小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第820回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

オンイヤーも加わったソニーの新ヘッドフォン「h.ear」を、敢えてaptX HDで聴く

ソニーがaptX HD対応?!

 独特のカラーリングで人気を集めるソニー「h.ear」シリーズのヘッドフォン。特にノイズキャンセリング搭載、加えてソニーの高音質コーデック“LDAC”対応ながら2万円程度で買える「MDR-100ABN」は、なかなかの人気商品となっている。

新「h.ear」シリーズのワイヤレスモデル。左からヘッドフォン「h.ear on 2 Wireless NC(WH-H900N)」、ネックバンド型「h.ear in 2 Wireless(WI-H700)」、オンイヤー型「h.ear on 2 Mini Wireless(WH-H800)」

 LDACは、ワイヤレスでもハイレゾ相当の音質が楽しめることから、Bluetoothの音質に不満があるユーザーへの認知度は非常に高い。これまではソニー独自規格という色合いが強かったが、TEACが対応DAC/プリメインアンプを発売したことから、ホームオーディオでもLDACを使っていく流れにもなってきている。

 その一方で、スマホユーザーから機器対応が切望されていたコーデックが、「aptX HD」である。開発がCSRからクアルコムへと移り、同社製プロセッサSnapdragon採用スマートフォンでの搭載が進むと見られている。オーディオテクニカを筆頭に、対応ヘッドフォンも登場していたところだ。

 そんな折、先日のIFAでは、ソニー製の新プレーヤーやヘッドフォンが一斉にaptX HD対応となった。もちろんLDACも搭載しており、高音質コーデックをデュアルで搭載するという流れになってきている。

 LDACが最高で96kHz/24bitで接続するのに対し、aptX HDは48kHz/24bitだ。サンプリング周波数では劣るものの、48kHz/16bit止まりだったAACやaptXよりも、ダイナミックレンジ方向で有利となる。ハイレゾソースを聴くなら、最低限aptX HDは使いたいところである。

 これでようやく普通のスマートフォンでも高音質なワイヤレス再生を……と行きたいところだが、aptX HDは意外にスマートフォンでの搭載率が低い。今日本で入手できるスマートフォンで対応しているのは、オンキヨーのGRANBEATこと「DP-CMX1」や、TrinityのNuAns NEO [Reloaded]など、それほど多くはない。

 XperiaシリーズがこれまでLDACに対応してきた事を考えれば、現時点ではaptX HDよりも、LDACのほうが全然普及しているとも言える。なお、ウォークマンだけでなく、IFAで発表された「Xperia XZ1」もaptX HDに対応している。ソニーとしても、aptX HDは全然敵じゃないという、余裕の搭載なのかもしれない。

 今回は、h.earシリーズがせっかくaptX HD対応となったんだから、是が非でもaptX HDで聴いてやろうということで、TrinityからNuAns NEO [Reloaded]をお借りして、テストしてみる。

注目の3モデル

 この秋に発売されるソニーのヘッドフォンは、上位シリーズとも言うべき1000Xシリーズが3タイプ、h.earシリーズで5タイプ、ハイレゾ非対応のワイヤレス1タイプがある。今回はこの中でも、h.earシリーズの上位3モデルを取り上げる。

 h.ear on 2 Wireless NCこと「WH-H900N」(以下H900N)は、イヤーカップ型のワイヤレスヘッドフォンで、人気モデルだった「MDR-100ABN」の直系となるのがこれだ。

h.earでは最上位モデルとなる「WH-H900N」

 カラーはMDR-100ABNよりも落ち着いたハーフカラー5色となっている。今回は大ヒットモデルMDR-1000Xで人気色だったグレーベージュに印象が近い、ペールゴールドをお借りしている。

質感の高い塗装はさすが

 電源、ノイズキャンセル動作の切り換えボタンは左側の後ろにある。ヘッドフォンをしたままで操作が必要なのは、電源よりもノイズキャンセル動作のほうだろう。こちらのボタンのほうが少し出っ張っているので、手探りでも探せるはずだ。ただ実際に操作してみると、思いのほか後ろにあるなという印象である。

操作ボタン類はすべて左側

 充電はMicro USBで、最近のスマホで主流となりつつあるUSB-Cではない。モバイル充電のためにスマホとケーブルが兼用できないのが残念だが、ヘッドフォンはスマホよりも汎用性を高く見ているという事だろう。

 イヤーパッドは深みがあり、耳をすっぽり覆う容積を確保している。装着感は若干きつめだが、フィット感は良い。総重量は290gで、上位モデルのWH-1000X/M2よりも15gほど重くなっている。

肌触りの良いイヤーパッド

 機能的には同時に発売される上位モデル「WH-1000XM2」とかなり近い。右側のハウジング部がタッチセンサーとなっており、再生・停止、曲のスキップ、音量調整がタッチで可能だ。

サイズはMDR-1000Xよりもやや小ぶり

 またカップを覆うようにタッチすると、一時的に外音を取り込む「クイックアテンションモード」を備える。電車の中で遅延のアナウンスを聞きたい時に、いちいちヘッドフォンを外す必要がないという、ナイスな機能である。常時外音を取り込みたい時は、上記のノイズキャンセル動作の切り換えボタンでモードを変更する。

前方にノイズキャンセリング用のマイクがある

 連続再生時間は約28時間。NC ONでこの時間使えれば、十分だろう。10分充電で65分使えるクイック充電機能も備える。

有線接続も可能

 続いて「h.ear on 2 Mini Wireless」こと「WH-H800」(以下H800)。こちらはMiniという名の通り、いわゆるオンイヤータイプの小型ヘッドフォンだ。カラーリングはH900Nと同じ5色だが、今回はホライズングリーンをお借りしている。

オンイヤー型の「WH-H800」

 顔の小さい人や女性では、イヤーカップ型だと重たい印象になってしまうが、エンクロージャを小型化することで軽快なイメージとなっている。とは言え、ドライバはH900Nと同サイズの40mmを採用する。サイズ的にはギリギリだと思うが、薄型振動板を新規開発するなど、力の入ったモデルである。

このサイズに40mmドライバを内蔵
H900Nと比べると、かなりサイズの印象が違う

 価格的にH900Nから1万円近く安いのもポイントだが、ノイズキャンセリングとタッチセンサーは非搭載。その代わり右側には、再生・停止とボリュームボタンを備える。左側には電源ボタンと充電端子、外部入力端子がある。

右側に操作ボタン
左側に電源と端子類

 イヤーパッドはオンイヤーとしては厚めだが、素材としてはかなり柔らかい。イヤーカップ型と違い、カップ面で自重を支えられないため、ヘッドバンドがあたる頭頂部で重量を受け止める感が強い。また耳たぶを潰す方向に圧がかかるため、H900Nよりも左右の締め付け感を強く感じる。

オンイヤーながら、ドライバまで深さのある構造

 重量は180gで、連続音楽再生時間は24時間。10分充電90分再生のクイック充電機能を備える。

同じくワイヤード接続も可能

 3つ目は「h.ear in 2 Wireless」こと「WI-H700」(以下H700)だ。これもh.earシリーズでは人気の高かったネックバンド型インイヤー「MDR-EX750BT」の後継モデルとなる。カラーリングは同じ5色で、今回はムーンリットブルーをお借りしている。

爽やかなカラーが印象的な「WI-H700」

 機能はネックバンドの左側に集中しており、電源、ボリューム、再生・停止ボタンが1列に並ぶ。側面には充電用のUSB端子がある。意外と知られていないが、付属のケーブルを使うと、このUSB端子を経由してアナログワイヤード入力もできる。

実はこれもワイヤード接続が可能

 従来機はネックバンドの先端からケーブルが出ていたので、音楽を聴かずに首から掛けておいた時に、イヤフォン部が長く垂れ下がって邪魔だった。今回は先端ではなく、ネックバンドの途中からケーブルが出ている。このためケーブル長が短く感じられる。さらにケーブルの途中に、磁石パーツが付けられており、左右をパチンと合わせておくことで、ケーブルとイヤフォン部をまとめることができる。

 重量40gで、連続音楽再生時間は8時間。

アームの途中からケーブルが出るスタイルに
マグネットでケーブルをまとめられる
ドライバはMDR-EX750BTと同じ

通勤電車をリスニングルームに変える?!

 今回再生機としてお借りしたNuAns NEO [Reloaded]は、今年6月に発売されたSIMフリースマホだ。初代はWidows Phoneだったが、2代目はAndroid端末となった。

世界でも数少ないaptX HD対応スマートフォンの1つ、NuAns NEO [Reloaded]
背面カバーをツートーンで付け替え可能

 背面カバーを上下で自由に組み合わせ、自分だけのオリジナルが作れるところがポイントだが、いち早くaptX HDを搭載する高機能モデルながら、価格的には直販価格で49,800円(税込)と、それほど高くない。今回はこれをプレーヤーとして、上記3モデルを試してみた。試聴ソースは、ドナルド・フェイゲンの「Sunken Condos」、FLAC 88.2kHz/24bitのハイレゾ音源である。

 ソニーのヘッドフォンは、この秋モデルから専用アプリ「Sony | Headphones Connect」を使って機能強化される事になった。接続中のヘッドフォンが表示され、どのコーデックで接続されているかもわかる。「音質優先モード」で接続すると、aptX HDと表示されている。

コントロールアプリの「Sony | Headphones Connect」

 まずは一番機能が多いH900Nでアプリを試してみよう。まず外音コントールとして、ノイズキャンセリング、風ノイズ低減、外音取り込みの3パターンが選択できる。本体操作で選択できるのはノイズキャンセリングと外音取り込みだけなので、風ノイズ低減が選択できるのはアプリ使用時のみだ。

ノイズキャンセリングのタイプが選べる

 サラウンド効果も「Arena/Club/Outdoor stage/Concert Hall/OFF」の5種類から選択できる。またイコライザーも8種類のプリセットのほか、マニュアル、カスタム設定など、合計11のモードを切り換えられる。

サラウンドエフェクトも搭載

 ただし上記2つの効果を使うと、音質モードが「接続優先モード」に変更される。この場合、接続コーデックはaptX HDではなくSBCになってしまう。サラウンドにしてもイコライザーにしても、音をかなり派手に加工するため、もはや音質云々でもないだろうが、元々素性のいいヘッドフォンなので、音源さえよければaptX HDで十分楽しめる。

イコライザーなどを使うと、SBC接続となる

 まずH900Nだが、低域から中音域、高音域にかけての味付けに大人っぽさがある。派手ではないが、細かいニュアンスの表現に注力した、念入りな音作りであることがわかる。

 比較的長時間のリスニングでも、耳疲れせず、通りのいいサウンドだ。今回はLDACの再生機がないので比較はできないが、これだけの上質な音が普及価格帯のスマホで聴けるのであれば、ハイレゾソースの売り上げももう一段上がってくるのではないだろうか。

 一方でハイレゾソースではない、SpotifyやGoogle Play Musicなどを聴く場合は、aptX HD接続の効果があまり感じられない。DSEE HXでの補正も入っているはずだが、どうしても擦り切れるような荒っぽさが耳に付く。これならむしろSBCで接続して、イコライザーで好きに音をいじった方が楽しめるだろう。

 ノイズキャンセリング機能も十分で、電車内で聴くなら、これを選んでまず間違いないだろう。特急券や乗車整理券などで確実に座って帰れる人なら、行き帰りの時間でリラックスした「音楽鑑賞」が楽しめるはずだ。

リラックスできる装着感も魅力の1つ

 H800は、H900Nよりも小ぶりなので、サウンドも大人しいのかと思ったら、案外H900Nよりも派手だ。低音の出方は、H800の方が押し出し感が強い。より耳の中に浸透する音、と言えばいいだろうか。密閉型でありながら、内部の圧力を上手く抜いて、細かいニュアンスもH900Nと遜色ない表現力だ。これだけエンクロージャ容積が違うのに、同じような音にするのは大変だっただろう。

H800はオンイヤーながら、力強い低音に特徴がある

 ノイズキャンセリングがないのは残念だが、小型で装着感もいいので、普段使いで1つあってもいいヘッドフォンである。ただ長時間のリスニングは、耳たぶを押さえつけるので、若干耳が凝るかもしれない。

 H700は、ソニー得意のカナル型イヤフォンをうまくワイヤレスにまとめてきた製品。低価格ながらハイレゾ対応モデルとして人気があった「MDR-EX750BT」とサウンド的には変わらない。装着も手軽で快適、カバンの中でもかさばらないので、外出時のお供としては、今回一番気に入ったモデルである。ノイズキャンセリングではないが、カナル型なので遮音性はそこそこ高いところも魅力だ。

カバンの中でもかさばらない

 ただ音質的にはかなりシビアな聴こえ方をする。H900NとH800がストリーミングサービスでもそれなりにうまく聴かせてくれるのに対して、H700はストリーミングとハイレゾ再生を比較した際に、一番わかりやすい落差を感じた。

総論

 日本のスマートフォン市場ではAppleが異様に高いシェアを占めている事もあり、ワイヤレスイヤフォンのデフォルトが、うっかりするとAppleのAirPodsになりそうな昨今ではある。

 一方で今後発売されるAndroid機には、aptX HD対応が増えていくと予想できる。今回ソニー機がaptX HD対応となることで、「ちゃんと聴くならAndroid」の方向にシフトするかもしれない。もちろんその先にLDACへの導入があるにしても、今aptX HDに対応しておけば、「何でも受けられるヘッドフォン・イヤフォン」の位置に立つことができる。それぐらい、良くできたシナリオの上に乗ってるなという気がする。

 今回取り上げた3モデルは、どれも絶妙にポジションが違う。さらに上位には1000Xシリーズが控えており、ハイエンド指向のユーザーはそちらのほうが期待大だろう。

 そんな中h.earシリーズは、リーズナブルでカラフル、しかし音質的にも十分満足できるレベルに仕上がっている。ヘッドフォン・イヤフォンは、もはやワイヤレスを中心に考えていくべきところまで来た。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。