に2本追加してトップスピーカー追加も検討できる。壁掛けあるいは天井吊りをするにしても軽量なので平易な工事で実現できるのでおすすめだ。小型スピーカーの隠れたメリットは、フロント、サラウンドだけでなく、トップスピーカーも含めて同じスピーカーで統一できること。小型スピーカーでサラウンド再生を行なう場合は、スピーカーの統一を優先したい。

 音量を諦めていることもあり、雄大なスケール感は不足する。画面との釣り合いで言えば120インチスクリーンでは映像に比べて音のスケール感が小さく感じる。サイズ的には50~60型の薄型テレビがマッチする印象だ。ただし、こぢんまりとしたサラウンド音場になるのではなく、細かな音や空間の再現性、四方の音の定位はかなりしっかりとしているので、サイズはコンパクトだが密度の高い音場になる。JBL Control Xが音が前にでるタイプの鳴り方をすることもあり、前後左右の空間の広がりや立体感もなかなかのもの。

 褒め過ぎと思われるかもしれないが、空間の再現性や細かな音まで聴こえる情報量の豊かさでは映画館を超える。個人または家族で楽しむホームシアターならではの良さをしっかりと再現することができた。

 人間の耳はよく出来ていて、大音量が続くと慣れて(麻痺して)しまい、大音量と感じなくなり、そのぶん小音量の感度が鈍る。だから、どのアクション映画も大音量で耳が麻痺しないように音量差には緩急をつけて配置する。ガルパン劇場版はそれが実に緻密に行なわれていることに改めて気付いた。だから、冒頭の戦車戦が終わってしんみりした場面で登場するサンダース高校の輸送機C5Mスーパーギャラクシーの爆音に震える。絶対的な音量に余裕があるせいなのか、小音量の感度が鈍らないためなのか、そうした巧みな音量差を操っていることがよくわかる。爆音には麻薬的な気持ちよさがあるが、やはり環境に合わせた適切な音量ってあるんだなぁと、少し反省。

 クライマックスとなる大学選抜チームとの戦車戦でも、新しい発見が山のようにある。先ほど劇伴はセリフや効果音を埋もれさせないために、音量は控えめになることが多いと書いたが、プラウダ高校の面々が中心となる撤退戦では、砲撃の音量を控えて劇伴の音量を上げていることがはっきりわかる。音楽で泣かせるというのもあざとい演出だが、それくらいの方がこの場面のドラマチックさはよく伝わる。音楽もダイナミックレンジの調整で最低限の聴き応えを確保していたが、音量が上がると音楽の良さが倍加する。このシステムによる再生での一番の聴きどころはここだ。

 もちろん、クライマックスの戦いも緊迫感たっぷりだ。ここの中央広場の遊具その他はすべて3Dでモデリングされているようで、戦車の砲撃で、あるいは走り回る戦車に蹴散らされて、さまざまなものが破壊されていくが、それがきめ細かく映像で再現されていることに気付く。しかも映像に現れる細かなオブジェクトの動きのほとんどすべてに音が配置されていることまでわかる。この緻密な音作りは見事なもの(怨念を感じるレベル)。これだけの音が得られるなら、何かを諦めたようなニュアンスを含む「小音量ホームシアター」などと呼ぶのはふさわしくない。音量の大小など気にならない「高密度ホームシアター」と呼びたい。

それでも音量も欲しいいんだよ。という人のための2つのプラン

 「JBL Control X」とフォステクス「PM-SUBn」(MB)、ヤマハ「RX-V581」による高密度ホームシアターの話はこれで終了の予定だった。このシステムは小音量での良さにフォーカスしたので、大音量ではスピーカーやサブウーファの弱点が露呈すると考えていたため。だから、もう少し音量を上げられる環境かつもう少し予算を投入できる人のためのプランも用意していた。

 が、試しに音量を上げてみたら、高密度ホームシアターが凄かった。ピークで95dBの大音量までは対応可能とわかって、そのポテンシャルに驚いた。それ以上の音量が無理と判断したのは、フォステクスPM-SUBn(MB)が悲鳴を上げたため。ウーファの物理的な振幅限界に達し、(トラブルを予感させる)おかしな音が出たからだ。PM-SUBn(MB)の名誉のために言うと、これはサブウーファの性能が伴わないのではなく、低音の負担が大きすぎるため。LFEの低音だけでなく、フロントとサラウンドの4本のスピーカーの低音も1台で鳴らしているのだから、無理もない(AVアンプにおけるスピーカー設定の「小」とは、設定した周波数以下の低音をサブウーファーに背負わせるという意味)。JBL Control Xは恐ろしいことにまだ余裕がありそうだったので、さらに大音量に挑む場合はPM-SUBn(MB)をもう1台増やして5.2chとするグレードアップもある。まあ、大音量用のカスタムは本末転倒なのでこの記事ではあまり意味がない。

 さておき、大音量にすると声のエネルギー感や劇伴がしっかりと再現されるのはもちろんだが、高域の歪み成分が増えて聴きづらい音になるとか、サブウーファの不要な中低音が音を濁らせるといった悪さをほとんど感じなかった。プランを練っていた段階ではかなりいろいろと諦めたつもりだったが、音量を出せる環境ならばなにも諦めずに極上の爆音が楽しめるシステムとして完成していた。誰でも満足できるスピーカーの組み合わせを提案するのは不可能と思うくらい難しいのだが、これはかなり多くの人にとって満足度が高いシステム提案だと思う。

 そういうわけで、よりコストを投入して音量も質も高めるプランはあまり役に立たないものになってしまった。とはいえ、これらもそれなりに苦労して製品をチョイスしたので、それらのモデルの簡単な解説と選択した理由を紹介する。自分なりのプランを構築する参考になれば幸いだ。

ソニーとエラックで聴く、ピークで90dBくらいの音量向けのシステム

 ここからのAVアンプはソニー「STR-DN1070」を想定している。音量の制限はピークで90dBくらい。先ほどのシステムよりも5dBほど増量した想定で、日中でも集合住宅では厳しいと思われる音量。戸建ての住宅向けくらいのイメージだ。

ソニー「STR-DN1070」
ELAC「BS302」

 選んだスピーカーは、ELAC「BS302」(実売価格68,660円/ペア)を2セット(4台)と、同じくELAC「DEBUT S10EQ」(実売価格 102,880円)。実はELACは、BS302を5本とSUB2030をセットにしたCINEMA30というシステムセットも発売していて、メーカーが選んだ組み合わせなのでこちらで良いかとも思う。実売価格も286,740円とやや安価だ。

ELAC「DEBUT S10EQ」

 それでもサブウーファを変更したのは、低音が重要だから。DEBUTシリーズはELACのエントリークラスの新シリーズで、S10EQはそれらとの組み合わせを前提としたサブウーファ。だからBS302とは音色が微妙に異なる可能性もあるが、そのリスクをふまえて選択したのは、S10EQがスマホアプリを使った音場補正機能を備えているため。

 この音場補正がかなり有効で、対策が難しい低音の定在波の影響をかなり解決し、不要な低音の張り出しのないスムーズな再現ができる。今回のシステムではどれも音量を下げ、低音を盛り気味にすることを前提にしているので、サブウーファの質は妥協したくなかったのだ。もうひとつ良いのは、音場補正を使うと100Hzを超えるような中低音の補正も行なうので、メインとなるBS302の音を汚す心配もないし、不要な中低音の影響でサブウーファの音量を上げられないといった問題も解決できる。

 BS302の良さは鳴りっぷりの良さ。このシリーズを知っている人ならば説明不要だし、初めてBS302を聴いた人は、横幅12cmほどの手の平に乗るスピーカーから出てくる音に腰を抜かすはず。大音量再生も余裕でこなせる。そして、その小ささは家庭でのサラウンド再生で頼もしい味方になる。置き場所の制約が少なく、壁掛けや天吊りなども容易なので、使いやすい。かなり極端にコンパクトさを追求し2ウェイのユニットが同軸配置となっているので音場定位は極上。サラウンド感や音場感は極めて優秀だ。

 エネルギー感たっぷりで、俊敏な音を出すELACならば、STR-DN1070の上質だが元気の良さが少し足りない音とうまく噛み合って、質が高くしかもエネルギーたっぷりの音が出せるはず。机上プランではあるが、それぞれの音は個別に確認しているので、予想通りの良さを味わえるはずだ。

イクリプスのスピーカーとサブウーファで聴く、ピーク95dBくらいの大音量システム

一番左がTD508MK3

 最後は大音量が許される環境に向けたシステム。選んだスピーカーはイクリプス「TD508MK3」(税込実売価格6万1,490円/1本)が4本と、サブウーファは同じくイクリプスの「TD316SWMK2」(税込実売価格11万7,560円)を2本だ。AVアンプは同じくソニーを想定しているが、これはヤマハと組み合わせても良好な音が出ると思われる(つまり、Dolby Atmosを想定するならばヤマハを使うのがおすすめ)。

 イクリプスにも、TD307MK2Aを5本とTD316SWMK2を1本セットにしたシステムのTD307THMK2(税込実売価格21万3,840円)がある。こちらの方が価格も安いし実力もかなりのものなのだが、さらにグレードアップしてみた。イクリプスは時間精度の正確な再現を追求し、スピーカーのラインアップはすべてフルレンジとしている。

 卵形の形状やユニットの正確な動作のための徹底した高剛性など、その実力は素晴らしいのだが、能率の低さ(TD-307MK2Aは80dB/w・m)、耐入力の低さ(TD-307MK2Aは最大許容入力24W)のため、大音量向きではない。というわけで、スピーカーのグレードを上げ、TD508MK3とした。こちらも能率82dB/w・m、最大許容入力は30Wと大音量向きではないが、ピーク105dBの我が家の大音量再生で使う天井スピーカーとして選んだとき、大音量の懸念があったのでステレオ再生で大音量を試したが、我が家の視聴室での大音量でも破綻することはなかったので、実用上ほぼ問題ないことを確認している。

 サブウーファーのTD316SWMK2は、我が家で使っているTD725SWMK2と同じ設計思想で作られており、16cmウーファを2台対向配置としている。振動のキャンセル構造に加えて、それぞれの反発力を利用し合うため出音のスピードが驚くほど速いことが特徴だ。TD725SWMK2との違いはウーファーの口径と、ボディの仕上げがマット塗装仕上げになっている程度だ。こちらの弱点は映画ではそれなりに欲しくなる量感が乏しいこと。ハイスピードで正確だし音域の伸びも見事だが、細身の引き締まった低音なので、絶対的な低音のボリューム感が不足しがちに感じる。そのため、サブウーファを2本として低音域の伸びと量感を両立している。サブウーファ2本使いの効果は以前にTD520SWの2本使いを試していて、専門誌の試聴のための大音量再生で1本ではタイトに感じるが、2本あれば量感も含めて十分という感触を得ている。TD316SWMK2の場合、最低音域の伸びに差はでるが、再生可能な低音の再現については同様の効果が期待できるはずだ。

 聴いてみると、8cmフルレンジのスピーカーとは思えない雄大な音に驚くと思う。ちなみに卵形ボディを採用するイクリプスのスピーカーはすべてスタンド付属(背の高いスタンドを備えたバリエーションモデルもある)。壁掛け用アダプターも別売で用意されているので壁掛けなどにも対応可能。吊り下げでも使用できることは、かれこれ1年、落下事故もなしで使い続けている筆者が実例(取付のための工事はマニュアル通りにしっかりと行なうこと)。

大音量にこだわるばかりがホームシアター道ではないことを再確認

 オプションとして紹介した2つのプランはそれなりの大音量を想定しているが、もちろん小音量でもきちんと鳴ることを前提としているので安心して欲しい。予算に余裕があれば、大型スピーカーという選択肢も出てくるのだが、今回はあえてそれを除外した。というのも、サラウンドは全チャンネル同一スピーカーで鳴らすのが理想で、そのためには設置性を考えると一般の家庭では小型スピーカー以外選択肢がないから。なぜ同一スピーカーにこだわるのかと問われれば、ステレオ再生で同じスピーカーを2本使うのと同じ理由だと答える。そこに反論の余地はないはずだ。

 ただし、小型スピーカーでは物理的に低音が出ないので、どうしてもスケール感などに差が出やすい。そこでサブウーファ2台となる。コストもかかるし、筆者以外におすすめしている人はほとんどいないので信頼性が低いかもしれないが、これは凄い。特に小型スピーカーで2.1ch再生をしている人はサブウーファ2本(同一のモデルを2本)を検討してみて欲しい。2.1ch再生に比べてステレオ感がまるで変わる。5.1chのサラウンド再生でもステレオ再生ほどではないが音場感の広がりを確認できる。

 また、サブウーファを左右に寄せて置く必要がないので、低音が片寄って聴こえる問題が解決できる。サブウーファ1本の場合、部屋の中央は定在波の影響が目立ちやすいので、だいたい右か左に寄せて置くのはこれが理由。低音の偏りや定在波の影響を最小限にすることを考えるとサブウーファ1本では設置位置の選定が難しい。こうした設置の難しさもサブウーファ2本で解決できるのだ。

 フォステクス「PM-SUBn(MB)」もその実力はなかなかのものなので、手持ちのシステムでサブウーファ2本づかいに挑戦する場合は、2本使うのがリーズナブルなプランと言える。

 それにしても、いつもよりも音量を控えた試聴テストは、予想通りかなり大変だったが、妥協に妥協を重ねたような負け戦に終わらず、文句なしの勝ち戦で予想以上に面白い上映になった。後日、自宅のシステムでいつもよりも5dBほど音量を下げてガルパン劇場版を見てみたが、最初のうちこそ音量に不満を感じたものの、耳に馴染んでくると微小音がしっかり聴き取れ、作品をより深く楽しめることを再確認できた。音量というのは好みもあるので、適切な音量を数字で示すのは難しいが、ときどきいつもと違った音量で上映するのも面白いと感じた。小音量を試すだけでなく、大音量を試すのも良い。お盆休みの期間は多くの人が帰省したり、旅行に出掛けるので、街の中がとても静かになることを覚えておいて欲しい。帰省や旅行の予定のない人は、周囲の住人の多くが外出していることを確認して大音量を体験してみるといい。もしもインドア派の口うるさい隣人が居るならば、自宅に招待してオーディオ沼に引きずり込むという最終手段もある。騒音問題は十分な配慮や対策が重要だが、プラスアルファとしてコミュニケーションスキルをフルに発揮して解決を図ってほしい。

 ガルパン劇場版を題材にして、ここまでディープで本格的オーディオ記事を展開できたのは、我ながら快挙だと思う。ここで紹介したプランをそのまま購入しても損はさせない自信があるが、ここでの考え方を参考にするだけでも、スピーカーやサブウーファ選びがしやすくなると思う。

 ゲームの楽しみ方には「縛りプレイ」と呼ばれる制限をつけて難易度を高めるやりこみ系のプレイスタイルがあるが、難しいぶん達成感は想像を超えるものがあると思う。今回の記事も似たようなもので、音量を出せなくても、コストに制限を設けても、想定以上の結果を出せた(筆者の達成感は読者の想像を超える)。大音量は無理とか、お金がないとか、それらがガルパン劇場版を極上の音で楽しむのを諦める理由にならないことに気付いてもらえればそれだけでうれしい。

 また、前回の感想ではDTS Headphone:Xでのヘッドフォン再生時のおすすめも知りたいという声もあった。要望に応えたかったのだが、今回は割愛。なぜなら、2015年の4月に同様の主旨の記事(劇場版「進撃の巨人」で重厚音響をDTS Headphone:Xで聞く)を発表済みで、結果としては今回もほぼ同様だったため。強いていうならばガルパンでは低音の鳴り(最低音域の伸びが良いもの)を重視したいところだが、この手の話もすでにしている(劇場版「進撃の巨人」も低音信号の盛り込みはかなり容赦なしのレベルだ)。今回の記事はいつになく文章量が多いので、申し訳ないが該当記事を参照ほしい。

 正直、ヤマハとJBL、フォステクスのシステムプランは、ガルパン劇場版の監督や音響監督ら音のスタッフに聴いてもらって「家庭用センシャラウンド・ファイナル」のお墨付きを得たいと思っているくらい自信がある(ついでに我が家のシステムの音も監修してほしかったり)。それはさすがに無理な話だが、自己流で「センシャラウンド・ファイナル」を名乗るのは自由だ。ジャッジするのは自分自身なので妥協するのもしないのも自由。ガルパンが大好きでオーディオ&ビジュアルにも興味があるという人は、ぜひとも「俺式センシャラウンド・ファイナル」を極めてみてほしい。

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鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。