鳥居一豊の「良作×良品」
「君の名は。」のHDR画質を堪能。UHD BDを身近にするソニー「UBP-X800」
2017年8月25日 08:00
すでに多くの人が自宅で楽しんでいると思われる大ヒット作「君の名は。」。「シン・ゴジラ」と同様に、本作も「コレクターズ・エディション 4K Ultra HD Blu-ray同梱5枚組」という形態で、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)版が発売された。洋画のUHD BDはそこそこ増えてきたが、国内作品のUHD BD化タイトルはまだ少なく、国内のソフトメーカーはまだUHD BDに及び腰なのかもしれない。いずれにしても、昨年大ヒットした作品がUHD BD版も発売されるというのは、認知度を高めるという意味でもありがたい話だ。
そして、UHD BDソフトが増えているだけでなく、Ultra HD Blu-rayプレーヤーも複数のメーカーから発売されはじめた。昨年までは低価格機でも7~8万円台、中高級機となると10万円台で、しかもパナソニック1社のみであった。だが'17年に入ると、OPPO Digitalからがミドルクラス「UDP-203」が登場(現在は上級機の「UDP-205」も発売)、シャープからはUHD BD対応のBDレコーダー「BD-UT3100/UT2100/UT1100」も登場した。
そして、よりリーズナブルな価格のエントリーモデルも登場してきた。LGエレクトロニクスからは「UP970」(実売価格31,080円)。パナソニックは「DMP-UB30」(同36,310円)。そしてソニーが「UBP-X800」(43,580円)となる。UHD BDが再生可能な機器としては、このほかにマイクロソフトのゲーム機「Xbox One S」(同29,970円/500GBモデル)もあり、これが最安価。実はUHD BD対応機の中で唯一「Dolby Atmos for Headphone」機能を持つモデルでもあり、プレーヤーとしてもなかなか見逃せないのだが、ゲームに興味がない人にとっては、使い勝手の面でも普通のディスクプレーヤーが良いだろう。ともあれ、手の届く価格で専用プレーヤーが選べるようになってきたのだ。
「君の名は。」は、単に大ヒットした映画というだけでなく、優れた映像や音楽などなど見どころが盛りだくさんの素晴らしいコンテンツで、12,000円もする「4K Ultra HD Blu-ray同梱版」を購入した人の中には、UHD BDプレーヤーどころか、HDR対応の4Kテレビすら持ってはいないという人も少なくないと思う。その他の特典も含めてすべてが含まれたパッケージを購入したいという熱心はファンは大勢いるはずだ。そうした人にとっても、UHD BDプレーヤーの低価格化はうれしいはずだ。
今回はそうしたエントリークラスのモデルから、ソニーの「UBP-X800」を取り上げることにした。パナソニックの「DMP-UB30」も、サイズもコンパクトで使いやすいし、機能的は上級機とほぼ同等となっているなど、実力的にも良いライバルと言える。
ソニーUBP-X800を選んだのは、CDからDVD、BD、UHD BDだけでなく、DVDオーディオやSACDなどの12cm光ディスクをほぼすべて再生可能なユニバーサル仕様のプレーヤーだからだ。UHD BD対応かつユニバーサル仕様では、その他の製品は10万円以上のミドルクラス以上となることを考えると、4万円台というUBP-X800はかなり魅力的に見える。
シンプルでモダンな薄型のデザイン
さっそくお借りした機材を自宅にセットしてみる。横幅こそ430mmのフルサイズだが、高さは50mm、奥行きも265mmとコンパクトで、最近の薄型テレビに合わせた奥行きの短いラックなどでもすっきりと収納できる。
デザインは、ここ最近のソニーの薄型テレビとテイストを合わせたものになっており、正面パネルは艶のある仕上げだが、下部と上部および天面はザラっとした手触りの石材調の仕上げ。シンプルなフォルムながらも異なる素材感を組み合わせることで質の高いデザインとなっている。
樹脂系の天板は艶のある仕上げだと使っているうちに傷が付きやすいし、汚れも目立つので、マットな仕上げになっているのは好ましい。しかもサイドも同じような仕上げとなっており、安っぽく見えないのも良い。
背面の接続端子は、HDMI出力が2系統となっている。HDMI2はオーディオ専用で、4K信号やHDR信号の入出力に対応していないAVアンプとの接続にも対応する。この価格帯でHDMI出力2系統というのは立派だ。ただし、それ以外の接続端子は、Ethernetと同軸デジタル音声出力のみ。アナログ音声出力は潔く省略している。
UBP-X800はユニバーサル仕様のプレーヤーなので、UHD BDやBD/DVDなどの映像ソフトだけでなく、CDやSACDも再生でき、しかもDVDオーディオにも対応している。それだけに、ステレオ再生用システムとの組み合わせを考えている人もいるかもしれない。
しかし、マルチチャンネル環境をお持ちの人は、AVアンプを利用するほうが良いと思う。なぜならば、SACDマルチ(DSD2.8MHz 5.1chを収録したマルチチャンネルソフト)にも対応しているから。同様にマルチチャンネルのDVDオーディオソフトもきちんと再生ができた。DVDオーディオはもちろん、SACDマルチも新譜の発売はあまりないが、こうしたソフトを再生できるプレーヤーが安価で発売されているというのは、ありがたい話だ。
さらに、ネットワーク経由のオーディオ再生、USBメモリやUSB HDDなどに保存した音源の再生も可能で、FLAC/WAV/リニアPCM(最大192kHz/24bit、最大5.1ch)、DSD(最大11.2MHz 5.1ch)、AIFF(最大192kHz/24bit 最大5.1ch)と、多彩なフォーマットでマルチチャンネルソースに対応している。ハイレゾ対応のネットワークプレーヤーとしても、充実した機能を持っている。
もちろん、4Kコンテンツを含む映像配信サービスや、ソニー製のBDレコーダーの録画番組をネットワーク再生にも対応する。
UHD BDだけでなく、多彩なメディア、サービスに対応
接続が完了し、さっそく使ってみることにする。電源をオンにすると本体部は緑の小さなLEDランプが点灯し、テレビ画面にメニュー画面が表示される。高速起動モードを備えており、起動時間は1秒以下となっている。
操作画面は、各機能がパネル状のアイコンで並んだスタイルで、映像配信サービスや音楽配信サービスのアプリも用意されている。よく使うアプリを自由に登録して「マイアプリ」の部分に表示させることも可能。メニューをカスタマイズすることでよく使う機能を登録することもできるようになっている。
まずは設定を一通り確認してみたが、多機能ということもあり、設定の項目もなかなか多岐に渡っている。もちろん、最初の電源投入時には「かんたん設定」の画面が表示され、ひととおりの設定を行なうようになっているので、初心者でも困るようなことはない。
映像設定では、HDR出力や出力解像度設定などがある。4Kアップコンバートのための設定も用意されている。このときに注意したいのは、4Kテレビ側のHDMI入力設定も行なわないと、4K/60pおよびHDRの映像が正しく表示できないこと。
現行の4Kテレビは、ほとんどが4K/60pの映像やHDR信号の表示に対応しているのだが、HDMI入力の設定が、4K/60p+HDRの信号を受け取るために必要な高速モード(18Gbpsモード)になっていないことがある。これは、出荷状態では互換性を優先するモードに設定されているから。そのため、4K/60p+HDRの信号を出力できる機器を初めて使うときは、テレビ側のHDMI入力の設定を確認し、必要に応じて設定を切り替える必要がある。これをしないと、プレーヤー側は接続されたテレビが4K/60pあるいはHDRに非対応と判断してしまう。結果、HDR対応のテレビなのにSDR信号が出力されていて、「せっかくのUHD BDなのに、今までとあまり違いがない」なんてことになってしまう。テレビ側の画面表示や入力信号の詳細表示などでも、プレーヤーが送られている信号がHDRかSDRかを確認しておこう。このあたりの設定が初心者にはわかりにくいが、UHD BDや、HDRコンテンツの普及により解決されるだろう。
映像設定以上に細かな設定項目が多いのが、音声設定だ。デジタル音声出力の選択をはじめ、SACDなどDSD音源の再生時の出力モード、デジタル音声出力のサンプリング周波数の選択、CDや圧縮音源をハイレゾ相当の情報量に復元する「DSEE HX」設定など、実に多い。これらは基本的に「自動」で問題ない。
そして、ユニークなのが「Bluetooth設定」。Bluetooth対応イヤホンやスピーカーなどにワイヤレスで音声を出力できる機能だ。音声出力は2chにダウンミックスされてしまうが、BDなどの映画ソフトを含めて音声をワイヤレスで楽しめるのは実はかなり便利。特に深夜にイヤホンなどを使って映画を見る人はその便利さがわかるだろう。この機能を持つプレーヤーはあまりないので、この点でも本機は大きな価値がある。
余談ではあるが、こうしたBluetooth音声出力は、薄型テレビにも搭載してほしい。パーソナル向けの小さな画面サイズのモデルでは採用例があるが、大画面の4Kテレビにはない。大画面テレビでも深夜などはイヤホンで視聴している人は少なくないと思うし、ワイヤレスではないことで不便な思いをしている人は多いと思う。
いよいよ、UHD BDで「君の名は。」を鑑賞する!
ひととおりの設定を確認したところで、いよいよ上映だ。使用するディスプレイは東芝の有機ELテレビ「55X910」。音声は自宅の6.2.4chのシステムだ(本作はDTS-HD MasterAudio5.1音声なのでそのまま5.1chで再生)。
本編がスタートすると、物語に大きく関わるティアマト彗星が地球に再接近したときの幻想的な空の様子が描かれる。東京のビル街の上空を長い尾を引いた彗星が流れていく。リアルに描かれた街並みなのに、実に幻想的。イントロでいきなり、新海誠作品の映像の真骨頂がやってくる。ファンはうれしいし、普通のアニメのつもりで見に来た人はかなりのインパクトだっただろう。
新海誠作品は日常をリアルに描くことが多く、映像的にもなかなかリアルに書き込まれた背景美術となっている。しかし、ただリアルなのではなく、リアルだが明らかに絵画だ。写真と見間違えるほど緻密に描いたのではなく、リアルだけれども絵だ。この違いは色の乗せ方によるものが大きな理由だと考える。光の反射を意識してハイライトを強調し、なおかつハイライト部分をただ白く塗るのではなく、現実ではありえない色を添えてハイライト感を際立ている。
これがあるおかげで、映像は実に色彩感にあふれ、しかも現実に感じる光の存在がよく伝わる。長く尾を引く彗星も青や紫の色が加わり、ほうき星と呼ばれるようなただの白い光だけにはしていない。
いきなり長々と解説してしまったが、つまり新海誠作品の美味しいところを存分に味わうには、色をのせることが肝心だ。UBP-X800の映像は、UHD BDの4Kの高解像度を十分に楽しめるし、色も鮮やかに出る。コントラスト感のくっきりとした映像は同社の薄型テレビの画作りにも通じる。マスターモニターほど生真面目ではないが、テイストとしてはマスターモニター的な忠実志向の再現だ。
これは、実写作品を見るならば実にバランスがいい。画質モードを「ダイレクト」または「自動」にしておくだけで、こうした忠実感のある映像になる。だが、「君の名は。」の場合は、もっと濃いめの味付けの方が楽しい。作品の豊かな色をより濃厚に味わいたい。
というわけで筆者は、映像調整で色の濃さを「+5」とした。しっかりと黒の締まった映像とし、暗色まで豊かな色が出るように「コントラスト」は「+3」とする。こうするとHDR映像ということもあるだろうが画面全体が明るめなバランスになるので、「ブライトネス」を「-1」として全体を整えた(初期値はすべての項目が「0」)。こうした画質調整は、2つある「カスタム」を選ぶことで調整できる。
たいていの場合、筆者は複数ある調整用モードのひとつを「アニメ用」として設定している。実写とは映像の傾向が異なるアニメを見るための画質調整は、自前で用意したいのだ。言わばお手製「アニメモード」。薄型テレビなどでは「アニメモード」があるテレビもあるので、それらをベースに好みで調整を加えて使用している。だから、この設定は、あらゆる映像をよりよく見るための調整ではなく、アニメをよりよく見るために特化したかなり極端なものだ。設定値を参考にする場合は、くれぐれもアニメでのみ試してほしい。
こうすることで、明るい色の鮮やかさだけでなく、暗いシーンや陰になった部分の暗色が豊かになり、画面全体に色彩感もぐっと豊かになる。このあたりの調整では、彗星が流れる夜の空、口噛み酒の神事を行なう場面などで調整して、明るいシーンで色やコントラストが過剰になっていないかを確認するようにしている。
HDR化された映像は、新海誠監督自身も感心していたようだし、実際筆者はもうUHD BD版しか見る気がしない。そのくらい、新海誠の特徴である豊かな色、光のニュアンスを濃厚に映像に加えた画作りが、HDRでより鮮明に伝わってくると感じたからだ。ただし、映画館で上映されたマスターの画質に近いのはBD版だろう。HDRでそこから大きく逸脱するのは良くないが、多くの場合、HDR化でちょっとわかりにくい映像の狙いがよりわかりやすく伝わるようになることが多い。
結果として、その良くなったと感じる部分をさらに伸ばしてやるのが筆者の画質調整の方針。「リアルではないが、よりリアルに感じる」そういうニュアンスだが、これはアニメによる映像表現そのままだと思う。結論として、そういうアニメならではの映像をより効果的に表現できるHDRはアニメと極めて相性がいい。
本機には、HDR非対応のディスプレイを接続したとき、SDR変換した映像のコントラスト感を微調整する機能もある。UHD BDは、規格として下位互換を保っており、フルHDのテレビならば解像度はフルHDにダウンコンバートするし、HDR非対応ならばSDRに変換する。だから、4K+HDR対応のディスプレイでなくても、UHD BD版を再生することはできる。SDR変換では元のHDRに比べて足りなくなる明暗のダイナミックレンジを微調整でき、好みに近いコントラス感が得られるわけだ。HDR-SDR変換の幅は5段階で、もう少し細かく調整できるとよいのだが、ディスプレイ側の画質調整と併用すれば「SDRなんだけど、ちょっとHDRっぽい感触」が得られる。HDR対応4Kテレビを買うのはもうちょっと先という人は活用してほしい。
さておき、やや味付けを濃いめとしたUBP-X800の映像は、作品の豊かな色をしっかりと出しつつ、細かな色の変化や階調がスムーズに再現できたことも含めて、実に奥行き感の豊かな映像になる。
ディテールの細かな再現は常用しているパナソニックのDMP-UB900と比べるとやや差を感じるが、手前のキャラクターに対してわざとぼかした背景も潰れた感じにならずにスムーズに再現されるし、東京の景色がリアルに再現された映像がクローズアップされたシーンも、タッチまでよくわかる。このため、もともと映像の奥行き感は豊かなのだが、色の再現度が高まったことでその奥行きは増している(現実でも遠くの景色ほど空気の影響で色は浅くなる。これを反映したのが空気遠近法と呼ばれる手法で、本作に限らないが新海誠作品ではかなり緻密に計算されたうえで使われている)。
感心したのは、階調性がスムーズで、しかもS/Nも良好ということもあり、映像に付加されたノイズ(フィルム的な粒子状のノイズ)の質感の違いまで鮮明に描かれたこと。最初は(ストーリーを理解していないと特に)、シーンによってノイズ感が異なっているのが気になるのだが、どうやら通常の場面と回想の場面でノイズ感を変えているようだ。通常の場面では、ノイズ感はよく見ないと気がつかないくらいで、BD版ではほとんど気付かない。HDR化されると、白方向の階調がかなり豊かになるので、ごくわずかな色の差やノイズ感も見えてくる。
個人的な印象としては、ほぼすべてデジタル制作に近い環境だろうが、アナログ制作の作品の背景画にあるような紙に描かれた絵のちょっとざらっとした感触を足しているように思う。そうしたごくわずかなノイズがざわざわと動くこともなく、実によい感触だ。また、回想の場面でのノイズは明らかにノイズを付加していることがわかり、場面として区別していることがわかる。時間軸がいろいろと絡み合っている作品でもあるので、きちんとそれがわかるようにしているのだろう。
こうした細かな仕事を丁寧にしていることもあって、場面によっては3Dまたは3D的に背景を構成して立体的なズームやパンニングを行なっているカットも、急にデジタル臭い映像にならず、「これ、どうやって作画したのかしら」と、気になって巻き戻してコマ送りで再生することになる。キャラクターの動きを細かく見るためにコマ送りで確認することはよくあるが、背景画主体の場面でもコマ送りで確認しまった。
こうした動きのあるシーンでも、UBP-X800は実に優秀だ。HEVCに限らず、動画圧縮は動きを差分情報だけ記録するようにして全体の情報量を削減するので、動きが大きくなると情報量の欠落によるぼやけたような印象になりやすい。このあたり、デコードあるいはその周辺の映像処理がしっかりしていないと、動いたときの解像感の低下がそのまま映像に表れてしまう。UBP-X800にはそれがない。有機ELで視聴するようになって、しかも有機ELパネルの動画ボケにまで注目してインパルス表示を採用した東芝55X910というトップクラスのディスプレイで見るようになって、こうしたゆっくりと動くズームやパンニングでの動きボケに気付きやすくなっていたが、そんな環境で見てもUBP-X800には不満がない。
「君の名は。」のためにやや濃い味付けの調整にしたが、実写映像の作品を見るならば標準のままで忠実感のあるバランスになっている。絶対的な解像感は多少差があるものの、動きによる解像感の劣化が感じられないなど、きちんと丁寧に仕上げられた映像だ。身近な価格で登場したモデルとしては十分に優秀な画質だ。
ハイレゾ対応は伊達じゃない。音の実力もなかなかのもの
ストーリー自体も、ただの男女の入れ替わりだけにせず、ちょっとした時間差を加えて、SFっぽい筋書きとしているなど、かなり面白い(タイムパラドックスについて考察するとか、SFとして楽しむ作品ではないが)。
そうしたファンタジー要素の強い物語を、しっかりとした映像で構築しており、作画陣の奮闘によるキャラクターの生き生きとした動きも含めて、全編が見どころだ。しかも、音も実に丁寧に作られている。キャラクターの演技も、男女が入れ替わった違和感を含めて、嘘くささや白々しさのない熱演だ。RADWIMPSが劇伴も含めて担当した音楽も同様に場面に沿った多彩な楽曲が多く、場面をしっかりと盛り上げてくれる。
UBP-X800の音は、ハイレゾ対応で音楽再生も重視した作りということもあって、どちらかというと音楽寄りのニュートラルな傾向だ。映画寄りの音は迫力を高めるために中低音を盛り上げたバランスになることが多く、音楽を聴くとやや違和感を感じることがある。かといって音楽寄りにしてしまうと、中低音があっさりとしてしまい、映画の迫力やスケール感が物足りなくなる。こうした映像ソフトも音楽ソフトも再生できるプレーヤーの音作りの悩ましい部分だ。
その意味では音楽寄りのバランスなのだが、中低域の情報量をしっかりと充実させることで、映画でも迫力不足を感じることも少なく、声の演技は鮮明でニュアンスまでもしっかりと再現するし、劇伴の音楽は音量を控えたバランスながらも元気の良い曲は勢いのいい感じに、ピアノ主体のしっとりとした曲は個々の音を丁寧に鳴らす。実によく仕上げていると思う。
サラウンド感にしても、各チャンネルの音が明瞭に再現され、空間感の豊かな再現になる。本作は音も丁寧に作ってあり、雨の降るシーンは部屋全体に雨が降っているような包囲感がよく出るし、彗星落下の跡地でふたりが出会う場面や、御神体に向かう場面などでは、風の吹く音や山の木々の風に揺れる音、野鳥のさえずりなどが方向感まで明瞭に再現される。やや細身の再現ではあるが、そのぶん細かい音まできちんと聴かせてくれる。
潤沢なコストを投入できる価格帯の製品ではないが、シャーシは剛性の高い構造で、メインLSIのヒートシンクは、同社のオーディオ製品のヒートシンクと同様の振動対策を行なうなど、しっかりと音作りを行なっているのだろう。
強いて言うならば、彗星が落下する場面での数少ない轟音が細かい音までしっかりと聴こえるが、ややタイトでもう少し迫力が欲しいと感じたくらい。これについては、5.1chシステムやサラウンドシステムならば、サブウーファーの音量をほんの少し大きくしてやるだけで解消できる(大きくしすぎると、UBP-X800の持ち味を台無しにするのでほんの少しだけ)。
音質を確認するため、今度はUSBメモリ再生で、RADWIMPSによるサウンドトラックのハイレゾ盤(48kHz/24bit)を聴いてみよう。音声はそのままAVアンプに直結のHDMI出力だ。最初は設定でデジタル音声出力を48kHzとしてみたが、ニュートラルな音質傾向はそのままで、音場感も良くでるし、有名な「前前前世[movie ver.]」は、ロックサウンドの元気の良さがしっかりと出て、ボーカルもクリアだ。
ただ、ちょっと高域が荒っぽく、ちょっとデジタル的な音の硬さを感じた。そこで、デジタル音声出力を192kHzに切り替えると、高域のキツさがとれ、スムーズな再現になる。ピアノや弦楽器によるしっとりとした曲もより滑らかで自然な感触になる。映画本編ではややタイトに感じた低音域も、音楽ではよいバランスでベースの音階もしっかりと鳴らし分ける解像感と、ドラムの重みのある鳴りまで力強く聴かせてくれた。接続する機器次第だが、デジタル出力は96kHzや192kHzとした方が、本来の持ち味が得られると思う。
また、CD音源や圧縮音源も「DSEE HX」を使うことで、ハイレゾと同等とは言わないが、高域の痩せた感じや荒っぽさのない、滑らかな音になり、聴き心地は良くなる。Bluetoothに関しては、接続したBluetoothヘッドホンやスピーカーの音の影響が強くなるが、AACやLDAC対応も含めてしっかりとしたBluetooth機器を使えば、満足度の高い音が楽しめた。
「君の名は。」で、ぜひともUHD BDの魅力を体験してほしい
筆者も4K+HDRの環境となったのは今春なので、去年はずっとSDR変換でUHD BDを見ていたが、4K解像度の精細さや、色域拡大による色の良さなどは、SDR変換でも十分に味わうことができるので、4K+HDR導入前でも新作がUHD BDで発売されるならば、積極的にUHD BDを選んできた。つまり、HDR対応の4Kテレビに今は手が出なくても、本機のようなUHD BD対応プレーヤーがあれば、UHD BDの良さは楽しめる。
特に「君の名は。」UHD BD同梱版を手に入れた人は、ぜひUHD BDを試してみてほしい。SDR変換の再生でもBD版とはコントラスト感などの感触が異なっており、HDRらしさが残った映像になる。このHDRらしさはアニメにとっては好ましいもの。そして、HDRの良さに気付いてしまった人は、ぜひともHDR対応の4Kテレビの導入を検討してほしい。
たとえソフトが「君の名は。」の1本だけだとしても、UHD BDプレーヤーとHDR対応の4Kテレビを購入する価値はあるはずだ。
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